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フンボルト星・後編

 翌日。怜奈は力なく携帯ショップをオープンさせた。

 お店は10時から20時まで営業している。昨日は内藤君が消えてしまったため、また一人閉店まで休憩なしで残ることになってしまった。さすがに2日連続で休憩なしの10時間勤務は体にこたえる。


「やっほぉ。怜奈ちゃんお疲れだねぇ」


 真由美ちゃんだ。相変わらずのんびりしている。


「もう聞いてよ。内藤君までどこかに消えちゃったんだよ。店長とも連絡取れないし。警察行ったほうがいいのかなぁ」

「大丈夫だよぉ。二人とも大人だし。その内ひょっこり帰ってくるよぅ」


 真由美ちゃんはあくまでマイペースだ。のんびり店頭を眺めている。案外、度胸の据わった女の子かもしれない。怜奈は真由美ちゃんのマイペースっぷりを見てると、自分だけ過剰に騒ぎすぎている気分になった。


「真由美ちゃん、もう私体が限界。今日はまかせた」

「はぁい。真由美に任せて怜奈ちゃんはゆっくりしててぇ」

「ありがとー」

「いいのよー」


 理解のある同僚がいると仕事は助かる。怜奈はカウンターの奥にある椅子にしゃがみこんだ。


「あ、イケメンなお客発見、真由美いきまぁす」


 真由美ちゃんはそう言って店頭に駆けて行った。相変わらずイケメンにだけ接客熱心な娘だ。

 今日さえ乗り切れば明日と明後日はシフト休だ。怜奈は今日こそサボる日と決めて、雑誌でも読もうとカウンター内を探ってみる。外では真由美ちゃんと金髪のイケメン外国人が楽しそうに話している。



 金髪の外国人?



 はっとして椅子から立ち上がり、急いで店頭に飛び出した。昨日の電波のイケメン外国人だ。また何か呪文みたいな文句を唱えている。


「真由美ちゃん! だめ!」


 怜奈は必死に叫んだ。だが遅かった。二人は目の前で一瞬にして消えてしまった。


「真由美ちゃん! 真由美ちゃん!」


 大声であたりに呼びかけるが返事はない。相も変わらずどこを探しても二人の姿は見つからなかった。


「真由美ちゃんまで、真由美ちゃんまで消えちゃったぁぁぁぁ」


 怜奈は大声で泣き出した。原宿を歩く人たちがびっくりして怜奈を見ていた。





 翌日。怜奈は迷いに迷ったが携帯ショップを開くことにした。


 本来は休みだが、代わりの人員はいない。店長も、内藤君も、真由美ちゃんも連絡が取れない。


「あの外国人、今度こそ捕まえてやる」


 10時間休憩なしの地獄のようなシフトも4日目だ。怜奈は気合を入れて店頭に立つ。だが運命の神様は残酷だ。そんな日に限って外国人が現れることはなかった。





 翌日。連日の10時間勤務による疲労で体は限界を超えている。必死に体に鞭を打ち携帯ショップを開いた。今日誰も帰って来なかったらこの店は閉店させてやる。怜奈はそう決めて店頭に立った。


 怜奈は昨晩電気店にてスタンガンを購入していた。あの外国人が現れたらフンボルトとか何とか言う前にこいつをくらわしてやる。女の細腕だって科学の力に頼れば強いところを見せてやる気満々だった。


 怜奈は店頭にたってしかめっ面で外国人を待った。その並々ならぬ気配にお客は怯えて誰も寄り付こうとしない。


「良かった。また会えましたね」


 気がついたら横にあの電波な外国人が立っていた。いつの間に現れたのか。まるで気配すら感じなかった。


「あんた! 来たわね!」


 怜奈はポケットのスタンガンに手を伸ばした、くそっ、こんな時に限ってポケットの何かに引っかかってスタンガンが出て来ない。


「ハットリさんから手紙を預かってきましたよ」

「え? 手紙?」


 怜奈はスタンガンから手を話し、外国人が差し出した紙を受け取った。


「みなさん怜奈さんに申し訳ないと言っていました。呼んでみてください」


 怜奈は慌てて紙を開いた。その文面を見て愕然とした。





鈴木さんへ


やあ、元気でやってる? 今ぼくはフンボルト星のパッパリポッカリーノでバカンスしてます。お店を任せて申し訳なく思ってる。コマチン。だけどこっちの暮らしは凄く快適でしばらく地球に帰る気がないんだ。


内藤君は今、プペットモモンドの勇者として宇宙の平和のためにダベッチョバカリィーノと戦ってる。何でも彼にはグンゴスの力が眠っていたらしくて、バズーに導かれてベッチョタベッチョの魔法を会得しちゃったんだ。ホントにマンチックドルーだよね。ああ、マンッチクドルーってのはこっちの言葉で奇跡って意味ね。


真由美ちゃんはチンゴクタキーノの王子に惚れられちゃって皇女様になる気みたい。ゆくゆくはギアラボロリアスからチョベッチバキーノまで収める女王に君臨するかもね。そうしたらぼくもパッパリポッカリーノを出てチチンパアルコーノに移住しようかな。


地球は数日しか経ってないみたいだけど、こっちは時間の流れがボルーなんだ。あ、ボルーってのはこっちの言葉で早い、って意味ね。もうすっかり言葉覚えちゃって。えへへ。ポッポリピカーノだよ。何でも地球での1日がこっちではチョマンチンだから…120日ぐらいかな? それぐらいに相当するみたい。こっちじゃ僕の年はチンタサンだけど、地球じゃ2年近く成長したことになるのかな? 時間の流れってブリブリビーチノだね。あ、これは不思議、って意味ね。よかったら鈴木さんもおいでよフンボルト星に。きっと今よりもジャンパスでチョチョコーリノな生活が送れるよ。それじゃ最後は現地の言葉で締めます。


クンパルンパ、キンタホルン、チッコーノウンコタベーノ!!(どうか良い日を!!)





「うがああああああ!!!!」



 怜奈は叫んで手紙を破り捨てた。金髪の外国人は突然の怜奈の発狂に驚きながらも爽やかに呼びかけた。


「良かったら鈴木さんも、フンボルト星に……」

「誰がそんなワケの分からん星にいくかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 怜奈はスタンガンを外国人に押し付けスイッチを押した。


「ぐわぁぁぁぁ!!!!」


 外国人は悲鳴を上げて倒れた。そのままふっと一瞬にして姿が消えた。


「こんな携帯ショップ今すぐ閉店じゃー!! 何がマンチックドルーじゃー!! 貴様ら全員帰ってこーーーーーい!!!!!!」


 怜奈の叫び声がいつまでも原宿にこだました。



(おしまい)

ご拝読いただきありがとうございました。

何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。

クンパルンパ、キンタホルン、チッコーノウンコタベーノ!!

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