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勇者の旅  作者: カム十
22/23

22話 呪いの木

 呪木(じゅもく)

 植物の魔物である樹木(ウド)の特殊個体である。

 他の魔物の突然変異と違い、呪木は魔力ではなく、呪念が影響を及ぼし変異する。

 そのため、強さの増減は、自身又は他者の精神や思考に影響される。

 恐怖されれば、危険度が上がる。

 そして現在、この個体はスタンピードによる恐怖、不安などの感情を受け、Sランクまで上り詰めている。

 それらは、その強さで周囲の魔物を従え、感情を高揚させる。

 それによる更なる強化。

 Sランクに止まっているが、かなりの強さだ。


「あれをどうにかできる呪いはあるか?」


「無理です。あの呪念なら弾かれるでしょうね」


 呪いも利きそうにない。

 今、タイムの手には、剣が握られている。


「じゃあ、一人で行くか」


 タイムが足を踏み出す。


「待ってください! あれには、かけられませんが、タイムさんや周囲の魔物なら可能です」


 そう言って引き留める。


「いや、魔物は兎も角、俺にかけても仕方がないだろ」


 タイムがそう言って、再び進もうとする。


「いえ、そうでもありません。呪術には、効果を逆手に取って利益が得られるものがあります」


 そう言って例を語り出す。

 まず、重石の呪い。

 これは、かけた対象を重くする効果の呪いだ。


「重い分、速さを取られますが、その分落下したりすればいい攻撃になります」


 次に共鳴形代。

 効果は、負傷を肩代わりさせるというものだ。


「これは本来、形代を攻撃して、対象を傷つけるものですが、その逆で形代に傷を肩代わりさせることができます。ですが、逆にする分、形代は生物でなくてはいけません」


 最後に話されたのは、呪術「怪異召喚」。

 これは怪異――――――精霊に近い妖怪を召喚し、とり憑かせる術だ。


「これの利点は、簡単に言えば、魔除けです。呪術的な攻撃から守るようにすることもできます」


「それで、セピアはどれができるんだ?」


 タイムが説明の終わった直後に確認する。


「重石の呪いは、簡単にできます。共鳴形代は、形代が必要ですができます。最後の怪異召喚ですが、今の私なら弱いやつを呼べます」


 タイムがそれを聞き、さらに追及する。


「その重石の呪いはどのぐらいの速さでできる?」


「詠唱もなしですぐに使えます」


「そうか、それなら俺が呪木に落下攻撃をする瞬間で発動させてくれ」


「了解しました」


 そう交わすと、タイムは呪木へ向かっていった。


 ◆


 スタンピードを率いる呪木の周囲は、ウドが固まっている。

 上位種でも同系統は、同系統なのだろう。

 タイムは、そのウドを斬って進む。

 気分は荒地開拓の気分だ。

 木が直接殺しにかからなければ、もっと楽だったかもしれない、と嘆く。


 現在、タイムは先日も見せた最速の技を常時発動しているような状態だ。

 その速さは凄まじく、何人たりとも簡単に目撃を許さない。

 それは魔物も同じで、ウドも反応できていない。

 だが、他のウドと情報を共有しているのか、後続のウドが察知して、反応できないうちに反応している。

 それがタイムを消耗させる。

 タイムの最速の技、実は欠点がないわけではない。

 この技は、魔法、スキルを同時使用するため、魔力の消費が大きい。

 タイムの魔力総量は、多いがそれでも無限ではない。

 使えば減るし、枯渇する。


『何とか、呪木まで無くならないでくれ』


 タイムは、ウドを斬りながら、そう願った。

 そして呪木の下に辿り着いた時には、その総量の半分以上が使用されていた。


『これぐらい残っていれば、十分だ』


 タイムはそう考え、呪木へ立ち向かった。

 呪木の体表は、紫色の樹皮で覆われていて、呪念を放っている。

 そしてその幹に深紅の目が付いている。

 その目からは、悦に浸る感情が感じられる。

 タイムは、その幹に近づき、剣を振るう。

 だが、呪木は根でその斬撃を防ぐ。

 根は切れたが、幹には浅い傷しか残っていない。

 呪木がタイムを笑うようにうめき声を上げようとした瞬間、その笑いは痛みの沈黙へ変わる。

 突如、幹の半分近くまで断たれる。

 二度目の斬撃。

 タイムのスキル【二連撃】だ。

 このスキルは、相手の油断を誘い易い。

 タイムは、続けて様々な場所へ斬撃を当てる。

 【跳躍】で跳べば、届かない位置にも攻撃が可能だ。

 空中で移動する時は、向かってくる根を足場にすればいい。

 そしてタイムがある程度、斬撃を見舞った所で呪木から距離を取る。

 そして、よく観察する。


『傷が………………癒えてる?』


 呪木の体表に付けられた傷は、再生している。

 元々ウドなどの植物系の魔物は、再生能力が少しばかり高いが、それでも時間はかかる。

 それが数秒後には、塞がっている。


『厄介だな』


 再生する。

 つまり、斬っても斬っても決定打が無ければ、倒せないということだ。


『しかも、あれだけ斬って生きてるってことは、不死性もあるのか』


 タイムの予想通り、呪木は呪いにより、アンデットには及ばぬものの、不死性を獲得している。

 不死性あり、再生ありの魔物。

 厄介極まりない相手だ。


『それなら、死ぬまで斬る!』


 タイムは接近し、剣を振るう。

 時折、根が向かってくるが、それらも斬って前へ進む。

 そして、ようやく呪木の奥深くまで傷を到達させることに成功した。

 そこでとある物を視認した。

 宝石――――――呪木の魔石だろう。

 魔石は魔物の心臓部であり、破壊すればその魔物は死ぬ。

 タイムに勝利の綱が落ちてきた。


『あれを破壊すれば、勝てる!』


 そう考え、斬りかかろうとした。

 だが、それはできなかった。

 速く動こうにも、【影移動】や影魔法が発動しない。

 それは魔力切れだった。

 ウドたちへの消耗に合わせ、呪木との戦闘。

 タイムには、もうそこまでの魔力は残っていなかった。

 地面から根が飛び出そうとしている。

 今のタイムに反応できるだろうか?

 タイムは死ぬ気で頭を働かせ、魔量を絞り出す。

 そして【跳躍】一回分を何とか捻出する。

 タイムは高く飛ぶ、火事場の馬鹿力も合わさったのだろうか、呪木より少し高い位置まで到達する。


 そしてタイムは構える。

 今のタイムにとれる行動は、技術を尽くすことだけだ。

 もっとも、彼でなければ選択肢はあるのだ。

 遠くで今か今かと待っていたセピアが呪術を発動させる。


――――――落下攻撃をする瞬間で発動させてくれ


 タイムの言った通りのタイミングでそれは行使される。


 呪術『重石の呪い』


 タイムの体が重くなる。

 重さが増したということは、その分位置エネルギーが増大する。

 そしてそれは、運動エネルギーへ変換され、落下の際強力な衝撃を生じさせる。


「砕けろ!」


 そう叫んでタイムは、剣を振り下ろす。

 その衝撃は、呪木の魔石に到達し、その魔力の宝石を砕く。

 呪木の根はだらんと垂れ下がり、本体もほとんど動かない。

 タイムも力が抜けたように地面に座る。

 魔力切れ状態から魔力を絞り出し、疲労も肉体の限界に達していたのだ。

 外傷こそ無いが、戦闘の続行は不可能である。


 だが、呪木を倒しただけで周囲の魔物が消滅したり、逃げたりするわけではない。

 呪木という自身らを縛っていた者がいなくなったことで、それらはタイムに目をつける。

 このままでは、タイムが魔物の餌になるだろう。

 今の無防備なタイムには、抵抗する術も無く、絶体絶命だ。


『あぁ、本当に連れて来てよかった』


 タイムは心の底からそう考える。

 魔物たちの動きが鈍化する。


「大丈夫ですか?」


 セピアが近づいてくる。

 この現象は、彼女の仕業だろう。


「この呪いも動きを止めているわけではありません。早く離れましょう」


「ごめんだけど、今、ほとんど動けないない」


 タイムが言う。

 全身が悲鳴を上げていて、とても動かせる状態ではない。


「解りました。肩を貸します」


 そう言って、タイムを運び始める。

 その時だった。

 タイムの腹から木の根が飛び出す。

 後ろを見ると、呪木の根が一本だけタイムに向かっている。

 完全に死んでいなかったのだろう。

 だが、すぐに根は力を失い、垂れ下がる。

 呪木が完全に死んだ。

 その拍子にタイムから根が引き抜かれたのだが、タイムの腹部には何の異常も無かった。

 貫通したはずの腹は、いつも通り存在していて、穴などない。


「え?」


 タイムが驚く。

 最初はそれどころでは無かったが、考えてみれば痛みも無かった。

 そして次に浮かんできた単語がある。

 『共鳴形代』。

 それは、形代に生命が必要である傷の肩代わり。

 魔物では、形代として使うことができない。

 形代は人型でなくてはならない。

 タイムは冷や汗をかく。

 今、想像した仮説が正しければ………………

 タイムは、セピアの方を見た。


「フッフッフッ、安心してください」


 セピアは、少し冗談っぽく言った。

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