白銀の化け物
「榊原。お前、異動な」
朝一番。
格納庫脇にある小さな詰所へ呼び出された榊原迅准尉は、上官から差し出された一枚の命令書を見て、しばらく瞬きを繰り返した。
「……は?」
「だから異動だ。今日付けで第零特務戦術部隊所属。レオン・クロフォード一佐の専属随伴官になる」
「いや、ちょっと待ってください」
迅は紙を持ったまま顔を上げる。
聞き間違いであってほしかった。
しかし目の前の少佐は、気の毒そうな顔こそしているものの、訂正する気配はまるでない。
「レオン・クロフォード一佐って……あの?」
「どの?」
「いや、どのって……いるでしょう。噂になってる奴ですよ」
迅は指を折る。
「一騎当千」
「うん」
「神々の盾」
「そうだな」
「白銀の巨神」
「それもだ」
「戦域ひとつを一人でひっくり返したとか、敵の機動兵器四十二機を単機で撃墜したとか、巡洋艦の主砲を真正面からかわしたとかいう――」
「半分くらいは本当らしいぞ」
「半分本当なのが一番怖いんですけど」
少佐が肩をすくめた。
レオン・クロフォード。
統合宇宙軍に所属する一佐。
それ以外の経歴は、ほとんどが特級機密指定。
どこの出身なのか。
いつ軍に入ったのか。
どんな経緯で一佐まで昇進したのか。
そもそも男なのか女なのか、それすら部隊内では諸説あるほどだった。
戦場に姿を現せば、敵軍の進攻が止まる。
彼が守る宙域は落ちない。
彼が攻めた戦線は崩壊する。
そんな馬鹿げた戦績から付いた呼び名が、『神々の盾』。
そして彼が操るとされる特殊機動兵器の姿から、『白銀の巨神』。
「……で、俺が何をするんです?」
「平たく言うと」
少佐は腕を組んだ。
「化け物のお世話係だな」
「げっ」
思わず本音が漏れた。
少佐は笑った。
「安心しろ。俺たちも詳しいことは何も知らん」
「何も知らない相手のところに部下を放り込むんすか?」
「上からの命令だからな」
「理由は?」
「機密」
「仕事内容は?」
「機密」
「クロフォード一佐の人柄は?」
「機密」
「俺が選ばれた理由は?」
「それも機密」
「なんなんすか、この軍」
迅が頭を抱える。
二十四歳。
士官学校出身ではなく、現場叩き上げで准尉まで上がってきた。
機動兵器操縦時間は同期でも群を抜いており、実戦撃墜数十三。
若手の中では間違いなくエースと呼ばれる側の人間だった。
だからこそ、もっと前線寄りの異動なら理解できる。
新型機のテストパイロットでも分かる。
しかし。
「一佐の、お世話係……」
「まあ、機嫌損ねないように頑張ってこい」
「犬の世話みたいに言わないでもらえます?」
「上官命令だ」
少佐は迅の肩をぽんと叩いた。
「行ってご機嫌取ってこい」
「最悪だ……」
それが、榊原迅とレオン・クロフォードの出会いの始まりだった。
*
第零特務戦術部隊は、基地の最深部に存在していた。
存在そのものが隔離されていると言っていい。
認証ゲートを三つ。
生体認証を二つ。
最後には武装した警備兵による確認まで入った。
迅はそこでようやく、自分がとんでもない場所へ飛ばされたのだと実感する。
案内された先は、意外にも普通の執務室だった。
重厚な扉の前で制服を整える。
一度息を吐き、ノックした。
コンコンコン。
「どうぞー」
若い声だった。
迅は一瞬眉をひそめた。
秘書か何かだろうか。
「失礼します。本日付で配属となりました、榊原迅准尉です」
扉を開ける。
「レオン・クロフォード一佐の専属随伴官を拝命しました。よろしくお願いいたします」
部屋の奥。
大きなデスクがひとつ。
その向こうに置かれていた椅子が、ゆっくりとこちらへ回った。
「うん。よく来たね」
迅の思考が止まった。
「僕がレオン・クロフォードだ。初めまして、榊原准尉」
そこにいたのは。
どう見ても、子供だった。
さらりと肩にかかる銀髪。
透き通るような青い瞳。
血の気が薄いほど白い肌。
軍服を着てはいるが、身体は驚くほど華奢で、その肩幅には一佐の階級章が不釣り合いなほど大きく見える。
そして何より。
彼が座っていたのは、執務用の椅子ではなかった。
車椅子だった。
迅は黙った。
レオンも黙った。
三秒。
五秒。
やがてレオンの口元が、にやりと持ち上がった。
「今、子供じゃんって思ったね」
「……いえ」
「嘘が下手だなぁ」
くすくす笑う。
「あの……」
「ちなみに十五」
「はい?」
「今年で十五歳。大人だからね」
迅は完全に固まった。
十五歳。
目の前の少年が。
佐官。
それも一佐。
自分より九つも年下の直属上官。
迅の頭の中で、常識という名の何かが音を立てて崩れていく。
「まあ、仰々しい名前で呼ばれているのは知ってるよ。一騎当千だとか、神々の盾だとか、白銀の巨神だとか」
レオンは自分の二つ名をまるで他人事のように並べ、頬杖をついた。
「正直、恥ずかしいからやめてほしいんだけどね」
「……」
「でも、まあいいや」
青い瞳が迅を見る。
笑っている。
なのに。
その一瞬だけ、迅は背筋に冷たいものを感じた。
「今日から君と僕は一蓮托生だ」
静かな声だった。
「よろしくね、榊原准尉」
「……よろしくお願いします、クロフォード一佐」
迅は敬礼する。
レオンも軽く返した。
そして。
「あ」
何か思いついたように声を上げる。
「あとさ」
「はい?」
「車椅子だから弱そうとか思った?」
「思ってません」
「今ちょっと間があった」
「気のせいです」
「あはは」
レオンは楽しそうに笑った。
「いいよいいよ。普通そう思うから」
そして、自分の細い脚を指先で軽く叩く。
「実際、この脚じゃまともに立てないしね」
あまりにもあっさり言われて、迅は返事に困った。
しかしレオンは気にする様子もない。
「ただ、一個だけ覚えておいて」
青い瞳が細くなる。
「戦場で見た目だけで相手を判断すると、死ぬよ」
「……」
けらけらと笑う。
「まあ、准尉から見ればまだ毛も生え揃ってないガキみたいなもんだけどさ」
「一佐」
「なに?」
「十五歳がそういうこと言わないでください」
「細かいなぁ」
第一印象が完全に崩壊していく。
神々の盾。
白銀の巨神。
もっとこう、無口で冷徹な男を想像していた。
少なくとも、こんな子供ではない。
「さて」
レオンが手を叩く。
「信用できないと思うから、一戦やろうか」
「……一戦?」
「模擬戦」
迅の眉が上がった。
「君、機動兵器乗りでしょ?」
「……ええ」
「しかも結構強い」
「まあ、それなりには」
実戦撃墜数十三。
模擬戦なら部隊内トップ。
その自負はある。
するとレオンは、また楽しそうに笑った。
「よかった」
嫌な笑顔だった。
「大丈夫。ちゃんとハンデ付けるから」
*
十分後。
迅は第零区画の戦闘シミュレーターに座っていた。
全天周囲モニターが起動し、シートが身体を固定する。
通信回線が開いた。
『好きな装備つけてきてねー』
レオンの呑気な声が響く。
『僕、練習機で行くから』
「……」
迅のこめかみに青筋が浮かんだ。
完全に舐められている。
こちらは現役の実戦パイロット。
向こうは十五歳。
しかも車椅子。
それなのに練習機。
「……いい度胸してるじゃないですか」
迅は機体設定画面を開いた。
高出力ビームライフル。
近接用ブレード。
多目的ミサイル。
追加スラスター。
対ビームシールド。
自分が最も得意とする中近距離戦仕様。
一切遠慮するつもりはない。
本気で叩き潰す。
ハンデを付けたことを後悔させてやる。
通信を開いた。
「クロフォード一佐」
『んー?』
「お胸、お借りしますね」
『どうぞどうぞ』
迅は笑った。
「自分がエースだってところ、見せてやりますよ」
一拍。
レオンの楽しそうな声。
『うん』
そして。
『やってみて』
――PROGRAM START.
視界が暗転する。
次の瞬間、コックピット周囲に無数の星々が広がった。
月軌道外縁部を模した仮想宇宙空間。
岩塊。
デブリ。
廃棄された人工衛星。
迅は即座に機体を旋回させる。
レーダー。
熱源反応なし。
光学反応なし。
「いない……?」
レオンの機体情報は開始と同時にロストしていた。
「ステルス?」
いや。
練習機にそんな装備はない。
迅は慎重にスラスターを吹かす。
視界を走査。
右。
左。
後方。
いない。
その時だった。
――WARNING.
警告音。
方向表示。
真上。
「っ!?」
反射的に機体を捻る。
白い練習機が、迅の頭上を通過した。
速い。
いや。
速いなんてものではない。
迅が操縦桿を倒すより先に、白い機体の銃口が閃いた。
一発。
右腕のビームライフルが吹き飛ぶ。
「なっ――!」
二発。
左肩のミサイルポッド。
三発。
背部追加スラスター。
次々と警告表示が赤く染まる。
迅は即座に反撃。
残った腕でビームを連射する。
光線が宇宙を走る。
その間を。
白い機体が。
抜けた。
「は?」
本当に。
抜けた。
数十本のビームの隙間を縫うようにして。
最小限の姿勢制御だけで。
『はい』
レオンの声。
直後。
コックピット前面に銃口が突きつけられた。
――MISSION FAILED.
「…………は?」
二戦目。
一分十一秒。
敗北。
三戦目。
四十七秒。
敗北。
四戦目。
迅は狙撃仕様を選んだ。
敗北。
五戦目。
重装甲。
敗北。
六戦目。
高機動。
敗北。
七戦目。
開始直後に全力後退。
敗北。
八戦目。
デブリ帯に隠れる。
発見されて敗北。
九戦目。
レーダーを切り、待ち伏せ。
背後を取られて敗北。
そして十戦目。
「うおおおおおおッ!」
迅は半ば意地になっていた。
ビーム。
ミサイル。
実体弾。
自分が使えるすべてを同時に叩き込む。
視界が光で埋め尽くされた。
「これなら――!」
その向こうから。
白い機体が飛び出した。
無傷で。
「嘘だろ!?」
すれ違いざま。
右腕。
左腕。
メインカメラ。
脚部推進器。
武装だけではない。
今度は機体の可動部まで、正確に撃ち抜かれていく。
それでもコックピットだけは一発も狙わない。
殺せる。
いつでも殺せる。
そう言われているようだった。
最後に白い練習機が、動けなくなった迅の機体の額を銃身で軽く小突いた。
『はい、おしまい』
――MISSION FAILED.
十分後。
迅はシミュレーターから降りていた。
ぐったりと椅子にもたれかかる。
「……十戦」
「うん」
「十敗……」
「うん」
車椅子のレオンが、紙パックのジュースを飲んでいる。
「だいたい分かった?」
ストローから口を離す。
「エースくん」
「その呼び方やめてもらえます?」
「あはは」
迅は頭を抱えた。
「なんで当たらないんすか……」
「当たらないように避けてるから」
「それは見りゃ分かりますよ!」
「じゃあ何が分からないの?」
「どうやって避けてるんですか!」
「ビームの隙間を通れば当たらないでしょ?」
「なんすか、その理屈!」
「普通だよ?」
「普通じゃねえ!」
思わず上官相手に声を荒らげる。
しかしレオンは怒るどころか大笑いした。
「あと、俺が照準合わせる前に動いてたでしょう!」
「うん」
「どうやって!」
「撃ちそうだったから」
「だからなんで分かるんすか!」
「機体の肩と銃身の動きと推進器の噴射見れば、だいたい」
「だいたいで十戦全部完封しないでくださいよ!」
迅は肩で息をした。
それから、ふと思い出す。
「それに……あの動き」
レオンを見る。
「普通の人間じゃ無理でしょう」
レオンの笑みが、ほんの少しだけ薄くなった。
「へえ」
「適性値が足りなければ、高機動状態じゃ知覚が追いつかない。あれだけ連続で姿勢制御したら、シミュレーターでも普通は空間識失調を起こす」
迅は腐ってもエースだ。
負けた原因すら分からないほど素人ではない。
「一佐、あなた一体――」
「それはまだ内緒」
レオンは人差し指を唇に当てる。
「機密事項」
「またそれかよ……」
「でも」
青い瞳が迅を見る。
「そこに気付けるなら、やっぱり君は悪くない」
「はい?」
「じゃあ次のテスト行こっか」
「まだやるんです?」
「うん」
レオンは笑っていた。
しかし。
次に発した声には、それまでの軽さがなかった。
「これをクリアできなかったら、帰ってもらうから」
迅が顔を上げる。
先ほどまで笑っていた少年がそこにいる。
姿は同じ。
声も同じ。
なのに。
空気だけが変わった。
冷たい。
重い。
十五歳の子供が出せる圧ではない。
これは。
戦場で人間に命令する者の声だ。
「君は僕の隣に立つことになる」
レオンは静かに言った。
「だから中途半端な人間はいらない」
迅は無意識に背筋を伸ばした。
「……了解」
*
新たなシミュレーションデータが読み込まれる。
表示された敵機を見て、迅は目を疑った。
「……ちょっと待ってください」
五機。
たった五機。
しかし機体識別コードには、見覚えがある。
「これ……北方連合軍の?」
『正解』
レオンの声。
『全部、向こうのエース機。三番機なんか有名だよ。先月うちの巡洋艦二隻落としてる』
「いやいやいやいや」
迅は思わず操縦桿から手を離した。
「こいつら、敵軍の幹部クラスでしょう!?」
『そうだね』
「これを?」
『うん』
レオンは軽く答える。
『一機で全部倒すのが今日の目標』
「無茶言うな!」
『大丈夫』
迅の画面に、新たな機体データが表示された。
見たことのない機体だった。
型式番号すら黒塗り。
名称も表示されない。
ただひとつ。
《SPECIAL FRAME》
そう記載されている。
『その機体には戦闘補助AIが積んであるから』
「補助AI?」
『そ。君は普通に戦えばいい。あとは機体に任せて』
「そんなもんで……」
『じゃ』
レオンが楽しそうに言った。
『いくよー』
「ちょ、心の準備!」
――MISSION START.
敵五機が散開した。
「っ!」
迅は即座に回避行動へ移る。
敵のビームが走る。
右。
そう思った。
考えるより早く。
操縦桿を倒す。
機体が滑る。
ビームが頬を掠めて通過した。
「……え?」
二機目。
背後。
分かる。
三機目は上。
四機目は距離を取る。
五機目は――。
「回り込む!」
機体を反転。
銃口を向ける。
引き金。
命中。
「は?」
敵の右腕が吹き飛んだ。
迅自身が驚く。
当てた。
いや。
当たった。
違う。
当たる場所が、分かった。
視界の端に薄い光の線が走る。
次に敵が移動する地点。
攻撃してくる方向。
回避可能な空間。
それらがまるで最初から知っていたかのように、頭へ流れ込んでくる。
『そのまま』
レオンの声が聞こえる。
『機体を信じて』
「……了解!」
推進器全開。
一機目。
撃墜。
二機目が迫る。
近接戦。
敵が剣を振り上げる。
来る。
分かる。
一歩踏み込む。
その懐へ潜り込んだ。
「そこだ!」
斬撃。
撃墜。
三機目。
四機目。
攻撃が見える。
避けられる。
狙った場所へ弾が飛ぶ。
相手が何をしたいのか分かる。
まるで敵の思考を一秒先から眺めているような、不気味な感覚。
「なんだこれ……!」
怖い。
それ以上に。
気持ちいい。
自分の身体よりも機体のほうが思い通りに動く。
迅がそうしたいと思った瞬間には、すでに推進器が噴いている。
最後の一機。
敵エース機が全火力をこちらへ向けた。
警告表示。
無数のロックオン。
だが。
迅は笑った。
「――そこ、空いてるぞ」
機体を沈ませる。
光の雨の中。
ほんのわずかな隙間。
その一点を通り抜けた。
一瞬。
さっきレオンに言われた言葉が脳裏をよぎる。
――ビームの隙間を通れば当たらないでしょ?
「……こういうことかよ!」
敵機の眼前。
銃口を向ける。
発射。
コックピット判定部へ直撃。
――MISSION COMPLETE.
迅は呆然と画面を見つめた。
「……勝った」
三戦目。
結果は同じだった。
三戦。
三勝。
五機の敵エースを相手に、一度も撃墜されなかった。
シミュレーターを降りた迅を、レオンが笑顔で迎えた。
「うん」
満足そうに頷く。
「相性いいみたいだね」
「……いや」
迅はまだ混乱していた。
「いいとかいうレベルじゃないでしょう」
「そう?」
「なんなんすか、あのAI」
迅は機体を振り返る。
「敵の動きが分かる。攻撃が来る場所も分かる。こっちの照準補正も異常だし、姿勢制御まで俺が考える前に補助してくる」
思わず興奮する。
「あんなもんがあるなら、全機に積めばいいでしょう! 戦争ひっくり返せますよ!」
「無理」
あっさり言われた。
「……なんで?」
「まず、あれを積める機体が限られてる」
レオンが指を一本立てる。
「それと、AIそのものに搭乗者を選ぶ癖がある」
二本目。
「同期できない人が使ったら?」
迅が聞く。
レオンは少し考えた。
「良くて気絶」
「……悪かったら?」
「脳が焼ける」
「先に言ってくださいよ!」
「あはは、大丈夫大丈夫。事前検査してたし」
「いつ!?」
「君がここ来る前」
「怖ぇよこの部署!」
レオンが声を上げて笑う。
迅は大きくため息を吐いた。
「……つまり」
「うん」
レオンは迅を見上げた。
「たまたま君だった」
その言葉だけは、不思議なほど静かだった。
「何百人も調べた」
「……」
「全然駄目だった」
青い瞳が迅を見る。
「でも君だけ、適合した」
迅は黙った。
なぜ自分がここへ異動させられたのか。
ようやく、その一端が見えた気がした。
「だから」
レオンが手を差し出す。
「合格」
小さな手だった。
十五歳の少年の手。
だが迅は、もうその姿を見て子供だとは思えなかった。
一騎当千。
神々の盾。
白銀の巨神。
軍がひた隠しにする、異常な戦闘能力を持つ少年。
その少年が、自分を選んだ。
「今日からよろしくね」
レオンは微笑む。
「榊原迅准尉」
迅は差し出された手を見つめ。
それから、握った。
「……よろしくお願いします」
少しだけ迷ったあと。
「レオン・クロフォード一佐」
「うん」
レオンは嬉しそうに笑った。
「あと、そんな堅苦しくしなくていいよ」
「上官でしょうが」
「二人の時はレオンでいい」
「嫌ですよ」
「なんで?」
「十五歳の上官を呼び捨てにしてるところ誰かに見られたら、俺が社会的に死ぬんで」
一秒。
レオンが吹き出した。
「あはははは!」
「笑い事じゃないっすよ!」
第零特務戦術部隊。
通称――《アヴァロン》。
その日。
長らく空席だった『白銀の巨神』の随伴者が決まった。
後に敵軍から、
『白銀の盾と黒鋼の剣』
そう呼ばれることになる二人。
だが、この時の迅はまだ知らない。
自分が乗った機体に搭載されていたものが、単なる戦闘補助AIなどではないことも。
そして。
目の前で楽しそうに笑う十五歳の少年が、なぜ車椅子に座りながら『神々の盾』と呼ばれているのかも。
何ひとつ、知らなかった。




