第一章13 契約
「イテッ、それに暗い。エリカ、無事か?」
暗くてよく見えなかったが、エリカはしっかりと彰の胸の上に倒れていた。
「よかった、無事みたいだ、ここは一体……」
“目覚めたか”
「また、あの声だ」
どこだ。
気配が全く感じられない。
それなのに、はっきり聞こえてくる。
目線で“それ”を探すが、見つからない、暗い、目に力を集中してみる。
見え方は少し違うが、さっきよりは見えるようになった。
だがまだ暗くて見えない、エリカの頭を胸に抱きよせて、片耳が聞こえないようにした。
もう片方は抱き寄せているときに使っている手で直接ふさいだ。
目を閉じ、息を吸い、魔力を放出する。周囲の壁、水路、扉、檻に反射して帰ってくる。
誰しも聞いたことはあるだろう、コウモリや鳥、鯨が使っている
反響定位:音の反響を受け止め、それによって周囲の状況を知ること
その音ではなく魔力バージョン。
周囲の空間は大体つかめた。この背後には広大な空間があり、その中には大きな何かが存在している。目の前には小さな通り道天井の高さはすごい高いとしか言いようがない。
すると背後から紫色の光があたりを照らした。
振り返ると高さ10メートルはありそうな水晶が見え、その中に真っ黒な鎧と剣が閉じ込められている
「吾と契約せよ、さすればあのような死人ども簡単にこの世から消して見せようぞ」
「武器と防具が喋った!? 」
「汝はこの世で唯一、吾の声が聞こえる、そんな貴様に吾が力を託そう」
「ただで、ではないんだよね?」
「吾求は天族の王および魔族の長老どもの死、それに早くしないと外のエルフどもの命が消えかけているぞ」
そう言って、外の様子を反対側の壁に映し出す。
エルフたちが狼の群れに囲まれ、相手側も靭帯を切ったやつまで現れている。
よく見るとエルフの男二人がすでに噛み殺されかけて、一人に数匹が襲い掛かろうとしている。
「迷っている場合じゃない、今後起こる不幸より、俺はまず目に見えている人たちを救いたい! 」
「契約成立とみなそう。さあ、ちょうど鍵も持っているようだし、それを吾に差し込むがよい」
「鍵? そんなの持ってないぞ? 」
「その手に持っている水晶のことだ、それは元は我が力、差し込めば、わかるであろう」
言われた通りに、思いっきり剣を突き刺す。
すんなりと水の中にでも入れたように入った。
次の瞬間、何かが頭の中に流れてくる。
「これは、記憶か? 」
それは、はるか昔の記憶の断片的な場面だった。
幸せそうな三人家族が手をつないで出かける。
異なる翼の両親に包まれ寝る様子。
そして場面は一変し、燃える家。
連れ去られる母親、処刑台に立つ父親の姿。
流れてくるどろどろとした憎しみに近い感情に、今にも吐きそうになる。
最後の映像はたった一人で数千人とドラゴンに立ち向かう少年の姿。
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「アイツはもう死んだのさ。これだけ深い穴だ、助かるわけがない」
「違う! 必ず生きている! 彰は私が見つけた、将来の夫になる人なんだから! 」
「いいだろう、あの世でその夫と仲良く暮らしな! やれ! 」
狼たちがすでにボロボロになってしまっているアルンに噛みかかる。
その時、穴の中から半透明で黒く巨大な手が伸びてきて、狼たちからアルンを包み込むように守り、そして大きな手は周りの狼をすべて弾き飛ばした。
「なんだか、暖かいし、優しい感じがする。でも何だかすごく悲しい何か変な感じ」
手が大穴の下へと戻っていく。
紫色の火が大穴の中から噴き出す、その中を彰がゆっくりと黒いオーラを纏い浮かび上がった。
「彰っ、なの? 」
「あぁ、ごめんアルン、待たせた、反撃の開始だ」
次回で第一章最終です