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第7章 実現への壁

第7章 実現への壁

AIによる診断で再生可能との結論が出た。

だが、美咲は知っていた。

本当の勝負はここから始まる。

図面の中では成功していても、現実の建築事業は人と資金と法律が動かなければ前に進まない。

まず着手したのは再生設計図の作成だった。

AIが作成した三次元モデルを基に、建築士チームが詳細設計を進める。

既存の柱と梁を活かしながら、住戸内部を全面刷新する。

古い配管スペースは設備シャフトへ変更。

各住戸には最新の断熱構造を採用。

太陽光発電と蓄電池を導入し、災害時にも電力供給が可能な設計とした。

さらにAIが数千パターンの間取りを解析し、住民ごとに最適なプランを提案した。

子育て世帯。

単身世帯。

高齢者夫婦。

それぞれ異なる生活スタイルに対応できる。

次に構造設計チームが動いた。

築五十二年の建物を最新基準に適合させるため、何度も構造計算を繰り返した。

AIが地震波データを解析する。

南海トラフ巨大地震。

首都直下地震。

想定される複数の災害条件を検証した。

結果として、

・制震ダンパー設置

・耐震壁追加

・炭素繊維補強

・柱接合部補強

を組み合わせることで、新築同等の安全性能を確保できることが証明された。

その後、美咲は行政との協議に入った。

建築確認申請。

消防法。

バリアフリー法。

省エネ基準。

マンション再生には多くの法的手続きが必要だった。

担当官との会議は何度も続いた。

「前例がありません。」

その言葉を何度聞いたか分からない。

しかし美咲は諦めなかった。

海外事例。

大学研究成果。

AI解析データ。

性能試験結果。

あらゆる資料を提出し続けた。

やがて行政側も理解を示し始める。

「新しい再生モデルとして検討する価値があります。」

その言葉にプロジェクトチームは歓声を上げた。

しかし最大の難関は住民だった。

総戸数百八十戸。

年齢も職業も考え方も異なる。

建替え派。

再生派。

売却希望者。

反対派。

意見はバラバラだった。

美咲は一人ひとりと向き合うことを決めた。

週末ごとに説明会を開催した。

昼の部。

夜の部。

オンライン説明会。

個別相談会。

時には厳しい言葉も浴びた。

「実験台になる気はない。」

「本当に安全なのか。」

「途中で資金が尽きたらどうする。」

それでも美咲は逃げなかった。

AIの分析結果を示しながら丁寧に説明する。

住民の不安を書き留める。

改善案を持ち帰る。

その姿勢が少しずつ信頼を生んでいった。

並行して施工会社の選定も始まった。

全国の建設会社へ提案依頼書を送付する。

大手ゼネコン。

中堅建設会社。

設備専門会社。

リノベーション企業。

十数社が参加した。

各社から見積書が提出される。

金額だけではない。

工期。

品質。

安全管理。

技術力。

実績。

AIが数百項目を分析し比較表を作成した。

最終的に五社による共同施工体制が採用された。

それぞれの得意分野を活かす方式だった。

そして最後の関門。

資金調達。

総事業費は百八十億円。

通常の融資審査では前例がない。

銀行は慎重だった。

美咲は主要取引銀行の本店へ向かった。

役員会議室。

十数名の幹部が並ぶ。

大型スクリーンにAIシミュレーションが映し出される。

事業収支。

資産価値向上。

居住率予測。

CO₂削減効果。

市場規模。

すべて数値で示した。

二時間を超える説明の後、一人の常務が口を開いた。

「これは建設事業ではありません。」

会議室が静まり返る。

「都市再生事業です。」

その言葉に役員たちは頷いた。

数週間後。

銀行団による融資枠設定が決定した。

さらに政府系金融機関や再生ファンドも参加を表明する。

総事業費の資金計画が整ったのである。

プロジェクト発表の日。

記者会見場には多くの報道陣が集まった。

スクリーンには再生後のマンションの完成予想図が映し出されている。

美咲は静かに宣言した。

「私たちは建物を壊すためではなく、未来へ受け継ぐために再生します。」

会場から大きな拍手が沸き起こった。

こうして日本初のAIマンション再生プロジェクトは、いよいよ着工の日を迎えるのであった。

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