外伝 土地に眠る秘密 ――AIアークの記憶――
外伝 土地に眠る秘密
――AIアークの記憶――
サクライ都市再生ホールディングスが、全国の都市再生事業を進めるようになって数年。
美咲の右腕として活躍していたAIシステム「アーク」は、建物だけではなく、土地そのものを分析するようになっていた。
建築図面。
地盤データ。
古地図。
航空写真。
地下埋設物。
過去の災害記録。
土地の売買履歴。
行政資料。
そして、古い紙の資料まで。
アークは、それらを一つの巨大なデータベースへ統合していた。
ある日、美咲のもとにアークから警告が届いた。
『社長。解析結果について、確認していただきたい情報があります』
「何?」
『現在調査中の都市再生予定地について、土地履歴に不自然な空白があります』
美咲は画面を見る。
対象は、地方都市の中心部にある約五万平方メートルの土地だった。
現在は老朽化した工場と倉庫が並んでいる。
再開発計画では、ここに住宅、商業施設、医療施設、公園を建設する予定だった。
「土地の履歴に空白?」
『しかし、航空写真と地形データを照合すると、この期間に大規模な造成が行われています』
美咲は眉をひそめた。
「造成?」
『さらに不自然な点があります』
画面に古い航空写真が表示された。
現在は平坦な土地。
『この土地は、現在の形になる前に大規模な地形改変を受けています』
「何のために?」
アークは答えなかった。
しばらくして、新しい情報が表示された。
『地下構造物の可能性があります』
美咲は立ち上がった。
「地下構造物?」
『地中レーダー調査データ、古い地形図、現在の地盤沈下データを統合すると、地下約六メートルに人工構造物と推定される反応があります』
翌日。
美咲は現地へ向かった。
都市再生チームと地盤調査会社も同行する。
地中レーダーを使って調査すると、確かに地下に巨大な空洞が確認された。
しかし問題は、その規模だった。
幅約十八メートル。
長さ約七十メートル。
普通の地下配管施設とは考えられない。
「こんなもの、設計図にはありません」
現場技術者が驚く。
美咲はアークに尋ねた。
「過去の資料を全部調べて」
『了解しました』
数時間後。
アークが一枚の古文書を表示した。
その土地には、かつてある企業の研究施設が存在していた。
しかし詳細な記録は残されていない。
そこには奇妙な一文があった。
――「地下施設については現状維持とする」
美咲は息をのんだ。
「地下施設……」
そしてアークが続ける。
『もう一つ発見しました』
画面に古い新聞記事が表示された。
土地の所有者が何度も変わっていた。
「何かを隠した?」
美咲がつぶやく。
『可能性があります』
「アーク。地下施設の構造を推定できる?」
『現在のデータだけでは不十分です』
「なら、調べましょう」
数日後。
行政、土地所有者、専門家を交えた調査チームが組まれた。
地下施設への立ち入りについて慎重な協議が行われる。
老朽化している可能性がある。
有害物質が残っている可能性もある。
安全確認なしに入ることはできない。
そこでアークが地下構造のデジタルモデルを作成した。
地中レーダー。
ボーリング調査。
過去の地図。
現在の地盤データ。
すべてを統合する。
やがて地下施設の全体像が浮かび上がった。
長い地下通路。
複数の部屋。
大型機械室。
そして最深部に巨大な円形空間。
「これは……何の施設なの?」
美咲は画面を見つめた。
アークが答える。
『用途は特定できません』
しかし、さらに解析すると奇妙なものが見つかった。
最深部の壁。
そこには金属製の扉が存在していた。
扉の表面には文字らしきものが刻まれている。
画像を拡大する。
美咲は驚いた。
「記録は失われても、知識は地下に残る。」
美咲は言葉を失った。
美咲は地下施設の映像を見つめた。
都市再生のために調査していた土地。
そこには、誰にも知られない過去が眠っていた。
しかも、その施設が何のために造られたのかは、まだ分からない。
アークは最後に一つの警告を表示した。
「地下施設内部に、現在の地図には存在しない空間があります」
美咲は画面を見た。
「まだ奥があるの?」
『はい』
「どれくらい?」
しばらく沈黙した後、アークが答えた。
『推定不能です』
美咲は立ち上がった。
都市再生のために始めた土地調査。
それが、いつしか歴史の謎を追う探索へ変わっていた。
そして翌朝。
地下施設への正式な調査許可が下りる。
美咲とアークの調査チームは、三十年以上閉ざされていた地下への階段を降りていく。
その先に何が眠っているのか。
誰も知らなかった。
ただ一つ。
アークだけが、地下深くから発せられる微弱な信号を検知していた。
『社長……』
「どうしたの?」
『地下施設から、人工的な信号を受信しています』
美咲は足を止めた。
『現在も稼働している装置が存在する可能性があります』
地下の暗闇の奥で、
小さな緑色のランプが、
三十年ぶりに点灯した。




