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51話 偵察

 平野にポツンと構える屋敷。

 それは、小さなお城と呼べるほどの装飾がされている。

 それでいて、禍々しい空気を放ち、日が当たっているのに日陰よりくらい雰囲気となっている。


 そこは、今や人の手出しができる場所ではなくなっている。

 住み着いているのは、人間ではなく、吸血種たちだ。

 それらのことから周辺の町村の者は、こう呼ぶ。


 吸血鬼城ヴァンパイヤキャッスル


 そして今、この時、その場所へ挑戦しようとする勇者一行が近づいていた。


 ◆


「あれが吸血鬼城でしょうか?」


 タケが遠くの屋敷を眺めて言う。

 彼らは、目的地が見えるほどの距離までたどり着いた。

 行こうと思えば、今日中に乗り込める。


「十中八九そうでしょ。あんな見た目の建物がチラホラあるわけないし」


 アイリスもタケと同様に眺めながら返事をする。

 アイリスは、タケと違い両手を丸めて双眼鏡のようにしている。


「ほとんど動きがないね。まるで空き家だよ」


 アイリスがまるではっきり見えているように言う。

 タイムがその視力に疑問を持ち聞く。


「この距離でそこまで見えるのか?」


「うん、見えるよ。魔法を使って、よく見えるようにしているからね」


 アイリスは、魔法によって実際に見えているようだ。

 肉眼で見えるより、より鮮明に見えるのだろう。

 ちなみに肉眼であれば、パキラも魔法に及ばないが、遠くをはっきりと見ることができる。


「無人………………いや、吸血種は、夜行性だからか」


 タイムが合点のいったように呟く。

 吸血種たちは、昼夜が逆で生活している。

 日中は眠って、夜に活動的になる。

 日があるのは、死活問題なので当然だ。


「取り敢えず、様子見も兼ねて一日は、見張ってみる? 何か判明するかもだし」


「あぁ、一回は、そうした方がいいな」


 そうやって、一日は見張りながら準備をすることになった。


 ◆


「それじゃあ、観察の結果だね」


 時間は、次の日の朝。

 夜間は、吸血鬼城の観察をして、情報を得たためその共有のためだ。


「まず、タイムとタケの観察結果から」


 アイリスが二人に聞く。

 今回の観察は、交代制で二人一組となっておこなった。

 タイムとタケの組とアイリスとパキラの組だ。


「はい、報告ですが、まず日が沈んでから吸血鬼城は、明かりもつかず、日中と同じような状態でした。しばらくして屋敷から出て行く人影がありました。正体は、人ではなくバンパイヤで事前の情報通り、隊列を成して動いていました」


 その後は、またしばらく吸血鬼城の沈黙が続き、アイリスとパキラに一度目の交代が行われた。

 話がタケからアイリスに移る。


「交代して少し経った時、私たちもその出撃を見たよ。そしてまた変化が無くなって静かなことが続いたよ。その後の見張りの結果を見ると一定時間ごとに出て行っているみたいだね」


 アイリスは、その他ことも一応報告する。

 次の交代までの間に魔物に襲われたそうだ。

 それに関しては、パキラが対応して問題は無かったそうだ。


「大まかな流れは、これでいいとして、二人は、他に報告することはあった? 私たちは、ないけど」


 アイリスがタケたちに投げかける。


「それなら一つ」


 タイムが手を挙げる。


「何?」


「二回目に入って見張っている時、一度バンパイヤ2体に襲われた」


 タイムとタケは、襲撃を受けていた。


「それで、どうしたの?」


「もちろん、すぐに斬って討伐した。でも、一つおかしなことがあって………………」


 タイムが思い出しながら続ける。


「実は、襲ってきた2体は………………とても統率がとれているようには、見えなかった。まるで魔物みたいで一心不乱って感じだった」


「それは、異常だね」


 吸血種――――――特にバンパイヤは、元人間であるため理性が残り易い。

 となると、タイムたちを襲った2体は、理性が無かったのかというとそうもいえない。

 そもそも2体で行動している時点で理性は、残っている可能性が高い。


「予想だけど、この答えは、あのお城の中にあると思う」


 アイリスは、勘だけど、と最後に付け加える。

 謎の勘。

 それは、タイムたちにもあった。

 それは、一晩観察したからかもしれない。


「それじゃあ、準備ができ次第。突入でいいね?」


 アイリスが確認する。

 皆が頷いた。


 ◆


 時間が過ぎて、準備が完了した昼。


 ………………をさらに経過した夜。


「それじゃあ、突入するよ。夜だからバンパイヤたちの有利な状況だから、警戒を怠らないこと」


 アイリスが注意する。

 何故、わざわざそんな相手に分がある時間帯を選んだのか?

 それは、正当な理由がある。


 準備が完了したのは、昼だった。

 いざ、突入しようと足を踏み入れた。

 だが、足は吸血鬼城の敷地には、入らない。

 見えない壁で阻まれるように侵入はできなかった。


 アイリスが詳しく調査を行うと魔法によって結界が張られていた。

 それも相当強固なものでアイリスには、解除ができなかった。

 だが、辛うじて判明したことがあり、それはこの結界は、魔術によって昼の間は強固になるようにされていて、反対に夜は結界が機能しないようになっていた。

 つまり、侵入するならば、夜以外は挑戦できない。


 突入は、夜へと延期された。


「結界は………………やっぱり、消えてるね」


 アイリスは、手で結界の有無を確かめる。


「でも、吸血鬼って、魔法が使えるんですね」


 タケが初めて知ったように言う。


「………………それが少し不安要素になってるんだよね」


 アイリスが心配そうに言う。


「と、言うと?」


 タイムが詳しく聞く。


「いや、魔法が使えるってことは、元になった人間が使えたってことなんだよ」


「別に魔法が使える人だって、いるにはいるだろ?」


「うん、冒険者だったら案外、魔法を扱える人もいるよ。でもね。それは、あくまで魔法までなんだよ」


「?、どういうことだ?」


 タイムがパキラのような顔になる。


「皆は、魔法と魔術をどのように認識してる?」


 アイリスが問いを投げかける。


「ただの言い換えじゃないのか?」


「それが違うんだよね。知らない人は、よく勘違いしているんだけど………………魔法は、魔力を消費して、事象を起こす技術のことを指している。ここまでは簡単でしょ?」


 アイリスは、次に魔術の説明をする。

 魔術とは、魔法の応用技術の総称だ。

 完結に説明すると代償として何かを犠牲にして、魔法に追加効果を発揮する。

 代表例として、詠唱がある。

 詠唱の手間を代償に魔法の消費魔力を減らしたり、威力を強めたり、一般的によく使われているものだと術式の構築を免除するなどだ。

 この免除により、あまり魔法を学んでいない人物でも魔法を扱うことができるようになる。

 他の魔術の例としては、媒介や贄などがあり、媒介は杖などを介して魔法を行使し、その条件を代償にしている。


「こんな感じで魔法と魔術は、技術として分かれているんだよ」


 アイリスが説明を終える。


「それでアイリスさんは、結局何が言いたいんですか?」


「私が言いたいのは、結界魔法に魔術が使われていたこと」


 アイリスが語る。

 結界は、魔術によって強度を上げていた。

 夜の強度を捨てることを対価に昼の強度を上げるという魔術。

 この魔術は、詠唱のような簡単なものではなく、学問として学んだ成果の魔術。

 国の貴族が学ぶような技術だ。


「そして、それも少し妙なんだよ。だって、ここは来るのも一苦労の孤立した地だよ? そういうお偉いさんが来て、バンパイヤになる?」


 アイリスの意見は、ごもっともだった。


「だから、一応頭に入れておいて」


 アイリスが警告した。


「何をだ?」


 パキラが首を傾げる。


「パキラは、いいから」


 アイリスがパキラに諦めたように言った。

 四人は、充分警戒し、吸血鬼城へ立ち入った。

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