表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険家 〜語り部がつむぐ英雄ならざる英雄達の物語〜  作者: 製本業者


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/27

ですぺら〜と☆くわく 聖杯探索のその横で(9)

ホッブの声が響くと同時に、三人は茂みから飛び出し、魔法陣めがけて一直線に駆け出した。

スケルトンたちが一斉に動きを止め、ぎこり、と首を巡らせる。骨同士が擦れ合う不快な音が、森の中にこだました。


「ガラクタどもなんざ、まとめて吹き飛ばしてやるよ!」

ボガートが勢いよく槍を振りかざし、真っ先に突っ込む。

最初の一体を横薙ぎに払って姿勢を崩させると、そのまま踏み込み、回し蹴りで骨の塊ごと吹き飛ばした。


「こっちは任せる!」

ホッブは振り返りもせずに大剣を構え、魔法陣を守るスケルトンの群れへ正面から突っ込んだ。

一振りごとに骨が砕け、乾いた音が立て続けに響く。

力任せに見えて、その刃筋には無駄がなかった。


「遅れるわけにはいかないわね!」

ニーアもまたスケルトンの間を駆け抜けながら、鋭い突きを繰り出す。

新しい槍の穂先は驚くほど素直に伸び、彼女の狙いをそのまま形にした。

喉元、胸骨の継ぎ目、支えの弱い関節――正確無比な一撃が、次々とスケルトンを崩していく。


「無茶だけはするなよ!」

ホッブの怒鳴り声に、

「わかってるよ!」

「そっちこそね!」

二人の声が返る。


それを聞き、ホッブはほんの一瞬だけ口元を緩めた。だが、すぐに表情を引き締める。

この程度で気を抜ける相手ではない。


そのとき、ホッブの正面にひときわ大きなスケルトンが立ちふさがった。

巨体に似合わぬ速さで剣を振るい、力任せに押し潰そうとしてくる。

だが、動きは見えていた。

「ふっ!」

ホッブが振り下ろされた剣を半歩でかわす。

大剣は地面に深く食い込み、案の定、大きな隙が生まれた。

そこへホッブは躊躇なく踏み込む。

腰を落とし、全身の力を乗せた横薙ぎが、スケルトンの胴をまとめて砕き割った。

骨の巨体はばらばらに吹き飛び、音を立てて地に崩れ落ちる。

「よし――」

短く息を吐いたホッブは、しかしすぐに意識を前へ戻した。


幸いというべきか、魔物使いは魔法陣の維持に集中しきっており、周囲への注意が明らかに薄れている。

今なら届く。


「このまま魔法陣を叩き壊す!」

ボガートが叫ぶ。

ニーアは無言でうなずき、槍を握る手に力を込めた。

一気に踏み込み、魔法陣の中心へ向けて穂先を振り下ろす。

その一撃が刻まれた紋様を断ち切った瞬間、青白い光が激しく脈打った。

空気がびり、と震え、次の瞬間、魔法陣は音もなく崩れるように掻き消えた。


「「……やったか!」」

ボガートが息をつきかけた、その瞬間だった。

魔物使いが、喉を引き裂くような悲鳴を上げる。


「ぎゃあああっ!」


どうやら破損した魔法陣から、それまで注ぎ込んでいた魔力が逆流したらしい。

ニーアにもボガートにも、術者である以上、ただでは済まないことは分かった。呪詛返しにも似た反動をまともに食らえば、注ぎ込んだ魔力のぶんだけ自分を焼く。まともな術者なら、立っているだけでも奇跡だ。


だが、魔物使いは膝をつきながらも、憎悪に満ちた目で三人を睨みつけた。


「聖杯の魔法陣が……!

貴様ら、よくも……!」


怒りに満ちたその叫びと同時に、彼の傍らに控えていた二体のガーゴイルが、石をきしませながら翼を広げた。


「来るぞ!」


ホッブが叫ぶ。

次の瞬間、ガーゴイルたちは風を叩いて宙へ舞い上がり、そのまま一直線に急降下してきた。

上から叩き潰すつもりだ。

しかも、それに呼応するように、残っていたスケルトンどもまでが一斉に走り出す。


空と地上から、同時に来る。

真正面から受ければ、一気に崩される。


「まずは空の厄介者から!」


ニーアが叫び、槍を大きく薙いだ。

穂先の軌道をなぞるように、炎の矢が唸りを上げて飛ぶ。


火矢は一体のガーゴイルの片翼を直撃した。

石の身体そのものは頑丈でも、翼は飛ぶために薄く作られている。しかも、魔法の炎は普通の火と違って、そう簡単には消えない。


翼を焼かれたガーゴイルは大きく体勢を崩し、そのまま不時着――どころか、墜落に近い勢いで地面へ叩きつけられた。

だが敵もただでは終わらない。落下の勢いをそのまま殺さず、転がる石塊のようにボガートへ突っ込んでくる。


「危ない!」


ニーアの声より早く、ボガートは槍を水平に構えていた。

同時に、低く短い呪文を唱える。

これまで誰にも見せたことのない、彼が使える唯一の攻撃魔法だった。


次の瞬間、ガーゴイルの頭上に淡い光が走る。

生まれたのは、鋭く尖った氷の柱。

それが落下の勢いそのままにガーゴイルの肩口と地面をまとめて貫き、石の身体をその場へ縫い止めた。


「っ、これでどうだ!」


ニーアほどの威力はない。

だが、動きを止めるには十分だった。


「ありがとう、助かったわ!」


ニーアが短く言う。

だが礼を返す暇もない。


「まだだ! 来るぞ!」


ホッブの怒声に顔を上げると、残ったスケルトンどもが剣を掲げ、三人へ殺到してくるところだった。

さらに上空では、もう一体のガーゴイルが旋回しながら、獲物を狙って機会をうかがっている。


「させるかよ!」


ボガートは地面に縫い止めたガーゴイルの肩を足場にして跳ね上がり、その勢いのまま槍を突き下ろした。

穂先が石の首を砕き、そのまま振り抜いた反動で、背後から迫っていたスケルトンを蹴り飛ばす。


「ホッブさん、そっち頼みますよ!」

「任せろ!」


ホッブは短く答え、大剣を構え直した。

次の瞬間、最後のガーゴイルが真上から襲いかかってくる。

石の爪が風を裂き、まともに受ければ骨ごと持っていかれそうな一撃だ。


だがホッブは退かない。

半歩だけ踏み込み、振り下ろされる爪の軌道をぎりぎりで外す。

そのまま大剣を逆袈裟に振り上げ、ガーゴイルの脇腹を叩き割った。


石片が飛び散る。

それでもガーゴイルは落ちない。

翼を打ち鳴らし、無理やり体勢を戻して再び距離を取ろうとする。


「逃がすか!」


そこへニーアの槍が閃いた。

彼女は地面を蹴り、スケルトンの肩を踏み台にして跳び上がる。

届くはずのない高さへ、ほんの一瞬だけ穂先を届かせるために。


槍の一撃が、傷ついた翼の付け根を正確に貫いた。


ガーゴイルの身体が大きく傾ぐ。


「今だ!」


ニーアの声に、ホッブが迷わず踏み込む。

全身を捻り込み、渾身の一撃を叩き込んだ。


大剣が石の首を断ち割る。

鈍く重い音とともに、ガーゴイルの頭部が砕け、巨体はそのまま地に墜ちた。


「これで終わりだ!」


ホッブが吼える。

同時に、最後に残っていたスケルトンの胸骨をボガートの槍が貫き、骨の身体は音を立てて崩れ落ちた。


「あんた……ほんとに魔法戦士だったのかい」

ニーアが呆れ半分に言うと、ボガートは肩をすくめた。


「いやぁ、魔力が少なすぎてね。姐さんみたいに景気よくぶっ放すなんて無理っすよ。せいぜい牽制か、足止めが関の山です」

「それで、隠してたのか」

ホッブが低く問う。ボガートは少しだけ笑って、槍の石突きを地面に軽く打ちつけた。

「隠してこその切り札でしょう。

もっとも……一時間に二発も撃てるか怪しいんじゃ、札ってほど立派でもないですけどね」


砕けた骨と石片が散らばり、焦げた魔法陣の残骸から薄く煙が上がっている。

森に満ちていた殺気が、ようやく途切れた。


「……最初からそれを言ってれば、少しは見直したのに」

「言ったら切り札にならないじゃないっすか」


三人は荒い息をつきながら、反射的に次の敵影を探した。

静寂が戻る――そう思えたのは、ほんの一瞬だけだった。


だが、魔物使いはその場に立ち尽くす三人を冷たい目で見つめ、口元に薄笑いを浮かべた。

「勇者どもが探索で海に行っている今こそと思ったのに、まったく甘かったと言うことか。

だが、コレで終わりだと思ったか?

愚か者どもが……!」

魔物使いが手を掲げると、そこから銀色の光を放つ小さな塊がぽつりと地面に現れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ