ストレスは危険信号だよね
今日もストレス軽減の符の実施テストだ。
「はい」
碧が屋上への鍵を解錠して、扉を開いた。
「どうも〜」
誰かに見られる前に、急いで屋上に出てしまい、扉を碧の後ろで閉める。
「大家さん夫妻が玄関に向かったり、誰かが屋上への階段へ近付いてきたら教えて」
使い魔のクルミに頼んでおく。
『了解にゃ〜』
ストラップの人形の躯体のまま、天井の隅の方へクルミがふわっと浮かんで行った。
天井に蜘蛛の巣とか、生えてないよね?
裸眼では蜘蛛の巣は見当たらないけど、見えないぐらい細い蜘蛛の糸があったら嫌なのだが……大丈夫だろうと期待しておくしかない。
床近くに待機してうっかり土埃が付くよりは、天井付近の方が汚れないだろう。
多分。
今度一回、お洒落着洗いでニットとかを洗う際にクルミの躯体になってるストラップのぬいぐるみも洗濯機で一緒に丸洗いしようかなぁ。クルミ本猫は他の躯体に移動させとけば、トラウマにはならないだろう。
というか、ジェットコースターみたいな感じで楽しむ可能性もワンチャンあるかも……?
猫だからねぇ。何を楽しむかはやってみなきゃ分からない。
それはさておき。
屋上に出たら、符入りの香り袋がポケットに入っているのを確認して、端の柵の方へ向かう。
うん。
やっぱちょっと嫌な感じがして、柵を登ろうと考えると手足が強張るが、最初に符無しで近付いた時よりは嫌な感覚が薄いね。
「ちょっと持ってて〜」
扉のそばで待っている碧のところに戻って香り袋を預けて、端に戻ったらさっきよりも更に柵に近づくのに抵抗を感じた。
「どう?」
戻ってきたら碧が聞いてくる。
「効果はあるね。
最初ん時みたいに露骨には効いてないけど。
もっとも、私にとってはマイルドな高所恐怖症の軽減って感じだから、ストレス解消って程でもないんだけどね」
まあ、お偉い人へのプレゼンでガチガチに固くなるのを、少しマシにする効果ぐらいは……あるんじゃないかな?
前世で王宮魔術師と言う名称の奴隷として働いていた時は、単に酷使されるだけでなく、王族が周囲の人間を虐待したり陥れたりするのに協力させられて、物凄くストレスだった。
数年経ったら精神が擦り切れてあまり何も感じなくなったが、死ねるものなら死にたいと常に思っていたのは覚えている。
あれを考えると、そう言うストレスを感じない様にすると言うのは、短期的には救いでも、恒常的には良くない気もする。
人間にとって、やりたくない悪事に加担させられるのもストレスなのであり、それはある意味健康的で自然な反応なんだから、それを感じない様にするのは良くないだろう。
そう考えると、下手に緊張以外のストレスって消せない方が無難かもだよね〜。
残業時間が長過ぎるストレスだって、一種の体から出ている危険信号なのだろうから、下手に軽減しない方が良いし。
快適生活ラボが提供しているクッションやアイピローは実際に体の疲労を軽減するからまだいいけど、ストレスという精神的なシグナルを消しちゃうのはちょっと違う。
そう考えると、この香り袋は柳原会計事務所の皆さんには殆ど効き目がなく、プレゼンをしなきゃいけない八幡先輩にだけ効果があるのが一番理想的かな。
まあ、パワハラとかカスハラを受けている人が、会社側に対処してくれと働きかける勇気を出すのに手伝い、何とかなるまで潰れない様に役に立ってくれたら一番理想的ななんだろうけど。
取り敢えず、1か月ほど毎日屋上に来て、効果が1ヶ月継続することを確認したら試作品として柳原さんところにアンケート付きで出してみて、あとは八幡先輩にも渡すかな〜。
八幡先輩は快適生活ラボの販売サイトの会員じゃないんだけどね。
ストレス軽減の方向性や悪影響も含めて、ちょっと色々と悩ましい。
「そう言えば、碧のレッグウォーマーも1ヶ月試したら柳原さんところにテスト用に送る?」
屋上から部屋へ戻りながら碧に尋ねる。
「そうねぇ。
どれだけ聖域の雑草が必要かは要確認だけど、取り敢えず符を描いて準備してる。
ちなみに、足の浮腫は良くなった感じする?」
碧が応じた。
「多分?
元々、それほど浮腫んでいるっている自覚症状が無かったからねぇ。
山歩きとかした後は碧に助けてもらっているし」
行列で長時間並んでいると足が浮腫んだなと帰ってから感じることもあるが、最近はあまり並んでないからなぁ。
昔は本屋で立ち読みとかもしたけど。ここら辺にはマンガを立ち読みできる大手古本屋がないから、碧とルームシェアし始めてから特に立ち読みもしなくなったんだよね。
そこそこ収入が増えたから、本が欲しかったら普通に買うし。
漫画はあっという間に読み終わっちゃうから、つい買うよりも立ち読みできるならしようかな〜と昔は時々長時間やってたんだけどね。
古本屋も大変だよねぇ。
立ち読みする客と、ネットで電子書籍買っちゃう客とで売り上げが激減してるんだろうなぁ。
近所に唯一残っている古本屋はお爺さんが趣味でやっているっぽく見える。あれって多分持ち家で家賃がいらないから継続できているんだと思う。もしかしたら隣か2階の部屋も貸しているのかもだね。幾ら持ち家とは言っても、収入が無ければ固定資産税とか生活費を払えないだろうし。
まじであそこってあまりお客さんが入っているのを見たことないけど、誰か買っているんかね?
そんな事を考えながら部屋に戻ったら、ちょうど電話が鳴っているところだった。
おや。
あの着信音は遠藤氏かな。
新商品はテストがまだまだ掛かるので、取り敢えず開発自体はひと段落ということでこの章はこれで終わりにします。
明日は休みますが、明後日からまた宜しくお願いします!




