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冒険家 〜語り部がつむぐ英雄ならざる英雄達の物語〜  作者: 製本業者


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魔女と龍 (4)

 化け物は、鏡の前まで後退すると停止して、その長い嘴を左右にふって、辺りを見回していた。どうせなら、そのまま鏡の中に消えてくれれば良いものを。嫌全くの本心なんだが。

 斧使いを欠いた為、武器を使っての牽制は、リーダーの役目となる。一撃の威力では劣るが、素早い確実な剣捌きは歴戦の勇者とタメがはれるほどだ。

 儂も化け物の前を前を飛び跳ねて何とか気をひこうと一生懸命だった。

 だが、化け物は儂らの方に向こうともせず、再び土龍に嘴を向けたんだ。

 理由は、そちらの方をみてわかった。妖女の呪文か何かが効いたのか、土龍が再び立ち上がろうとしていたからだ。確かに傷を受けてはいるみたいだが、化け物の魔法を受ける前にその強力な一撃をお見舞いできれば、まだ逆転の可能性は十分ある。

 同時に、儂らはその機会に攻撃を加えていった。何とか弱点を探るんだ。土龍と相打ちになってくれれば儂らとしたら万々歳だが、そう上手くいくはずもない。

 武器の専門家でも、魔法を使えるわけでも無い儂は、せいぜいが仲間の邪魔にならない程度にうろちょろして、ちょっとした何かを探すことに専念する。

 そのとき、そのちょっとした何かに気づいた。

 そして、気がつくと同時に、儂は土龍の方に走っていた。いや、嘴の示す方向に、今まさに土龍に指示を与えんとする妖女の姿を認めたら、考えるより先に躰が動いとったんだ。他の奴は、何とか化け物の弱点を見つけようと必死だったから、気づかなんだんだろうな。 逆に妖女のほうは、土龍に指示を与えることに目が行ってしまい、他が見えて無かった。

 そして、まさに嘴から龍殺しの魔法が放たれる直前、妖女を抱くようにして捕まえると、その勢いのまま前方に勢いよく跳んだ。そして、空中で体を入れ替え、背中から滑るように地面に着地。今と違って身のこなしが軽かったから、化け物の嘴から魔法が飛び出す前に妖女の身を抱えてジャンプするなんて芸当も可能だったんだが、それでも儂の方はこけた拍子に擦り傷だらけになっちまった。

「何をする」

 自分の置かれた状況がわからず、怒りと当惑とを含んだ声だった。だが、妖女が言い終わるか終わらないかのうちに、再び土龍が爆ぜた。土龍の方は、再びどすんと地に伏せる。

「モーラ」

 妖女は泣き声で使役する土龍の名を叫ぶと、立ち上がって走り寄ろうとした。

「ダメだ、危ない」

「離して、モーラが」

「落ち着くんだ。今跳びだしたら、君が危ない」

「モーラが、モーラが」

「とにかく、落ち着け」

「いや、離して」

 涙で顔をぐちゃぐちゃにして訴える妖女の両腕をしっかりと握ると、

「まず、落ち着け。そんな状態じゃ、助けられるものも助けられなくなるぞ」

と、ゆっくりと話しかけた。

 妖女は、儂をじっと見返してきた。そのときになって、妖女が実はかなり若い事に気がついた。若輩者《小娘》と舐められないよう濃い化粧で年齢をごまかしていたのだろうが、涙で流れ落ちた跡が地肌についてぐちゃぐちゃな状況だ。

 だが、その瞳には先ほど迄と違って力が戻っていた。

「何故助けた」

 妖女の声は、まるで砂糖菓子みたいに甘くて、全く抗しがたいモンだった。儂に少しでも女性にもてる要素が有ればいちころだったろうね。まあ、幸か不幸か、儂に女性を引き付ける要素なんて全く無かったおかげで、素早く我に返った。

 だから、|女房にご注進《かあちゃんに告げ口する》って言うなよ、頼むから。全く洒落になってないんだから。

 で、ここでリーダーなら洒落た殺し文句の一つでも、魔法使いなら熱いまなざしをとか、誑かして逆に利用できたんだろうけど生憎儂は口べただからなぁ。

 なにみんなして嗤ってんだ。良し、そういう気なら、こっちにも考えがある。エール二杯で無いと話さないからな。え、そんなこというやつが口べたなはず無いだろうって。上手いこと言うね。じゃあ、次からって事にしとくよ。

 それはさておきだ、儂はちょっとだけ考えた。実のところ意識せずの行動で、理由を説明しろって言われたって、正直、説明しようがないってのが本当だ。

 だから黙ってると、

「貴様らの目的は妾を殺す事であろう。放っておけば目的は果たせたはず。いや、自らの手でというならば、目的を果たせば良かろう」と妖女がたたみかけるようにまくし立てる。

「いや、目的を果たすもなにも、目的はもう達してるから」

 儂の言葉に怪訝そうな表情を浮かべた妖女に、儂はリーダーの真似をして、理屈っぽく説明した。

「俺らの目的は、侯爵の依頼を果たすこと。そして、侯爵の依頼は、魔女退治。要するに無力化だな。今のあんたは、あんた自身の力は知らんが土龍という最大の戦力を無くした状態だ」

 つまり、無力化されていると伝える。

「だが、何故殺さぬ」

「まず第一に、目的は退治であって殺害無いこと。

 第二に、退治のために殺すのは、目的でなく手段だって事。

 最後に」

「最後に」

 つられて同じ言葉を言う妖女に、儂はリーダーのよく使う言葉を告げて見た。

「最後に、生きて帰らなきゃ、目的は達成したと言えないってこと」

 儂の言葉に、妖女は驚いたようだが、少し考え込んでから 首をかしげ、

「だが、最後の生きて戻ることと妾を殺すのを止すことの関連がわからぬが」

 ……どうやら、儂は論理的説得ってやつが苦手らしい。


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