20話 夢の定石
タイムが頭を下げる。
下げている対象は、セピアだ。
「ありがとうございます!」
「あの~、いつまでこの状態のままですかね?」
セピアが疑問をていする。
タイムがお礼を言い始め、頭を下げてからおおよそ十分が経過した。
そんなに経てば、終わりも聞きたくなるのが、当然だ。
「もう、頭を上げてください」
セピアがタイムに言う。
そう言われた瞬間、タイムは頭を上げた。
「早!?」
セピアが驚愕する。
「流石に俺も疲れてきて………………」
タイムは自身の首の後ろを手で撫でた。
長時間の首の硬直で疲労が重なり、痛くなったのだろう。
しばらくして痛みが引いたのか、手を元に戻した。
「それでは、皆さんに一つお願いがあるのですが、聞いていただけませんか?」
セピアがタイムたち四人に言った。
四人は頷き、了承する。
「それでは、お願いなのですが、私もパーティに加えていただけませんか?」
「いいよ」
アイリスが即答する。
「大歓迎だ」
タイムも後に続く。
それからタケやパキラも続いて歓迎した。
誰も理由は聞かない。
皆が聞く必要などないと考えているからだ。
「ありがとうございます!」
かくして、セピアが仲間になった。
◆
皆は、ギルドを出て、森へ入った。
今回、依頼は関係なく、セピアの実力を確かめることが目的だ。
それと同時にタイムの剣も問題がないか確かめなければならない。
それには、魔物の多い森がうってつけなのだ。
タイムたちの狙い通り、探し回る手間も無く、ウドと遭遇した。
「またウドですか!?」
タケが落ち込む。
おそらく、依頼の件だろう。
他四人は、そんな事お構いなしに戦闘態勢に入る。
「それじゃあ、セピアは呪いの力を見せてくれ」
タイムが指示する。
「はい!」
セピアは、返事をする。
そして、呪いの解除を試みた時と同じように呪文を詠唱し始める。
その間にもウドの根が迫ってきている。
タイムたちは、少し心配するが、それは無用だった。
詠唱は、タイムたちの予想よりも早く終了し、呪いがかけられる。
呪いをかけられたウドは、動きが鈍くなった。
「どうですか! これが私の力です!」
セピアが胸を張って言う。
「いるかな?」
「あたしらには、いらないな」
タイムとパキラは、そんな会話をする。
事実、ウドの動き程度ならば、二人が対応可能なのだ。
パキラは、魔剣でウドを切り捨てる。
「で、でも、呪いは、一度に多くの対象にかけたり、効果を鈍足以外にも替えることができますから!」
セピアは、弁明する。
「じゃあ、例えばどんな効果?」
アイリスが聞く。
「例えば、そうですね。精神をじわじわ削ったり、幻覚を見せたり、あと細かいのなどが色々と………………」
その説明は、タイムたちにピンとこなかった。
だが、場を選べばかなり有用なことは、理解できた。
一行がそうしていると、またウドに遭遇した。
それも3体。
明らかに数が増えている。
今回は、タイムが剣を抜く。
それは、魔剣ではない。
使い勝手が良くなった呪剣だ。
呪剣「悪魂」
それは、もう抜刀しただけで瘴気を撒き散らさない。
その代わりに絶大な呪術的斬撃強化が為される。
技術が無ければ過ぎた力だろう。
だが、タイムは技術を持っている。
いつどこで習得したかも思い出せないその技術で、暴れ馬を制御するように呪剣を扱う。
さらにタイムは、更なる場所を目指す。
呪剣の斬撃に影魔法による強化と補助を追加、剣技だけでなく移動にも【影移動】を使う。
今のタイムが使えることのできる全力だ。
それをウドたちに次々と惜しみなく使用する。
それはあまりにも速かった。
ウドも、アイリスやタケと言った仲間でさえ、視認は不可能。
神技とも形容できるそれをタイムは、当然のように行った。
皆、唖然としている。
「え? 今、ウドが………………え?」
タケは状況を飲み込めていない。
「「お~!」」
アイリスとセピアは、関心したように手をパチパチと叩いている。
パキラは、目を輝かせて、剣を見ている。
ウド等は、木片となって地面に転がっていた。
◆
五人は、町へ帰る。
そして祝杯を挙げる。
全てお酒ではなく、水だ。
ただし、テーブルに並べられた料理は、いつもより豪華だ。
これは、呪剣から解放記念とセピアの歓迎会も含まれている。
呪剣から完全に開放されたわけではないが、皆にとっては楽しければどうでもいいことだ。
五人は、料理を食べながら話す。
「あの技は速かったですね。気が付いたら終わってた感じです」
「あぁ、全く見えなかった」
タケとパキラがタイムをおだてる。
「うれしいけど、よしてくれ」
タイムが恥ずかしそうに言う。
「それよりもセピアの呪いだって。あれは、場所を見極めればもっと生かせるだろ?」
タイムが話しをずらす。
「確かに呪術は、魔物へなら団体の方が優位になります。あと準備さえできれば、もっとハードな呪いもかけられますよ」
セピアは、脅かすように言う。
「もしも魔物の軍勢が攻めて来るようなことがあれば、その時は存分に発揮してもらおうか」
アイリスが返す。
そんなやり取りが続き、次第に料理が無くなって、皆は宿へ帰った。
そして明日へ備え、休息の眠りについた。
◆
タイムは、夢を見た。
リアルな夢だ。
光景が鮮明に見える。
自分は動けない。
物語を追体験しているように勝手に進んで行く。
夢では、よくあることだ。
何人か人物が登場した。
顔や姿や声は思い出せないが、確かに知っている人物なのだとタイムは、理解した。
特に理由も根拠もなく、常識を捻じ曲げられたように当然だと。
夢では、よくあることだ。
その人達と共に何かをしている。
何をしているのかは、不思議と解らない。
夢では、よくあることだ。
だが場面は、急展開を迎える。
夢では、よくあることだが、その部分だけは、その台詞の内容が理解できた。
――――魔物たちが攻めて来る!
何らかの原因で魔物が押し寄せて来たのだろう。
タイムは、夢の住人たちを不憫に思った。
だが所詮は、夢。
タイムには、救うことができない。
その時、夢の自分が何を思ったか、飛び出して行った。
残された者たちへ、自分が行くとだけ伝えて。
タイムは、夢ながら感心する。
勇気があるな、と。
それからいつの間にか魔物たちが目と鼻の先へ迫っていた。
先ほどもあったような、急な場面転換だ。
そこで夢の中のタイムは、魔物たちへ挑んで行った。
次の瞬間には、もう終わった後だった。
夢の中で自分が称えられ、勇者だと祭り上げられている光景を眺める。
夢の中でも自分は、自分。
タイムも悪い気はしなかった。
そこで目が覚める。
どんな夢でも終わるのは、唐突だ。
そしてタイムは、夢の内容が思い出せない。
それも夢の定番だ。
大雑把に魔物の大群や自分が立ち向かう姿だけだ覚えている。
それから起き上がり、支度をする。
そしていつも通り、タケやアイリスたちと共にギルドへ向かった。
◆
「今日は何を食べる?」
アイリスがいつも通り朝食を聞く。
「僕は、パンとスープがいいですね」
タケが言う。
「あたしは、肉だな。肉なら毎食でもいい」
パキラも答える。
アイリスは、流石に朝から肉はちょっと………………と流している。
それからタイムとアイリスも答える。
それぞれサンドイッチと、答えが同じだった。
「セピアは?」
アイリスが聞く。
話を振られたセピアは、少し戸惑うも答える。
「そうだね………………エゴロボかなぁ」
その答えを聞いたアイリスは首を傾げる。
「何、その料理? どんな料理?」
アイリスが詳しく聞く。
「やっぱり知らないか。エゴロボはね、まず霧集草っていう野草を用意して刻んで、砂糖とかと一緒に煮込んだソースを焼き魚にかけた料理だよ」
セピアが説明するが、アイリスは首を傾げたままだ。
「霧集草も聞いたことない………………」
それを聞いてセピアは、一瞬だけ虚を突かれたような顔をするが、誰も気付かない。
「………………そっか。知らないか。珍しい植物だからね」
そう話していると、ギルドへ到着する。
そして朝食を食べる。
五人が朝食を食べ終わった頃、ギルドに一人の冒険者が駆け込んできた。
冒険者たちの視線が注がれる。
そして息を整える間もなく、大声を出した。
「大変だ! 魔物の軍勢がこの町に向かって来てる!」
その一言でギルドは、騒然となった。




