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魔王な二人 6


 煙草に火をつける暁貴。

 目の前に座るのは地味なスーツ姿の男。同世代か、やや年長そうに見える。

「信二を知っているんだな?」

「彼はすごいな。チェスでも将棋でも挑んだが、全戦全敗だった」

「え? なにその友達みたいな付き合い方」

「友達なので」

 くつくつと笑う男。

 ものすごく邪悪に見える笑顔だ。

「ていうか。えらくまわりくどいハシビロコウだね」

 暁貴の後ろで、こころがやれやれと両手を広げてみせる。

「はしびろこうて……」

 あんぐりと魔王が口を開けた。

 漢字で書くと、嘴広鸛。

 動かない鳥として有名なアレである。

 あまりにも言い得て妙だったので、沙樹などはうつむいて震えている。

 笑いをこらえるために。

「このお子様は?」

 いささかむっとして訊ねる男。

 まあ、はしびろこうと呼ばれて喜ぶ人は、いるかもしれないがわりと少数派だろう。

「私は八尾こころ。そこの鉄心さんの秘書をやってるよ。あと二十六歳だから。ひとりの淑女として扱ってくれると嬉しいかな」

「いきなり人を怪鳥扱いする淑女というのは、寡聞にして知らないがね」

「そだね。わざわざ名刺を上下逆に渡す紳士がいるってのも、初めて知ったよ」

 どちらが、よりしゃらくさいと思ったかは判らない。

「わざとらしいんだよ。依田孝実。さかさまに渡してるから逆から読んで、みかただよ。なにそれ? とんちのつもり?」

 は、と、鼻で笑ってみせる。

「なるほど。君が信二と並び称される澪の軍師か」

 苦笑いとともに、依田が肩をすくめた。

 あらためて、暁貴がもらった名刺をひっくり返したりしている。

「つまり、あんたが諜報員をけしかけたってことか」

「正解だ。北辺の魔王」

 様々な陣営が澪にスパイを送り込むように画策した人物。

 それがこの男である。

 もちろん澪に取らせる(・・・・)駒として。

「あとその呼び方もわざとらしいよね。北辺の、とかわざわざ枕詞(まくらことば)をつけるってことは、他にも魔王がいるよって言ってるようなものじゃないか」

 やや尖った口調で問いつめる。

「どうしたんだい? こころちゃん。いやに機嫌が悪いな」

「私たちにとってはライバルみたいなものだからね。暁貴さん。この魔王さんは」

「え? 依田も魔王なん?」

「そうだな。とりあえずフォース使いでないことだけはたしかだ」

「そっちの話題は危険だからやめろ。本気でやばいから」

「うむ」

 神妙な顔で頷きあう魔王たち。

第六天(だいろくてん)の魔王、波旬(はじゅん)だ。あらためて、お初にお目にかかる。澪の魔王よ」

「第六天魔王って織田信長じゃねえの?」

「あれは、本人が勝手にそう名乗っていただけだな」

 仏教における天界のうち、いまだに欲にとらわれているのが六欲天。その最上位が第六天であり、他化自在天(たけじざいてん)である。

 そこを住処にするのが、第六天の魔王たる波旬だ。

 戦国時代の武将、織田信長はただの人間である。

 こころがライバルといったのは、依田が仏教系の転生者だからだろう。

 彼女は高天原(たかまがはら)、つまり日本神話の係累である。

「ほほー 本物の魔王かぁ。道理で迫力があるわけだぜ」

「それは、おもに顔のせいではないか?」

「つっこみづれぇネタふりすんなよ。ともあれ、依田は俺らの味方ってことでいいんだよな?」

「だな。澪を巡るバカ騒ぎをなんとかしたいとは思ってる」

「俺らが騒いでるわけじゃねえよ?」

「知ってるさ。ようやく元凶が判ったんで知らせにきた」

「助かるぜ」

 急速に親和力を高めてゆく魔王どもである。

 そして頭を抱える腹心たちである。

 魔王は暁貴ひとりでもうお腹一杯なのに、増えちゃった。

「この人、このまま澪に居着くんですかね……」

 ぽつりと高木が呟いた。

 つっこみ担当の仕事が、よりハードさを増してゆく。

 そんな予感がする。

「知らん。俺に聞くな」

 明後日の方向を眺める鬼の頭領だった。



 三者三様の戦い。

 ほぼ互角の状況のまま推移している。

 佐緒里は猪八戒と、光則は沙悟浄と、そして琴美は孫悟空と。

「中華神話の転生者ね……」

 ぺろりと上唇をなめる美鶴。

 さすがに強い。

 とくに孫悟空。変身状態の琴美と同等以上の力を持っているようだ。

「光を投入したいところだけど、タイミングが難しいわね」

 西遊記のメインを張るのは四名。

 この場にいるのが三名だから、あとひとり、どこかに潜んでいるかもしれない。

 慎重に視線を巡らす。

 あるいは出てこないかもしれない。

 そんな思いもある。四人目は戦闘力を持っていないはずだからだ。

「けど即断は禁物。はず(・・)べき(・・)で立てた作戦は、必ず裏をかかれる。でしょ? 信二さん」

 この場にはいない師匠に確認する。

 人間でも転生者でもいいが、チェスの駒ではない。

 こちらが考えたとおりに動くわけがないのだ。

「……いた」

 遠く一条大橋の上。

 戦いをじっと見つめている少女がいる。

 あれか。

「たまちゃん。こっちを見てる子がいるわ」

 視線を前方に送ったまま、後方の小学生に話しかける。

「汝の考えたとおりじゃよ。美鶴。我らの姿を目にとめる人間はおらぬ」

 笑いを含んだ返答があった。

 認識阻害。

 勇者たちが使う能力のひとつだ。

 いるけどいない。路傍の石と変わらない。

 たとえば御劔は、剣を異空間に収納しているわけではない。ただ、持っていても余人は気にしないというだけ。

 現在、それと同じチカラを大國魂神が使っている。

 だから橋を渡る通行人は、わざわざ河川敷を覗き込むこともしないし、車を停めて見物することもない。

「ならあれが正解ってことね。でも、三蔵法師は女の子ってのは何かの伝統なのかしら?」

 わけのわからないことを言いながら光を手招きする美鶴。

「橋の上にいる女の子、みえる?」

「もちろんだぜ」

「あの子を誘拐してきて」

「うえ!?」

 いきなり不穏当な台詞が飛び出した。

 誘拐はまずい。

 どう考えても、悪役のやることだ。

「大丈夫。光が走り出したら、たぶんあの三人は守るように動く。そしたら片が付くわ」

「ほんとかよ……」

「ただ、本気で殺しにくると思うから、そこだけ注意して」

「あいよ」

 軽く前傾姿勢を取る。

 夏の海の色(オーシャンブルー)に染まってゆく髪。

 たん、と、地面を蹴った。

 次の瞬間、少年は橋の上に立つ少女を指呼(しこ)の間にのぞんでいる。

 目と口で大きな丸を三つ作る少女。

 変化は劇的だった。

「馬鹿なっ!?」

「澪の連中は気配を読めないはずじゃないのか!?」

「くそっ!」

 目前の戦いを放棄して光を追いかけようとする男たち。

 もちろん澪の戦士が、そんな隙だらけの行動を見逃すはずがない。

「えい」

「ぐべ!?」

 無表情の佐緒里に足元をはらわれた猪八戒が地球と接吻を交わす。

砂鞭(サンドウィップ)!」

「なんだこりゃぁ!?」

 光則の鞭が沙悟浄をぐるぐる巻きに縛り上げる。

 孫悟空だけがかろうじて追撃をかわし、走り出すことができた。

 かに見えた。

 視界を埋め尽くす水鳥の群れ。

「な!?」

 蹈鞴(たたら)を踏む。

 一斉に飛び立った鳥たちが、彼の前を横切ったのだ。

 もちろんビーストテイマー琴美の能力である。

 視界がクリアになったとき、孫悟空の前には蒼銀の髪を風にそよがせる美女が立っていた。

「私と遊んでいるときに、他の女のことを考えるなんて、冷たいのね」

 婉然たる微笑を浮かべて。

「この!」

 如意棒を振り回しながら牽制し、横を駆け抜けようとはかる。

 逃すまいと、琴美が正面から抱きついた、ように見えたのは一瞬。

 女の身体が後ろに大きく反り、男は背中から地面に叩きつけられた。

 フロントスープレックス。

 往年の名プロレスラー、ジャンボ鶴田が編み出した投げ技である。

 息が詰まり、目が眩む。

「よいしょっ」

 素早く馬乗りになった琴美が、孫悟空の右腕を後ろ手に捻りあげた。



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