043 .ぼっち、友達ができる
あのあと、宮囲を追いかけてきた冴内刑事と、エージェント富良に、衣乃と麗麻が事情を説明。
それから、央はやってきた冴内と富良へ自首をした。
欽嗣と鈴架は、自分の身勝手で巻き込んだだけだから大目に見て欲しいと添えて。
だが、欽嗣はそれを良しとはしなかった。
自分も同罪だと告げ、特に蓮花をダンジョンへ連れ込むことになったのは自分のせいだと告白。
残された鈴架は――
「二人がいなくなったら、自分はどうすればいい」
――と二人に縋った。
それに対して央と欽嗣は告げる。
「お前は巻き込まれただけだ。事情徴収のあとで問題ないなら帰ればいい」
「そうそう。お前はおれらの言葉に従ってただけだしな」
その場で泣き崩れてしまった鈴架に、二人はバツの悪そうな顔をしながらも、リリィへと頭を下げた。
そんな彼らに対して、リリィは精一杯の擁護をした。彼女なりの言葉で、悪いことはしたけれど、悪いように扱わないであげて欲しい……と。
結果として、央と欽嗣はダンジョンへの不法侵入と、蓮花への殺人未遂という形で逮捕。
一緒にいた鈴架も、ダンジョンへの不法侵入と、蓮花への殺人未遂に関する事情聴取という形で連行されることとなった。
加えて、参考人として衣乃も同行することに。
そして――央たちがいなくなり、麗麻とクラスメイトだけの状況になった時……。
「………………」
「リリィちゃん?」
リリィは、麗麻に横から抱きついて、そのまま動かなくなった。
「いっぱいおしゃべりできたのに……でも、いまになって……なんか……なんか……」
どうやら探索者モードや、イケメンモードが終了した結果、反動による強烈な人見知りが発生しているようだ。
「うううぅぅぅぅ……」
顔見知りしかいなくても、まったく動けなくなってしまったのだろう。
(このリリィちゃんッ、すごく可愛い……ッ!)
なお抱きつかれている麗麻は、テンション爆上がりである。
「えーっと、最果さん?」
「ふ、ふどう、さん……?」
麗麻に抱きつくリリィに視線を合わせるように、蓮花がその顔を覗き込む。
リリィは顔を上げて何かを言おうと口をパクパクさせるも、限界を向かえたような顔をして、麗麻のメイド服に顔を埋めてしまった。
麗麻も蓮花も、かわいい――とときめくものの、このままだとどうにもならない。
「とりあえず、色々と話したいかもだけど、リリィちゃんもこんなだし、今日はここで解散しましょうか」
その提案に、蓮花も、善也もうなずき、長い一日がお開きになるのだった。
なお、リリィは麗麻に宥めてもらいながら多摩センター支部までついてきて貰った模様。そこに着くまで落ち着かなかったとも言う。
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事件から一週間ほど後――
美術館が併設された、とある大きな公園。
原っぱに、広場。噴水、鴨がのんびり生活している大きな池などもあり、散歩コースどころか幼稚園や保育園、あるいは小学校の遠足などにも使われる場所。
園内の桜は半分ほど散ってしまっている。
それでもまだ残っている桜もまた、花吹雪となって少しずつ少しずつ減っている。
そんな公園の雑木林の中にある人気の少ない場所のベンチに、少女と女性の合計四人が集まっていた。
「――そんなワケで、真中くんは主犯として実刑がでちゃうでしょうね。嘉納くんも富鐘さんを連れ込んだ原因と言ってるしね、同じだと思う。
それと、雲道さんは不法侵入に関する罰則金くらいで落ち着くと思うわ」
あくまでも衣乃の推察。
覆る可能性はいくらでもあるのだが、その辺りで落ち着くだろうと衣乃は考えている。
「それと、多摩センター支部だけど、次のギルドマスターが決まるまでは代理で紡風さんがやってくれるみたい。
あ、紡風さんっていうのは、府中支部の解体場の一件で、一緒に戦った男の人よ。
その紡風さんが、リリィちゃんの面倒を見てくれた先々代ギルドマスターとの契約の件で話があるそうだから、時間ある時に必ず顔を出すコト」
リリィに対して分かった? と確認する衣乃の姿は、完全に母親か姉かという感じだ。
「うん」
それに、リリィも素直にうなずく。
少し前ならこうやって答えるのもおっかなびっくりだったことを思うと、我ながらちょっと変われたのかもと、思えて嬉しい。
「ギルマスの件は分かりましたけど、スタッフはどうなるですか?」
横で話を聞いていた麗麻が衣乃に訊ねると、彼女は小さくうなずいて答える。
「完全入れ替え――とはならないわ。ギルドが回らなくなるからね。
でも、紡風さんがかなり厳しく見ていくそうだから、しばらくは入れ替わりが激しくなるかもしれないわね」
「風通しが良くなるならそれでいいわ。常連のおじさんたちも不満が多かったみたいだし」
「うんうん」
麗麻の感想に、横でリリィもうなずく。
「まぁ報告としてはそんなところかしら。何かある?」
衣乃の言葉に、麗麻とリリィは顔を合わせてから大丈夫だと視線で答える。
二人の横で、蓮花がおずおずと手を挙げた。
「あのー」
「あら? 富鐘さん? 何かしら?」
「なんか色んなコトを知ってましたけど、滝洲さんって何者なんですか?」
麗麻とリリィは衣乃の正体を知っているから気にしなかったのだが、考えてみれば当然の疑問である。
「んー……まぁ、あれよ。エージェントや警察、ギルド本部に知り合いが色々いるミステリアスお姉さんだと思って貰えれば」
「わかりました。それで誤魔化されておきます」
「聡い子は好きよ? スカウトしたくなっちゃう」
蓮花が衣乃に関してどう思ったのかは分からないが、今のやりとりである程度の推察はされたことだろう。
「ああ、そうだ。被害者で富鐘さんが望むなら、真中くんたちの罪を重くなったりする可能性あるけど、どうする?」
「いえ。そういうの、別に望んでないので」
「そ」
「むしろ――思うコトは色々ありますけど、罪を軽くして欲しいと望むくらいです」
「わかったわ。伝えておく」
誰に――とは、蓮花も聞き返さない。
同時に、やや場違いとも思えるこの場に自分が呼ばれてたのは、これを聞くためだったのだろうと気がついた。
「あ、あの……」
「どうしたのリリィちゃん?」
「今、思ったんですけど……真中先輩のママさんって、真中先輩を心配してました?」
「第一声は『なんでこんなバカなコトをしたの? ご近所や会社にはなんて説明すればいいの? お母さんを困らせて楽しいの?』だったわ」
「そっか……」
それは、なんともリリィの母親も言いそうな言葉だ。
意図せずとも殺人未遂で捕まってしまい、きっと疲弊すらしてただろう子供に対して掛ける最初の言葉がソレだとは、本当に無自覚な敵だ。
「まぁそれに対して真中くんも『世間体と自分の評判ばっか気にして自分を気にしなかった結果が犯罪だよ。世間体を気にして勝手に苦しめバカが』って言い返してたわ。
そしたら急に息子がグレただなんだとヒステリー起こしはじめて、一緒に居た人たちが宥めるのにひと苦労してたのよね」
「ふむふむ」
なるほど。面と向かって反撃するとヒステリーを起こしかねないのか。
だとしたら――リリィが自分の両親にやる場合は、事前に対応を考えてから反撃した方が良さそうだ。
「で、真中くんのお母さんは一緒に来ていた嘉納くんのお母さんに『しつけのなってないお前の子供のせいでうちの子が!』ってヒスった結果、真中くんが『しつけを理由にするなら、自分がこうなったのはお前のしつけのせいだ。他責して何かした気になってんじゃねぇ。自分の友達とその親をクソみたいな理論で悪く言うな』ってブチ切れて、顔面グーで言っちゃって大変なコトになっちゃったけど……」
その光景を想像して、話を聞いていた三人は顔を引きつらせる。一種の修羅場というやつだろう。
「まぁでも、母親に対する反抗心はあれど、罪に対する反省はすごいしてるみたいだし、悪いようにはならないでしょ。むしろ、未成年で親に問題ありってなったから、ちょっと状況変わる可能性すらあるわ。
それに、二人とも超人適性高そうだったし、その気があるならスカウトしようかなとも思ってる」
「司法取引でもするんですか?」
麗麻が思わず問いかけると、衣乃は肩を竦めた。
「その発想――やっぱりロゼさんも、うちに入らない?」
「どんだけスカウトしたいんですか……」
「万年人手不足なのよ。なのにダンジョンと探索者が世間に浸透すれば浸透するほど、ダンジョンならびに超人化探索者関連犯罪――通称D事案が増えるワケで……」
「うあーいつになく切実な声」
ダンジョンエージェントの仕事を思えば、超人化適性を持っている上で、超人レベルも一定以上という基準があるのは明白だ。
さらには、麗麻みたいなタイプの人をスカウトしようとする辺り、ある程度は頭のキレる人も欲しているのだろう。
そうなると足切りラインが高すぎて、人が集まらないというのもあるのかもしれない。
「ま、冗談はさておきよ。こんな感じで事件は終息に向かってるし、もう重要参考人として呼ばれるコトもほとんどないと思うわ。三人ともお疲れさま」
衣乃の言葉に、三人三様に安堵の息を漏らす。
「あ、あの……!」
そして、その直後に珍しくリリィが大きな声を上げた。
「どうしたの?」
驚きながらも三人を代表して麗麻が訊ねる。
それに対して、リリィは意を決するようにベンチから降りて、三人の方へと向き直る。
「あの、あの……ね!」
リリィが真面目に何かを伝えたがっているというのは伝わってくる。
だから、蓮花は優しく笑って、しっかりとリリィの目を見ながら告げた。
「落ち着いて最果さん。ゆっくりでいいから、ね?」
「うん……!」
どこか気合いが入っている様子のリリィ。
ただ探索者モードやイケメンモードではなく、通常の女の子モードのまま気合いを入れているように見える。
「えっと、ね。わたし……友達になった人からすぐ嫌われるし、できた友達は、不幸になっちゃうし……よく困らせちゃう、から。
だから……その、優しくしてくれる人とも、ね! 仲良くならないよう、友達にならないようにしてた、の」
それは蓮花は、すでに聞いていた話だ。
リリィから直接聞いてないにしろ、麗麻も衣乃も把握している。
それでも三人は知ってるよ――とは言わず、一生懸命に何かを言おうとしているリリィに先を促した。
「でも、でもね……一人でいるのは好きだけど、独りぼっちはつまらなくて。
だけどわたしは、ダメな子だから、ずっと独りぼっちで……寂しくて、悲しくて……でも、人から、優しい人から、嫌われたくないから……嫌なコト言って、遠ざけてた……」
リリィの顔が泣きそうに歪む。
麗麻は抱きしめてあげたい衝動にかられるが、まだ言葉を続けるリリィの為に、それはグッと堪えた。
それはリリィも同じだった。
言葉にしながら、逃げ出したい衝動に駆られる。
今までだったらこんなに口にできなかったのだから、もう逃げていいのではないかと思ってしまう。
だけどそれでも――
胸元に当てた両手で、それぞれに服を握りしめさせる。
逃げないために。ここでちゃんと口にする為に。
「本当は嫌だったけど、嫌われたり傷つけられたりしたくないし……何より、優しい人が、わたしのせいで、嫌われたり傷ついたりして欲しくなかったから……悲しくて辛いけど、それでいいって、そう思ってた……」
今は、逃げたくない――
央に対して偉そうに言った言葉があるから。
自分もちゃんとやらないと、口だけの女になってしまうから。
ちゃんと周りにいる人に、お礼を言わないと。
ちゃんと一緒にいたいと言ってくれる人に、言葉を伝えないと。
いつもみたいに逃げないように――
「でも、今回の事件で……いっぱいいっぱい、ウラマさんや、イノさんに、優しくしてもらって……。
富鐘さんがダンジョンに連れ込まれたって聞いた時は、不安で不安で怖くて泣きたくなっちゃって……。
それで気づいたの! わたしも、やっぱり、友達が欲しかったんだって……!」
苦しい。
怖い。
こうやって言葉にしたら、麗麻も、衣乃も、蓮花も離れて言ってしまいそうで。
不安と焦燥が募る。
最後まで口にした時、三人に嫌だと言われたらどうしよう、と。
だけど、それでも――
こんな風に思えるようなったキッカケの三人に、ちゃんと言葉にして言いたいのだ。
だから、勇気を抱いて――
未知なる道に一歩踏み出す。踏み出さなきゃいけない。
自分の心の中にある未知なる荒野を切り拓くためにも。
望まぬ孤独に佇む荒野の果てから、苦楽を供にする人たちと自ら望んで開拓していくまだ見ぬ地平へを見るために。
今日は、リリィにとってそんな未知なる道への第一歩。
「だから! ウラマさん、イノさん、富鐘さん!
ええっと、その……他人を不幸にする子って、言われたコトもあるわたしだけど……えっと、あの……わたしと……わたしと! ちゃんとお友達になってくれませんか!」
言った。
言ってしまった。
言葉にした勢いのまま目をキツく瞑ってしまう。
返答が怖い。
みんなの顔を見るのが怖い。
ポンと、肩を叩かれて、恐る恐る顔を上げる。
そこには麗麻の顔があった。
その横には衣乃もいる。
「もっと前から友達だと思ってたんだけど?」
「ふふ。私のコトもお友達と言ってくれるのね。嬉しいわ」
肩の力が抜ける。
二人は否定することなく、受け入れてくれた。
あとは――
恐る恐る蓮花を見る。
なんだか不満そうに口を尖らせている。
「あの、富鐘さん……?」
「どーしよっかなー」
軽い調子でそう答えられてしまった。
ガーンという文字が見えるほどのショックを受けているリリィに対して、蓮花はイタズラっぽく笑う。
「だって、二人のコトは麗麻さんに、衣乃さんって呼ぶのに、私のコトは富鐘さんだし?」
「あ」
その言葉の意味にリリィは気づいて、慌てて名前を呼ぶ。
「あ、あの! えと――ハ、ハスカ……さん!」
「ありがとう。ふふ、いじわるしてゴメンね? 冗談だよ。私もリリィちゃんとはお友達になりたかったから」
そう言って、蓮花も手を出した。
それをリリィは握り返すと、ボロボロと涙がいっぱい溢れてくる。
「あ、う……あ、あああああああ……!!
よがった、よがったぁ……みんなど、おどもだぢに、なれだ……もうひどりぼっちじゃないいい……」
堰を切ったよう、涙とともにリリィの感情が溢れ出す。
三人で同時に抱きしめてあげることはできないから――三人を代表して、麗麻がリリィを抱きしめる。
友達ができたくらいで、そんなに泣くようなことじゃないでしょう――とは思う。
けれど、きっと、リリィにとってはこんなに泣くくらいの大事だったのだろう。
リリィにとっては、勇気を振り絞って、心を振り絞って、色んな感情を抑え込んで――ようやく辿り着いた場所なのだろう。
だけど苦楽を糧とし、困難に学び、隣人と救い合いながら、未知なる道を開拓してく――リリィにとっての孤高の旅は、ここから始まるといっても過言ではない。
「友達はできたら終わりじゃないよ。
これらかは、友達として、一緒に遊びに出掛けたり、一緒に探索したりもしようね。リリィちゃん」
麗麻が優しくそう告げたあと、後ろの二人に確認するように視線を向けた。
もちろん、蓮花と衣乃がそれをNOと言うワケもなく。
「そうだね。学校でも逃げないで一緒にいてくれると嬉しいな」
「リリィちゃんと探索するのは楽しそうだしね。良かったら今度誘ってね?」
その二人の言葉に、リリィの号泣はますます大きくる。
そんなリリィが落ち着くまで、三人は優しく見守る。
見守って貰う中で、泣いてばかりじゃダメだと、リリィは大泣きしながらも、精一杯の笑顔を三人に向けて浮かべるのだった。
完成しているキリの良いところまで……というワケで、一旦ココまでとなります。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました٩( 'ω' )و




