表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同接0人、時間だけが味方だった。  作者: TimeBender


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
113/129

第113話 近い道ほど遅れる

11階へ入るのは 2日目だった。


昨日持ち帰れた言葉は 1本。


通った後ろは閉じる。


かなり短い。

かなり強い。

そして、11階の入口としては十分だった。


10階が“最後に残るもの”を読む階だったなら、11階は違う。

進んだあとに後ろが死ぬ。

だから、戻るつもりで選ぶと遅れる。


結人は朝、ノートを開いたまま、その 1行を少しだけ見ていた。


* 11階

* 白い橋

* 白い階段

* 黒い門枠

* 通った後ろは閉じる


そこへ今日、新しく足したいのは多くない。

1本あればいい。


11階は、理屈を増やすより、進む順を間違えない方が大きい気がした。



配信を始める。


終路深界圏 / 11階 2日目


「天城結人です。

今日は 11階の続きを見ます。

今ある言葉は“通った後ろは閉じる”です。

その先を拾います」


同接は 98。


コメント欄が流れる。


炭酸:きた


通り雨:11階2日目


澪:お願いします


迷子の斥候:今日は接続かな


凪:切れたあと、次にどこへ繋がるかを見ろ


結人は、その最後の 1行に小さく頷いた。


「はい。今日はそこです」



政府ギルド前の売店で、水を 2本、回復薬を 2本、塩飴を 1袋、ゼリーを 2本。

それにスポーツドリンクを 1本。

目薬も 1本。


新しいバックパックは、もうかなり身体に馴染んでいた。

止まらず触れる位置。

止まらず渡せる配置。

11階でも、それはかなり大きい。


会計を待っていると、後ろの探索者が連れに言っていた。


「11階、後ろが閉じるのも嫌だけど、次の道がちょっとズレるのがもっと嫌だな」


かなり、その通りだった。


相良環の窓口へ向かう。


「今日は、接続の方ですね」


「はい」


相良は端末を見ながら言った。


「今朝の報告でも、その言い方が多いです。

『後ろが閉じるのは分かった。

でも次の階段が少しズレていて、近い方へ行って遅れた』

この形です」


結人は小さく息を吐いた。


やはりそうだ。


昨日見た継角蛇。

あれは入口の飾りじゃない。


「ありがとうございます」


相良は小さく頷く。


「11階、閉じるだけならまだ単純です。

でも、閉じたあとに“次の近道”がズレるなら、かなり嫌ですね」


かなり、その通りだった。



入口前には、坂城迅、真壁遼真、三枝透。

今日は後ろにつく探索者が 3人いた。


真壁が低く言う。


「今日は次の接続か」


「はい」


坂城も短く続ける。


「近い方が危ない感じだな」


三枝が静かに言う。


「昨日の継角蛇ですね。

11階は、切ったあとに“いちばん近い次”へそのまま乗ると遅れる気がします」


かなり良い。

かなり話が早い。


結人は頷いた。


「今日はそこだけ見ます。

11階は、後ろが閉じたあとに次の接続が少しズレる。

その時、近い方へ行くと危ないかを見ます」



11階へ下りる。


白い橋。

白い階段。

黒い門枠。

上下へ重なる通路。


やはり嫌だ。

だが、昨日より主語ははっきりしている。


通った後ろは閉じる。


最初の橋。

結人が入る。

真壁、坂城、三枝、後ろの探索者たち。


渡り切る。

閉路鴉が降りる。

橋が折れて門枠へ吸い込まれる。


ここはもうかなり速かった。


昨日通った上の踊り場へ着く。

そこから左右に橋。

前に階段。

今日も形は似ている。

だが、昨日の右の近い橋とは別に、今日は右手前に短い階段まであった。


かなり嫌だ。


近い。

届きそう。

手早く次へ行けそう。


真壁が低く言う。


「……右手前、行きたくなるな」


坂城も短く続ける。


「だから怪しい」


三枝は門枠の角を見ていた。


「継角蛇、いますね」


かなり、その通りだった。


白い門枠の右下。

そこに蛇の白い節が 2つ、ぴたりと並んでいる。

昨日よりはっきり見える。


継角蛇。

11階の門枠や橋の終端に潜み、閉じたあとに次の角を少しだけズラす下位種。

こいつは通路を壊さない。

ただ、“近くて行けそうな次”をほんの少しだけ遅い位置へずらす。


実用的に言えば、

11階では、近い道ほど信用しない。

継角蛇は「すぐ届きそうな次」を半歩ずらして遅らせる。

近い方へ飛びつかず、閉じたあとに残る高さと角度を見る。


それが、11階の 2本目になりそうだった。



「右手前、切ります」


結人が言う。


後ろの探索者の 1人が少しだけ目を上げる。


「近いですよ」


かなり自然な反応だった。


「はい。

でも近すぎます。

閉じたあとにズレる方です」


三枝もすぐに続ける。


「今の 11階は、近い方ほど危ないです」


真壁が低く頷く。


「なら上か左だな」


坂城は前の階段を見たまま言った。


「高さを取る」


かなり、その通りだった。


結人は前の階段へ入る。

真壁。

坂城。

三枝。

探索者たち。


半分ほど上がったところで、右手前の短い階段の方を振り返る。


継角蛇が門枠の角をずらす。

短い階段の先にあったはずの踊り場が、ほんの少しだけ右へ逃げる。

もしあちらへ入っていたら、閉じたあとに次の 1歩が届かなかった。


かなり危なかった。


「やっぱりです!」


結人が声を飛ばす。


後ろの探索者も、小さく息を呑んだ。


かなり、その通りだった。



上の踊り場は狭い。


だが、そこから左へ長い橋。

さらにその先に、上へ折れる階段が見える。


11階はまだ入口なのに、もう“戻るための分岐”より“先へ積むための接続”の方が強い。


結人はそこで少しだけ思う。


10階は、最後に残る細いものを読む階だった。

11階は違う。


切る順番を選んで、前へ積む階だ。


かなり嫌だ。

でもかなり分かりやすい。



左の長い橋へ入る。


途中で、橋の中央が少しだけ細くなる。

その細くなったところで、白い何かが橋の下から這い上がった。


蜘蛛に似ている。

だが、体は薄い。

脚は長く、白い。

腹だけが黒い。

橋の裏へ張りつくと、腹の黒がちょうど橋の継ぎ目の影に見える。


落継蜘蛛らっけいぐも


11階の橋の継ぎ目に潜み、通り切る前に中継地点を落とす下位種。

こいつは橋全体を壊さない。

ただ、橋の途中にある“いったん止まれそうな場所”だけを先に殺す。


実用的に言えば、

11階では、途中で止まれそうな場所を信用しない。

落継蜘蛛は、中継地点だけを落とす。

渡るなら最後まで渡る。


かなり嫌だ。


でも、主語ははっきりしている。

11階はずっと同じだ。


進んだあとに、後ろか途中を殺す。


結人が声を張る。


「途中、止まらないでください!」


真壁が頷く。

坂城も速度を落とさない。

三枝が後ろへ短く伝える。


「渡り切ります!」


その直後、橋の中央の少し広くなった部分が、黒い門枠の欠片みたいに折れて下へ落ちた。


かなり危なかった。

だが、もう誰もそこにはいない。


かなりいい。



コメント欄が流れる。


炭酸:なるほど


通り雨:11階は中継地点も殺すのか


澪:かなり嫌です


迷子の斥候:でも主語が揃ってる


凪:近い道、途中の足場、戻る橋。全部、切って進むための餌だ


かなり、その通りだった。



橋を渡り切った先で、前に細い階段。

右に短い橋。

左に、少し遠い踊り場。


右の短い橋は近い。

だがもう、誰もそちらをすぐには見ない。


三枝が小さく言う。


「近い道ほど遅れますね」


結人も同じだった。


「はい。

閉じたあとに“すぐ次へ行ける”って感じの方が危ないです」


真壁が低く続ける。


「11階、楽な方を切る階だな」


かなり、その通りだった。


結人は左の遠い踊り場を見る。

高さは変わらない。

でも、門枠の位置が安定している。

継角蛇の白い節も見えない。


「左です」


坂城が即答する。


「いい」


かなりいい。


この階は、迷っても長くならない。

見る場所が分かれば、決断は短い方がいい。



左の踊り場へ渡る途中、後ろの探索者の 1人が低く言った。


「10階と全然違いますね」


結人は前を見たまま答える。


「はい。

10階は残るものを読む階でした。

11階は、切られる順番を読む階です」


その一言だけで、今の 11階はかなりまとまった。


残る。

ではない。


閉じる。

落ちる。

ズレる。

だから、どこを捨てて前へ積むかを決める。


かなり嫌だ。

でもかなり強い。



その先の踊り場は、今までより少し広かった。


そこから上へ続く白い階段。

階段の先には、黒い門枠が 3つ並んでいる。

そのどれも閉じていて、まだ先は見えない。


かなり良い区切りだった。


結人はそこで止まる。


「今日はここまでにします」


真壁がすぐに頷く。


「十分だ」


坂城も続ける。


「11階の 2本目は取れた」


三枝が静かに言う。


「はい。

“近い道ほど遅れる”

かなり強いです」


かなり、その通りだった。



結人は配信へ向けて短く整理する。


「11階の 2本目です。

“近い道ほど遅れる”

通った後ろは閉じる。

そして、すぐ届きそうな次や途中の中継地点ほど先に殺されます。

だから、戻りやすさより、切ったあとに残る接続を見た方がかなり通ります」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなりわかる


通り雨:11階の理屈きれいだな


澪:強いです


迷子の斥候:テンポいい


凪:11階は、近い順に選ぶ階じゃない。遅れない順に切る階だ


かなり、その通りだった。



政府ギルドへ戻ると、相良環はすぐに目を上げた。


「どうでしたか」


結人は答える。


「11階は、通った後ろが閉じます。

その上で、近い道や途中の中継地点ほど先に殺されます。

だから、近い順じゃなく、遅れない順に切る方がかなり通ります」


相良の指が止まる。


「……かなりはっきりしていますね」


「はい。

11階は、10階より理屈が少ないです。

でも、その分切る順番が重いです」


相良はすぐに打ち込む。


「かなり良いです」


その一言が、かなり嬉しかった。



部屋へ戻り、ノートを開く。


* 11階

* 白い橋

* 白い階段

* 黒い門枠

* 上下に重なる構造

* 1本目

* 通った後ろは閉じる

* 全員の位置を揃えてから進む

* 退路前提で考えない

* 2本目

* 近い道ほど遅れる

* 継角蛇が次の接続をズラす

* 落継蜘蛛が途中の中継地点を落とす

* 遅れない順に切る

* 11階の主語

* 残す階じゃない

* 切って進む階

* 楽な方から死ぬ


最後に、1行だけ足した。


* 11階は、戻りやすい道から先に死ぬ階


書いてから、結人はペンを置いた。


10階を越えた先で、また違う嫌さが始まっている。

でも、嫌さの主語はもう見えている。


今日は、そういう日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ