第5章 マンション再生事業部の誕生
第5章 マンション再生事業部の誕生
未来住宅の成功から一年後。
美咲は新たな挑戦に乗り出した。
社内組織を再編し、「マンション再生事業部」を設立したのである。
部門長には、建築構造に詳しいベテラン技術者を配置し、AI開発チームや法務担当も加えた。
目標は明確だった。
「壊して建てる」から「活かして再生する」への転換。
日本全国に存在する老朽マンションの再生モデルを確立することだった。
まず美咲はSNSを活用した。
動画配信や専門サイトで構想を公開したのである。
『築40年以上のマンションをお持ちの管理組合の皆様へ』
『建替え以外の選択肢を一緒に検証しませんか』
『AIによる構造診断と再生計画を無償で試行します』
最初は反応が少なかった。
しかし徐々に問い合わせが増え始める。
東京都。
大阪府。
愛知県。
福岡県。
全国各地の管理組合から相談が寄せられた。
「建替え費用が高すぎる。」
「住民の合意形成が進まない。」
「解体せずに再生できるなら検討したい。」
数か月後には百件以上の相談が集まった。
その中から十件をモデル案件として選定することになった。
同時に美咲は中堅マンションデベロッパーや建設会社への提案活動も開始した。
会議室で巨大スクリーンにシミュレーション映像を映し出す。
老朽化したマンション。
その内部が解体される。
しかし建物の骨格は残る。
そこへ新しい居住ユニットが組み込まれていく。
最新設備。
高断熱構造。
IoT住宅機能。
まるで新品同様の住空間へ生まれ変わる。
映像が終わると会場は静まり返った。
やがて一人の経営者が口を開いた。
「もし実現できれば業界が変わる。」
別の企業の役員も頷いた。
「建替え一択だった市場が大きく変わりますね。」
徐々に共同研究への参加企業が増えていった。
さらに美咲は最大の課題に向き合う。
法規制である。
国土交通省。
建築研究機関。
指定確認検査機関。
弁護士。
建築士団体。
専門家との協議を重ねた。
確認したのは次の項目だった。
構造体再利用の条件。
耐震基準への適合。
建築確認申請の扱い。
大規模修繕との違い。
用途変更の可能性。
防火性能の基準。
AIによる構造診断の活用範囲。
数百ページに及ぶ法令や技術基準を検討した結果、重要な結論が見えてきた。
「法的に不可能ではない。」
もちろん多くの条件があった。
安全性の証明。
耐震補強。
性能評価。
行政協議。
だが制度上の道は存在していた。
その報告を受けた美咲は静かに笑った。
「ならば挑戦できる。」
翌月。
全国から応募のあったマンションの中から、最初の実証プロジェクトが決定した。
東京都内。
築五十二年。
地上十二階建て。
総戸数百八十戸。
建替え費用の高騰で住民合意が難航していたマンションだった。
管理組合理事長との面談の日。
理事長は美咲に尋ねた。
「本当に壊さずに再生できるのでしょうか。」
美咲は迷わず答えた。
「まずAIで徹底的に調査します。」
「そして可能性があるなら、私たちは必ず方法を見つけます。」
こうして日本初となるAIマンション再生プロジェクトが正式に始動した。
その成功は後に全国のマンション業界を変え、数兆円規模の新市場を生み出すことになる。
しかし、その道のりには想像を超える困難が待ち受けていたのである。




