21話 スタンピード
冒険者たちが町の外へ飛び出す。
そして皆一方向へ向かって走る。
その大勢の中にタイムたちもいた。
「今頃、町の人は避難しているでしょうね………………」
タケが来た道を振り返り言う。
「あぁ、でも今は振り返ってる場合じゃない」
タイムが言う。
タイムは何かを感じとっている。
「………………え?」
走っていたパキラが声を漏らす。
表情は神妙に強張っている。
額から冷や汗が流れる。
「どうしたの?」
アイリスが聞く。
「こんなことがあるのか? これはヤバイな」
アイリスの言葉が意識に届いていない。
パキラは、タイムに遅れて感じ取ったそれらの気配で頭が埋まっている。
「一体何が?」
タケが聞く。
「………………もう見えてくるはずだ」
タイムはそれだけ伝えて教えようとしなかった。
◆
「こんなことがあるんですか?」
タケが信じられないように言う。
彼の眼前に広がる光景は、何百、何千、何万もの魔物の群れだ。
少し離れているが、それでも視認が可能なほど密集している。
「ハハ、やっぱ目で見てもヤバイな」
パキラが言う。
「この規模のスタンピードは珍しいね。それこそ、この規模なら国が滅びる」
アイリスが分析する。
スタンピード。
それは、何らかの原因で魔物たちが大移動をする事象の総称である。
それらは、大規模なものだと国が動くほどの災害だ。
そして今、彼ら目の前で起こっているスタンピードは、その規模だ。
「どうするんですか?」
タケが問う。
「………………」
誰も答えはしない。
今彼らが取れる行動など限られている。
「少しでも数を減らして足止めをしよう」
タイムが言った。
皆、予想外だった。
「まず、俺とパキラで少しずつ倒していこう。アイリスは離れた場所から魔法を撃ってくれ。セピアはできるだけ多くの魔物にかけられる鈍足の呪いを準備してくれ。タケは、それぞれの支援を頼む」
その指示に反対する者はいなかった。
各々が魔物と戦い始める。
「数が多すぎる」
タイムが不満を漏らす。
息が切れている。
斬っても斬っても減らない魔物たち。
個人単位では限界がある。
否、冒険者たちが現在総出で戦闘しているが、勢いを衰えさせることもできていない。
タイムは、タケがジェスチャーで何かを伝えようとしていることに気が付く。
タイムは前線を離れ、【影移動】でタケの場所まで移動する。
「タイムさん、アイリスさんから話しがあるそうです」
「こんな時にか?」
不満がありそうな、余裕の少ないタイムにタケが付け足す。
「この魔物の大群を止められるかもしれない情報があるそうです」
タイムは、急いでアイリスの方へ向かった。
◆
「アイリス! 大群を止められるかもしれない方法って何だ?」
タイムが合流直後に聞く。
魔法を放ちながらアイリスが目を向ける。
「よく聞いてね」
アイリスは説明を始めた。
「まず、このスタンピードの原因は何だと思う?」
アイリスが質問を投げかける。
「………………解らない」
タイムが少し考えた後答える。
「これは、セピアの話なんだけど、この魔物たちの奥の方に強い呪念を感じたんだって」
タイムはセピアに目を向ける。
セピアは、魔物全体への呪いをかけながら頷いた。
「それでここからは予想だけど、呪いを受けた魔物が魔物を追いやっているんじゃないかって」
それを聞いてタイムに疑問が浮かぶ。
「そんな個体だけでこんな数の魔物を誘導できるのか?」
タイムが疑問を口にする。
「ある過去のスタンピードの事例では、A~S級の魔物によって引き起こされた件がいくつかあるから、0ではないよ」
タイムは、アイリスの博識さに感心した。
「ここまで言えば、おおよその予想はつくと思うけど、その魔物を倒せば一件落着ってこと」
アイリスが笑みを浮かべる。
「解った、って言いたいけど、流石にこれ以上前線を離れ続けるのは、無理だ」
タイムが現実を語る。
少し離れているこの状態でもかなり不味く、奥にいる魔物の場所へ向かうとなると、魔物の被害が拡大してしまう。
「それなら、私も行きます!」
セピアが名乗りを上げた。
「呪いは?」
「もうかけ終わりました。鈍足の呪いをここら一帯の魔物にかけました」
目を向けて見れば、魔物の勢いが衰えている。
これならば、タイムが離れても問題はないだろう。
「解った一緒に行こう」
二人は、向かい始めた。
奥にいるスタンピードの主を倒すために。
◆
「………………」
タイムは無言で進む。
【影移動】で最短の道を通り、魔物も上手く回避している。
セピアは、と言うと………………
「うわ! ひょ! わ!」
一定の間隔でタイムの場所へ吸い寄せられている。
その移動速度は素晴らしいほどに速く、最悪なほどに見栄えが悪い。
「セピア! 大丈夫か?」
タイムが移動をしながら気に掛ける。
「え? 何ですか? すみませ、途切れ、聞こえないで」
セピアは何だかんだ平気そうである。
そもそもこれは、どうやっているのか?
これの正体は、呪いだ。
セピアがタイムに呪いをかけたのだ。
その呪いは、「セピアにつき纏われる」と言うものだ。
この呪いは簡単に言うと、タイムがセピアから一定の距離を離れると、セピアがタイムの近くに移動するという原理だ。
呪いの人形みたいなもので、タイムの持つ呪剣も同じ呪いが残っている。
そんな奇抜なアイデアで二人は進む。
木々に乗り移って、時には魔物の間をすり抜け、風の如く進んでいく。
そして目撃する。
その魔物を、その目で。
その魔物は、身体をうねらせ、推進している。
それの見た目は、樹木のような外見をしている。
だが、その表面からは何か邪悪な気が漂っている。
そしてタイムとセピアには、その魔物の形に見覚えがある。
ウドだ。
ウドによく似ている。
だが、違うことがよく解る。
大きさが違う。
ウドは人二人分の高さだが、その魔物はその数倍はあるだろう。
「あれだ」
セピアが呟く。
呪術が使えないタイムでさえ、その呪念が肌で感じ取ることのできる気配。
討伐難易度S級 「呪木」
それがスタンピードの主だった。




