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夢操の檻 ―配られた夢と、誰も夢を見なくなった日―  作者: World of NariNari


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『夢操の檻』 第九部:鋼の回廊と沈黙の指輪 第2話

カクヨムでも重複投稿しています

物語をお楽しみください

4鋼の防波堤への帰還

簡易要塞が見えてきた。ヘリを盾にした防壁の上で、重機関銃を構えた味方がこちらに向かって何かを叫んでいる。プロペラの音と着弾音にかき消され、内容は聞こえない。


(……足が、痛い。……何なんだよ、もう)


すぐ前を走っていた、さっきの軽装兵の女性がバランスを崩して転倒した。背負われていた老人も、地面に投げ出される。

「なんだよ、みっともないな……」 アキトの口角が、不自然に吊り上がった。極限の疲労と狂気が、思考を歪ませる。


「さっきあんなに威勢よく声をかけておいて、今さら転ぶなんて。……笑えるな」

嘲笑を浮かべ、彼女たちの横を通り過ぎようとした瞬間。 アキトは、瞬きをするほどの短い間に、自分の醜さを呪うことになる。


二人は、転んだのではなかった。 すでに死んでいた。 女性は顔の右半分が吹き飛び、老人は首の皮一枚でかろうじて繋がっている状態だった。肉塊と化したそれらは、もはや人ですらなかった。


背後から激しい銃声が聞こえる。殿を務める重装兵たちの断末魔か。 何が起きているかは分かっている。でも、考えたくない。考えたら足が止まる。 周囲の仲間が、次々と赤い飛沫を上げて倒れていく。簡易要塞の味方が必死の援護射撃を繰り返しているが、その弾幕を突き抜けて、味方の命が一つ、また一つと消えていった。

__________________________________

5要塞の真実

「戻ったぞ……要塞だ……!」

防壁の裏側へ飛び込み、コンクリートに背中を預けた。 勝った。生き延びた。 遠のいていた周囲の音が、ゆっくりと、耳障りなほど鮮明に聞こえ始める。


背中の男の子が、狂ったように泣いていた。 「……大丈夫、もう安心だよ。……もう、大丈夫だから」


アキトは震える手で男の子を背中から下ろし、彼を安心させようと向き合った。 そして、息を止めた。

男の子の右腕が、肩の付け根から消失していた。 さっきの銃撃か、あるいは爆風か。救出した時にはあったはずの、小さな腕。


「……ぁ……」


アキトの心に、どす黒い罪悪感が込み上げた。自分が右足の痛みや、自分の命の心配に気を取られていた間に、この子は……。


「そこをどきな!」

聞き慣れた怒声と共に、マリアが駆け寄ってきた。 彼女は男の子を素早く抱き上げる。 アキトが見たマリアの瞳は、これまでに見たことがないほど濁っていた。深い隈と、拭いきれない疲労。今日だけで、彼女はどれほどの絶望を見てきたのか。


マリアは男の子の傷口を一目見ただけで、その唇を噛み締めた。 その眼差しには、医者としての慈愛よりも、「また助からない命が増えた」という、生気のない諦めが混じっているように見えた。


要塞の中は、勝利の歓喜など微塵もない。 そこにあるのは、最小限の被害で撤退するという作戦が、いかに血塗られた幻想であったかという現実だけだった。

ご覧いただきありがとうございました。


命からがら簡易要塞へと帰還したアキト。しかし、そこで待っていたのは、勝利の歓喜とは程遠い、あまりにも残酷な「戦場の現実」でした。


極限の疲労から、転倒した仲間を「笑えるな」と嘲笑してしまい、直後にそれがすでに息絶えた肉塊だったと気づくアキトの精神的な歪み。

そして何より、無事に救い出したはずの男の子の右腕が、自分の背中でいつの間にか失われていたという事実。


自分の命や、右足の痛みに気を取られていたせいで、託された小さな命を傷つけてしまった……。

立ち上がるアキトを襲う、どす黒い罪悪感の描写には、特に筆を尖らせて執筆いたしました。


マリアの瞳に宿る、医者としての慈愛を超えた「生気のない諦め」。

綺麗事の作戦がいかに幻想であったかを突きつけられ、要塞の冷たいコンクリートの床でアキトは何を思うのか。


「ディストピアの容赦のなさが本当に容赦なさすぎる!」と思ってくださった方は、ぜひ下方の【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)】をポチッと押して応援していただけると、アキトの過酷な運命をさらに力強く書き進める執筆の原動力になります!


幻想が崩れ去った要塞で、次なる動きが始まる次回を、どうぞお楽しみに!

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