第三十一話:学園祭の賑わいと、凍りつくお姉様
本日から新章「学園祭編」がスタートします!
重厚な政治戦を終え、アイラたち生徒会はいつもの日常へ。
完璧な規律で順調に進む学園祭……のはずが、オカルト部の模擬店から漂ってきたのは、あまりにも聞き覚え(嗅ぎ覚え)のある危険な香りでした。
普段は頼れる最上級生、セリア先輩の過去最大のピンチ!?
放課後オカルトコメディ全開でお届けします!
雲ひとつない秋晴れの下、学園中が色とりどりの旗や手作りの看板で飾り付けられている。
模擬店の呼び込みの声、香ばしいソースや甘いクレープの匂い、中庭ステージから漏れるバンド演奏の音など、活気に満ちた平和な学園祭の風景だ。
生徒会の腕章を巻いたアイラとリサが、クリップボードを片手に模擬店ストリートを歩く。
「露店の火気管理、通路の幅の確保……うん、どこも申請通りね。みんなちゃんとルールを守ってくれてるわ」
リサも眼鏡を押し上げながら言う。
「事前説明会で『違反した場合は即日テント撤去および備品没収』と念を押しておいた甲斐がありました。実に合理的で規律ある進行です」
私は
「リサの脅し、相変わらず容赦ないわね……」
と苦笑しつつも、順調な運営に満足げな表情をする。
二人の斜め後ろ、半歩引いた位置で周囲に視線を配るタクト。
「中庭のメインステージ周辺、客足は多いですが将棋倒しの兆候なし。非常口の導線もクリアです」
「助かるわ、タクト。このペースなら午前中の見回りを手早く終わらせて、私たちも何か買い食いできそうね」
「カフェ研究会の限定タルト、12時からの整理券を確保しておきたいところです」
こういうところはリサも等身大の学生だ。
和やかで平和な生徒会のやり取りが続く。
そんな平穏な空気を断ち切るように、普段は人通りの少ない旧校舎・部室棟の方向から「うおおお!」「マジで効くじゃん!」「俺ももう一杯くれ!」という異常な歓声とざわめきが響いてくる。
「……何?あれ?」
私たちは足を止め、旧校舎の通路へ視線を向ける。
私たちが足を運ぶと、普段は薄暗く閑散としている旧校舎の中庭に、校舎の角を曲がるほどの長蛇の列ができている。
一般生徒から運動部員、さらには普段は気取っている生徒までが熱気混じりに並んでいる異様な光景が広がっている。
「な、何この列……? 旧校舎の出店って、確かオカルト部と地学同好会くらいしか申請が出てなかったはずだけど」
リサは手元の申請書をめくり言う。
「オカルト部の事前提出書類には『自家製ハーブティーの販売(小規模)』としか記載がありません。この集客数は完全に想定外です」
列の先にあるのは、黒い布と怪しげな骨のオブジェで装飾されたテント『怪異カフェ』。
店頭にはド派手な手書き看板が掲げられている。
【飲むだけで告白成功率100%!? 霊薬・エロス・エリクシル】
【期末のヤマが全部当たる!? 覚醒の紫水晶ポーション】
部員たちが黒ローブを着込み、怪しげな呪文を唱えながら紫色の怪しい液体を紙コップに注いでは飛ぶように手渡している。
ドリンクを一気飲みした男子生徒が「うおおおお! 体の奥から謎の全能感が湧いてきた!! 今なら憧れのあの子に告白できる気がする!!」と叫びながら本校舎へ猛ダッシュしていく。
周りの生徒たちも「すげえ!」「マジで効くんだ!」「俺ももう一杯!」とさらに盛り上がり、コインを投げ打って群がっている。
タクトは冷静に観察しながら
「……明らかに普通のハーブティーの反応じゃないですね。興奮作用か、軽度の魔力活性化が起きています」
と言う。
「無許可の効能誇大広告、および未承認ポーションの販売……完全に学則違反です。直ちに営業停止の勧告を入れましょう」
「ええ。ちょっと部長を呼んで事情を聞かないと――」
私たちがテントへ踏み込もうとしたその時、背後から聞き慣れた穏やかな足音が近づいてくる。
「あら、皆さんお揃いで。ずいぶんと賑やかな列ができておりますわね?」
旧校舎側の巡回を担当していたセリアが、いつもの上品で柔らかな微笑みをたたえて歩み寄ってくる。
横には小型の魔導記録端末を操作しているノア。
「旧校舎周辺の電力量の異常を検知して見に来たんですが……すごい人だかりですね」
と呟く。
私はセリアとノアに説明する。
「セリア先輩、ノア。オカルト部の模擬店が事前申請にない怪しいポーションを売って大繁盛してるのよ。今から規律指導に入るところで」
セリアは優雅にクスリと笑って言う。
「まあまあ。学園祭ですもの、少しばかり雰囲気を盛り上げるハーブの調合を工夫しただけかもしれませんわ。わたくしが穏便にお話を聞いて――」
余裕たっぷりに大人の対応を見せようと、セリアがカフェのカウンターへ一歩近づく。
カフェの仕込み鍋から、ふわっと独特の甘酸っぱいベリー系ハーブと、微かな硫黄・乾燥マンドラゴラの混ざり合った匂いが風に乗って漂ってくる。
その香りを鼻先で捉えた瞬間――
セリアの完璧なお姉様スマイルが、まるで時間を止められたかのようにピキリとフリーズする。
目が見開かれ、血の気が引いていくように顔色がサーッと真っ白に染まる。
「……セリア先輩? どうかしたの?」
私は不思議そうに聞く。
ノアも端末から顔を上げて言う。
「先輩、心拍数が急上昇してますけど……体調不良ですか?」
カタカタと小刻みに震え始めるセリアの指先。その視線は、オカルト部のカウンター奥に置かれた「紫色の液体が入った大瓶」と、部員が広げている「手書きの古びたレシピノート」に完全に釘付けになっていた。
「……ちょっと、そこを退きなさいな!」
普段の物腰柔らかな態度はどこへやら、セリアが鬼気迫る形相と神速の足さばきでオカルト部のカウンターへ突入していく。
オカルト部員が「ひえっ!? 生徒会!?」と怯む隙に、カウンター奥に置かれていた「油染みのある古びた手書きノートの写し」を力づくでひったくる。
ノートを抱えたセリアを、私たちで旧校舎裏の物陰へ誘導する。
ノートの表紙には、凝った飾り文字で『漆黒の禁忌調合法』という激痛なタイトル。
ページをめくると「月影草三葉、深淵を覗きし竜の涙を一滴……我が血脈の贄として捧ぐ」といった、痛々しさ満点のポエム調レシピがビッシリ書き殴られている。
「……嘘、嘘でしょ……ッ!? これ、わたくしが中学生の頃に部屋に籠もって書き殴り、実家の納屋の奥深くに厳重封印したはずのノートですわ……!!」
「えっ、セリア先輩の自作!?」
ノアがオカルト部員の端末ログを照合して言う。
「あ、先月セリア先輩の実家が断捨離で古本屋に出した不用品の中に混ざってたみたいですね。『古の魔導書を発見した!』ってオカルト部がネットで買ってます」
「お母様ァァァ!! 勝手に納屋の荷物を売らないでとあれほど言いましたのにィィィ!!」
と、セリアは頭を抱えてしゃがみ込み、顔を真っ赤にして魂の絶叫をする。
リサがノートを冷静に覗き込み、表情を険しくする。
「……笑っている場合ではありません。この調合、一時的な全能感の後に『中枢神経の暴走、猫語化・奇行・怪力』を引き起こす劇薬の組み合わせです。すでに数十人以上が飲んでいます」
私は慌ててリサに聞く。
「発症までの時間は!?」
「――あと、30分です」
絶望するセリアと、一斉に緊迫する生徒会メンバーの姿が旧校舎裏にあった。
第四章開幕です!時間が無いのでPC使えず電車内でスマホで書いたからすげー時間かかった!!タイピングはPCのが楽だ……
第四章は短めのドタバタものです。ここまで堅苦しかったからね。
そしてスポットライトが当たるのはなんとセリア。
セリアの厨二病の黒歴史が露見する回になってます。
果たしてこのピンチをどう乗り越えるか……!
これからの展開をお楽しみに!




