第4章 壊さない再生
第4章 壊さない再生
AI住宅事業が軌道に乗り、桜井工務店には全国から問い合わせが殺到していた。
だが、美咲の関心は次第に別の方向へ向かっていた。
ある日のことだった。
都心部で建て替えが予定されている築五十五年のマンションを視察した時のことである。
外観には確かに老朽化が見られた。
設備も古い。
断熱性能も低い。
しかし構造診断の報告書を読んだ美咲は首を傾げた。
「構造体はまだ十分な強度が残っている……。」
同行した不動産会社の担当者が説明する。
「来年解体して、四十階建ての新築マンションに建て替える予定です。」
美咲は巨大な建物を見上げた。
数百世帯が暮らしてきた建物。
莫大な建設資材。
長年蓄積されたエネルギー。
それらが数か月後には瓦礫になる。
「本当に全部壊す必要があるの?」
担当者は少し困った顔をした。
「それが普通ですから。」
帰社した美咲はAIチームに調査を指示した。
全国の老朽マンション。
解体費用。
建設廃棄物。
構造寿命。
建替えコスト。
数週間後、分析結果がまとまった。
驚くべき内容だった。
築五十年以上のマンションの多くは、設備や内装が寿命を迎えている一方で、鉄筋コンクリートや鉄骨構造そのものは補強によってさらに数十年利用可能なものも少なくなかった。
もちろん全てではない。
耐震性や劣化状況によっては建替えが必要な建物もある。
しかし美咲は考えた。
「使える骨格まで捨てるのは、もったいない。」
その夜、彼女は新たな構想をノートに書き始めた。
AIリビルドシステム。
建物の骨格を残しながら、内部を最新住宅へ再構築する技術である。
まずAIが建物全体を三次元スキャンする。
柱。
梁。
床。
配管。
配線。
劣化状況。
耐震性能。
すべてをデジタル化する。
その後、AIが最適な改修計画を作成する。
不要な壁を撤去。
最新の断熱材を設置。
設備機器を交換。
さらにユニット化された居住空間を建物内部へ組み込む。
まるで巨大な骨組みの中に新しい住空間を組み立てるような方式だった。
美咲はこれを「ビルトイン再生方式」と名付けた。
建物を壊さない。
住まいを再生する。
その発想は業界の常識とは真逆だった。
数か月後、チームはシミュレーションを開始した。
結果は予想以上だった。
解体費用は大幅に削減。
建設廃棄物も激減。
工期も短縮できる可能性がある。
さらに居住者の仮住まい期間も短くなる。
環境負荷も大きく減少した。
会議室で結果を見た社員たちは驚いた。
「もし実現できれば革命ですよ。」
「マンション再生の常識が変わります。」
しかし課題も山積みだった。
法規制。
構造安全性の確認。
所有者の合意形成。
金融機関の評価。
前例がほとんどない。
それでも美咲は確信していた。
「住宅を建てる時代から、住宅を再生する時代へ変わる。」
窓の外には無数のマンション群が見えていた。
その一つひとつが未来の可能性に見えた。
そしてこの発想が、後に世界中の都市再生事業へ発展していくことを、まだ誰も知らなかったのである。




