廻る夢
朱羅がアクセリナの深い意識の海の底へ、他の記憶を傷つけないように意識をもぐらせていく。
頭上から降り注ぐ光が少なくなり、暗い闇が周囲を覆う。そんな中、明るく輝く球体があった。
「……あれか」
朱羅が球体を覗くと、翼から黒煙をあげて落下していくジェット機が見えた。
機体の中でアクセリナはエンジンが爆発しないように力を集中させながら朱羅に話しかけていた。しかし、あまりの力の大きさに眩暈がして視界がぶれる。それを気力だけで、どうにか意識を保たせる。
この子だけは助けたい。
その一心で意識を保とうとするが、力にも限界がある。このまま力を使い続ければ、ジェット機が墜落する前にアクセリナが死ぬ。
それはアクセリナ自身が一番よく分かっていた。
それでも、自分の命と引き換えにしても、この子だけは助けたい。
そう強く願いながらアクセリナは墜落の衝撃に備えて朱羅を抱き寄せた。しかし衝撃はいつまで経ってもこない。
不思議に思ってアクセリナが顔を上げると、ジェット機は普通に飛行をしていた。抱き寄せたはずの朱羅も座席から離れて、レイラと遊んでいる。
いつもの平穏な光景。
「夢?」
アクセリナはため息を吐きながらソファーに体を倒した。ふと、窓の外を見ると翼から微かに煙が上がっている。
次の瞬間、翼から黒煙が噴出して機体が大きく傾いた。朱羅が転びそうになり、手を伸ばして支える。
アクセリナは朱羅に微笑むと爆発しそうなエンジンを力で抑えつける。
永遠と繰り返される世界。抜け出せない記憶。
これが眠り続けているアクセリナが見ている夢だった。
「繰り返しだな」
朱羅はアクセリナに支えられた体に力を入れて一人で立つと、驚くアクセリナにアイスブルーの瞳を向けた。その姿にアクセリナの動きが止まる。
今まで何百回と同じ動きをしていた世界が初めて新しい動きをしたことで、アクセリナの心はようやく新しい時間を刻みだした。
朱羅のアイスブルーの瞳を見てアクセリナが微笑む。
「目覚めたのね」
アクセリナの安心したような言葉に朱羅が頷いた。
「おかげで助かった。今度は貴女の番だ」
「どういうこと?」
朱羅は水晶をアクセリナの前にかざした。
「事故は終わった。もう眠り続ける必要はない」
「事故は終わった?私は死んだの?もしかして逝けずにいるの?」
死んだことに気づかない幽霊はよくいるが、生きていることに気づかない人間は珍しい。
朱羅は軽く首を横に振った。
「違う。命は助かった。ただ力を使いすぎて体に影響が出ている。どこまで回復するかは分からない」
そう言って俯く朱羅をアクセリナは抱きしめた。
「ありがとう。あなたが助けてくれたのね」
「だが、もっと早く記憶と力が戻っていれば……いや、俺が生まれなければ、こんなことは起きなかった」
朱羅の言葉にアクセリナはやさしく首を横に振った。
「いいえ。あなたが生まれてきてくれて私は嬉しかったわ。あなたは私達の子どもよ」
その言葉に朱羅は綺羅の言葉を思い出してフッと笑った。
「まったく、よく似ているな」
「もちろんよ。私が選んだんだから。綺羅はあなたの力になってくれたでしょ?」
「ああ。充分過ぎるほどだ」
その言葉にアクセリナが嬉しそうに笑う。
それはモデルとして数多く見せていた冷めた笑顔とは違う、温もりのある笑顔だった。
二人の間にある水晶が強く輝きだす。光は大きくなり全てを飲み込むように弾けた。




