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52話 突入

 タイムたちは、門らしきもの――――――昼間も開けたままになっていた――――――を通り、屋敷へ侵入する。

 門から扉まで歩く。

 庭は、手入れがされておらず、荒れている。

 もう何年も手が付けられていない。

 タイムが半分まで歩くと扉が内側から開けられた。

 中から数名のバンパイヤが出てくる。


「出迎えの人かな?」


 アイリスがバンパイヤを見て言う。


「あんなに物騒なら出迎えは、いらないな」


 タイムがうっとうしそうに言う。


「冗談だよ。二人とも任せた」


 アイリスに任されたタイムとパキラは、武器を構える。

 バンパイヤは、睨むように四人へ視線を浴びせる。


 バンパイヤの1体が動く。

 それを合図に全員が行動を開始する。

 パキラは、敵陣に突っ走る。

 タイムは、聖剣を振りかぶる。

 バンパイヤたちは、左右に分かれて陣形を組む。

 その動きは、幾何学模様を描いているようだ。


 パキラが一番最初に動いたバンパイヤの頭を蹴り潰す。

 そのまま魔剣で心臓を斬る。

 まずは、1体を倒した。

 次にバンパイヤが動く。

 陣形に入ってきたパキラへ襲い掛かる。

 虫が使う罠のような作戦だった。


 パキラが屈む。

 タイムが聖剣で横に切る動作を行い、斬撃を放つ。

 バンパイヤたちへもろに浴びせられる。

 ピッタリ心臓がある位置を一斉に切断された。


「本当に統率をとってたな」


 タイムが驚いたように言う。


「本当にね。兵隊みたいに作戦を使って来るとは………………あらためてこの屋敷は、危険すぎる。それこそ、ダンジョンなんかと比べられるくらに」


 アイリスの顔色が少し悪くなる。


「………………そういえば、アイリスさんって、バンパイヤを怖がる時は、少し前の僕みたいになりません?」


 タケが違和感を持ったため聞く。


「子供の頃に吸血鬼(ヴァンパイヤ)の話で驚かされて、危険度関係なく少し怖いんだ」


 アイリスは、覆い隠さず話した。


「理由は、何であれ、突入するぞ」


 タイムが二人に言った。


 ◆


 タイムたちが屋敷内部に侵入する。

 内部は、明かり一つない暗闇だった。


 日用魔法『照明設置ライトアップ


 アイリスが魔法によって、暗闇を照らす。

 彼らの目に入った光景は、不意打ちを狙っているバンパイヤ数名。


 タイムが冷静に聖剣で排除する。


 見上げると二階への踊り場に数体のバンパイヤが待機していた。

 タイムが接近する。


 錬金魔法『鉄塊散弾(メタルショットガン)


 バンパイヤが一斉に魔法を発動させた。

 同時に魔法が発動する。

 それは、あまりにも強力な魔法だった。

 通常の魔法では、ありえないことだ。

 タイムは、避けることができなかった。

 攻撃の動作の最中で反応が遅れたことと異様に威力が高く速かったためだ。

 生成された鉄の破片の幾つかがタイムの体にめり込む。

 後方にいた三人は、アイリスの魔法によってその攻撃を防ぐことができた。

 先にタイムが食らったからこそ防御できたのかもしれない。


 損傷し、血が流れてもタイムは、聖剣を振るう。

 だが、意味はなかった。

 魔法を行使したバンパイヤは、全員が死に灰へ変わっていた。


「まさか、自分を贄に………………」


 アイリスが予想を呟く。

 その予想は、正しい。

 自己の死亡を犠牲に魔法を強化したのだ。


『厄介な』


 タイムが心の中で不満を漏らす。

 怪我をしてまで前へ出たのに標的は死んでいるなど、骨折り損だ。

 タイムは、傷の治癒を始める。


「少しだけ、任せる」


「了解!」


 奥から新たなバンパイヤが出てくる。


「パキラ、後ろから援護するから好きに暴れて!」


 アイリスがパキラへ指示する。


「やったー!」


 パキラは、明るい表情で敵へ向かう。

 バンパイヤもそんなパキラを迎え撃とうと構える。

 パキラは、バンパイヤの事情や流れなど関係なしと言わんばかりに魔剣を投げる。

 魔剣は、真っすぐ飛んで行き、1体のバンパイヤの腹を壁に貼り付けた。

 パキラは、その壁へ跳んで魔剣を豪快に引き抜き回収する。

 そのまま遠心力に任せて、回転しながらコマのように敵へ向かう。

 数体のバンパイヤは、首や胴や腕などを斬られる。

 魔剣の効果で傷口が焼かれ、再生が遅れる。

 そこへアイリスが火属性で飛び道具の魔法を放ち、全身を完全に焼く。

 焼かれた者たちは炭へならず、そのまま灰となる。


 奥からさらにバンパイヤが出てくる。

 倒しても虫のように湧いてくる。

 同時にタイムが前衛へ戻ってくる。

 影魔法で相手の足を杭のように固定して、移動を制限する。

 そして、聖剣で斬撃を飛ばそうと構える。


 バンパイヤたちの判断は、迅速なものだった。

 足を千切った。

 足が再生し、タイムの拘束から逃れる。


 近かったパキラが数体を薙ぎ払うが、全てではない。

 タイムは1体を取り逃がす。

 一直線でアイリスやタケを襲いに向かう。


 水魔法『滝壁結界(ウォーターウォール)


 バンパイヤを覆うように展開されたその結界は、絶えず水が流動する結界。

 普通うならば、ただの水なので容易に通過できるだろう。

 だが、バンパイヤは勝手が違う。

 決して越えることのできない檻となる。


「タケ、ほら! ピッタリの状況をつくったから」


 アイリスが言葉でタケの背中を押すように叩く。


「わかりました」


 タケが結界に近づき腕をいれる。

 バンパイヤは、これは幸いと手を噛もうとする。

 タケがバンパイヤの上顎をかすめ取るような動作を行う。

 バンパイヤは、目を疑った。

 手が透過して、頭をすり抜けたからだ。

 タケが追撃される前に腕を引き抜く。

 手を開くとそこには、頭蓋があった。

 バンパイヤの頭歪む。

 バンパイヤは異常を理解し、自ら頭を潰し、再生を始める。

 タケは不味いと思い、聖水を手に出して、バンパイヤに浴びせる。

 再生が鈍くなり、バンパイヤは死亡する。


「骨を抜くって、えげつないことするね」


 アイリスが頭蓋骨を見ながらいう。


「それでも対応してくる方も大概でしょう」


 タケが頭蓋骨を収納しようとするが、灰になる。


『………………タケのスキル、凶悪さが強くなっていってるな』


 アイリスが考える。

 普通、大抵の生物は、骨を盗られれば、死亡するか致命傷となる。

 それが触れるだけで可能だというのは、異常で危険なものだ。


「二人とも進むぞ」


 タイムがそう言って、奥へ足を踏み入れる。

 他の者も後に続く。

 廊下へ侵入する。

 まどから月明かりが床に敷かれた絨毯へ注いでいる。

 幸い、周囲を確認するには、困らない。

 なので、廊下を塞ぐように待ち構えるバンパイヤを確認できる。


「またバンパイヤか………………」


 タイムが剣を構える。


「人間どもよ。直ちにこの屋敷から去れ」


 バンパイヤが話し始める。


「喋るタイプのバンパイヤか………………話し合いをしないか?」


 タイムが最善を求める。


「無理だな」


 バンパイヤは、即答する。


「何故ですか? あなたたちも元は人間のはず………………」


 タケが口を出す。

 もちろん、タイムの後ろだ。


「そもそも、私はバンパイヤであるが、人間だった頃の意識はない。言わば、死体を動かしているようなものだ。人間に情などはない」


 バンパイヤは、四人に丁寧に説明した。


「なるほど………………じゃあ、慈悲はいらないな」


 タイムが【影移動】で接近して、斬りかかる。


 結界魔法『対物理結界(シールド)


 バンパイヤが魔法によって、剣を防ぐ。

 だが、タイムの聖剣を完全に止めるには、及ばない。


 幻覚魔法『幻影(ヴィジョン)


 バンパイヤは、四人に幻を見せる。

 何人もの同じ姿をしたバンパイヤ。

 本物も紛れてしまっている。


「どれが本物だ!?」


 パキラが周囲を見て、最も近いバンパイヤを斬る。

 刀身は透けて、空振ってしまう。


「おりゃぁぁ! どいつだ!」


 パキラは、手当たり次第に攻撃するが、本物に当てることはない。

 幻覚も避ける動作をするので、そもそもの数が減らない。


『本物は………………』


 タイムが【殺意感知】を発動させる。


「お前か」


 タイムが殺意を放っていたバンパイヤを切り捨てる。


「ガハッ」


 バンパイヤが声を漏らす。

 血が噴き出す。

 タイムが追撃し、仕留める。


「こんな感じに魔法を使ってくるとはな………………」


「ここまで魔法が扱えるなんて………………生前は、腕のいい魔法使いだったんだろうね」


 アイリスが灰を見て言った。


 それとほぼ同時に魔法が解除される。

 バンパイヤの魔法の効果時間が切れたのだろう。


「じゃあ、昼の結界もこいつが張っていたのか?」


「いや、見た感じ、別だと思うよ。精度が違ったから」


 それが指すことは、まだ相当、腕の立つ魔法を扱うバンパイヤがいることに他ならない。


「アイリス、魔法の対策。それに警戒もしてくれ」


「ずっとやってたけど、強化するね」


『やってたのか………………』


 一行は、さらに進む。


 待ち構えていたバンパイヤたちが素早く魔法を放つ。


 土魔法『土塊砲(ソイルショット)

 錬金魔法『短剣散弾(ナイフショットガン)


 その他にも投擲系の魔法を幾つかどれも贄で威力を上げている。

 アイリスが魔法で防ぐ。


 結界魔法『対物理結界(シールド)


 魔法専用の結界もあるには、あるのだが、今回は相手の大半が物理的な攻撃の魔法のため選択された。

 魔法が弾かれる。

 バンパイヤは、灰となって倒れる。


「こういう防ぐだけでいいのは、楽でいい」


 アイリスが魔法を解除して言う。


「あぁ、数が減っている感じが強いよな」


 タイムがそう言ったと同時に新手のバンパイヤが数十体攻めてくる。


「本当に数、減ってる?」


 その数を見て、あまりの多さにアイリスが疑問を持つ。


「少し怪しいかもしれませんね」


 タケが難しい顔で言う。


「減らすんじゃなくて全滅させれば、いいだけの話だ!」


 パキラは、そう言って文字通り猪突猛進で突っ込みに向かう。

 タイムは、後に続いた。


 ◆


 吸血鬼城の一室。


「………………? 騒がしいな」


 一体の吸血種が屋敷に響く騒音に反応する。


『それにこの気配』


 その男は、感覚を研ぎ澄ませる。

 気配をより正確に感じ取るためだ。

 否、その気配は、そんなことをせずとも関係のないほどに大きいものだった。

 隠す気のない気配。


『化け物だな』


 その瞬間、その男は自身が敵を迎えることを決定する。

 この屋敷の主として。

 バンパイヤたちの長として。

 身支度をして、部屋を出る。


「私自らが殺してくれよう」


 彼こそ、今回の事件の原因。

 生まれながらの吸血種である吸血鬼(ヴァンパイヤ)

 名は………………


「このエイブラハム・スチーマーが!」


 吸血種の頭がタイムたちの下へ向かった。

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