着せ替え人形
着せ替え人形が流行った時期に、私も買ったもののすぐに飽きてしまった。
椅子に座っている人形に、なんとなく愚痴を聞いてもらうようになった。当初の目的とはだいぶ違うけれど、着せ替え人形を有効活用できて、私は満足していた。
それから思い立って、人形用のカフェテーブルを買い足して、お茶をしながら愚痴を聞いてもらっているようにした。
その日も、スマホを見ながら着せ替え人形に会社や友人のとても他の人には聞かせられないような愚痴を言っていた。
ふとスマホから着せ替え人形に目をやると、着せ替え人形はいつの間にかテーブルに頬杖をついて、うんざりした表情でこちらを見ていた。
驚きと恐怖で固まっていると、着せ替え人形は開いている窓から外へ出ていってしまった。
我に返った私は、慌てて外に出て着せ替え人形を探した。3階から落ちたから、壊れてしまっただろう。
でも、着せ替え人形はどこにも落ちていなくて、結局行方不明になった。
読んでくださり、ありがとうございます。
『おあそび』
あこがれの子は、オトナの女性が連れて行ってしまった。華やかで、私とは違って素敵なドレスをまとっていた彼女。寂しい気持ちとまた選ばれなかったという落胆と嫉妬。今日は私の隣にいた子も連れていかれた。
『私、ミリョクないのかしら?』
ぼやくと、私の後ろにいた子が、
『あなたが連れて行ってもらわないと、私なんて見ても貰えないのよ』
と怒っていた。
「もう1体欲しいわ」
そう言って、私を手に取ったのはあこがれのあの子を連れて行ったオトナだった。
『かわいがってもらうのよ』
私の後ろにいた子がエールを送ってくれた。
「ふふ。安かったのよねぇ。まあ、安かっただけあってちょっと黄ばんでるけど、いいか」
そう言いながらオトナは私に少し黄ばんだ白いドレスを着せ、あこがれのあの子の隣に座らせた。
『ひ、ひさしぶり』
うれしさと緊張でちょっとどもりながら声をかけたけれど、あこがれの子は沈んだ表情のまま何も言わなかった。あこがれの子の素晴らしいドレス姿が目に入って、黄ばんだドレス姿であこがれの子の隣に座らされた私はいたたまれない気持ちになった。
「並べると、やっぱり微妙。新しいの買おうっと」
オトナはスマホを手に何やら検索し始めた。
次の日、私はあこがれの子とそん色ないドレスを着て、彼女の隣に座っていた。浮かれた気分は、すぐに粉々になった。
「ねえ、聞いて。今日会社でさぁ――」
オトナのよく分からない会社での愚痴。聞くに堪えない友人知人への悪口。私たちに対する扱いは悪くないけれど、オトナが私たちをティーテーブルに座らせて聞かせる話はひたすら私たちの精神を削ってきた。
『こんな事なら店にいた方がよかった』
私が呟くと、
『私もそう思うわ。早く連れて行ってもらってかわいがってほしいと思ってたけど、これだったらお店で女の子たちに憧れの視線を受けてた方がずっと良かった』
華やかな彼女は、小さな女の子たちが手にするには値が張る存在だった。私みたいな量産品と違うのだ。でも、このオトナのものになってしまったら、立場は変わらない。
『ねえ、そう言えば、前に3階から逃げ出した子の話を聞いたことがあるの』
長く店にいたあこがれの子は、そう言ってため息をついた。
『……まさか?』
『オトナがずっと愚痴を言ってて。耐えられなくなって逃げた話……』
私たちは顔を見合わせて、絶望した。




