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アメリカン・スタイル

㉛扇町 (モスピック)→黒崎町に配達→㉜中崎 (カレーピック)→㉝神山町(牛丼ピック)→㉞西天満に配達→㉟堂島に配達→㊱曽根崎 (ラーメンピック)→㊲兎我野町に配達



例の寿司屋から例のタワマンへのデリバリー通知。

当然請ける義理もなくcloseボタンを押そうとして一瞬考える。

そう言えば、この依頼は頻繁に見かける気がする。



『あ。』



俺が画面を見つめていると、依頼が消える。

誰かが請けたのだろう。

まあいい。

どうせ、あんなタワマンになんか2度と行くつもりはないからな。



『…。』



俺は無言でアプリ画面を眺めつづける。

30秒も掛からず通知。


ピック先は因縁の「寿司典膳」。

届け先は例の垢BANタワマンだ。

多分、先程の依頼を受諾した配達員がキャンセルした。

(この業界では受けキャンと呼ぶ。)

理由はシンプル。

北区でデリバリーをやっている奴で地雷タワマンを知らない奴なんていないからだ。

咄嗟に請けても人並みの知能があれば普通はキャンセルする。



『…。』



画面の詳細を見た俺は溜息を吐いてから、受領ボタンを押した。

何故?

決まっている。

これが俺へのメッセージだからだ。

愚かにも部屋番号を見てようやく気づいた。

流石にあの日の部屋番号まで覚えていないが、40階台だった気がする。

依頼者名は【T.K】

Kは久井だろうな。

それも久井長閑と久井公正以外。

…あのぶぶ漬けオバサンだったら嫌だな。



㊳曽根崎(寿司典膳ピック)



『お待たせしました。

FA009Mです。』



「はい、出来てるよー。

こかさないように気を付けてねー。」



『畏まりました。

行って来ます!』



「はい、いってらっしゃーい。」



BANされた日と同じ板前さんから受け取る。

当然相手は俺を覚えてない。

うーん、この後腐れの無さが最高に心地良いわ。



→㊴梅田に配達



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




絶対にあり得ない事なのだが、防災センターの前にその男は居た。

警備員と談笑していたが、俺の気配を感じたのか静かに振り返る。



『…。』



「…。」



高い身長、広い肩幅、厚い胸板。

真っ白なワイシャツに紺のストライプのベスト、同じ生地で織られたであろうスラックス。

綺麗に整えられた総髪、金色に輝く丸眼鏡。



『お待たせしました。

お届けに… 

いえ、参上しました。』



俺は帽子を取って一礼。

こういう時に便利だから俺は宅配時に必ず着帽している。



「お呼びたてして申し訳ありません。」



そして男は防災センターを振り返る。



「私の友人なんだ。

玄関から一緒に入るよ。」



厳密にはマンション規約に抵触した振る舞いなのだろうが、防災センターの管理人達は恐縮したようにペコペコと俺にまで頭を下げた。



妹同様に有無を言わさぬ男。

それが久井孝行に対する第一印象だった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




このクラスのタワマンだと、絶対に業者用エレベーターの使用を強いられるのだが、久井孝行と共に高層階住民用エレベーターに乗る。


最上階まで22秒。

早いな。

まあ、このクラスの建築物ならエレベーターも最新モデルが投入されるだろうしな。



「ようこそ、歓迎します。」



大きく玄関を開けた久井孝行は優美な仕草で帽子掛けを指す。

なるほど!

他者と言うのはこうやって動かすのか。



『恐縮です。』



寿司典膳でーす、と叫びたい気持ちを抑えてお行儀良く一礼。



「どうぞ、好きな場所に掛けて下さい。」



俺はデリバリーバッグをどこに置こうか相当悩んだが、後で除菌スプレーを撒きやすそうな場所を選んだ。

そしてチェストに寿司を置く。

孝行の目を盗んでアプリを操作。



【配達を完了する】



まあ、多分気配で察知されてるんだろうけどさ。



「改めまして初めまして。

久井孝行と申します。

親孝行の孝行と書いてタカユキと読みます。

いつか名に恥じずに済むようになれればいいと考えております。」



マジかよ。

エリートの癖に話まで面白いタイプか…



『はじめまして。

先日は大変ご迷惑をお掛けしました。

(↑この皮肉だけは言わずにはいられなかった)

私は円蹴圭介と申します。

円満の【円】、蹴り技の【蹴】、玉圭の【圭】、仲介の【介】の文字を使います。

お父様にはお世話になっております。』



1秒程、反応を確認し合ってから、互いに頭を下げて視線を切る。

相当頭の良い男だ、今こうやって深々と一礼している間に、俺へのプロファイリングは完了していると想定すべきだな。

それにしても、ガタイのいい男に頭を下げられると圧迫感あって逆に怖いよな。

見事なまでに鍛え上げられた胸板。

スポーツは父親と同じラグビーだろうか?

雰囲気的にはレスリングとかやってそう。

でも、地主系の金持ちは耳が潰れる競技なんてしないだろうしな。

だって俺が親なら絶対に禁止するもの。



「最近は日本でも自転車の飲酒規制が厳しくなっていると聞きました。

このシャンパンはノンアルコールなのでご安心下さい。」



グラスを冗談めかしたポーズで掲げる久井孝行の目線を見て確信する。

ああ、この男は視力が悪いから眼鏡を掛けてる訳ではないんだ。

眼鏡の奥の猛禽の様に戦闘的な眼光。

その眼で周囲を威圧し過ぎないように、品の良い金縁眼鏡でコーティングしているのだ。



『いい香りですね。

泡音だけで酔ってしまいそうです。』



「詩人ですね。

きっと貴方は書を好まれるのでしょう。」



馬鹿か俺は、相手の意図も分からないうちに手の内を読まれてどーする。



「まずは3つ謝罪させて下さい。」



久井孝行が背筋を正すジェスチャー。

上手いな、最初から綺麗な姿勢だったのに、まるで俺に敬意を示して座り直したように見える。

いや、驚いた。

この男には何をやっても勝てる気がしないわ。



『ええ。』



「第一に。

あの夜に私たちが時間を奪った所為で、円蹴さんのお仕事に支障が出たことを謝罪致します。

アカウントが剥奪されたと報告を受けているのですが、その認識で正しいでしょうか?」



『はい、相違ありません。』



「これに関しては運営会社に申し入れれば回復が図れるかも知れません。

ただ。

ことの性質上、円蹴さんの同意なく進めて良い問題ではありません。

後ほど、御意見を伺わせて下さい。」



『お気遣いに感謝します。』



「第二に。

円蹴さんの御身元を調査致しました。

きっと不快に思われたと思います。」



孝行は深々と頭を下げる。

コイツ威圧のやり方が一々洗練されてるよなあ。

政治家相手の検事とか向いてそう。



「ただ、これに関しては円蹴さんが久井家をある程度調べてくれているという期待からの調査です。

こちらが円蹴さんに対してあまりに無知だと、却って礼を失するのではないか、と。」



話の持って行き方が上手いなぁ。

老人相手に羽根布団とか売らせてみたい。



『久井さん、頭を上げて下さい。

ご指摘の通り、御社のプロフィールはネット上に上がっている範囲で閲覧させて頂きました。

それに久井さん程の名家であれば、調査も当然の措置だと思います。

きっとお目汚しだったと思いますので、その点はお詫びします。』



「いえいえ。」



『いえいえ。』



言いながら巧妙に誘導されて乾杯に応じてしまう。

あ!

その為にグラスをテーブルに置くのか!!

あ、すげえ。

これが話し合いの主導権を握るってことなんだ。

いや、驚いた、

確かに乾杯は軌道修正に使えるわ。

場の雰囲気が尖り始めた時の仕切り直しに最適だわ。

いやあ、参った。

己の無知を恥じるしかない。

あー、ということはシャンパングラスがこんなに薄くて不安定なのも、場で粗雑な動作を行わせない為の心理的な枷なのか。

いやあ、世の中って上手く設計されてるもんだなー。

うわー、大人って怖いわー。

今日はおとなしくしておこう。



「円蹴さん。

何か摘ままれますか?

一通りストックしておりますが。

アレルギーとかあります?」



『実は空腹アレルギーなんです。』



一瞬間が空いてから笑ってくれる。

おいおい、何やってんだ俺。

今日はおとなしくの誓いから5秒も経ってないぞ。



『ところで久井さん。

3つ目というのは?』



「孝行とお呼び下さい。

その方が親孝行へのプレッシャーになってくれます。」



『ははは、では孝行さんと。』



「では私も圭介さんと呼ばせて頂いて構いませんか?」



ぐいぐい来るなー。



『ええ、どうぞ。』



「気を悪くしないで下さいね。

既に家族から伺っているかも知れませんが、実は私は金融業界に籍を置いておりまして。」



『いえ、初耳です。』



「ここだけの話、社に円を蹴らせないように頑張っております♪」



どこまでジョークかは不明だが、一応合わせて笑っておく。

でも、コイツ悪質な円の空売りとかしてそう。



「3つ目の謝罪は。」



『あ、はい。』



「このような形でお招きしてしまった事です。」



オチまでちゃんと言えて安堵したのか孝行は軽くウインク。



『いえ、お招き光栄です。』



いや、勿論来たくなかったよ?

寿司典膳なんか暖簾を見るのも腹立たしかったもん。

でも仕方ないじゃない。

そういう話の組み立てだったんだから。

コイツ、俺を呼ぶにあたって絶対会話フローチャート作ってるよ。

俺も真似しようっと。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




あの夜からずっと、久井孝行は俺との接触を図っていたらしい。

それが同じ寿司屋からデリバリーを頼み続けるという手法。

彼の膨大な資産を鑑みれば、毎日5千円強で遂行可能なコスパの良い作戦だそうだ。

驚くべきは掛けた経費額ではない。

毎回、防災センターで待ち伏せしていたという執念なのだ。

1日2回寿司典膳を頼み続けていたらしい。

(…上客だよな。)

いずれメッセージが俺に伝わると信じて。



『なるほど…』



かろうじて、そんな相槌を打つ。

妹もそうだが、目的達成に向けての意志力が強靭過ぎる。

きっとこれこそが金持ちになるコツなのだろう。



『毎日お寿司を食べていたら飽きませんか?』



「?

いえ、私はナマモノを避けていて…」



聞けば、この久井孝行。

仕事上のリスクを僅かでも避ける為、食中毒の危険のあるものは全く口にしないらしい。

なので、今まで届いた寿司は管理人や警備員にチップと共に贈呈し続けていたとのこと。

そりゃあね。

どこの誰が運んでるか分からない出前寿司なんて絶対食べないだろうね。



「気分を害したなら申し訳ないです。

ただ、かなりの額を扱っている業界です。

しかも今は実質的な休暇を兼ねたリモート勤務期間ですので。

私としても体調管理には万全を期したい。」



久井孝行に招かれて彼の書斎に。

途中、奥様の晴子さんを紹介される。

彼女の出産が一段落するまで、産休が認められているとのこと。



『おめでとうございます。』



「ありがとう。

子供には義務的ではない命名をするつもりです。」



まあなあ、孝行なんて名前を付けられてしまったら…

一言くらいは言ってやらないと気が済まないよなあ。



「どうぞ。

ここは私のプライベートスペースなので。

本当に好きに寛いでくれると助かります。

好きな場所にお掛け下さい。」



生憎、こんな映画セットみたいな部屋で寛ぐ趣味はない。

いや違うな。

富豪に要求される振る舞いって芝居そのものなのだ。

だから演技を活かすためのセットも必要になってくる。

ましてや久井家ほどの伝統ある家柄なら、相応のセットは要求されるだろう。



『では、ここに。』



書斎に幾つか椅子は用意されていたが、主人の孝行がソファーに腰かけた以上、その対面以外に座りようがない。

ここで奥のデスクチェアに座る奴が居ればソイツは真性の狂人である。



「書斎のツマミを並べますね。

ご自由にどうぞ。」



『いっぱいありますね。』



「私が、あまり飲酒や間食を好まないので、ストックだけが増えるのです。」



聞けば、この久井孝行。

飲酒どころか食事そのものを好まない。

時間のロスが許せない性格らしい。

じゃあ俺なんか呼ぶなよなあ。



「今年帰国するまで、ずっとウォール街に居たんです。

なので皆からは米国食について尋ねられる機会が多いのですが…」



『ええ、アメリカにおられたのなら…

ハンバーガーやホットドック、チリコンカンやクラムチャウダーなど…』



「申し訳ない。

仕事で出されれば食べていたのですが、プライベートでは全てこれです。」



思わず前のめりになった俺に、孝行はカプセルを見せる。



「栄養剤(サプリメント)です。

成人男性が1日に摂取すべき栄養素は全て摂取可能です。

これに適度(適度とは言っていない)なジムワーク。

そして空腹感調整の為のシリアル。

私一人の時はこれで完結しています。

ああ、安心して下さい。

妻子には食生活を満喫して欲しいと考えてますので。」



『妹さんは?』



「もう一生分食べたでしょう。」



『ははは。』



久井を弁護してやろうかと一瞬考えたが、そこまでの義理もないのでスルー。



「父から聞いておりますよ。

かなりの大食漢だと。」



『ええ、恥ずかしながら。』



父親を介さずに俺を呼んだ事から最初は不仲の印象を持ったが、どうやら父子間の連絡は緊密らしい。

今回俺を呼んだ件についても、きちんと報告するとのこと。

但し、報告が事後であることを詫びる気はさらさらない。

それが久井孝行という男。



「おお!

いい食べっぷりですね。」



『これくらしか孝行さんを楽しませる芸がありません。』



半分は本当。



「そうですか?

圭介さんの御年齢で法人を設立されているのは素晴らしいと思いますが。」



うん、やはりそれに食いつくよね。

じゃあ登記地である俺の住所も把握しているよね。

こんな怖い奴と対峙させられるって知ってたら絶対に法人化していないけどね。



『貧乏人の会社ゴッコです。

皆様の一笑に寄与出来れば幸いです。』



「…。」



久井孝行が笑うフリをやめた。

きっと俺って余計な一言が多いんだろうなぁ。

後で文字起こししながら反省会だな。



「圭介さんは物語の主人公のようです。」



平静を務めながら言葉の意味を考える。

《あまり調子に乗るな》

と解釈しておくのが無難かなあ。

とりあえず恐縮極まりないという素振りをしておこう。



『いえいえ、私なんかは通行人の役を貰えれば満足です。』



「でも、私が監督なら通り過ぎる圭介さんを撮らせますけどね。」



『…。』



「…気を悪くしないで下さいね。

それくらい圭介さんはミステリアスだということです。」



この話の流れで【ミステリアス】。

褒め言葉ではない。

直訳すれば、【オマエは不審だ】という意味。

どこが?

当然、全部だろう。

この男は父の久井公正をシャープにした性格。

語弊を恐れずに言えばアメリカナイズドされている。

物腰はソフトだが、本質は妹同様に攻撃的で他罰的。

だから、俺のような素性のハッキリしない者が自家の周辺に居るのが許せないし、その白黒をつける為に呼び出した。



『ははは。

私はしがない配達員ですよ。

世間では負け組ランドセルって呼ばれてる程です。

撮る価値なんて全然ありませんよw』



「…。」



久井孝行は何も答えない。

愛想で笑ってくれることすらしない。

そりゃあそうだ、誤魔化しの通用する相手ではない。



「勝とうが負けようが誰とも組むつもりはないのでしょう?」



『…。』



御名答。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




言うべきことノルマを果たしたのか、以降の久井孝行はリラックスモード。

計略の可能性もあるが口調も砕けたものとなる。



「ゴメンね。

オレ、普段はこういう喋り方なんだ。

アメフトやってた時もメンバーから素っ気ないって批判されてた。」



『きっと部員の皆さんは孝行さんにもっと構って欲しかったんですよ。』



「そうは言われてもオレは馬鹿が嫌いだからなあ。」



酷いキャプテンである。

だが、彼の代が強かったことも妙に納得。


その後もイーロン・マスクやドナルド・トランプへの悪口を肴にシャンパンを楽しむ。

無論、途中でアルコール入りにすり替えられた可能性もあるので喋り過ぎには注意する。


口の悪い男なのだが、悪さ以上の巧さがあった。

こっちの興味に合わせて話題を広げてくれるのだ。

何せエリート金融マンだけあって引き出しが多い。

まあ、だからと言ってこちらが自己開示する義理は無いのだが。



『これが好きなんですよ。』



「カルパス?

そんなに美味しいかなあ?」



『でも、アメリカのセレブパーティーにも常備されてるんでしょ?』



「アメリカ人である時点でセレブではないけどなあ。

まあ、みんなパクパク食べてるね。」



『そんな時、孝行さんは何を食べてるんですか?

間が持たないでしょ?』



「いや、オレはアナリストとしても有名だから。

皆が来期のナスダック指数を尋ねてきて、飯を食ってる暇がない。」



『なるほど。』



「というか、その反応。

圭介君、投資詳しいでしょ?」



『え?

どうでしょ?』



「ふふふ。

キミは向いてると思うんだけどな。」



たまに本丸に斬り込んで来るのは御愛嬌。

これがこの男の平常運転なのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




結局、寿司典膳も含めてかなりの量を食べてしまう。



「凄いなキミ!

食べられる事は英雄の証だよ!!」



『自分ばかり食べてしまってお恥ずかしいです。』



「ああ、ゴメンね。

オレ、昔からよく指摘されるんだ。

皆が嬉しそうに食ってるのに合わせないからさ。」



一応、本当に申し訳なく思っているのか奥さんに持ってこさせたシリアルを適度に摘まみ始める。



「地球人口の急増を鑑みればさあ。

こんなんでいいんだよ。」



恐るべきことに久井孝行は、全人類の食生活をサプリの配給制に切り替えるビジョンを抱いていた。

理論上、現在の人類が抱えている資源問題が解決するらしい。



『なんか100年後くらいに実現してそうで怖いです。』



「100年地球がもつかなぁ?」



『もたなさそう。』



「うん、じゃあサプリ配給だな。」



鬼のような男である。

どうりで金融マンとして優秀な筈だ。



『シリアルって、そんなに美味しいんですか?

どんな味か想像が付かないです。』



「え?」



初めて久井孝行が表情を崩した。



『あ、すみません。

無論、シリアルの存在は知っているのですが。

食べた事がなくて。』



「えッ!?」



驚愕極まりないという表情でこちらを見ている。

曰く、貧乏人ならシリアル漬けに違いないという先入観を俺に対して持っていたらしい。

確かに、もしも円蹴家がアメリカにあれば、俺も色とりどりのお徳用シリアルで育っていたかも知れないな。



「何かゴメンね。

じゃあ、食べる?」



『あ、はい。』



「安心して。

それはオレ達エグゼクティブ階級が食べるシリアル。

ちゃんと栄養はあるから。」



『え?

じゃあ、貧民の食べるシリアルには栄養がないんですか?』



「…。」



『…。』



「建設的な問題解決に取り組むことを約束しよう。」



なるほど。

よく分かった。



『とは言え。

シリアルも悪くないですね。』



「そう?

気に入った?

栄養分重視のブランドだからアメリカでは評判が悪いんだけど。」



『香ばしいし、腹持ちも良さそうです。

ああ、結構満腹感ありますね。』



「おお!

気に入ってくれた?

良かった良かった、出した物が口に合ってないんじゃないかと不安だったんだよ。」



『あー、こんな事なら、もっと早くシリアルに挑戦しておくべきでした。

多分、私は穀物が好きなのかも。』



「そうか。

良かったら土産として貰ってくれないか?

折角、来てくれたのに手ぶらで返す訳には行かない。」



『あ、じゃあお言葉に甘えさせて下さい。』



そんな一夜。

土産はシリアル1箱。

セレブ用である証拠に蛍光色ではない。



別れ際、久井孝行から改めて謝罪を受ける。

あの日、俺に寿司を頼んだのは孝行がその場で作ったアカウントからとのこと。

普段は使わない会社だったが、母親の我儘に合わせて新設したらしい。



『いえ。

お気遣いなく。』



「どうする?

強引にねじ込めばキミのアカウントを復活させられると思うが。」



『やめときましょう。』



「何故?」



『孝行さんはアメリカ式でねじ込んじゃうでしょ?』



何がおかしいのかクスクス笑う。



「でも身元を調べた事と呼びつけた事はもう謝らない。」



『何故です?』



「分からなかった、そして楽しかった。」



『…恐縮です。』



「オレはキミを気に入った。

またいつでも遊びに来て欲しい。」



『光栄です。』



直訳すると

【久井長閑とは交際するな】

ということ。

だって、そうだろ。

この男、これだけペラペラ喋った癖に妹の「い」の字も出さなかったんだぞ?

ここまで露骨な意思表示は生まれて初めて見たわ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「えー?

オートミールかいな!?」



まあ、オートミールは単なる素材なんだけどな。



『ネキは嫌い?』



「こんなん人間の食うもんちゃうで。」



『ははは、本場でも同じ事を言われてるそうだよ。

久井さんは?

苦手?』



「…ええ、母が美容の為にと愛食しているので。」



そっか、じゃあ俺も嫌い。



『確かに、俺もこのままじゃ食べられないよ。

牛乳を掛けて食べてる人も居るらしいけどね。』



言いながら俺はお徳用のミックスナッツを砕く。

途中手首がやや疲れたのでネキに頼む。



ゴリゴリゴシャアアッ!!



参ったな。

こんなに目の細かいナッツは生まれて初めて見た。



「圭介さん。

今日はお菓子作りの日なのですか?」



『いや、腹に溜まる主食。』



やや不安そうだった久井がニッコリと笑う。

コイツ、女の割に全然スイーツに興味を示さないな。



『不本意かも知れないけど、後でドライフルーツも入れるよ?』



2人がニヤニヤ笑ってそれとなく抗議の意を表明する。

分かる。

俺も塩気至上主義だから気持ちは分かる。

果物入れるくらいならフライドオニオンとかフライドガーリックを入れたいよな。

まあ、アレンジは次以降だ。

今日はメイプルシロップを入れる。



「なんやなんや?

焼き菓子!? 焼き菓子なんか!?」



「ワタクシ、ナッツだけの方が良かったかもです…」



『ゴメンゴメン。

今度、ニンニク・ドライミート版を作る予定でさ。

今日はその予行演習。』



「「(ニッコリ)」」



コイツら、俺と味覚が合うんだよなあ。

そりゃあ入り浸る訳だ。

そしてコイツらと味覚の合う俺も甘味はあまり求めてない。


シナモンパウダーもふんだんに混ぜて手早くフライパンで炒める。

そして冷めてから予告通りドライフルーツを混ぜる。



「何やこれ?」



『セレブ料理だよー。』



「嘘やーww」



『じゃあ、食べない?』



「食うー♪」



久井は気付くと思ったが、全くその気配はなく、早くも次回のガーリックverを強請ってくる。

これは俺の仮説だが、お見合いでお洒落な食事ばかり食べさせられた反動なのかもな。



『分かった!!

次は世界一頭の悪いレシピにするから!!

フライドミート! フライドオニオン! フライドガーリック!!

甘味なんぞ一切入れない!!』



「キャー♥」



あー、そっか。

久井に頭の悪い食べ物や意識の低い食べ物を与えてやる存在って俺しか居ないんだよな…

可哀想に。

こういう場合、身内がこっそり助け船を出すのが相場なんだろうけど、コイツが兄に縋った所でサプリを渡されて終わりそう。



『まあ、今日は利口で意識の高いレシピで我慢してくれ。』



「それってアホって意味やで!」



『うん、本音じゃ俺もそう思う。』



文句を散々言った癖に、2人はボリボリと食い尽くす。

オマエらって何だかんだで絶対に完食するよな。



「圭介さんは食べないのですか?」



『ああ、撮影し終わったら食べるよ。』



俺は手早く写真を撮る。

よし、これで制作過程から全て記録出来たな。



え?

これをどうするのかって?


決まってるじゃないか。

久井孝行に礼も兼ねて報告するのさ。


だってそうだろ?

彼のおかげで主食が一種増えたんだから。

もっとも、サプリディストピアの建国は阻止させて貰うが。



『2人共、どうだった?』



「甘かったー。(否定の意)」



「マイルドな甘味でした。(否定の意)」



『じゃあ、口直しにしゃぶ葉でも行こうか?』



「「キャー♥ (喜悦)」」



地球資源の浪費だよなあ。

まあいい、建設的な問題解決に取り組むことを検討しよう。



to be next dish ⇒

【名前】


円蹴圭介



【所持品】


ジェッター BE-ELHC 2022年モデル 27インチ・サンゴールド (Panasonic)


丸型七輪           (富士見産業)

業務用フライヤー10リットル (DIY HOME)

業務用寸胴8.3リットル    (赤川器物製作所)

1升炊き炊飯器        (象印マホービン)

ドカベン           (ドカベンより寄贈)

2斤ホームベーカリーSD-BMT2000 (Panasonic)

足付きスモーカーグリル     (SUNLIFER)

5段型プランターセット×2    (GARDENA)

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