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冒険家 〜語り部がつむぐ英雄ならざる英雄達の物語〜  作者: 製本業者


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18/19

ですぺら〜と☆くわく 聖杯探索のその横で(2)

「しけた村だねぇ」

なんだかんだでリーダー格に収まった精霊使いのベン・ニーアが、村の入口で足を止め、ひなびた風景に目を向けて呟いた。最近まで街で暮らしていた彼女にとって、田舎そのものは見知っていたとはいえ、さすがにここまで鄙びた景色は別世界のように思えた。


「いやいや、こういう場所だからこそ、噂の勇者なんて絶対に来やしないんですよ」

後ろから追いついてきたボガートが、にやにやと肩をすくめながら応じる。


「確かにね」

ニーアはため息をつき、金髪を指先でもてあそびながら冷ややかに笑った。

「まあ、とっとと『お宝』を見極めて、頂くものを頂いたら、さっさとズラかるだけよね。それで、どの作戦で行く?」


「ここは正攻法オーソドックスで行きましょう。

まず相手に気づかせて――『あっ、勇者様だ!』ってなるやつっすよ」


ボガートが得意げに言うと、ホッブが渋い顔で腕を組む。

「お前の言うこと、いちいち胡散臭いんだがな」


「またまた、そんなこと言っちゃって~。でも、成功間違いなしっすから!」


ニーアは呆れたように肩をすくめた。

「……わかったわ。じゃあ、さっさと行くわよ」


村の中に足を踏み入れると、ニーアは目を引きそうな豪奢な杖を軽く握り、誠実そうな声で、野良仕事帰りらしい農夫に話しかけた。

「あの、おたずねしますが……最近、魔物が増えたりしていませんか? いえ、そうでなくても、この辺りに遺跡や祠など、何か古いものがあったりしません?」


農夫は一瞬、三人を疑うようにじろりと眺めた。怪しい旅人が突然現れれば、それも当然の反応だろう。だが彼は、わずかに訛りのある声で答えた。

「……ほこらぐれぇならあるが、遺跡だのって話なら、そんなもんはねぇなぁ」


「そうですか……なるほど、ここじゃなかったみたいね」

ニーアがそう言って、そっけなく首を横に振る。その仕草は冷静を装っていたが、どこか名残惜しげにも見えた。


「いや、噂がまだ広まってないだけって可能性もあるんじゃないっすか?」

すかさずボガートが言葉を被せ、手を広げて笑みを浮かべる。


農夫は少し怪訝そうに目を細めながらも、考え込むように首をひねった。

「そういやぁ……この秋はやけに野ウサギがわいて、畑を荒らしちまったっつう話があったな。収穫が終わった後だったから良かったもんの……」


「ほう」

ニーアが興味を引かれたように小さく相槌を打つ。その横で、ホッブが重々しい声でうなずいた。

「……やはり」


その一言に、農夫の表情がわずかに変わる。ホッブの威圧感ある体格と低い声が、何か意味ありげに響いたのだろう。


だが、緊張が漂い始めたそのとき――少し離れた草むらが、がさりと大きく揺れた。


ニーアは即座に杖を掲げ、鋭く指先を払う。

「炎よ――行け!」


杖の先端から飛び出した火の玉が草むらを直撃し、そこから転がるように現れたのは、焼け焦げてのたうつ妖魔ゴブリンだった。


農夫は驚きに息を呑み、その場で立ち尽くした。ゴブリンを凝視したまましばらく動けずにいたが、やがて我に返ると、慌てた身振りで三人を促す。

「お、おい! 村長むらおさのところに案内する! 話を聞いてくれ!」


農夫は興奮した様子で手を振り、三人に先導を促した。

その背中を見送りながら、ボガートが小声で呟く。

「へへ、思ったよりスムーズに行ったっすねぇ」


ニーアはため息まじりに彼を一瞥した。

「アンタの適当な話にしては、ね」


ホッブは腕を組み直し、短く鼻を鳴らした。

「……芝居が過ぎたな。村人が感づかなきゃいいが」


「感づくわけないっすよ!」

ボガートは軽口を叩きながら笑うが、ニーアは鋭い目で彼を睨む。

「いい? 次をしくじったら承知しないわよ」


「了解っす、マムさん!」


農夫は先頭に立ち、村長の家に向かって早足で歩き出した。

後に続く三人も、内心ではしてやったりと思っている。


「さっきのは、少し出来すぎだったわね」

ニーアがぼそりと呟く。


ボガートは肩をすくめた。

「いやいや、あの草むらから出てきてくれて助かったっすよ。

……仕掛けた方が空振ったときは、どうなることかと思いましたけど」


ホッブが低く唸る。

「偶然に助けられたってことか」


「いやぁ、世の中、上手く回るときは回るもんで――」


「軽く言うな」

ホッブが短く切って捨てた。


ニーアは細めた目で二人を見た。

「……甘い考えね。でも、今のところ順調なのは認めるわ」


三人は小さな成功に気を良くしたまま、村長の家へ向かって歩いていった。

村の外れでは、誰にも気づかれぬまま、また別の草むらがひそかに揺れていた。


村長の家は、この村の規模相応といったところで、代官が徴税に訪れた際、休憩くらいはできても宿泊までは難しいだろうという程度の造りだった。とはいえ、柱も床もそれなりにしっかりしており、来客用の長椅子も「田舎にしては悪くない」と欲深い代官でさえ納得しそうな品ではある。


その応接間とも呼べる土間に通された三人は、まず目の前の二人の男を見て少し戸惑った。片方が村長らしいことはすぐに分かったが、隣に座るもう一人が何者なのかは見当がつかなかったからだ。


だが、その疑問はすぐに解けた。初老の男が口を開く。


「私がこの村の村長です。そしてこちらは近隣の村の長。少し事情があって、今は私の家に滞在しております」


「なるほど」

ニーアが控えめにうなずく。二人は三人をじっと見つめ、どこまで話してよいものか探っているようだった。


やがて村長が、重そうな声で切り出した。

「実は……最近、小鬼ホブどもがちょくちょく現れるようになりましてな」


その言葉に、三人は軽くうなずくだけで口を挟まず、静かに耳を傾ける。


「もちろん、前々からたまに出ることはあったんです。ですが、これまではせいぜい玄関先を荒らしたり、小屋から豚バラや燻製肉ハムやベーコンを盗んでいく程度で……まあ、我慢もできました」

村長は深いため息をつき、首を振った。

「それが最近では、人にも危害を加えかねない動きを見せ始めているのです」


ニーアは目を細め、考え込むように言葉を選んだ。

「なるほど……それは確かに、看過できませんね」


ホッブも重々しくうなずく。

「村の安全を脅かす相手なら、対応が要るな」


「ですが、残念ながら私たちにも時間の余裕はありません。他に果たすべき探索クエストがありましてね」

ボガートが、いかにも自然な調子で話を継ぐ。


村長は残念そうな顔を見せたが、そこでニーアが静かに付け加えた。

「ただ……皆さんが本当に困っておられるのは分かりました。状況だけでも、一度見せていただけませんか。その上で最善の手を考えることはできるかもしれません」


村長の顔がわずかに明るくなり、隣の村の長も頷いた。

「もちろんです。では、まず現状を細かくお伝えいたします」


村長は当初、この三人を警戒していた。こんな辺鄙な村へふらりと現れる冒険者が、必ずしも信用できるとは限らない。押し売りの冒険者や詐欺師の類もいないではないからだ。

だが、この三人はどこか違って見えた。


見た目だけで騙すつもりの者なら、もっと派手に飾り立てるはずだ。

それに、彼らはすでにゴブリンを一匹、その場で仕留めてみせている。もし詐欺師なら、もっと弱い獣か、せいぜいコボルトの死体でもどこかから持ち込んで見せびらかしただろう。だが話を聞く限り、あれは偶然ではあっても、その場で討ち取ったとしか思えない。


そして何より、村長の胸には古い記憶がよみがえっていた。若い頃、一度だけ会ったことのある『本物の英雄』。その者たちの物腰や、必要以上に威張らぬ話しぶりが、どこかこの三人に重なる気がしたのだ。


(最近の勇者様たちに触発されて、奮い立った冒険者……そんなところか)


そう結論づけた村長は、ひとまず疑うのをやめた。

「では、村人を呼び集めますので、少しの間お待ちください」


村長の言葉を受けて、ニーアは静かに微笑んだ。

「ありがとうございます。では、皆さんが集まるまでの間、一度、村の周囲を確認させていただきます」


「いやぁ、さすがマムさん……でなく、これで皆さんも安心しますよ」

ボガートが調子よく笑い、ホッブは呆れたように小さくため息をついた。


村長は感謝の言葉を述べながら、三人を見送る。土間を出ていく背中を見つめながら、胸の内でそっと呟いた。


(……やはり、この三人はどこか普通の冒険者とは違う。あの物腰といい、手際の良さといい、ただ者ではない。本当に、村を守ってくれるかもしれん)


期待と不安が入り混じる中、三人はすでに次の行動へ移る準備を始めていた。


「いやぁ、姐さんの話術、さすがっすね。村長さん、完全に信じ切ってた顔してましたよ!」

ボガートがにやりと笑うと、ニーアは冷ややかな目を向けた。

「アンタが余計なことを言わなかったから、うまくいっただけよ」


「いやいや、俺だってちゃんと支えましたって! ほら、最後の“安心しますよ”のところとか!」


「……その割には、少し調子に乗りすぎてたぞ」

ホッブがぼそりと刺す。


「えっ、ホッブさんまで!? そんなにダメ出しされたら、俺だってへこむんですからね!」

ボガートは大げさに肩を落としたが、ニーアとホッブは顔を見合わせ、そろって小さくため息をついた。


「とにかく、次が本番よ。準備を怠らないこと」

ニーアが鋭く告げると、ボガートは慌てて背筋を伸ばす。

「へい、了解っす、姐さん!」


こうして三人は、村を守るという新たな「仕事」へと踏み出していった。

それぞれ異なる思惑を胸に抱えたまま。

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