手当
「取り敢えず慰霊碑に残っていた霊と、重機を動かした際に襲ってきた悪霊は祓いました。
他の重機やリフトを動かしても霊障は起きなかったですし、これで多分大丈夫だろうと言うことで依頼終了の署名を貰っています」
碧がスマホをスピーカー通話にして遠藤氏に伝えた。
昨日は重機や車を確認した後にリフトで無事麓まで降り、大崎さんに依頼完了の署名を貰って帰った私らは、美帆さん(の旦那)のところの温泉で体の疲れを癒し、ピザをデリバリーで注文して食べて速攻寝た。
で。
今日は朝食後に、まずは依頼終了の連絡と言う形で遠藤氏にクレームを入れる事にした。
『工事現場だから歩きやすい靴を』っていう言葉だけで2時間も山登りさせられるのは、許し難い。
碧ですら昨晩は疲れて、ピザを食べたら歯を磨いてすぐに寝たんだからね!
私なんて、歯磨きすらするエネルギーもなく寝たよ。
昇級テストの時もあまり説明がなかったが、あれはまあ試験という事で情報を与えて変な事前対策をやって不正行為をするのを防ぐためという理由も考えられなくもないが、今回のは完全にアウトでしょう。
『ありがとうございました。
もしもまた霊障問題が起きた場合は、違う依頼として扱いますのでご安心ください』
遠藤氏が答える。
「ちなみに、調査員さんもあそこまで、2時間かけて山登りしたんですか?」
遠藤氏が通話を終える前にさりげなく口を挟む。
『え?
そこら辺の詳しい詳細は聞いていませんね。
………2時間、ですか?』
遠藤氏が恐る恐ると言う感じで聞き返してきた。
「ええ。
霊障のせいでヘリやリフトが使えず、季節のせいか霊障なのか不明なまま梅雨が明けたら車で通れる筈の道も通行不可で、2時間歩いて山を登ったんです。
あれは重要な情報として、依頼を受ける前に伝えるべきだったのでは?」
私らならまだ苦労したものの登れたが、高齢者や体力のない中年女性(男性でも?)だったら上まで辿り着けなかった可能性だってある。
どう考えても、そこら辺の情報だって調査員が依頼の判断材料の一部として退魔協会に伝えているでしょう?
それとも、退魔協会では特別に『身体状態が悪い』とでも注意書きされている退魔師以外は、2時間程度の山登りは出来て当然と言う考えなのだろうか?
そうだとしたら、退魔師業界はちょっとハードすぎるぞ!!
『それは失礼致しました。
私の方にその情報が上がってきていなかったのか、私がうっかり見落としたのかだと思います。
これからは霊障現場へのアクセスの情報もしっかり確認して、ハードな現場の場合は追加報酬が出るように交渉いたします。
今回の件は依頼主に後出しで請求出来ませんので、退魔協会の方から歩荷手当を出すように手配しておきます』
遠藤氏が言った。
「歩荷手当があるなら、昇級テストの時のあれにも出るべきでは?
あれも昨日のと負けないぐらいハードでしたよ」
碧が口を挟んだ。
思わず、二人がやり取りしている間にスマホで『ボッカ手当』を調べた。
『ぼっか』が『歩荷』と変換されたのでそれで調べたところ、山小屋に何十キロもの荷物を担いで運ぶ仕事のバイトのこととかが出てきた。
荷物を足で運ぶ作業の手当てのことらしい。
私らは荷物は運んでいなかったけど、ある意味私ら自身が荷物と言う感じなのかね?
なんだかんだやり取りしていたが、結局昇級テストに関しては既に時間が経ち過ぎているからダメらしい。
『会計年度が変わっていますので』と言われた。
もっと早くクレームを付けるべきだったか。
失敗したね〜。
まあ、今後は仕事を受ける前にしっかり現場へのアクセスを確認するけど。
取り敢えず、遠藤氏にも私らに仕事を頼む際はしっかりそこを確認してその分の手当てを依頼人から分捕っておくよう頼んで、電話を切った。
正直なところ、手当よりも山登りがないのが一番なんだけどね〜。
だが、若くて健康、かつ能力もあるとなったら私らじゃなきゃ出来ないと頼み込まれる仕事はこれからもありそうだからなぁ。
マジで山登りの鍛錬をした方が良さそうだ。
早寝早起きして、暑くなる前に少し歩くか。
碧に頼めばきっとそこそこハードなルートで散歩に連れてってくれそうだし。
『暑いのが終わってから』なんて言っていたら今度は寒すぎるとか雪が降るとかってなりそうだからねぇ。
早起きして今の時期から頑張るのが正解だろう。
多分。
はぁぁぁ。
面倒くさそうだなぁ……。
と言う事で、これでこの章は終わりです。
明日はお休みしますが、明後日からまたよろしくお願いします!




