フレディ先輩。
ここが『君僕』であることを認識した私の行動は早かったと思う。
取り敢えず仕事の確保だ。
条件は住み込み可能であること。できれば食に携わる仕事がいい。雑貨店などは人でが足りているだろうし、食事処のような回転率のいい店だと、忙しく人を欲している可能性が高いからだ。
第2に、安全面が保証されていること。犯罪に関わるとかは論外だし、命に関わるとは言っても、自分の身を売るようなことはあまりしたくない。身分が保証されないのに雇って貰えるところは少ないだろうが、これだけは譲れない。
それを踏まえて、私はある一軒の居酒屋を選んだ。あまり大きくはないけれど、割りと繁盛していて、軌道に乗ってきているだろうお店を。
「すみません。」
「いらっしゃいませー!」
どきどきしながら店内に入る。外からみた通り、人手が足りていないようだ。給仕の人が席へ案内するのを断って、ここで雇ってもらいたいこと、店長がおられるかを聞く。
給仕の人は、一つ頷いて店長を呼んだ。
「てんちょー!」
「なんだ?」
のっそりとカウンターへと出てきた店長を見て足が震えた。今は昼過ぎ、昼のラッシュが終わった時間帯でも営業中だ。人として常識外れなことをしている自信はある。だけど、ここが無理ならすぐに次に行かなければ今日の宿がないのだ。だから、そんなに睨まないで!!
「、ここで住み込みで働かせていただけませんか?」
「ほう。どっちだ?」
「どっち、といいますと?」
「表か、裏かだ。」
じっと見てくる店長は私から目線を外そうとはしない。
「裏方です。見たところ人手が足りていないように感じました。野菜の下ごしらえなども出来ます。」
ここには私の味方になってくれる人はいない。
まず『君僕』の中に知り合いなんているはずもないし、唯一の知り合いであるユダさんなんてもっての他だ。
私は殺されかけたのだ。のこのことユダさんの前に顔を出せるはずもない。
だから、積極的に自分のできることをアピールしていく他ないのだ。
「ほう。確かに、今俺の奥さんは妊娠中で里帰りしていてな、裏方は確かにまわっていない。取り敢えず入ってみろ。分からないことはこいつに聞け。」
「っはい!ありがとうございます!」
店長は先程案内してくれた給仕の人を顎で示し、キッチンへと戻っていった。
ここからが正念場だ、と思う。ユダさんをみた限り、野菜は同じ種類のものだったけど、鰹節とか出汁をとる概念がないようだった。つまり日本の料理は出来ないのだ。だから、まずは裏方で頑張るしかない。
「エプロン貸すからこっちにきてー。」
「あっ、はい。」
「俺はフレディ、よろしくねー」
「よろしくお願いします!」
私は、にこやかに笑うフレディ先輩をみた。癖っ毛のある長めの髪は後ろで括っており、ぴょんと尻尾のように飛び出ている。
「今は俺が給仕と裏方両方やってるんだよー。凄い忙しかったから助かるなぁ。」
「そうなんですね。」
私の読みは当たっていたらしい。外からみていて、注文してから料理がでてくるまでの時間が長いなと感じていたのだ。
「取り敢えず、食器洗って。スポンジと灰はここね。それから、水が汚くなったらこっちに井戸があるから、ここから汲んでくること。あと、玉ねぎとじゃがいも、人参の皮剥き、終わってない分があるから、それもよろしく。」
「はい。」
そういえば、昔の人は灰を洗剤代わりにしてたんだっけ。私は給仕に戻るフレディ先輩を横目で見ながら腕捲りをしながら水場に立った。




