タコ焼き
「ワタクシ、タコ焼きを食べてみたいのです。」
「え?
今、食べてるやん?」
「こんなのでは無く、ちゃんとした本物のタコ焼きを食べてみたいのです。」
すたみな太郎でタコ焼きを30個食べながらの久井の台詞。
要は専門のタコ焼き器で焼いた、プロ仕様の物が食べたいとのこと。
「あー、ウチは親戚が集まった時にタコ焼きパーティとかするねんけどな。」
「タコ焼きパーティ!?」
久井のスイッチが入ったことで、話はトントン拍子に進み、ネキ家のタコ焼き器セットを我が家に持ち込んでタコ焼き祭りが開催される事になった。
「ゴメンな?
圭ちゃんってあんまりタコ焼きせーへん人?」
『いやいや、そんな事ないよ。
一人暮らしだし、あまり機会が無くてね。
じゃあ、2人が楽しめるように、色々トッピングを考えなきゃな♪』
「「キャー♥」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
関西に住んでいるからと言って、必ずしも全員がタコ焼きを常食している訳ではない。
実は俺も社会に出るまで食べた記憶が無い。
両親は貧しく余計な嗜好品を買う余裕が無かったし、口には出さないが大阪という街を嫌っていたフシがある。
ほぼ騙された形で大阪のブラック企業に就職してしまった田舎者夫婦。
恨むなという方がおかしい。
「円蹴君!
タコ焼き初めてってホンマか!?
いや、流石にネタやろ!?」
確か廃屋解体関連の現場だったと思う。
居合わせた同僚全員が、食べ方に戸惑う俺に対して目を剥いて驚いたので、やはり関西ではポピュラーな食べ物なのだろう。
それが、俺が内心タコ焼きを避け、生まれ育った大阪にもあまり愛着を持てない理由である。
『まあ、これは俺の事情であって他人には関係ないからな。』
鏡の中の俺がそう言った。
いつもながら、つまらなさそうな男だ。
久井やネキは何が楽しくてこんな奴と一緒に居るのか理解不能。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
タコ焼き器はネキが持って来る。
焼くのもネキ。
更には親父さんが、娘の為にと良いタコを買ってきてくれたらしい。
参ったな。
流石におんぶが過ぎるか…
そう思い、味変用の薬味を準備する。
ポン酢・マヨネーズ・だし汁・ラー油・BBQソース・ワサビ醤油…
ふーむ。
食べ慣れない俺にとっては十分だが、ネキを楽しませてやりたいな。
ナンプラーもあるしカオマンガイソースなんかどうだろう?
最近エスニックがマイブームだと言ってたし…
ふふふ、ネキが驚く表情が目に浮かぶようだ。
pururururururu♪
噂をすれば着信とはよく言ったもので、ネキからのメッセージが入る。
【一大事や。】
まずはワンフレーズ。
ん?
何だろう?
【ドカちゃんが親バレした。】
お、おう。
【今、通話いけるか?】
配達に行く矢先だったが、中止。
やれやれ誰にも束縛されたくないから配達員になったんだがな。
…まあ、アイツらになら別にいいか。
【はい、通話可能です。】
ネキとの通話は30分ほど。
内容自体は大したことがない。
久井が俺の自宅にタコ焼きパーティーで来る事が母親にバレて大喧嘩になったとのこと。
涙ながらにネキに語ったところによれば、真夜中にこっそり俺の食事動画を見ながら隠し持っていたオニギリを食べている現場を母親に見つかってしまった。
久井母は娘が発狂したのではないかと疑い怒り狂ったらしい。
…いや、疑う余地はないと思うが。
更には久井が手帳に「Kさん宅でパーティー♥」と記入していた事が問題に拍車を掛けた。
久井母は娘がイカガワシイ催しへの参加を画策しているものと決めつけ、夫に泣きついたとのこと。
突っ込みどころが多過ぎて何とも言えないが、久井公正から先程届いた「お時間があればランチでもいかがですか?」というメールはその絡みだな。
無意味な連絡をする人ではないので、合点がいった。
「もしもし、久井です。
圭介君か?」
『はい。
円蹴圭介です。
突然の連絡申し訳ありません。』
「あ、いや。
さっきは変なメールを
送ってしまって済まなかったね。
実は…
非常に言いにくいのだが…」
『いえ。
先程、しゃぶネキから概要を聞かされました。』
「おお、それなら話が早くて助かる。
妻が… ちょっと騒いでしまってね。
向こうの実家も引き連れて…
私も途方に暮れているんだよ。」
久井公正の絞り出すような声を聞いて、一瞬硬直する。
没する直前の父親が、こういう喋り方をしていたからだ。
…この人を、これ以上苦境に追いやってはならない。
『…お父さん。
お嬢様からどこまで聞いてるかは分からないのですが…。』
「ん?」
『円蹴家のパーティーにお父さん達も招待させて頂けませんか?』
未だに、何故そんな提案をしたのか見当も付かない。
ただ、久井公正が驚きながらも笑って快諾してくれた事が本当に嬉しかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ファーーーーーーッ!!!???
橋の下やん!!!
橋の下やん!!!
橋の下やーーーん!!!
こんなんな?
こんなんな?
こんなん乞食の住むトコやで!!!!
乞食小屋やん!!
ファーーーーーーッ!!!
ファーーーーーーッ!!!
前の戦争(応仁の乱)の時も河原に住んどる乞食に家焼かれたわ!!
丹波やら越前から流れてきた乞食共に滅茶苦茶されたわ!!
ファーーーーーーッ!!!
ファーーーーーーッ!!!
長閑ぁぁぁぁ(ビブラート)ああああ…
アンタは、アンタは、アーーーー(声裏返)ンタは!!!
ホンマに! ホンマに! ホンマにアホな子やね!!!
親に嘘ついて橋の下の乞食小屋ッ!!
アンタ、ホンマは絹江オバチャンの産んだ子やろ!!!
そんなに勝手したいんやったらねえ!!
絹江オバチャンと一緒にポカホンタスになり!!!
大体なぁ!!
常識でモノ言いなはれ!!!
こんな乞食小屋に入れる訳ないやろーーーッ!!!」
参ったなあ。
確かに形式の上では久井家を招待したのだが…
俺が呼びたかったのは久井公正・孝行である。
まさか、ぶぶ漬けオバサンまで付いて来るとは思いもよらないじゃないか。
「あーーーーーーーーーッ!!
寿司屋の丁稚!!!
丁稚丁稚丁稚ィ!!!
ホンマにおったぁーーー!!!!
ホンマに橋の下に住んどるわ!!!
橋の下に住んどるわ!!
建築基準法とかどーなってるの!!!
世も末やで全く!!
怖ぁ怖ぁ!!
女がこんな怪しげな掘立小屋に入れる訳ないやん!!
何を企んでるの!? 何を企んでるの!?
こんなバラックに、このウチが入れる訳ないでしょ!!!」
口では「怖い怖い」と連呼しながらも、久井母はズカズカと円蹴邸に踏み込んで来る。
そして眼球を上下左右に素早く動かし、俺の邸宅を舐め回すように観察。
いや、俺の方が怖いのだが。
数秒遅れて久井孝行が早足でやって来て、母親を抱き抱えて外に連れ出した。
流石にアメフト出身だけあって力強い動きである。
「すまないね。
アレは京都の人間だから。」
『あ、いえ。』
京都人が全員嫌な奴とまでは言わないが、嫌な奴は全員京都人だったので、心構えは出来ていた。
なので、心の中で久井母に免罪符を発行しておく。
「しゃぶネキさん。
いつも娘の面倒見て下さりありがとうございます。」
「いえ。
友人ですので。」
久井公正としゃぶネキは、そこそこのペースで連絡を取り合っているらしく、お互いが丁寧に頭を下げた。
今日のネキはシンプルなジャケットにスラックス姿。
俺も不本意ながらジャケット着用。
久井家がフォーマルな服装で来る事が予想されていたからだ。
案の定、公正と孝行は準モーニングみたいな凄い恰好で来た。
久井母はコテコテした紫の着物。
久井はピアノリサイタルのようなドレス。
後から聞いた話では、普段からこういう格好をしているらしい。
まあ、色々思うところはあるが他人の家風に口を出すつもりはない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
久井家は全員がタコ焼きを食べた事が無かった。
別に驚く事もない。
この家はそういう階級なのだ。
屋敷には茶室から座敷牢まで全て完備され、運転手や配膳人が常に控えている。
伊丹市には巨大な菩提寺があり、昨年は保有する競馬馬が重賞を取った。
そんな家の人間がタコ焼きを食べる機会を作るのは逆に難しいだろう。
久井公正はロンドン時代にフイッシュアンドチップスを食べた。
久井孝行は在米時にはチープなピザに付き合わされている。
それでも、タコ焼きを食べる機会は無かった。
『折角なら、普段は縁のないメニューで食卓を囲むのも一興と考えたのです。
久井家の皆様のお口に合う自信はありませんが。』
「はっはっは。
圭介君の出してくれるものなら喜んで頂くよ。
「実はね。
オレも今日は楽しみにしていたんだ。」
公正と孝行が穏やかな笑顔でソファに腰掛けてくれる。
「当たり前やがな!!!
タコ焼き!?
久井家を招いておいて!!
事もあろうかタコ焼き!?
ファーーーーーッ!! (眩暈のジェスチャー)
ファーーーーーッ!! (眩暈のジェスチャー)
小麦を焼いたんなんてな?
小麦を焼いたんなんてな?
白いお米を知らへん絶地僻陬の甲斐信濃!!
それを言うに事欠いて!
パァ↑ー↓テ↑ィ!? パァ↑ー↓テ↑ィ!?
ファーーーーーッ!! (眩暈のジェスチャー)
ファーーーーーッ!! (眩暈のジェスチャー)
お願い孝行、アンタもお父様を説得して…
このままやったら、このままやったら!!
ウチの頭がおかしなってまうでぇ!!!」
このBBA、どこの隙間から入って来やがった。
「すまないね。
コレは京都の人間だから。」
『あ、はい。
あ、いえ。』
「そうよー。
下賀茂に1000年住んでるの。
丁稚なんかが見たら目ぇ潰れる場所やで!
アンタみたいなんは絶対通してあげへんからね!
葵橋に塩撒いとかななアカンわ!!」
『いやあ、ははは。』
凄いなこの女。
久井が地道にコツコツ伸ばしていた【おもしれー女ポイント】を開幕1秒で凌駕してしまったわ。
俺さあ。
この世で久井長閑を越える奇人は居ないって思ってたけど…
いやあ、世間知らず過ぎたわ。
下賀茂か…
とりあえず後で配達アプリのブロック登録を忘れずしておこう。
『えー、それでは皆様。
ただいまから、円蹴家主催のタコ焼きパーティーを開始します。
ネキ。
普通はタコパって略すものなの?』
「うーんどうやろ。
ウチらのオトン世代から作られた新語やと思うで?
ジーちゃんバーちゃんは使わへんしな。
合コンとか宅呑みとか…
そういう文化の文脈ちゃうやろか?」
言いながらもネキが器用に生地を焼き始める。
孝行に対して「アメリカでは蛸はよく食べられるんですかー?」などと雑談を交わすなど、相変わらず社交力が高い。
俺はその横で葱を刻んだり、出汁を温めたり、燻塩を小皿に振り分けたり。
『じゃあ、お皿に盛りつけて行きますので、順次食べて行って下さい。
お酒やお茶も用意しております。
ただ、当家は新築ではないので、グラスではなく缶のままの提供とさせて貰います。』
「缶のまま!?
缶のまま!?
ファーーーーーッ!! (自らの額をぺチン)
ファーーーーーッ!! (自らの額をぺチン)
かなんわー、かなんでー。
缶々に口を付けて飲むとか!!
そんな70年代デトロイドみたいなこと、ウチよーせんわ!!」
「すまないね。
静香は京都の人間だから。」
『あ、いえ。
素敵な奥様だと思います。』
「ファーーーーーッ!! (拒絶のポーズ)
ファーーーーーッ!! (拒絶のポーズ)
おくさま、やて! おくさま、やて!
あー、怖。 あー、怖。
このバラックから無事に出れるか不安やわァ。
あーーん、公正さんウチ怖ーい、守ってぇーん♥」
参ったなぁ。
今回最終回だぞ?
全部このオバサンに持っていかれてしまった。
結局世の中、声のデカい奴が勝つように出来てるのかなあ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
久井の母・久井静香は普段からこの調子らしく、公正と孝行が交代で黙らせているらしい。
先程、公正が小脇に抱えて外に連れ出した。
俺は内心驚いたのだが、それが彼らの日常らしかった。
「圭介君、ネキさん。
本当に済まないね。
オレもまさか付いて来られるとは思わなくて。」
『あ、いえいえ。
賑やかなお母様で羨ましい限りです。』
「うん、じゃあ譲るよ。」
『ははは、橋に塩を撒かれてしまったので近付けません。』
一同笑。
『孝行さん。
タコ焼きはどうです?
お口に合いますか?』
「悪くないよ。
冷ましたものを頂けると嬉しい。」
ネキが悪戯っぽい表情でタコ焼きをふーふー吹いて冷ます。
孝行も米国で下らないジョークに免疫が出来てるのか、小粋なジェスチャーで感謝の意を示す。
「なあ、圭介君。」
『はい?』
「どうして、この趣向?」
顔だけは真顔にならない。
金融界で揉まれてるだけあって器用な男である。
『…お誘いしたのは本当に弾みだったのですけど。
食べ物を通じて自分という人間を知って欲しかったのかも知れません。』
「キミはタコ焼き的な人間なのかい?」
『…飢えを満たす為のジャンクフードですので。』
「ハングリー精神を持つことは素晴らしいことだよ。」
『ありがとうございます。
でも、普通はパーティーの主菜にはならないでしょう?』
「…ならないな。」
そういう自己開示なのだ。
公正も孝行も俺に好意的に接してくれるが、だからこそ久井長閑の件に関しては俺から線引きをしておく必要がある。
久井静香が評するところのバラック。
こんな所に令嬢が出入りするのは、社会通念上おかしいだろう?
だから、彼らに実物を見せたかった。
この橋の下の乞食小屋を見れば、彼らも少しは現状に真剣に向き合ってくれるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「原価率が安いんですわ。」
ネキがこういう文化に疎いであろう孝行にタコ焼きを解説。
一般的に飲食業の原価率は3割とされているのだが、タコ焼きであれば2割程度に抑えられる。
それがタコ焼き屋が多い理由、タコ焼きを選ぶ脱サラ者が絶えない理由。
「せやから。
家でタコパする人間が多いんですわ。
大量に作れるから皆の腹が膨れますし。
タコを魚肉ソーセージみたいに原価の安い具に置き替えれば、さらに安上がりですしね。」
柄にもなくネキが饒舌な理由は極めてシンプル。
【そんな文化圏に惹かれざるを得なかった久井長閑に、もっと関心を払ってやってくれ】
一貫してネキはそれを訴えたい。
孝行も聡明なので趣旨は理解出来たようだ。
というより妹の異常な食べっぷりを見て、驚きと呆れが半々というところ。
「いつもこうなんですか?」
久井孝行が横目で妹を見据えながらネキに問う。
『そんな事ある訳ないやないですか。
長閑さんを満足させてあげれる男は、この宇宙に円蹴圭介だけですわ。』
…宇宙かぁ。
ネキも大きく出たなあ。
「…コレは昔から奇矯な女だった。
まあ、遺伝を責める気はないがな。
オレにもきっと、あの病気が遺伝しているから。
自戒しているつもりだが、キミ達を不愉快にさせているなら謝罪する。」
孝行が沈痛な表情をしていると、玄関から騒がしい奇声。
「何?何?
病気の話?
丁稚クンは変な病気持ちなんか?
アカンでー。
長閑に変な病気を伝染さんとってな!
時代が時代やったら打ち首獄門やで!!!
って言うか、最初から気になっとたんやけど!!
このアニマル柄のムートンは何やの!?
趣味悪っ!!
御先祖様に加藤清正が贈って来た虎皮を思い出したで!!
これはヤリ部屋仕様?
ヤリ部屋仕様のつもりなん!?
あー、やらし!!
こんな部屋に出入りするなんて穢れた娘やわ。
ホンマにこの子は誰に似たんやろ!!
アンタ絶対絹江オバチャンにすり替えらえた子供やで!!
だってウチに全然似てへんもん!!
もう橋の下に捨てて帰ったろ!!
親の言うこと聞かへん悪い子は橋の下に捨てたろ!!!」
まあなあ。
孝行の攻撃性や偏執性の大元はコレだろうなあ。
ただ、金融の世界でやっていく分には明らかにプラスに作用している分、それを責めるのもおかしい話なんだよなあ。
「ゴメンな。
この人は京都の人間だから。」
『いやあ、ははは。』
憔悴した表情で公正が戻ってきたので、全員再集合。
殆ど久井が食べている気もするが、俺にとっては日常風景である。
「圭介君。
娘はいつもこんな感じ?」
『ええ、まあ、健康的な娘さんですね。』
「時代が時代なら外には出せないところだよ。」
『外出禁止令的な?』
「いや、座敷牢。
懇意の尼寺も幾つかあるしね。」
『ああ、伝統ある家じゃ座敷牢って珍しくないみたいですね。
使わないんですか?』
「そうやそうや!!
頭のおかしい子は座敷牢送りや!!」
「…私は妻を愛しているから。」
『なるほど。』
「愛!?
公正さんッ♥
はにゃ~ん♥」
ぶぶ漬けBBAがようやく黙り、至福の表情で久井公正にもたれている。
最初からこうしろよとは思うのだが、流石に他所の夫婦関係にまでは口を挟めないからな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『お2人共、食べておられますか?』
「お気遣いありがとう。
3つも頂いてしまったよ。
ロンドンで食べたフィッシュ&チップスを思い出して懐かしい気分になる。」
「ああ、オレも堪能しているよ。
何せ4つも食べたくらいだ。
久し振りだなあ、こんなに食事を楽しいと思ったのは。」
娘の1%未満の食事量だが、彼らなりに楽しんでいるらしく安堵する。
まあ、久井が異常なだけで、本来パーティーって歓談・交流を楽しむことが目的だからな。
親すら無視してひたすら貪っている方がおかしいのだ。
『公正さん。
私を買って頂けるのは光栄なのですが…
これが実態です。』
孝行が母親を抱えて外に出たタイミングで公正に話しかける。
屋外から「ファーファー」聞こえるが、そういう鳥が鳴いているものと考える。
「実態?」
『バラック住みの乞食らしいので。』
「そうは言われても、乞うているのは娘の方だから。」
『…はい、いえ、はい。』
「…。」
『…。』
「久井家としての見解を述べてさせて下さい。」
『はい。』
「長閑が圭介君と交際するのは反対。」
『ええ、妥当な御判断だと思います。』
「ただ、これだけは信じて欲しいのだが、私も孝行もキミを蔑んでそう言っている訳ではないんだ。」
その先は言うまでもない。
久井家には久井家が属する社会が存在し、そこでは久井静香的価値観が多数派なのだ。
大体、久井と俺が交際してしまったら、今まで破談となった見合い相手は久井家にどんな感情を抱く?
配達員以下の扱いを受けた、と久井家を憎むに決まっている。
「圭介君には今回の件の補償をするつもりでいるし、もしも御商売を大きくしたいのなら有効な支援を行う。
何か、望みがあれば聞かせて欲しい。」
…望みか。
「はいはいはい!!」
お父様!!
ワタクシの望みを叶えて下さい!!」
『え?
いや、一応今は俺のターンなんだけど。』
「え?
いや、私は圭介君に提案しているのだが。」
「結婚が駄目なら圭介さんと肉体関係が持ちたいです!!!」
『え?』
「え?」
公正と2人で久井を見返す。
一体この女は何を言ってるんだ?
「ファー! ファー!」
ほーら、鳥さんを起こしちゃったじゃないか。
「圭介さん!!!
ここで父に向って想いをぶつけて下さい!!
ヤングマガジンではみんなそうしてましたよ!!!」
マジかよ。
焚書しなきゃ。
『いやいや。
久井さん、久井さん落ち着いて。
お父様も困っておられるからね。
肉ならいっぱい食べさせてあげるけど、流石に肉体はマズいよね?
越えちゃいけないラインってあるよね?
大体、純潔というか貞操というか…
そういうのは結婚まで大事にするべきだよね?』
「でも!!
ワタクシ、ネキお姉さまとは既に肉体関係を持ってます!!」
「ははは、キズモノにされてもーたわww」
俺と久井公正がフリーズする。
え?
ネキと関係?
ゴメン、頭の処理が追い付かない。
「ファーーーーッ!!
ファーーーーッ!!」
お母さん、今忙しいので黙っていて下さい。
『…久井さんはアグレッシブだねえ。』
「はい!
この生き方こそ!!
ドカ食いノドカのド真ん中です!!」
『あ、うん。
タイトル回収ありがとう。
ちょっと強引だけど。』
「では!!
最後にワタクシが締め括ります!!」
『え?
1人で食べてた癖に最後だけ仕切るの?』
「タコ焼きと説きまして!!
乙女心と説きます!!!」
『あ、うん。
その心は?』
「お腹にさえ入ってしまえば全てが丸く収まります!!!」
いつの間にか俺の隣には久井静香。
ファーファー叫んで娘の妄言を断ち切って欲しいのだが、何故か腕を組みながらウンウン頷いている。
信じられるか?
久井と結婚したら、この姑が付いてくるんだぞ?
「お後が宜しいようで♥」
久井がドヤ顔で締めくくったので、そのまま抱き上げてセンチュリーに放り込んだ。
「いやーん♥(ジタバタジタバタ)」
隣では息子にリフトされている久井静香。
並んで嬉しそうにジタバタしている様子を見ると、思わず笑いが込み上げて来る。
センチュリーに手を振る間くらいは謹直な表情でいたかったのだが、とうとう笑いが止まらなかった。
やれやれ困った俺である。
「圭ちゃーん。
オモロイ姑さんゲット出来て良かったやんw」
台所を片付けている時にネキにからかわれる。
今日は急展開過ぎた気もするし、単なる日常にも見える。
『…なあネキ。』
「んー?」
『男の甲斐性って姑さんも義務範囲?』
ネキは大笑してから、残念極まりない真実を教えてくれる。
なるほど、世間の夫達は偉いものだな。
洗い終わった皿がふと視界に入り、今日の自分が一つも食べなかったことに気づく。
まあいいさ、何故だか大して腹は減っていない。
[A piece of cake]
【名前】
円蹴圭介
【所持品】
ジェッター BE-ELHC 2022年モデル 27インチ・サンゴールド (Panasonic)
丸型七輪 (富士見産業)
業務用フライヤー10リットル (DIY HOME)
業務用寸胴8.3リットル (赤川器物製作所)
1升炊き炊飯器 (象印マホービン)
ドカベン (ドカベンより寄贈)
2斤ホームベーカリーSD-BMT2000 (Panasonic)
足付きスモーカーグリル (SUNLIFER)
5段型プランターセット×2 (GARDENA)
ノンフライオーブン14リットル (EPEIOS)
【贔屓力士】
阿倍野嵐 笑太郎




