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冒険家 〜語り部がつむぐ英雄ならざる英雄達の物語〜  作者: 製本業者


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魔女と龍 (5)

「お楽しみの最中を、野暮なことして申し訳ないが」と、いつの間にか近くにまで来ていたリーダーの声が割ってはいる。「ちとやばいんで、睦言を交わす代わりに助けていただけると大変助かるんですがねぇ」

 なんとも嫌みを含んだ言葉だが、妖女はいまいち理解し切れていないようで、きりっとした表情で振り向いた。

「わかっておる。モーラの敵は討たねばならぬのだから」

 そのとき、化け物の背中に、どこからかとも無く騎士キャバリーが現れた。奇妙な黒い陣羽織(サーコート)を纏い、手には奇妙な形の短杖ステッキを構えている。

 それで、周囲をぐるりと見渡すと、何か訳の分からない言葉を発した。多分化け物に何か指示を出したのだろう、化け物の方は相変わらず凄まじい唸り声を発しながら、頭とおぼしき方を鏡の方に向け、ここから去ろうとしていた。

 儂らは、しめたと思ったね。確かにこのまま逃げられるのはしゃくだが、命を賭してまで戦う相手かと問われたら、皆素直に違うって断言したろうね。戻ってくれるなら、それはそれで助かったって感じさ。

 もっとも、妖女の言葉を聞くまでは、だが。

「ダメだ、戻れぬぞ。その門は一方通行だ」

「なんだって」って言ったのは、誰だったろうか。まあ儂の可能性が一番高いわけなんだが。

「あの門は、一方通行じゃ。入るのを止める事は出来るが、一度入った物を戻せん。それ故、ゲートとして使われておらぬのじゃ。

 そして、妾も向こうからみたこと無き故、良くは存ぜぬが、こちらからは向こうに行けん。それは、光とて同様故、向こうからは見えるがこちらからは見えぬ。魔法も同様じゃ」

 妖女の顔が、化粧の所為でなく青ざめているのが分かった。

「どうやって止めるんだ」

「化け物が来るときには、とてつもない異音がする。それを聞いたところで、モーラの力で門を抑える」

「……つまり、土龍のブレスの所為で異音が聞こえず、で入ってきたと」

 妖女はうなずいた。

「とにかく、あいつを倒さないとダメって事か」

「どうやって……それが問題か」

 妖女は、真っ青な顔のまま黙り込み、ただじっと鏡に突進する化け物の姿を見つめていた。

 化け物にまたがった騎士の方も、儂らが攻撃をしかけて来ても対応できるよう、偵察兵スカウトみたいに周囲をつねに確認していたが、自分からしかける気は毛頭無いみたいだった。そして、再び化け物の中に身を隠した。

 遠巻きにみてる儂らを尻目に、土龍の倒れてる辺りまで一旦後退する。一方通行だと知らない所為で、鏡をぶち破ろうとしているんだと分かった。

 そのとき、あの土龍を倒したのと同じような魔法が鏡から放たれた。

 ドゴンとでも表現すべき、大きな爆発音。

 だが驚くべき事に、この化け物は、あの龍殺しの一撃を耐えきった。

 儂らは、いろんな意味で戦慄したよ。

 まず、龍殺しの化け物は龍殺しの魔法を弾くだけの堅い甲羅を持っている事。

 次に、龍殺しの化け物は一匹だけじゃ無かったこと。

 それと、龍殺しの化け物は対立してるらしいって事。

 最後に、その龍殺しの化け物が増えるかもしれないって事。

 特に、最後は悪夢というのも可愛らしい、洒落にならない事実だった。

 ただ、耐えきったといっても、流石に少しは堪えたらしい。だから、ちょっとの間がだが、動かなくなった。魔法が当たった当初は、やられたのかとも思ったんだが、その後でゆっくりとだけど嘴の向きを動かし、鏡に向かって放った。

「やめるのじゃ」という妖女の絶叫をふさぐようにして起きる轟音。そして、魔法は鏡の表面で砕け散った。魔法の爆発が収まった頃に再び現れた騎士も、呆然としている。

 こちらからのあの、龍殺しの一撃が届かないのに、向こうからはどんどん撃ってくる。

 そして、防ぐ手立ての土龍は、龍殺しの一撃で再び倒れている。

「……打つ手無しかよ」

「これ以上増えないようにする手はある」

 妖女は、門を見据え、きりっとした声で告げた。

「手、どんな手だ」

「門の支柱を壊せばよい」

「なるほど。同時に、侯爵の野望も壊されるってわけか」

 もうこの段階になると、全員依頼の真の目的が分かってきたから、素直にリーダーの言葉にうなずいた。

「だが、どうやって」

「簡単に壊せるのか」

 儂らの言葉に、妖女は何ともいえない悲しげな笑みを浮かべた。

「モーラでも壊せぬ」

「ということは……」

「ああ、あ奴に壊さす以外に手はあるまい」

 簡単とはいかぬがな、と妖女は青ざめた唇の端を若干歪めた。全く、簡単もなにも、不可能じゃないってだけでしかない。

 だが、そんなこと言ってられない。

 儂らは、何とか鏡の支柱を倒させる方法を考えた。考えたがなにも思い浮かばない。

 半ばやけになった儂は、騎士に向かって怒鳴り、鏡の柱を指さした。何度も何度もな。

 突然親指を立てた騎士は化け物の中に消え去り、同時に鏡の柱に向けて魔法が放たれた。どうやら意図を理解してくれたらしい。

 そして……柱に小さなくぼみが現れた。

「頑丈なのも考え物だな」

「おい、どうする」

 その言葉を遮るように、鏡から放たれる魔法。そして、今度は儂らを狙ったらしい魔法の矢も放たれてきた。とっさに妖女をかばう。直撃こそ免れたが、どうやら太ももを掠めたらしい。

 その一撃で、化け物は再び沈黙し、精霊使いも魔法の矢に利き腕を貫かれてしまった。

「抱き合うのも仕方ないが、他に手はないのか」

 リーダーの声にはっとして、儂は抱きかかえていた妖女を離した。

 怒りに顔を紅潮させ、妖女は背中側に結わえてあった先に平らな板が付けられたワンドを取り出すと、ぶんと一降り。

「をゐ……」

 その鋭い一降りをみて、儂らは眼を丸くした。

 で、その杖で突貫する妖女の姿が目に浮かび、本気で止めようとしたそのとき、 「詠唱の邪魔だ」と、何かを察した精霊使いの言葉が、儂とリーダーを押しとどめた。

 そんな儂らを無視して、彼女は舞踏というよりも武闘の型を思わせる力強い動きとともに呪文を唱えている。

「何かわからないが、彼女の呪文を助ける必要がある」

 精霊使いの言葉に、儂らはうなずき、妖女の周囲を囲んだ。

「ざわめき……うたい……ねがい……いでよ!」

 灰化の魔法みたいな呪文を唱えると同時に、妖女は杖を地面に突き刺した。


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