第八部:星空の告白と、仕組まれた体温
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1. 泥に塗れた再生
翌日から、あのアトモスフェアを支配していた「狂気的な期待」は、深い沈黙へと変わった。尋問室の重い鉄扉は閉ざされ、1ヵ月、空白の期間を経てアキトに与えられたのは、ただ泥を這い、重力と戦うための「基礎」の時間だった。
「いいか、アキト。まずは自分の足だ。地面がどこにあるか、骨の髄まで覚え込ませろ」
カイトが、以前のような荒々しくも血の通った声で指導を再開した。今は自分を一人の訓練兵として認識してくれている。重い土嚢を背負い、泥濘の中を何キロも走り込む。ミナとの訓練も、相手を追い詰めるためではなく、自分の呼吸と体の軸を一致させるための、地道な反復へと変わった。
「あんた、動きが変わったわね」
模擬刀を交えながら、ミナが短く呟いた。 「前は『追われている』動きだった。今は……自分の重さを確かめてる」
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2. 星空の下の告白
一日の過酷な訓練が終わり、全身が鉛のように重い夜。 アキトは基地の裏手、切り立った崖の上に座っていた。 見上げた先には、ニューソウルのホログラムとは違う、暴力的なまでに美しい星空が広がっていた。漆黒の宇宙に、無数の光の粒が零れ落ちるように輝いている。
背後で、重いブーツが砂を踏む音がした。 「……また、ここか」 レオンだった。彼はいつもの冷徹な表情を和らげ、アキトの隣にゆっくりと腰を下ろした。
「レオン。……どうしてあんたたちは、あんなに焦ってたんだ? 僕の能力がそんなに大事なのか」
アキトの問いに、レオンは長い沈黙の後、夜の闇を見つめながら答えた。 「……お前には、絶望に見えただろうな。だが、俺たちにとっては、それが一つの『夢』だったんだ」
レオンは左手首のハンドバンドを指先でなぞった。 「最初の『能力者』が発見されたのは、7年前だ。新政府がニューシティの建設を始めたばかりの頃、ある一人の少年が、包囲された旧政府の部隊を救った。……彼は、ただ手をかざすだけで、新政府の最新兵器三台を、紙屑のように捻り潰したんだ。『圧縮』。物理法則さえ無視したその力は、千人の兵力に匹敵した」
アキトは息を呑んだ。 「……そんなことが」
「ああ。それ以来、新政府は『目覚めた者』を血眼になって狩り、自分たちの『ムソウ』として再定義しようとした。あまりうまくいっていないようで、今でも新政府に能力を持つ者はいない。しかし、俺たちは負け続けた。何人もの器が、繰り返される再定義の失敗で失われている。我々は兵士の数も、テクノロジーも、あいつらには勝てない。……戦局を覆せるのは、戦術じゃない。既存のルールを破壊できる、圧倒的な『個』の力だけなんだ」
レオンの声には、自嘲気味な響きがあった。 「俺たちは、数人の能力を持つ者を仲間に引き入れることに成功している。しかし、十数人。能力にもピンからキリがあって、私が口を出せたことではないが、正直あまり役に立たないものもある。話は戻るが、その地域で優勢になれたとしても、世界は広い。誤差に過ぎなかった。もう何年も負け犬のまま泥水を啜ってきた。
そこに、お前が現れたんだ。夢を持たずに目覚めた、未知の器。この地域にはまだ能力を持つ者がいなかった。今は数人一時的に来てくれている。今度の作戦のために。……お前が望めば、新政府の壁をすべてなぎ倒せるかもしれない。その期待が、俺たちの理性を狂わせた。……悪かった、アキト」
レオンはアキトの肩を、一度だけ強く叩いた。 「……明日は、走り込みの距離を半分にしてやる。……寝ろ」
今回は、これまでの張り詰めた狂気から一転し、本物の星空の下でアキトとレオンが静かに言葉を交わす、個人的にも非常に思い入れの強い名シーンとなりました!
「なぜ自分たちはあんなに焦っていたのか」
アキトの問いに対して、レオンが語った旧政府軍のあまりにも惨めで、切実な「負け犬の歴史」。新政府の圧倒的な物量に対抗するためには、既存のルールを破壊する『個の力』、すなわち夢を持たない未知の器であるアキトが必要だった……。
不器用ながらもアキトの肩を叩き、「悪かった」と謝罪を口にするレオン。その温かさに、アキトの頑なだった心が少しずつ溶かされ、彼を信頼していくプロセスを描きました。
――ですが、このレオンの語った言葉、そしてアキトの肩を叩いた手のひらの熱。
これがすべて『冷徹な計算と演技』だったとしたら……?
信頼が深まれば深まるほど、この先に待つ絶望が何倍にも膨れ上がっていきます。
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偽りの安息の後に訪れる、過酷な初陣。次回もどうぞお楽しみに!




