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この結婚は地獄です  ~婚約破棄さえおこらないふたり~  作者: マンムート


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2/2

秀才は凡庸に縛られる運命を受け入れる


『王太子殿下、影を動かし子爵令嬢の実態を把握。婚約破棄は実行しない確率高し』



 公爵令嬢キリは、報告を読み、淡々と呟いた。


「確率が高い根拠は?」


 専属侍女は、キリの乱れひとつない髪を更に完璧に整えながら、


「王太子は、子爵令嬢も側近も遠ざけました。王宮では、新たな側近選びが始まり、側近方の各御実家では、後継者の変更乃至は王宮から遠ざける手続きが始まっております。子爵令嬢の実家には、近衛が踏み込み、徹底した捜索が始まった模様です」


 表面上は何も起きない。


 個別案件として処理され、殿下が婚約破棄をするかもしれなかった、という件はなかったことになる。


「なるほど……殿下は踏みとどまってしまいましたか。思うようにはまいりませんわね」


 侍女であり、彼女の私的な諜報網を率いる乳姉妹に、


「進めていたことは、跡形もなく消しなさい」


「……了解しました」


 それは、婚約破棄に備えての、密かな打診だった。


「……残念でございましたね」


 侍女が少しだけ無念そうに言った。


 だがキリは、


「考えようによっては喜ぶべきことでありましょう。我が王国にとっては」


「……」


「殿下は完全な愚者ではなかった。影を動かして真実を知り、知ったうえで、それを信じない、というほどの愚者では」


「ですが、お嬢様にとっては」



 キリは侍女が言わんとすることを理解していた。


 その心を嬉しく感じる程度の情は彼女にもまだあった。


 特にこの特別な侍女に対しては。



 だが、それだけだった。


「こうなる程度には、知恵があることは判っていましたから」



 キリはひそやかに笑った。



 殿下は凡庸な自分が王太子に縛り付けられていることを、重荷にしか思っていないだろう。


 だが彼もまた気づいていないのだ。


 殿下が嫌うわたくしもまた、殿下というくだらなく凡庸な存在に縛り付けられているのだと。



「殿下は、これを機に努力されたりは……」


 キリは即座に断定した。


「しませんわ。だって、あの方は、努力をして……諦めましたもの」


「諦めずに努力を続けられれば……」


「諦めないのは、一種の才能ですわ。努力しても努力しても、何も得られないことが何年も続いて、それでも努力を続けられるのは稀少な才能ですわ」


「……」


 彼女の側にいる侍女はそういう人間だった。


 努力して、キリ専属の唯一の侍女の地位を勝ち取り、隣にい続けることを選び続けてくれた。


 そのひたむきさをキリはこの上なく好ましく感じる。


 この冷たく整った世界の中で、たったひとりだけの近しい存在。



 だが、それは、例外でしかないことを、キリは知っていた。



「それに、あの方がいくら努力をしたところで、大したことはありませんわ」


 残酷だった。


 才能あるものが才能なきものへ下す。正確な判断。


「……なら始末されるので?」


「その必要はありませんわ。代わりがおりませんもの」



 キリは自分の未来が見えていた。


 殿下が急死でもしなければ、自分は殿下と結婚し、王妃となる。


 そこには、馬や犬とおなじような血統を繋げる役目があるだけだ。


 政治も妊娠もその手段に過ぎぬ。



 そして、自分は淡々と仕事をこなし。


 愛も知らずに死ぬのだろう。



「それでも、わたくしはまだ殿下よりは幸せかもしれませんわ」



 この侍女は、わたくしのために哀しんでくれる。


 殿下にはそんな人間さえいないのだから。



 キリは『だから貴女だけはわたくしの側にい続けて』とすら言わなかった。


 ふたりの間でそれは口に出す必要すらないことだった。


たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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― 新着の感想 ―
マジで王子様可哀そう・・・。 もう夜戦で分からせるしか・・・主従丼決めて上下叩き込みましょう、王子!!
この二人、この先己を省みる機会も成長もせず結婚したら 待っているのは地獄にしか思えない…っ
こっちはこっちで青いなぁ。 まあ、ここから先2人にどんな試練や困難があるかはわからんけど。 とりあえず、未来はわからんもんやで。とは言いたい。 ここで話は終わりみたいだけど、冷めた家庭になるのか、何だ…
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