逃走
ここで少し時間がさかのぼる。
別荘に忍び込んだディーンとリルが一階にあるホールで合図の爆発をさせた。その後は予定通り黒服の男達が次々と走って集まってきた。
その様子を見ながらディーンが感心したように呟く。
「よく、これだけ人を集めたな」
「こちらは囮ですから、全員出てきてくれたほうが良いですよ」
そんな会話をしている間に二人は銃を構えた男達に囲まれた。
「武器を捨てて、両手を挙げて床に伏せろ」
「そんなこと言われてもなぁ?」
ディーンが苦笑いをしながらリルを見る。二人とも両手に武器は持っていない。
「丸腰の人間に物騒ですよ。これが訪ねてきた人にする接客態度ですか?」
そう穏やかに言いながらリルが背中に手をまわす。
「動くな!」
警告を無視してリルが背中に隠していた刀を取り出す。日本刀のようだが長さが少し短い。
ディーンもロングジャケットの裾をひるがえして、太ももにつけていた短機関銃を両手に持った。
「撃て!」
男達が一斉に引きがねを引く。だが銃弾が二人に届くことはなく、リルの刀に弾かれる。そこにディーンが撃った銃弾が男達の銃だけを弾いていく。
「なっ……」
壊れた銃に男達の視線が奪われている間に、リルが間合いをつめて身ね打ちをくらわす。
たった数分で二人を囲んでいた男達は呻き声をあげながら全員床に倒れていた。
「あと、何人だ?」
リルが屋敷全体を見回す。
「雑魚はこれで全部ですね。地下にいれば別ですけど」
「地下があるのか?」
ディーンの焦った声に、リルは悪戯をした子どものように微笑んだ。
「ありませんよ」
「……からかうなよ」
そう言うとディーンがドアに向けて短機関銃を発砲した。ドアが粉々に粉砕され、その影から黒狼が慌てて走り去った。
「当ててはいけませんよ」
「わかってる、威嚇しただけだ。ところで上の二人は大丈夫なのか?」
リルが前髪をかきあげて濃い緋の瞳で二階を見る。
「目的の部屋にいます」
「あのお嬢ちゃん、無事だと良いんだけどな」
「そうですね。とりあえず、二階に行きましょうか」
リルは麻酔薬入り閃光弾を男達の中に放り投げると二階へ走った。
蘭雪が部屋を飛び出したところに息を切らした黒狼が立っていた。
「おじい様……」
黒い瞳を丸くしている蘭雪に黒狼は舌打ちをした。部屋の中にはヘブンドラッグで死んだはずの少年と、朱羅がこちらに向かって走ってきている。
黒狼が蘭雪の首を腕で拘束すると、こめかみに銃を突きつけて叫んだ。
「止まれ!」
その言葉に少年と朱羅の動きが止まる。その隙に黒狼は蘭雪に銃を突きつけたまま、部屋の中に手榴弾を投げ入れた。
爆発音とともに炎が上がる。黒狼は部屋の中にいた少年と朱羅の安否を確認することなく蘭雪を引っ張って、その場から逃げた。
黒狼を追いかけてきたリルとディーンは守るべき主の生存を確認するため、爆発のあった部屋に入ろうとしたが、油でも撒かれていたかのように炎が部屋全体を埋め尽くしている。
「悪ガキ!生きているか!?」
ディーンがロングジャケットを頭から被り、炎の中に飛び込もうと決意したとたん、目の前で燃え盛っていた炎が小さくなり自然に消えた。
「……死ぬかと思った」
少年が咳込みながら、まだ残っている煙とともに部屋から出てくる。所々がすすで黒く汚れているが火傷などをしている様子はない。
「情けないぞ」
少年の後ろから平然と朱羅が歩いてくる。こちらは何故か汚れ一つない。
「お前は火が専門だから平然としてられんだよ。土が専門のこっちの身になってみろ」
ブツブツと文句を並べる少年に、朱羅が右手の人差し指と中指で床を指差した。
「火は消さないほうが良かったか?なら、元に戻すが……」
朱羅の指差している先に小さな火が現れる。
「わー悪かった。オレが悪かったから、火は消してくれ」
少年が慌てて朱羅から離れる。
元気そうな二人の姿にリルがほっと胸を撫で下ろしている横で、ディーンが廊下の先を指差した。
「お嬢ちゃんが連れていかれたけど、いいのか?」
「よくない!」
少年が慌てて走り出す。残りの三人も追いかけて走った。
「黒狼はどこに向かっている?」
朱羅の質問にリルが濃い緋の瞳を細める。
「見張り台に向かっています」
「見張り台に隠し通路があるのか?」
「ありますが、そこはすでに通過しています」
「と、いうことは逃走方法は絞られるな」
蘭雪を取り戻すため四人は別荘の端にある見張り台を目指した。




