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勇者の旅  作者: カム十
20/23

20話 夢の定石

 タイムが頭を下げる。

 下げている対象は、セピアだ。


「ありがとうございます!」


「あの~、いつまでこの状態のままですかね?」


 セピアが疑問をていする。

 タイムがお礼を言い始め、頭を下げてからおおよそ十分が経過した。

 そんなに経てば、終わりも聞きたくなるのが、当然だ。


「もう、頭を上げてください」


 セピアがタイムに言う。

 そう言われた瞬間、タイムは頭を上げた。


「早!?」


 セピアが驚愕する。


「流石に俺も疲れてきて………………」


 タイムは自身の首の後ろを手で撫でた。

 長時間の首の硬直で疲労が重なり、痛くなったのだろう。

 しばらくして痛みが引いたのか、手を元に戻した。


「それでは、皆さんに一つお願いがあるのですが、聞いていただけませんか?」


 セピアがタイムたち四人に言った。

 四人は頷き、了承する。


「それでは、お願いなのですが、私もパーティに加えていただけませんか?」


「いいよ」


 アイリスが即答する。


「大歓迎だ」


 タイムも後に続く。

 それからタケやパキラも続いて歓迎した。

 誰も理由は聞かない。

 皆が聞く必要などないと考えているからだ。


「ありがとうございます!」


 かくして、セピアが仲間になった。


 ◆


 皆は、ギルドを出て、森へ入った。

 今回、依頼は関係なく、セピアの実力を確かめることが目的だ。

 それと同時にタイムの剣も問題がないか確かめなければならない。

 それには、魔物の多い森がうってつけなのだ。

 タイムたちの狙い通り、探し回る手間も無く、ウドと遭遇した。


「またウドですか!?」


 タケが落ち込む。

 おそらく、依頼の件だろう。

 他四人は、そんな事お構いなしに戦闘態勢に入る。


「それじゃあ、セピアは呪いの力を見せてくれ」


 タイムが指示する。


「はい!」


 セピアは、返事をする。

 そして、呪いの解除を試みた時と同じように呪文を詠唱し始める。

 その間にもウドの根が迫ってきている。

 タイムたちは、少し心配するが、それは無用だった。

 詠唱は、タイムたちの予想よりも早く終了し、呪いがかけられる。

 呪いをかけられたウドは、動きが鈍くなった。


「どうですか! これが私の力です!」


 セピアが胸を張って言う。


「いるかな?」


「あたしらには、いらないな」


 タイムとパキラは、そんな会話をする。

 事実、ウドの動き程度ならば、二人が対応可能なのだ。

 パキラは、魔剣でウドを切り捨てる。


「で、でも、呪いは、一度に多くの対象にかけたり、効果を鈍足以外にも替えることができますから!」


 セピアは、弁明する。


「じゃあ、例えばどんな効果?」


 アイリスが聞く。


「例えば、そうですね。精神をじわじわ削ったり、幻覚を見せたり、あと細かいのなどが色々と………………」


 その説明は、タイムたちにピンとこなかった。

 だが、場を選べばかなり有用なことは、理解できた。


 一行がそうしていると、またウドに遭遇した。

 それも3体。

 明らかに数が増えている。

 今回は、タイムが剣を抜く。

 それは、魔剣ではない。

 使い勝手が良くなった呪剣だ。

 呪剣「悪魂(エビルソウルズ)

 それは、もう抜刀しただけで瘴気を撒き散らさない。

 その代わりに絶大な呪術的斬撃強化が為される。

 技術が無ければ過ぎた力だろう。

 だが、タイムは技術を持っている。

 いつどこで習得したかも思い出せないその技術で、暴れ馬を制御するように呪剣を扱う。


 さらにタイムは、更なる場所を目指す。

 呪剣の斬撃に影魔法による強化と補助を追加、剣技だけでなく移動にも【影移動】を使う。

 今のタイムが使えることのできる全力だ。

 それをウドたちに次々と惜しみなく使用する。


 それはあまりにも速かった。

 ウドも、アイリスやタケと言った仲間でさえ、視認は不可能。

 神技とも形容できるそれをタイムは、当然のように行った。

 皆、唖然としている。


「え? 今、ウドが………………え?」


 タケは状況を飲み込めていない。


「「お~!」」


 アイリスとセピアは、関心したように手をパチパチと叩いている。

 パキラは、目を輝かせて、剣を見ている。

 ウド等は、木片となって地面に転がっていた。


 ◆


 五人は、町へ帰る。

 そして祝杯を挙げる。

 全てお酒ではなく、水だ。

 ただし、テーブルに並べられた料理は、いつもより豪華だ。

 これは、呪剣から解放記念とセピアの歓迎会も含まれている。

 呪剣から完全に開放されたわけではないが、皆にとっては楽しければどうでもいいことだ。

 五人は、料理を食べながら話す。


「あの技は速かったですね。気が付いたら終わってた感じです」


「あぁ、全く見えなかった」


 タケとパキラがタイムをおだてる。


「うれしいけど、よしてくれ」


 タイムが恥ずかしそうに言う。


「それよりもセピアの呪いだって。あれは、場所を見極めればもっと生かせるだろ?」


 タイムが話しをずらす。


「確かに呪術は、魔物へなら団体の方が優位になります。あと準備さえできれば、もっとハードな呪いもかけられますよ」


 セピアは、脅かすように言う。


「もしも魔物の軍勢が攻めて来るようなことがあれば、その時は存分に発揮してもらおうか」


 アイリスが返す。


 そんなやり取りが続き、次第に料理が無くなって、皆は宿へ帰った。

 そして明日へ備え、休息の眠りについた。


 ◆


 タイムは、夢を見た。

 リアルな夢だ。

 光景が鮮明に見える。

 自分は動けない。

 物語を追体験しているように勝手に進んで行く。

 夢では、よくあることだ。

 何人か人物が登場した。

 顔や姿や声は思い出せないが、確かに知っている人物なのだとタイムは、理解した。

 特に理由も根拠もなく、常識を捻じ曲げられたように当然だと。

 夢では、よくあることだ。

 その人達と共に何かをしている。

 何をしているのかは、不思議と解らない。

 夢では、よくあることだ。

 だが場面は、急展開を迎える。

 夢では、よくあることだが、その部分だけは、その台詞の内容が理解できた。


――――魔物たちが攻めて来る!


 何らかの原因で魔物が押し寄せて来たのだろう。

 タイムは、夢の住人たちを不憫に思った。

 だが所詮は、夢。

 タイムには、救うことができない。

 その時、夢の自分が何を思ったか、飛び出して行った。

 残された者たちへ、自分が行くとだけ伝えて。

 タイムは、夢ながら感心する。

 勇気があるな、と。

 それからいつの間にか魔物たちが目と鼻の先へ迫っていた。

 先ほどもあったような、急な場面転換だ。

 そこで夢の中のタイムは、魔物たちへ挑んで行った。

 次の瞬間には、もう終わった後だった。

 夢の中で自分が称えられ、勇者だと祭り上げられている光景を眺める。

 夢の中でも自分は、自分。

 タイムも悪い気はしなかった。


 そこで目が覚める。

 どんな夢でも終わるのは、唐突だ。

 そしてタイムは、夢の内容が思い出せない。

 それも夢の定番だ。

 大雑把に魔物の大群や自分が立ち向かう姿だけだ覚えている。

 それから起き上がり、支度をする。

 そしていつも通り、タケやアイリスたちと共にギルドへ向かった。


 ◆


「今日は何を食べる?」


 アイリスがいつも通り朝食を聞く。


「僕は、パンとスープがいいですね」


 タケが言う。


「あたしは、肉だな。肉なら毎食でもいい」


 パキラも答える。

 アイリスは、流石に朝から肉はちょっと………………と流している。

 それからタイムとアイリスも答える。

 それぞれサンドイッチと、答えが同じだった。


「セピアは?」


 アイリスが聞く。

 話を振られたセピアは、少し戸惑うも答える。


「そうだね………………エゴロボかなぁ」


 その答えを聞いたアイリスは首を傾げる。


「何、その料理? どんな料理?」


 アイリスが詳しく聞く。


「やっぱり知らないか。エゴロボはね、まず霧集草っていう野草を用意して刻んで、砂糖とかと一緒に煮込んだソースを焼き魚にかけた料理だよ」


 セピアが説明するが、アイリスは首を傾げたままだ。


「霧集草も聞いたことない………………」


 それを聞いてセピアは、一瞬だけ虚を突かれたような顔をするが、誰も気付かない。


「………………そっか。知らないか。珍しい植物だからね」


 そう話していると、ギルドへ到着する。

 そして朝食を食べる。

 五人が朝食を食べ終わった頃、ギルドに一人の冒険者が駆け込んできた。

 冒険者たちの視線が注がれる。

 そして息を整える間もなく、大声を出した。


「大変だ! 魔物の軍勢がこの町に向かって来てる!」


 その一言でギルドは、騒然となった。

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