第二章2 転生と転移
「この世界ってこんなに綺麗だったっけ」
ずっと憧れていた世界に慣れるには、あまりにも短期間に命にかかわるようなハプニングが多すぎた。
いきなり虎みたいな大きな獣に追われ、ヴァンパイアに血を吸われ、エルフたちにつかまり牢屋の中にぶち込まれ、空を飛ぶファンタジーさながらなドラゴンとの死闘。
決め手には魔王に命を狙われる、ハァ……
あっちの世界と比べてこっちの世界はなんて安心するのだろう。
「一週間ぶりだろうか家に帰るのは……親や姉にはなんって言い訳すればいいか、そもそも、今どういう状況に陥っているのだ? 一週間も音信不通となれば、普通だったら行方不明で警察に通報しておかしくない。家に帰る前に、どうやらすることが山積みのようだ……」
まずは家には帰らずに、家の周辺で様子を見よう。
「そういえば自転車で自然公園に来たんだっけ? まだあるかな~」
そう言って、自転車を置いた駐輪所へと歩く
目の前に一週間前に停めていたマウンテンバイクが置いてあった、ちなみに黒で前輪と座席にエアクッションがついている。
? 帰宅部じゃなかったの? っと聞きたいのかな? なんでマウンテンバイクなんて買ったのかって? それはもちろん、カッコいいから(決め顔)
そしてマウンテンバイクに跨り、一気にこぐ、力加減を誤った。
後輪が一気に回転し、後ろに倒れてしまいそうになったが、
「フッ、もうこんなのでダメージを負うような反射神経じゃない!」
そう言って片手を地面に向け、片手で自転車と全身を支える。
ブレイクダンスによくあるカッコよりもさらに高難易度であろう。
「おおー! ねぇねぇ! お母さん! 見てみて! あの人すごいよ!」
「シー! 見ない指ささない! 頭のおかしい人なのよ」
……すさまじく恥ずかしい、ゆっくりと自転車を下し、黙ってマウンテンバイクに乗る。
今度こそ、わが時速180キロの脚力の力に、このマウンテンバイクの性能が加わればどれほどの速度が出るのだろうか!
想像するだけで興奮してくる!
この世は速度だ!
速度こそがすべてだ!
そして、ゆっくりとマウンテンバイクをこぎ始める、狭い道だと危ないと思い広い国道に出る。
ゆっくりとこぎ始め、少しずつ速度をこぐ速さを速める、
「人間だったときは大体こんな感じかな~」
速度的には多分30キロ、
「よし、このまま加速していってやる」
時は深夜(多分)
こんな時間に走ってるのはせいぜい夜行バスか暴走族、ないしは長距離で物を運ぶバスくらいだろう。
心配事は消えた、国道をひたすらマウンテンバイクで加速しながら駆け抜ける。
後ろが騒がしい、そう思い振り向くと、爆音を流しながら走ってくる集団が。
「早速お出ましか」
「ヒャッハー!! 俺たち超ハエー! なあ兄貴!」
「フッ、さつなんてみんな腰抜け野郎だ、俺たちがこんなに走ってても捕まえに来ないんだ、はっはっは~!」
「あれ? なんか前に何か走ってやがるぜ? 」
「チャりじゃね?」
「チャりだな」
「なんであろうと俺たちの前を走るのは調子乗りすぎじゃね? 懲らしめてやりましょう」
バイクの集団が隣に来て、そして彰に合わせるように速度を合わせた
「フッ、おいおいチャリでこんなところ走ってんじゃねぇよ」
そう言って、足を使い走行中の彰の自転車を蹴ってきた。(※絶対に真似してはいけません)
その蹴られた衝撃で、バランスを崩し横転した。
そのまま地面を三回転がり、再び起き上がる。
バイクはもちろん速度が速い、起き上がった時にはすでに奴らは大体50メートル先にまで行っていた。
その行為に対して怒りが込み上げてきた彰は倒れた自転車を起こし、怒りの目つきで前の集団を睨みつける。
「さっきの普通の人なら死んでてもおかしくないぞ、あいつら本当に頭おかしいんじゃないか」
「目には目を」
自転車に跨り
「歯には歯を」
ペダルに足を乗せ
「頭のおかしな奴らには頭のおかしい仕返しを」
そう言ってマウンテンバイクをこぎだし、あっという間にとなるを走っている車と同じ速さまで加速する。
そして、さらに加速していく。
「もっと速く、もっとだ、俺はどこまでも加速していく!」
某ラノベ原作の主人公みたいなセリフを口走りながら、暴走族を追いかけていく。
「ははッ! さっきのガキ死んだんじゃね?」
「俺たちを裁くやつは誰もいね~!」
「ほんとにそうかな?」
「? 今の誰の声だ?」
そう言って隣を振り向くと、彰が、引きつった笑顔で隣をマウンテンバイクで走っていた。
暴走族と同じ方法を使うと重量が小さいこっちが横転してしまうかもしれないから、違う方法で懲らしめる。
「お兄さん、知ってる? 急ブレーキって危ないんだよ? 」
そう言って、片手をバイクの右ブレーキへと伸ばし、思いっきり握る。
すると、バイクの前輪が急に停止し、勢いよく、【金髪鼻ピアス】を前方に投げ出す。
倒れたバイクに後ろを走っていた暴走族たちがどんどんぶつかり転んでいく。
もちろん前を走っている連中は耳が悪く後ろも振り向かずに信号を無視して走っていく。
「まあ、さっき蹴ってきたアイツを倒したし、まあいっか」
そう言って、きた道を戻っていく。
後ろから爆音が、高速で走行していたバイクが横転し、摩擦によって、ガソリンタンクの中のガソリンが爆発したのだろう。
後方からの爆音が止まない。
いけないことをしているのに、気分がいい。
家の近くまで戻り、家のあるマンションの5階を見上げる。
そして、振り返り、向かいの建物を登り、家の中を屋上から覗き込む。
家の中は、暗かった……
物理的にも、精神的にも。
一週間の行方不明、見るのがつらい光景が家中に、母親と姉は泣いている、父親はどうやらまだあきらめずにあっちこっち探し回っているようだ。
家に帰ってはアニメやゲームしかせず、家族との会話はいつの間にかごくたまーにしか交わさなくなってしまった。
楽しかった小さい頃の思い出が脳内を横切る。
そんな家族の悲しんでいる姿を目にし彰も少しつらい気分に襲われた。
異世界転生もののラノベなら散々読んできた。かなり好きなジャンルだ。だが、今思えば、死んだ主人公の家族も、悲しんでいるのであろう。
だが、幸い彰は死んだわけではない。
暗闇の中、自分と姉の共通部屋に窓から侵入し、引き出しを開けてノートを取り出す。
ペンを取り出し、ノートに
“ごめん、元気にしているよ。まだしばらく帰れない”
そう書き残し窓から外に出る。
“パリン”
姉がいつも窓においている花瓶を落としてしまった。
足音が聞こえた彰は焦って、窓の死角に身をひそめる。
姉が部屋に入ってきてすぐに机の上に書かれたメモに気づく。
「おっ、お母さん!」
ノートを持って母親のところへと走っていく
彰は壁を駆け上がり、再び向かい側のビルの屋上へと向かう。
暗かった部屋に明かりがついたのが見え、姉がノートを母に見せているのが見える。
耳に意識を集中させた。
「これこれ! 彰の字よ! お母さん! 」
「ほんとね! あの子今どこにいるのよ! 心配させて!」
二人とも涙を流した。姉は急いで誰かに電話をかける。
母の中で喜怒が入り交じり、窓へと向かい大声で
「汚い字でメッセージだけ残してどこに行った!? バカ息子!! さっさと帰ってきなさい! 」
「おいおい、こんな時間にご近所迷惑だろ」
「あと!お気に入りの花瓶どうしてくれるんだ!」
姉は、安心したのか、自分の部屋に入った後にすぐに眠りについた。
母親は、本当に喜んでいるようだ。
「ごめん、姉ちゃん」
そう言って、再びヴァンパイアらしく暗闇の中へと姿を消した。
今回は少しストーリー上鬱展開で申し訳ない