表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/80

魔王な二人 3


「とういうわけで、私がこころんから依頼を受けて飛んできたんだよっ」

 一風呂浴びながら説明するキク。

 壁は修復されている。念のため。

 豊平川の通信橋を守る。

 それが魔王の決定だ。

 ただ、時間的な猶予はない。

 示威があったということは、敵はもういつでも破壊工作に出られるだけの準備を整えていると見た方が良いだろう。

「それが嫌なら交渉のテーブルにつけ、という意味でしょうからね」

 もぐもぐと弁当を食べながら美鶴が言う。

 こちらは四阿だ。

 緊急事態だといっているのに、緊張感のないことではある。

 まあ、さすがに食事をとる時間すらないというのでは、詰んでいるだろうが。

 キクが風呂に入っている間に、実剛が札幌に向かうメンバーを選出中である。残念ながら全員でというわけにはいかない。

 澪の守りを空にすることはできないし、菊理媛(くくりひめ)の能力といえども数名が一緒に縮地するので精一杯だからだ。

 厳選されたメンバーで臨むしかないだろう。

 戦闘が予測されるため、もちろん実剛自身は除外だ。

 彼を守るために戦士を割かなくてはいけないという状況は、幾重にもまずい。

「指揮を執るのは美鶴。となると羽原くんが同行するのは当然として、あとはアンジー姉さんと……」

 札幌入りすれば、当然のように北海道神宮との折衝も予想される。

 澪の立場を代弁できる人物が必要になるため、本当は暁貴か実剛が赴くのが望ましいが、それは不可能だ。

 となると、序列三位の美鶴が行くしかない。

 同時に、第二軍師が遠征部隊の指揮を執ることになる。

 そしてお目付役として琴美。

 ここまではすんなり決まる。

 もちろんキクも同行するが、魔王の妻は非戦闘員のため実戦には参加できない。

 あと一人か二人、戦闘員を伴わなくてはどうしようもない。

 光が美鶴のガードに、琴美がキクのガードに付いてしまえば、実効戦力はゼロだからだ。

「光則と佐緒里さんのコンビ? それとも御劔くんと仁のコンビ? うむむむ」

 紀舟陸曹長という選択肢は存在しない。

 彼女はあくまでも客分だし、なによりこの女性自衛官が飛んでしまったら、ポーク01の運転手がいなくなってしまい、実剛たちは山の中で立ち往生だ。

 次期魔王の思考は長くなかった。

 量産型能力者では、結局のところ戦闘力に不安が残る。

「光則、佐緒里さん。お願いできる?」

「いつものパターンだな」

「是非もない」

 それぞれの為人で応える。

 琴美、光則、佐緒里、光のカルテットを美鶴が動かす。

 御前との最終決戦の時も、自衛隊との模擬戦の時も、このスタイルだった。

「美鶴。遠征部隊の指揮は任せるよ。君の判断で、最善と思われる行動を取ってかまわない」

 妹に話しかける実剛。

「了解しました。兵を一時お預かりします」

 堅苦しく美鶴が応じる。

 兄と妹としてではなく、澪の戦闘部門を掌握する司令官と前線指揮官としての会話だ。

「まとまったっ?」

 さっぱりしたキクが四阿に入ってくる。

 湯上がり美人といいたいところだが、魔王の妻は平服だし、他の面々は野戦服だ。

 色香を感じる要素は少ない。

「キク姉さん。いつも通りで」

「結局そうなるんだねっ 平常運転っ」

「まあ、そんなに選択肢があるわけじゃないですから」

「そりゃそーだっ じゃあみんなっ 輪になって輪になってワニになってっ」

「ワニにはならないと思うけどね……」

「細けぇこたぁ良いんだよっ ていうか露天風呂で待ちかまえてる男の人のことをなんでワニっていうんだろっ?」

 美鶴とキクが馬鹿な会話をしながら手を繋ぐ。

 ぐるりと円を描いて連結されるそれぞれの掌。

「どうして姉さんが知らないのよ……起源は日本神話でしょうが……」

「そうなのっ?」

「そもそも因幡(いなば)の白ウサギが……」

「縮地っ」

 ぶん、と、消える六人。

 あとに残されたのは、実剛、絵梨佳、御劔、仁、紀舟陸曹長の五名だ。

「……せめて最後まで説明して欲しかったな。因幡の白兎とワニにどういう関係あるんだよ……」

 ぼそりと実剛が呟いた。

 魔王の妻は、なかなかにフリーダムなのである。




「こちらは情報面でバックアップするぞ。原油価格の操作とネットワークへの破壊工作は同一の組織によるものと仮定する。割り出しと防諜だ。急げよ」

 田中室長の声が飛び、影豚たちの動きが加速する。

 敵はアメリカ合衆国。

 おそらくは中央情報局(CIA)。佐藤の古巣である。

「相手にとって不足なし」

 ぺろりと佐藤が唇をしめらせる。

 本来、スパイに自己はない。命令を百パーセント完璧に実行する能力だけが要求される。

 その意味では、自分を道具扱いするニンジャたちと同一直線上に立っているといえるだろう。

 だが、澪に帰属して彼らはあきらかに変わった。

 強烈なまでの自負心が芽生え、困難な任務になればなるほど燃えるようになった。

 佐藤本人の言葉を借りれば、

「戦う敵が大きく、挑む謎が難解なほど面白い」

 ということになろうか。

 暁貴菌の汚染も、ほぼ末期症状である。

「もう普通の男の子には戻れない、ってね」

 滑らかなタイピング。

 ネットワークの中で、熾烈な戦いが繰り広げられる。

 アメリカ政府高官のスキャンダルが次々と暴き立てられ、あるいは捏造(ねつぞう)され、公開されてゆく。

 もちろん敵も易々とは許さない。

 流れた情報には一秒未満でフィルタがかけられ、跡形もなく消し去られる。

「ほほう。ハッキング攻撃をしてきましたか。鈴木さん」

「まかせろ。日本のコンピュータ技術は世界一だ。二番じゃ意味がないんでね」

「フォローする」

 内調出身の鈴木が防壁を築き、陸幕二別出身の佐々木が逆ハッキングを仕掛ける。

 これに関しては澪が圧倒的に有利だ。

 なにしろ守るべき秘密がない。

 むしろ澪の血の秘密を知られて困るのは、アメリカなりロシアなりだ。

 とくに年明けの侵攻と惨敗など、もし漏洩したら国が傾く。

「そのへんをいじってやるかな」

 くすりと笑った佐藤。

 太平洋艦隊の残存数が合わないことが、ごく自然な経緯でとある下院議員の耳に入るよう仕向ける。

 もちろん野党の。

「ハッキングが止まった。これで諦めるような、かわいげのある連中じゃないよな」

「当然。次はクラッキングだろうよ。防壁たのむぞ。佐々木」

「まかしとけ。自衛隊ってのは、守るために存在してるからな」

 情報を盗むための攻撃ではなく、ただ単純に壊すための攻撃。

 軽口を叩きながらも、鈴木と佐々木の額には汗が滲んでいる。

 たった二人で超大国からの攻勢を凌いでいるのだ。

 戦況は良くいって互角。

 それも断崖絶壁の上に、かろうじてつま先立ちしている程度の互角である。

 あと一押しされれば、劣勢へと転がり落ちるだろう。

 きりきりと胃が締め付けられるような攻防が続く。




「アメリカを動かしたな」

 男が言った。

「良くないですねえ。あまりアメリカの負けがこみすぎると、賠償金が搾り取れなくなりますよ」

 青年が応える。

 薄暗いホテルの一室である。

「当然、それも狙いのうちだろうな。まずはアメリカを舞台から退場させ、ついでに澪に嫌がらせができれば最高だろう」

「こすっからいですねぇ」

 猛禽と魚が笑みを交わす。

 単純ならざる笑いだ。

「とはいえ、だいぶ見えてきましたね。アメリカを消したい連中ってことですか」

「絞れてくるな」

 該当する国ならけっこうある。

 世界の警察を自称するアメリカ合衆国だが、誰も彼もが警察ダイスキというわけにはいかないのだ。

「踊れば踊るほど正体が見えてくる。ステップによって特定されるからな」

「ロシアというか、ラスプーチンはもうしばらく動けないと思うんですよねぇ」

「たぶん違うだろう。極北の大国が相手ではないよ。今回は」

「となると、もう一方ですか」

 首をかしげる異相の青年。

 ()の国にそこまでの地力はない。昨今の国際情勢の中では急成長いちじるしいが、それはかつて日本にもあったバブルのようなものだという見解が大勢を占める。

「人間なら、そうだろうな」

「あー やっぱりそこに帰結するんですねぇ」

 魚顔に浮かぶ苦笑。

「私は澪に飛ぶ。君はどうする?」

「俺は義祖父どの(しゅしょう)のそばから離れるわけにもいきませんし、大学もありますから」

「君が紹介してくれれば会いやすいと思ったのだがな。魔王に」

「なんて紹介するんですか? 魔王をつれてきましたよー、とかいうんですか? 勘弁してくださいよ」

 肩をすくめてみせる。

 猛禽を思わせる顔の男が、声を立てずに笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ