第200話 たどり着いた場所
☆
目を開けると、再び街の中にいた。
だけどテンコーサとは明らかに景観が違う。
周囲を3〜4階建ての建物に囲まれた広場。
真ん中には市が立ち、多くの人で賑わっている。
馬車の発着場は広場の外周に沿って円形に整備され、何台もの馬車が停まり、こちらも荷下ろしされた荷箱と乗降客で溢れている。
そんな広場の片隅に、俺たちは立っていた。
「ここ、賑わってるけど王都じゃないね」
横に立つカレーナが言った。
「…………」
知ってる。
ここは王都じゃない。
ここは––––
「あっ、乗り換えるみたいだよ!」
カレーナの言葉に、前を向く。
目の前では、乗合馬車を降りたヤーマシが辻馬車に乗り換えるところだった。
辻馬車は特定の場所で客を待ち、客が指定する場所まで乗せてゆく、現代のタクシーのようなものだ。
「どこに行くんだろ?」
「…………」
先ほどから固まっている俺の顔を、カレーナが不審げにのぞき込んだ。
「ねえ、あんたさっきからおかしくない? どうかしたの?」
「いや……なんでもない」
そう言いながら、俺は強い不安にかられていた。
テンコーサで馬車を見送った時に感じた、悪い予感。
その予感に向かって、確実に近づいている。
「どちらにしろ、きっと『次』がゴールだろう」
「ゴール?」
「手紙の受取人がいるところだ」
そう言った俺たちの前を、ヤーマシの乗った馬車が通り過ぎる。
馬車は広場を半周してロータリーを出る。
遠ざかる馬車。
その場所が見えなくなったところで、視界は三たび暗転した。
☆
宮殿と呼べるくらい巨大な屋敷。
その本館裏手の通用口に、二人の男が立っていた。
一人は外套を羽織ったヤーマシ。
もう一人は燕尾服に身を包んだ片眼鏡の男だ。
目の前で、ヤーマシが相手の男に手紙を渡した。
「合ってるか?」
ヤーマシの問いかけに、相手は受け取った手紙の宛名に目を落としてしばし眺めると、
「……確かに。ご苦労様でした。引き続きお願いします」
「よかった。手渡しなんて初めてだから、間違ってないか不安だっ……」
バタンッ
燕尾服の男はヤーマシが話し終えるのも待たず、扉を閉めて姿を消してしまった。
「チッ、なんだよあの態度は。せっかく届けてやったのに」
舌打ちをして扉を睨みつけるヤーマシ。
彼はぷりぷりしながら身を翻すと、屋敷に背を向け通用門に続く小道を歩き始めた。
「…………」
「…………」
俺とカレーナはその光景を前に立ち尽くしていた。
やっぱり、そうだった。
予感は的中した。
そうでないことを願っていたが、根拠もなく脳裏をよぎった妄想は、現実のものとなってしまった。
あらためて屋敷を見上げる。
端々に美しい意匠が凝らされた、豪奢な宮殿。
その姿には、確かに見覚えがあった。
「……くそっ」
拳を握りしめ、毒づく。
と、袖が引っ張られた。
俺の袖を指でつまんでいる金髪の少女を振り返ると、彼女は俯き小さく震えている。
「カレーナ?」
名前を呼ぶと彼女はわずかに視線を上げた。
「……あいつだ」
「え?」
「あの声、あのしゃべり方…………間違いないっ」
「えっ、ちょっと待て、何の話だ?」
カレーナは勢いよく通用口を指差した。
「王都で私に指名依頼を出したのは、あいつだよ!」
「あいつ、って……あの執事が?!」
「そう! 『王家の勅命だ』って私を騙したヤツ!!」
泣きそうな顔で怒りを露わにする元盗賊の少女。
そうか。
確かにそれは、あり得ることだ。
エリスの馬車が襲撃された件で、俺が立てた仮説とも合致する。
主人が用事で王都に行くなら、執事がそれに付き添うのは当然。なら、あの片眼鏡の執事が王都に現れてもおかしくはないだろう。
「ねえボルマン。あんたさっきから様子がおかしいけど、ひょっとしてここがどこか、あいつが誰か、知ってるんじゃない?」
カレーナが睨みつけるような迫力で問うてくる。
俺は顔を歪めた。
「––––知ってるさ」
「え?」
あっさり認めたのが意外だったのか、カレーナは変な間で聞き返してきた。
「ここはミエハル子爵領の領都クルス。あの屋敷は、クルシタ家の本邸だ」
「え? クルシタって、どこかで……」
カレーナの目に戸惑いの色が浮かぶ。
俺は三たび屋敷を睨んだ。
「……つまり、エステルの実家だ!!」
その瞬間、強い力で意識が引っ張られ、視界が暗転した。









