浄化は生きた人間に効果があるか?
「今日の祈祷が終わったら、こないだの交差点に行っても良い?
あの生霊っぽいのがまた出たけど途中で見失ったらしいんで、どっちに向かっていたのかだけでも確認したい」
ハネナガから念話があった時点で祈祷(と言うか治療)を受けていた猫が飼い主の元に戻されて去ったあと、碧に声をかけた。
「良いよ〜。
あの生霊、やっぱまた出てきたんだ?
今回もヤバそうな事したの?」
ペットボトルの蓋を開けながら碧が尋ねた。
「母親が手を繋いでいたか、近くで目を光らせていたかな子を突き飛ばしたっぽい。大惨事にはならなかった様だけど、それが意図したものだったのかは不明〜」
母親が止められると思って突き飛ばした場合だって、似た様な『悪戯』を繰り返していたらいつの日かは母親が止め損ねて子供が車に轢かれてしまう事故に繋がるだろう。
そんな事になったら、子供を助けられなかった母親にとっては途轍もないトラウマになる。そんな悲劇が起きない様に、あの生霊は出来るだけ早く止めたいところだね。
「死ぬかもしれないスリルを自分一人で楽しむのは周囲に迷惑が掛からないなら勝手にすればってところだけど、自分は絶対に捕まらない生霊状態で他人の命を弄ぶなんて、本気で殺す気がないにしてもロクデナシだね。
捕まえてなんとかするのに協力出来ることがあったら言ってね」
碧がペットボトルをの蓋を閉めて仕舞いながら力強く言った。
やっぱ善良だよねぇ。
来世のための良いカルマ値稼ぎの下心がそれなりに強い私とは違うわ〜。
まあ、そんな人だからこそ、白龍さまにも気に入られてるんだろうね。
と言う事で。
次の老犬の治療を終えた後、私らは先日の交差点に来ていた。
ここって大きめな銀行と不動産屋、コンビニと飲み屋っぽい食事処(昼間はやっていない)が面した十字路だから、定期的に道を見ているような人は居なさそう。なので残念ながら、変な感じに転ぶ人が多いかとか、そんな事故が起きているとしたらいつ頃からそれが起きているのかとかも聞けないんだよねぇ。
昔ながらの八百屋でもあったら、店員さんが道を見ていて無駄話に付き合ってくれたかもなのに。
まあ、そんな昔ながらの店が車と人通りの多い十字路に面した場所に残っている訳もないか。
銀行の監視カメラになら何か写っているかもだけど、それこそ誰かが死なないとその監視カメラを真面目に調べることなんか無いだろうし、調べたところで生霊は写っていない。精々『不自然に突き飛ばされた様な挙動で転ぶ人が時々いる』と言うのが分かる程度であまり意味はないか。
そう考えると、たとえ道をよく見ていて雑談に応じてくれる八百屋のおっさんがいたとしても違いはないね。
『で、生霊はどっちの方に向かったの?』
ハネナガに尋ねる。
『こちらだ』
ハネナガがすいっと歩道の上を飛んでいったので、そろそろ点滅しそうな横断歩道を急いで渡って、後に続く。
スーパーやらパン屋やらを通り過ぎて、5分もしないところでハネナガが目の前に降りてきた。
『ここら辺であの生霊が姿を消した』
「ここで消えたんだって。
ハネナガ、ありがとう。
この後もあの生霊を探し続けてくれる?」
『ああ。
仲間にも見かけたら知らせる様、声を掛けておこう』
バサっと羽ばたいて(実際に音はしなかったけど)、ハネナガが飛び立ってまた交差点の方へ戻った。
人間と違って使い魔の霊だったら24時間ずっと監視を頼めるから便利だわ〜。
「ここで消えたのかぁ。
あっちの方は普通の住宅地だし、もう少し進んだ先の右側には大きな病院があったよね、確か。
と言うか、病院にいることが確定しても、病室まで分からないと大きな病院の入院患者を全員確認するわけにはいかないし、先は長そうだねぇ」
溜め息を吐きながら碧が周囲を見回して言った。
「だねぇ。
ある意味、あの交差点でしか活動出来ないないならあそこに結界を張って入れなくするのも可能だけど、そういう訳じゃないしねぇ」
地縛霊ではないのだ。
あの交差点がダメだったら別の場所で危険な悪戯をするだろう。
地縛霊の方がさっさと昇天させちゃえば良いんだから、よっぽど話が単純になるんだけどねぇ。
「死霊だったらそれこそ以前大学でやったみたいな浄化用の結界を張っちゃうって手もあるけど、生霊じゃあ浄化しても、もしかしたら少し歪んだ性根が直るかもって程度だしね」
碧が残念そうに言った。
「碧の浄化で歪んだ価値観が直るか、本人を見つけたらついでに実験してみても良いかも?」
効果がありそうだったら、クソッタレな依頼人とかに行き当たった時に活用できる手法になるかも?




