12.契機と転機
僕は手元のキーボードをチラチラと確認しつつ、慎二の操作しているキャラクターの後についていく。……操作しづらい。これは慎二の言う通り、ゲームパッドで操作するのが良さそうだ。そんなことを考えているうちに、慎二と僕のキャラクターは鬱蒼とした森の中へと進んでいく。歩いていくうちに、時折、樹の上から木の葉が降ってくることに気付いた。
よく分からないが、ひらひらと舞い降りてくる木の葉を見ながら、よく出来ているなあ、なんてのんびりと思った。
「なあ、ふと思ったんだけどさ、慎二はどういうきっかけでこのゲーム始めたんだ?」
僕は何となく、思ったことを口にした。
「……そうだな。特に強烈な理由とか、劇的な何かがあった訳じゃないんだけど」
「ふうん。でも、好きなんだろ? このゲーム」
「それはまあ、な。でなきゃ、わざわざ他人を誘ったりしない」
「でさ、このゲームのどこが好きだったんだよ」
「何で好きな子の話を聞くノリで聞いてくるんだ」
「や、別に他意は無いんだけどさ。好きなものがあるのって良いなあって思ったから」
キャラクターの歩みは止めずに、慎二は少し笑って答えた。
「血の通ってないロボットか何かじゃないんだから、好きなものぐらい、誰だってあるだろ?」
「好きなもの、ねえ……」
「和也はさ、全然趣味もないって訳か?」
「いや、一瞬ハマるんだけど、長続きしないというか。すぐに飽きてコロコロやること変えることになるのもちょっとなあって思うと中々新しい趣味なり習慣なり、手が出せないんだよな」
「へえ、そうなのか。新しいこととかやってみないともったいないぜ? 色々とさ。やらずに悶々とするより、やっちまって後悔しようぜ!」
「やっちまって後悔って、それもどうなんだよ」
そんなことを話しながら森の奥へと進んでいくと、いつの間にか森の外から差し込む光も少なくなっており、ゲーム中では昼間なのだろうけど、薄暗く、周囲の様子がはっきりと見え辛くなっていた。
「ベネディクション洞窟って、まだ先なのか?」
「ん? ああ。ちょっとな。こっちは少し違う方向だ」
「どういうことだよ、それ」
何だか少し、雲行きが怪しく感じられてきた。他のプレイヤーの見当たらない場所、二人きり、これは何となく……。嫌な感じがする。
「気付かなかったか?」
「……え、気付くって、何」
僕の言葉が言い終わる前に、慎二のキャラクターは背負っていた大剣を構える。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。まさか——」
「ちげーよ! 何の勘違いしてんだ……おい、上にいるお前!」
慎二はエリア内にシャウトをかけると、大剣を斜め上に掲げ、樹の上を差す。
僕は今更ながら気付いた。時折木の葉が落ちてきたのは演出じゃなくて、尾行者だったのか。
「森に入ってからずっと尾けてきたみたいだが、もう良いだろ。やるんなら、やろうぜ。出て来いよ!」
つづく




