エピローグ
賑やかな王都の街を、胸に大きな紙袋を抱えたうら若い少女が、人の間を縫うように駆けていた。
柔らかな萌葱色のワンピースを翻し、赤い髪を揺らしては、すれ違う人々の目を引いている。
いつもと同じ時間に通りかかった彼女を、高級洋服店から現れた青年が慌てて声をかけて引き留めた。
身なりから貴族と思われるその青年は、足をとめて振り返った愛らしい少女へと、努めて落ち着いた声音で尋ねた。
「君、名前は何て言うの?」
少女は紙袋を少し下げて顔を見せると、ふわりと花が咲くように笑って名乗った。
「黒血城で働くチリルと申します」
その屋敷の名称に、青年は顔を引き攣らせたが、意を決して彼女の手を取った。
「僕と付き合ってください!」
「え……と、ごめんなさい!」
彼女は大きく頭を下げた。すると紙袋の中身がこぼれかけて、彼女はあわあわとしながらもう一度礼をした。
茫然とする青年を残し、彼女は人混みへと紛れて逃走していった。
ちらりと振り返り、青年の姿が見えなくなったところで、チリルはようやくほっと息をついた。
最近なぜか、こういうやり取り多い。
王都への買い出しを任されるようになったせいだろうかと、首を傾げながら石畳の歩道を歩いていく。
戦は再び休戦を迎え、王都の街も明るい顔をした人が増えた。
宝飾店の硝子窓に映り込んだチリルは、ふと足を止めた。
陳列された宝石たちには目もくれず、自らの首もとを品よく彩る繊細な輝きをながめて、そっと確かめるように指で触れた。
青い花を象った、小さなペンダント。
三年前の誕生日に、大好きな人から贈られるはずだった物。
しかしそのピンクのリボンのかかった小箱を開けたのは、それから随分と経ってからのことだった。
しばらく見入っていたチリルは、店内に置かれた振り子時計の針の位置に、はっと我に返った。まだ仕事の途中だ。
チリルは黒血城へと急ぎ、森を抜けるついでに、いくつかのプラムの実を収穫して紙袋に詰め、それからは寄り道もせず、まっすぐ屋敷へと帰りついた。
「ただ今帰りましたー!」
元気に帰宅の挨拶をしたチリルは、紙袋を厨房の作業台へと置いておき、プラムの実だけを腕に抱えて回廊を走った。
そしていつものようにその部屋の前につくと、扉をこんこんと二回叩く。
返事はないが、チリルは遠慮なく中へと侵入した。
ここは日当たりのよい、南向きの部屋だ。
室内には物がほとんど置かれていないので、チリルは部屋の真ん中を横切り窓辺まで来ると、ちょうど爽やかな風がそよぎ込んできた。
その風が、チリルの瞳に映った金色の髪を、さらさらと靡かせる。
プラムの甘酸っぱい香りを浚う風が凪ぎ、長く柔らかな髪が落ちたのは、車椅子の背もたれだった。
そこに深く腰かけ、遠くを見つめる彼女へと、チリルは一瞬の翳りを吹き飛ばして明るい声で話しかけた。
「リナさま!森でプラムを取って来ましたよ!一緒に食べませんか?」
何かを待つように外ばかりながめているフィリナだったが、チリルの差し出したプラムには目を移した。
それでも、彼女の唇が言葉を紡ぐことはなかった。
あの日から三年間、フィリナは一度も声を発していない。
それが精神的なものか、自発的に話そうとしないのかは、医師でもわからないらしい。
それでも長年仕えているチリルには、その感情の機微くらい読み取ることができる。
チリルは丁寧に皮を剥いたプラムを、フィリナの手のひらへと乗せた。
黙ってそれを見下ろしていたフィリナだったが、緩慢な動きで口元へと運んだ。
やはりどこか、遠くを見つめたまま。
フィリナが意識を回復させたのは一月以上も経ってからのことで、毒薬の副作用で右足に重篤な麻痺が残った。
それでも彼女が死ななかったのは、発見が早かったからでも、運がよかったからでもない。
一人分の致死量の毒を、二人で分け合ったからだった。
チリルは返事がないのをいいことに、車椅子を押してフィリナを庭へと連れ出した。
散歩を日課にしておかないと、一日中部屋に籠ってしまうのだ。
「あ、百日紅の花がたくさん咲いていますよ」
薄紅色の花をたわわに咲かせた百日紅が、細い枝を撓わせている。
フィリナもちらりと見上げはしたが、それ以上の反応は得られなかった。
他に何かフィリナの興味を引けそうなものはないかと考えあぐねていると、くいっと腰の辺りの布地を摘まんで引っ張られた。
フィリナから行動を起こすことは珍しく、驚いて見返すと、彼女はチリルの背後を無言で見据えていた。
その視線の先に、何かあるのだろうか。
辿ってみると、こちらへと向かって歩いて来る人影が二つあった。
背の高い男性と、熊のような巨躯の――――。
「ロ、ロロロロトさんッ……!と、お父さん!!」
「よぉ!ちびとフィリナ!」
「またロが多いし……」
ほとんど三年振りの再会だというのに、二人とも昨日も会ったかのような気安さだ。
レカルドは全く変わっていないが、ロトはぐっと大人っぽい雰囲気になっていた。
鍛えているのか、体格がよくなっている。髪は短めに切られていて、精悍さが増していた。
チリルの心臓はもう、うるさいぐらいに高鳴っている。
「ちびは相変わらずちびだな。背、伸びたのか?」
「伸びましたよ!お父さんが大きすぎるんです!」
「そう褒めるな。照れるだろ」
「褒めてないッ……!」
チリルが噛みつくように言うと、大笑いされてしまい、へなりと脱力した。
何一つ変わらない。しかしとても懐かしい。
あの特別な日々に、戻ってしまったかのようだ。
「おっさんは相手にするな。からかってるだけだから」
チリルは悔し紛れにレカルドを睨んだが、一切動じないのですぐに諦め、冷静さを取り戻して二人へと問いかけた。
「……ところで、どうしたんですか?近くまで来たから寄ったとかですか?」
戦が始まってから東西への渡航は厳しく取り締まられるようになった。
休戦中の今は、それもいくらか緩和されているという。
だから気軽に遊びに来ることができたのだろうかとチリルが思っていると、ロトが呆れ果てたようなため息を一つついた。
「今日が十六の誕生日だろ。また忘れてんのか?」
「はっ!」
本気で忘れていた。ということはもしかして、とチリルはみるみる頬を真っ赤に染め上げて、ロトを躊躇いがちにそっと仰いだ。
「期待に満ちた目で見るなよ。……恥ずかしいだろ」
「うぅ、だって……」
助けを求めてちらっとレカルドを窺ったが、彼はひたすらニタニタとしていた。この大熊男には緊張感というものが欠如し過ぎている。
「チリル」
「は、はい!」
上擦った声になってしまった。恥ずかし過ぎる。
ロトもそうなのか、髪をくしゃりとしながら気まずげに目を逸らして、ややぶっきらぼうに告げた。
「まぁ、その……何だ。約束通り、貰いに来てやった」
その言葉だけで、チリルは心臓が破裂しそうだった。
顔はプラムより真っ赤に熟れているのに、頭の中は突然のことに真っ白だ。
期待していなかった言えば嘘になる。
誰に告白されようと、心の奥に大切にしまわれていたロトの「保留」以上に響くものはなかった。
だから素直に、嬉しさが募る。
だが車椅子に座るフィリナの姿が脳裏を掠め、浮かれた気分は瞬く間に萎んでいった。
フィリナを差し置き幸せになることへの後ろめたさが、チリルの睫毛を伏せさせる。
涙を堪えて、言わなくてはならない。――――ごめんなさい、と。
ぱっと顔を上げて口を開いた直後、チリルはどんっと思い切り背中を突き飛ばされた。
「ごっ……うぷっ!」
ロトの胸に顔から飛び込んだチリルだったが、しっかりとその腕に抱き止められたお陰で怪我はない。
チリルの背後にいたのは、フィリナだけだ。
おそるおそる振り返ったチリルは、彼女の表情を目にして惚けた声をもらした。
「リ、リナさま……?」
信じられないことに、あのフィリナが、チリルへとふわりと柔らかに微笑んだのだ。
「おっ、フィリナが祝福してるぞ」
そうレカルドに揶揄されたせいで、フィリナは無表情へと戻ってしまった。
むしろ初めよりも頑なな無表情だ。
何てもったいない。
「これ、返事?」
「え?……あ、はい!リナさまが認めてくれるなら、はい!」
きゅっとロトの腕に閉じ込められたチリルは、頭にごつりと顎を乗せられた。
「一番好きなのはリナさまじゃねーかよ。浮気者」
「なっ!リナさまは別格ですよ!女神とか天使とかそっち方面です!」
もがきながらフィリナへと向くと、完全に引いてしまっていた。
車椅子が後ろ向きに、じわじわと遠ざかっている。
あわあわとしたがロトが解放してくれず、チリルの心は二人の間で揺れに揺れていたのだった。
◆◇◆◇◆◇
チリルの結婚が決まってから、フィリナが時折優しげな眼差しで彼女を見つめていることに、レガートは気がついた。
視線の先にいるチリルは、ついこの間まで小さな子供だったのにもう結婚だ。
時の流れを早く感じてしまうのはやはり年のせいだろうかと、レガートは苦笑してフィリナへと問いかけた。
「チリルが結婚してしまって寂しくないかい?」
明日の結婚式の後、彼女は西国へと嫁いで行ってしまう。
フィリナは返事をせず、ただ困ったように微笑してまぶたを伏せた。
寂しいけれど、誰よりも嬉しいのだろう。
想い合う、初恋の相手と結ばれたことが。
まだ忘れられないのだ。――――彼のことを。
フィリナが目を覚ましたとき、意識不明のまま隣に眠っていたはずの彼の姿は、どこにもなかった。
毎日見舞いに行っていたレガートが、ほんの少し目を離した隙に、忽然と姿を消した。
以降その行方を知る者は、誰一人としていなかった。レカルドやロトでさえも。
東国から狙われていたのだと聞かされたのは、後になってからのことだった。
東の手の者によって極秘裏に始末されたのだと院内では噂され、病床のフィリナの耳に入れぬようにと無理を通し、治療の場を黒血城へと移し替えた。
フィリナは何も言わないが、まだ彼のことを、思い出にしてはいないのだろう。
広間では女中たちが、きゃっきゃと賑やかな黄色い声を上げ、会場作りの仕上げに取りかかっている。
教会ではなく、黒血城で式を執り行うことになったのは、チリルがそれを望んだからだ。
初めこそ驚きはしたが、身内の者だけで行うささやかな挙式に皆賛同していたので、レガートも快く認めることにした。
今は珍しいことにレイチェルが率先して場を仕切っている。だが彼女の場合、チリルのことよりも、ただ単に華やかな催しが好きなだけなのだろう。
彼女の荒唐無稽な要求に困惑する女中たちへと、フランが理解しやすいように要約しながら奔走している姿は相変わらずであった。
あまりに揺れるからか、彼の肩に止まっていた伝書烏が羽ばたき、全開した吐き出し窓から庭へと飛んでいった。
図書室に入り浸るエヴィルの元へと、羽休めに行ったのかもしれない。
彼はここで式を挙げると聞くと、物好きな、という一言を残して不参加を表明した。
一曲くらい弾いてくれればいいのにと思いながらも、レガートは強制することはなかった。
この血に黒く汚れた屋敷も、慣れない慶事に浮かれているのか、庭から暖かな日差しを取り込んで、会場となりつつある広間を明るく照らしている。
そんな穏やかな光景を、フィリナは眩しそうにながめていた。
チリルの誕生日のずっと前から、フィリナが純白のヴェールを不器用ながらも密かに縫っていたことを、レガートは知っている。
「リナがチリルの誕生日にヴェールを選んだのは、こうなることがわかっていたからかい?」
フィリナはやはり何も答えなかったが、とても満足そうに、目を細めていた。
◆◇◆◇◆◇
「リナさま……?」
控えめな囁き声に、フィリナは寝台の中から顔だけ扉の方へと向けた。
枕を胸に抱えたチリルが俯きながら、とことこと傍まで歩いてきたので、寝台の端へとずれた。
チリルは昔から変わらない嬉しそうな顔で、フィリナの隣へと潜り込んだ。
チリルがここへ来たばかりの頃は、こういうこともよくあった。
一人西国へと嫁がせて大丈夫なのかと、心配になる。
「リナさま、たまに遊びに来てもいいですか?」
気軽に行き来出来る距離ではないことを、チリルもよくわかっているのだろう。
フィリナがどう答えるのかも。
だから何も言わずに、手でそっと髪を梳いてやると、安堵の息が二人の間へと落ちた。
チリルが安心して眠れるまで、フィリナは傍に寄り添い小さな頭を撫で続けた。
チリルの安らかな寝息が聞こえてくると、フィリナはゆっくりとその双眸を閉ざした。
闇が濃くなると、決まってレイズの愛しい声がする。
リナ、と甘やかに愛しんで呼ぶ。
フィリナは迷って、それでも彼の本名ではなくレイズと口にする。
――――あの約束は、守るよ。
昏昏と眠るフィリナに、彼は確かにそう言った。
だからフィリナは待っている。ずっと、待ち続けているのだ。
◇
天に祝福されたかのような晴れ渡る空の下、黒血城内は早朝から慌ただしかった。
花嫁衣装を纏い、フィリナが贈ったヴェールを頭に被せたチリルが挨拶に来たときは、感情が込み上げ泣きそうになったが、フィリナの横でレガートが目頭を熱くさせていたので苦笑へと変わってしまった。
「チリル、幸せになりなさい」
レガートの心からの祝辞に、チリルは激しく号泣し、女中仲間たちに怒られながら引き摺られていった。
化粧はまた、一からやり直しだろう。
チリルの父親役はレガートが務める。
レカルドが文句を言わずにその役を譲ったのは、彼が牧師役を務めるからだ。
新婦の意見ばかりを取り入れた式なので、一つくらいはとチリルが折れた結果であった。
今日のために皆で飾つけた手作りの教会は、白い花の優しい香りであふれていた。
左右に規則正しく並べられた長椅子には、一族と使用人が肩を並べて座っている。
その間を、ロトの待つ祭壇へと、チリルはレガートの腕に手を添えてゆっくりゆっくり歩いていく。
フィリナは車椅子なので、長椅子のさらに後ろで、庭を背にしながら彼らを見守っていた。
チリルをロトへと預け、大役を終えたレガートが安堵の表情で最前列へと腰を下ろした時、ふいにフィリナの背後で空気が揺れた。
車椅子を押すための把っ手を、誰かの手が、静かにそっと握り締める。
誓いの言葉を淡々と答えたロトとは反対に、チリルは、
「ち、誓います!」
と力強く高々に宣言し、皆の笑いを取った。
背後でくすりと笑う気配がして、フィリナもふっと微笑んだ。
誓いのキスの段になると、ロトの手によってヴェールが捲られ、真っ赤で目を泳がせるチリルの顔が現れた。
牧師のくせに二人を囃し立てるレカルドへとチリルは目をむいたが、呆れたロトによって頭を引き寄せられ、問答無用で口づけられている。
放心するチリルの唇から、ロトが押し当てていた自分のそれを離すと、女中たちの歓声に包まれた。
――――とても幸せな結婚式であった。
「――――行こうか?」
「……えぇ」
一台の車椅子がそこから消えたことに気がついたのは、会場を見渡せる位置にいた牧師と、図書室の窓に腰をかけて本を読んでいた、彼だけだった――――。
◇
フィリナの瞳と同じ緑翠色の波が、砂浜へと寄せては返す。
感覚がないフィリナの爪先を浸し、透明な滴をいくつも残して、また戻っていく。
「本当に緑なのね」
「嘘だと思ってた?」
触れ合うレイズの肩が竦められた。
彼には後遺症がなくてよかったと見つめるフィリナに、レイズは翳りの帯びた表情で首を傾げた。
「家族のこと、心配してる?」
今度こそはと、砂浜に置かれた彼の手の甲へと手のひらを重ねて言った。
「きちんと書き置きをしてきたわ。――――しばらく旅に出ますって」
「旅、ね。長い旅になりそうだ」
「そうね。そうだといいわ」
レイズの手がもぞりと動き、フィリナの指に絡み合わせて繋いだ。
あの日のように。
「僕らも誓っておく?」
「何に?」
「そうだな。……海に?」
二人でくすくすと額を合わせて笑い、それからレイズが真面目な顔をして口を開いた。
「病める時も、健やかなる時も……命尽きるその時も。リナが車椅子でも、僕が三国から追われていても、ずっと一緒に、どこまでも逃げ続けることを誓いますか?」
「えぇ、誓うわ。レイズの女癖が悪くても、私が……死刑執行人でも、誓いますか?」
「誓うよ。でも、女癖は悪くないから」
きっぱりと否定するレイズに、信じてもいいかなとフィリナは思うことにした。
約束を守り、この海を見に連れて来てくれたのだから。
「レイズ」
「うん?」
「ありがとう」
何がかと不思議そうにレイズは首を傾げていたが、フィリナは口をつぐんだまま水平線へと目を向けた。
空と交わることのない海が、まっすぐにどこかへと続いている。
「この海の向こうには、何があるの?」
レイズは楽しそうに目を細めて、弾む声で言った。
「行ってみようか」
フィリナは、無邪気な笑顔で大きくうなづいた。
先に立ち上がったレイズに、ぎゅっと握られた手を引き上げられたが、フィリナは麻痺のない片足を砂に取られて、その胸へ倒れ込んだ。
非力な彼は、フィリナを抱き締めたまま背中から体を傾がせ、二人して砂浜へと沈んだ。
そして、どちらからともなく笑い、どちらからともなく唇を合わせた。
潮が満ち、打ち寄せる波が二人をずぶ濡れにして、どちらかがまた笑い出す、その時まで――――。
◆◇◆◇◆◇
遥か昔、この国がまだ三国にわかれていた頃の話だ。
今はなき死刑制度があり、呪われた死刑執行人の一族がいたという。
体に椿の花を咲かせる死神とも、血に濡れた黒き城に棲む悪魔とも伝え聞く彼らの、詳細は何一つ遺されてはいなかった。
負の遺産を清算するために、後の王命により、彼らが存在したという事実ごと、闇へと葬られた。
だがその一族には、血に穢れることのない一人の白い娘がいたと、もっぱらの噂だった。
名すら遺されてはいないその娘を、この国ではしばしば悲劇の代名詞として言い伝えられてきた。
罪人を愛したがために、逃亡して捕らえられたとも、心中したとも伝えた聞く、憐れな娘が――――。
「違うの!リナさまは幸せになったのよ!」
そう言って頬を膨らましたのは、まだあどけない顔をした愛らしい少女であった。
少女が話し聞かせたその物語は、伝承とは食い違うもので、ただのお伽噺だと友達は皆笑うのだ。
少女の家は古くから旧西国にあり、旧中央国にあったその一族のことを、彼女の先祖が知っているのはおかしいと。
悔し涙を浮かべた少女は家へと駆け戻ると、大好きな祖母へと泣きついた。
少女は安楽椅子に腰掛けた祖母の膝に抱きつき、いつもの物語をしてとねだる。
祖母は少女の赤い髪を優しく撫でて、古くから語り継がれてきたその物語の、少し風変わりな冒頭を語り始めた。
「……あれは私が、お慕いするリナさまを捜して、黒血城の回廊を走り回っていた日のことです――――」
END
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!




