残滓だらけ
「うわぁ〜」
小さな林の後ろに隠れるように建っていた屋敷は、外から見てもおどろおどろしかった。
前に林、後ろに森があってかなり湿度が高いのか、壁は枯れかけた蔦がかなりの部分を覆っている。しかも葉がない部分はカビか何かで黒ずんでいるし。
古い雨戸も黒々とした感じで暗い。そんでもって後ろの森が日を遮っているから屋敷の正面の庭部分も薄暗い。
と言うか。
これだけおどろおどろしいとは言え、雑草もそれほど無いし、雨戸が腐り落ちたりしていないから、定期的に防水加工とか草刈りとかのメンテはしているんだろうなぁ。
ある意味、放置するならなんだって手入れするのか、ちょっと不思議だ。
「やっぱ外から雑にやるんじゃなくて、中に入ってちゃんと除霊したほうがいいよねぇ。
靴で入っても良いのかな?」
外から結界で覆って碧が清めるって手もあるけど、やっぱ中からきっちりやる方が抜けがないだろう。
でもこんなジメジメしてそうな所じゃあ虫とかも沢山湧いてそうで、靴下でなんて歩きたくない。
一応100均の使い捨てスリッパも持っているけど。
「昨日のパーティも土足で入ってやったらしいから、私たちもそのまま入って良いでしょ」
碧が肩を竦めて言った。
「パーティってことは食べ物とかお酒とか持ち込んだんかな?
ケータリング会社の人が中に入ったんだったら、その人達も祟られてるかも?」
ヤバい幽霊屋敷で敢えてハロウィンの時期にパーティをするなんてアホなイベントに参加する連中が祟られて1、2日苦しむのは自業自得だと思うけど、仕事で来る羽目になった人が祟られて苦しんでいたら可哀想だし、下手をしたら除霊対象として集められていないかも知れない。
いつの世も、使用人(的な存在)はお偉い人の目には入らないんだよねぇ。
「デリバリーで注文したけど、玄関で渡しただけで中に入らなかったから大丈夫らしいね」
タブレットで遠藤氏から送られてきた資料を見直した碧が言った。
あれ、そんなことまで書いてあったか。
行き方とかパーティの参加者が何人居たかとかこの屋敷の来歴とかしか見てなかったから気付かなかった。
「それはよかった。
とは言え、そうなると片付けを誰かがちゃんとしたのかは怪しそう。
今の時期なら1日放置しても大丈夫だろうけど」
依頼主の家人が後で掃除に来るのかな?
と言うか。
元々、祟られると思っていなかったとしたら、ここでハロウィンパーティをやろうと思い立ったお坊ちゃんはパーティの後にちゃんと自分でゴミの始末をするつもりだったのかな?
酔っ払って終わった時点やるとは……自分でも思わなさそう。
屋敷の玄関に近付き、碧が鍵を差し込んで回してから引いたが、開かなかった。
押しても、ダメ。
反対向きに鍵を回してもう一度引いたら玄関が開いた。
「鍵を閉めてなかったみたいね〜」
碧がちょっと呆れたように言った。
「酔っ払いすぎていたのか、すでに祟られてちゃんと考えられる状態じゃなかったのか、どっちだろうね?」
資料によると、パーティを始めてからどんどん人が体調を崩して帰っていったらしいが、最後に関しては『夜半に解散になってご令息が家に帰った』としか書いてないんだよねぇ。
まあ、パーティ用に準備した食材については私らの責任では無いので知ったこっちゃないけど。真夏だったら腐って異臭が凄いことになっていただろうが、今なら1日、2日ぐらいは大丈夫だろうし。
中に入ったら、三和土を上がって直ぐのところに首を切り付けられたメイド服を着た初老の女性の霊が、床に力尽きた様に座っていた。
うわぁ。
そっと触れて確認してみたら、どうやらここに囲われていた女性を愛していると叫ぶ男性が押し入ってきて、僕の愛する人を閉じ込めている悪人の手下め!と言って問答無用で切り付けたらしい。
いや、初老のメイドなんて殺さないで突き飛ばす程度で良いじゃん。
それともその愛人がこの家の召使達に虐待されていたとでも言ってたの??
もう少し記憶に触れてみたが、既に本体の霊は昇天した後で、殺されたショックの残滓的なものがこの姿になって残っていただけなのか、殺された時の情報しか読み取れない。
単なる残滓だったら私が除霊しちゃっても良いか。
「殺されたショックの残像みたいなものっぽいから、祓っちゃうね」
碧に一声掛けて、霊を消す。
そのまま家の中に入り、あちこちを見て回った。
台所と、応接間にも初老の男性と若いメイドが殺された格好で倒れていた。
殺されてショックだったとは言え、極端に恨んで地縛霊になったと言うよりは、死んだショックの残滓が薄らと地縛霊もどきになって残っただけみたい。
「なんか、普通の地縛霊より薄い感じだね?」
碧が後ろから背中を包丁で刺された姿で横たわる料理人らしき人の残像を見ながら碧が言った。
「土地がちょっと不味い場所だったのかも?
死の残滓が散らずに残りやすい場所な気がする。
とは言え、今までの3人に入ってきた若い人を祟るほどのパワーは無いけど」
上にもっと濃厚な穢れと怒りと怨みの思念が感じられるから、あっちが祟った悪霊なんだろうね。
下の3人は……それこそ、事故物件に引っ越した場合に入居者が敏感な人だったら眠れなくなるかもしれないけど、図太い人だったら気付かないし悪影響もほぼ無いぐらいな程度だと思う。
2人(の残滓)も私が祓い、正面の立派な階段を登って二階に行く。
ハロウィンパーティも、下の応接間やダイニングルームでだけやれば参加者が祟られないで済んだかもなのに。
態々家の中のヤバいスポットを探して回ったのかね?
それとも夜だと上の濃厚な悪霊が祟る相手を探して活発に動き回っていたのか。
まあ、どちらにせよ。
祓っちゃいましょう。
家がそこそこちゃんとメンテされてて良かった。踏んだら底が抜けそうな階段とか床の上を歩くのは靴を履いていようと遠慮したいからねぇ。




