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第199話 封筒の中身が示す場所

 

 ☆



 部屋の中で、一人の男が机に向かっていた。


 見た目、四十手前くらい。

 算盤らしきものを弾いては、帳簿らしきものに記入している。おそらく会計がらみの仕事をしているんだろう。


(こいつが噂のヤーマシか……)


 心の中でそう呟いた時だった。


 ドンドン、ドンドン


 背後から響く扉を叩く音。

 一気に鼓動が早くなる。


「はいはーい」


 目の前のヤーマシは気の抜けた声でそう言うと、ガタ、と椅子から立ち上がり、こちらを振り向いた。


「っ!」


 目があった。


 ヤーマシはそのまま俺の方に歩いてくると………… …………俺を透かして通りすぎた。


「っはぁ、はぁっ……」


 心臓に悪い。


「ぶっ」


 背後で誰かが噴き出す音が聞こえた。

 振り返ると、見覚えのある金髪少女と謎生物が口に手を当て、にやにやしていた。


「ボルマン、あいてからはみえないからだいじょうぶけぷよー☆」


 面白そうに空中で宙返りする、憎いあんちくしょう。


「お前ら、人ごとだと思って……!」


 抗議しようとした俺に、カレーナが向こう側を指差した。


「まあまあ。……ほら、あの封筒じゃない?」


 言われて玄関の方を見る。


 玄関先では、商業ギルドの制服姿の男性が鞄から封筒を取り出し、宛名を確認しているところだった。




「『ダイパース洋品店』のヤーマシさんで間違いありませんか?」


「ああ、間違いないよ」


「お手紙が届いてます」


 差し出された受取証にサインし、封筒を受け取るヤーマシ。


「ご苦労さん」


 そう言って扉を閉めたヤーマシは、先ほどビジョンで見たのと同じ仕草で、宛名を確認する。


「…………」


 一瞬、なんとも言えない顔をするヤーマシ。

 だが彼は、ふっと自嘲気味に笑うと自分の席に戻り、机の引き出しからハサミを取り出した。


「「?」」


 まさか、ここで中身を確認するのか?

 ただ転送するんじゃなく???


 ラムズたちからの手紙の内容を確認するということは、騙されて協力しているんじゃなく、こいつ自身がスパイ組織の重要なポジションにいるということになる。


 思わず早足でヤーマシに近寄り、彼の手元に目を落とす。


 ハサミを使い、封筒の端を切るヤーマシ。

 そして彼は、封筒を傾け中身を取り出した。


「「ん???」」


 首を傾げる俺とカレーナ。


 封筒からすべり落ちたのは、ひと回り小さなもう一通の封筒だった。




「これは……」


 それを見た俺は、思わず唸った。


 中から出てきた封筒の宛名には、15字ほどの文字が書かれている。

 それらの文字は、一見すると意味不明な数字と文字の羅列。


「何これ?」


 顔をしかめるカレーナに、俺は短く「たぶん、暗号だろう」と答えた。


 その文字を確認したヤーマシはペンをとり、ノートの端に封筒を見ながら小さく崩した字で何かを書いてゆく。


「……読めないな」


 彼の手元をのぞき込むが、崩しすぎていて全く読み取れない。


 そうこうしているうちに、書き終わったヤーマシはため息を吐いてその部分を破り取り……


「「あっ!」」


 俺たちが見ている前で食べてしまった。


「ちょっと! 食べちゃったよ?!」


 慌てる金髪少女。


「……食べちゃったな。まあ、仕方がない。このビジョンを最後まで見てから考えよう」


 そんな言葉を交わしているうちに、ヤーマシは机の上に広げた帳簿類を片付け始めた。


 俺たちが見守るなか机の上を片付け終えた彼は、立ち上がると壁際まで歩いて行き、ハンガーにかけてあった外套を手にとった。


「外出か」


 呟いた俺に、頷く二人。


 手早く外出の準備を整えた彼は玄関に歩いて行き…………


 バタン!


 扉が閉められると同時に、目の前が暗くなった。




 ☆




「っ!」


 気がつくと、街の中に立っていた。

 まだ日が高く、あたりは人々が行き交っている。


「ここ、来たことあるかも」


 いつの間にか隣に立っていたカレーナが呟く。

 彼女の言う通り、ここには俺も来たことがあった。


「これは……テンコーサの乗合馬車のりばだな」


 テンコーサの中心にある、乗合馬車のりば。

 俺自身は乗り降りしたことはないが、素通りしたことは何度かある。


「あっ、あいつだよ」


 カレーナの声に、彼女の視線の先に目をやる。


 と、ちょうどヤーマシが一台の幌馬車に乗り込むところだった。


「あれは……王都行きの急行馬車だな」


 馬車の側面に掛けられた札を読む。


 急行馬車は夜こそ走らないものの、昼休憩を除けば早朝から夕方まで、日が出ている間は御者が交代しながらずっと走り続ける。

 それによって、同じ時間で普通馬車の倍の距離を走るというシロモノだった。


「王都? アイツ、王都まで行ってきたの?!」


 驚くカレーナ。

 だが俺はすぐに首を振った。


「いや。いくら急行馬車とはいえ、王都まで行って帰って来る時間はなかったはずだ。おそらく途中の街で降りて手紙を誰かに渡して戻って来たんだろう」


 とはいえ、意外ではある。

 エルバキア帝国本国とやりとりをするなら、港町に拠点を置くのが得策のはず。

 てっきりフリード伯爵領のある北に向かうものだと思っていたが……。


「……なんで王都方面なんだ?」


 そこまで考えた俺は、なぜか背筋が寒くなるのを感じた。


 王都行きの急行馬車。

 途中降車。

 テンコーサに戻るまでの日数。


 目の前で、ヤーマシが乗った馬車が走り出す。


 なにか、嫌な予感がする。

 目に見えない不安。


 その正体が分からないまま、再び視界が暗転した。





☆本作をお読み頂きありがとうございます。


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☆書籍版の方もぜひよろしくお願い致します!



挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[一言] 嫁の実家がっていうパターンかねぇ。
[一言] ぶらり途中下車の旅って事ですね! 各地の名産品を食べるヤーマシ。 ボルマンとカリーナは美味しそうに食べるヤーマシにどこまで耐えられるのか!?
感想一覧
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