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同接0人、時間だけが味方だった。  作者: TimeBender


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107/122

第107話 もう増やさない

今日は、10階を説明しに行く日じゃない。


10階を、今ある理屈だけでどこまで押し込めるかを見る日だ。


朝、ノートを開いた結人は、これ以上は書き足さなかった。


* 白い道は道じゃない

* 分かれ目に立つな

* 途切れた先が口だ

* 輪の中に立つな

* 輪の外で動け

* 欠けた所に寄るな

* 形の外で繋げ

* 残る白は減る

* 広い白は残らない

* 残る白は 1人分

* 見えた白は渡せ

* 先の白は折れる

* 灰はまだ残りだ

* 灰の中で寄る場所を見ろ

* 寄った白を渡すな

* 最初の寄りは偽りだ

* 2度目の寄りは待たされる

* 待ち足は腐る

* 消えた拍のあとで入れ

* 戻る拍も偽りだ


かなり多い。

だが、もう十分だ。


ここから先は、新しい言葉を増やすより、

この全部がどう繋がっているかを見せた方が強い。


結人はノートを閉じた。


今日は、もう増やさない。



配信を始める。


終路深界圏 / 10階 奥へ


「天城結人です。

今日は 10階を、今ある理屈だけで押し込みます。

新しい言葉を探すより、ここまでの全部がどう繋がるかを見ます」


同接は 88。


コメント欄が流れる。


炭酸:きた


通り雨:今日は実戦だな


澪:お願いします


迷子の斥候:ここまでの回収回だ


凪:増やすな。繋げろ


結人は、その最後の 1行に小さく頷いた。


かなり、その通りだった。


「はい。今日はそこです」



政府ギルド前で、真壁が新しいバックパックを一度見た。


「もう馴染んだな」


「はい」


結人が肩を少しだけ直すと、坂城も短く言う。


「止まらず出せるやつだろ」


「かなり違います」


三枝が小さく頷いた。


「10階向きですね」


相良環も窓口の向こうで一度だけ目を上げる。


「今日は深く入りますか」


「はい。

でも、新しいことを増やしに行く感じじゃないです。

今あるもので、どこまで届くかを見ます」


相良は小さく頷いた。


「その方がいいと思います。

10階は、もう理屈の数じゃなく、繋がり方の段階に入っているので」


かなり、その通りだった。



入口前には、坂城迅、真壁遼真、三枝透。

その後ろに、今日は探索者が 4人だけついていた。


前より少ない。

だが逆に、それが良かった。


今日は見学日じゃない。

押し込む日だ。


結人は短く言う。


「今日はもう増やしません。

白い道、分かれ目、終端、輪、帯、欠けた所、細い白、灰。

全部まとめて使います」


真壁が低く言う。


「分かった。

言葉を増やすんじゃなく、今あるやつで通す」


坂城も続ける。


「見る場所は変えない」


三枝が静かに言う。


「10階の核はもう見えてます。

形の外に残る細い残りを、偽りごと読んで通す。

今日はそこだけでいいです」


かなり良い。

かなり話が早い。



10階へ入る。


白い空間。

黒い線。

遠さの狂った広さ。


もう、入口では止まらない。


太い線の中央は踏まない。

縁を見る。

線蛇が裂ける。


分かれ目に立たない。

根元を見る。

岐路蜘蛛が浮く。


途切れた先の濃さを見る。

終端蟷が開く。


輪には入らない。

外周の帯も信用しない。

欠けた口にも寄らない。


そこまでは、かなり速かった。


探索者の 1人が、最初の Y字で自分から言う。


「分かれ目の上に立たない!」


別の 1人が、細く消える線の先で言う。


「先、口です!」


かなりいい。


ここまではもう、“知らない階”じゃなくなってきている。



白い柱の残骸が増える。


輪が増える。

帯が増える。

欠けた輪が増える。


結人たちはもう、そのどれにも乗らない。


形の外で繋ぐ。


それだけをやる。


だが、10階はそれで終わらない。


細い白は減る。

広い白は残らない。

最後に残るのは、1人分。


結人が先に入る。

次の白を見る。

見えた白は渡す。


だが、先の白は折れる。

だから、後ろが入る直前まで更新する。


この流れが、今日はかなり綺麗だった。


白削鼬が広い白を削る。

奪白猿が渡される白を狙う。

折路鷺が先の白を折る。


でも、もう慌てない。


「左、次は右外です」


「そのまま」


「今です」


短い言葉だけが飛ぶ。


長く説明しない。

10階は、長く言うほど遅れるからだ。


かなり嫌だ。

でもかなり、整ってきている。



少し奥で、探索者の 1人が白削鼬の尾に脚を浅く掠められた。


かなり嫌な位置だ。


だが結人は止まらない。


新しいバックパックの上部ポケットへ手を入れる。

上位回復薬を掴む。

振り返らない。

後ろへ投げる。


「受けてください!」


真壁が片手で取り、そのまま後ろへ渡す。

三枝が短く言う。


「浅いです。

今入れます」


かなり速い。


前のバッグなら、ここで 1回流れが切れていた。

今は違う。


「止まらないで!」


その一言だけで十分だった。


探索者が上位回復薬を流し込み、呼吸を戻す。

その間にも、白はまだ細く残る。


かなり大きい。


補給がもう、荷物じゃない。

攻略の流れそのものに入っている。


コメント欄が流れる。


炭酸:新バッグ効いてる


通り雨:ここで止まらないのデカい


澪:かなり大きいです


凪:止まれない階で、背中の中身が流れになる


かなり、その通りだった。



その先で、白い余白は灰へ変わり始める。


灰の帯。

そこはもう分かる。


灰はまだ残りだ。

灰残蟲の揺れを見る。

戻る白だけ使う。


そこまではかなり速い。


問題は、その先の灰の面だった。


広い。

中心は薄い。

だが均一じゃない。


最初に寄る場所は見せ。

初寄狐がそこを偽る。

2度目の寄りが本物。

でも、遅寄鷺がそれを待たせる。


だから、その外で刻んで待つ。

だが待ち足は腐る。

腐白蟇がそれを濁らせる。


しかも、消拍蛾がその 1拍を消す。

戻っても、最初の戻りは偽り。

偽拍鷺がそこを抜く。


かなり嫌だ。

だが、今日はもうそこに驚かない。


結人は短く言う。


「右手前は切ります。

左奥が 2度目。

でも待たされます」


真壁が頷く。


「外で刻む」


坂城も続ける。


「戻りの 1拍目も切る」


三枝が静かに言う。


「戻ったあと、持つ拍だけ拾います」


かなりいい。


新しい理屈じゃない。

ここまでの全部が、そのまま繋がっている。



最初の寄りは右手前だった。


誰も踏み込まない。


初寄狐の尾が 1度揺れ、そこが消える。

左奥へ白が寄る。


だがまだ入らない。


遅寄鷺が上を横切る。

左手前の待ち足を取る。

そこへ腐白蟇が腹を広げる。


「乗らない。置くだけです」


結人が言う。


真壁がその声で半歩置く。

体重は預けない。

すぐ出られる形だけを取る。


その瞬間、消拍蛾が 1拍だけ白を消した。


誰も動かない。


白が戻る。

だが、それも切る。

偽拍鷺が嘴を入れる。


「まだです」


結人が短く言う。


もう一度、白が戻る。


その戻りが、今度は沈まない。


「今です!」


真壁が入る。

坂城。

三枝。

探索者たち。


かなりギリギリだが、通る。


かなり大きい。


今までバラバラだった嫌さが、ここでは 1つの動きになっていた。



その先の灰の面は、さらに嫌だった。


1度目の寄り。

2度目の寄り。

待ち足。

消える拍。

戻る拍。


そこまでは同じ。


だが、今回の灰の面では、2度目の寄りがようやく来た直後、その白の上を何かが横切った。


細い。

速い。

白でも黒でもない。

灰の薄い筋みたいなものが、2度目の寄りそのものを一瞬だけ擦っていく。


結人の喉が少しだけ冷える。


来た。


今までの嫌さの、その先だ。


「……まだです!」


結人が叫ぶ。


その瞬間、後ろの探索者の 1人が、ようやく来た 2度目の寄りへ足を出しかける。

かなり自然な動きだった。

ここまで全部を切って、やっと来た本物だ。

そう思うのが普通だ。


だが次の瞬間、その灰の筋が白を撫でた。


白が消えたわけじゃない。

折れたわけでもない。

ただ、持つはずだった拍だけが薄くなる。


かなり危なかった。


真壁が低く言う。


「まだ来るのか」


「はい!」


結人も短く返した。


「2度目が本物でも、最初の持ち拍を切ってきます!」


三枝がすぐに後ろへ渡す。


「今見えてる白にそのまま入らないでください!

まだ 1回薄くなります!」


かなりいい。


かなり大きい。


ここまで来ると、10階は本当に徹底している。


場所だけじゃない。

順番だけじゃない。

拍だけでもない。


持つ拍が来たように見えた、その最初の手応えすら偽る。



灰擦り(はいずり)。


10階の完成形に近い中位種で、2度目の寄りのあとに来た“最初の持ち拍”だけを擦って薄くする敵。

見た目はほとんどない。

灰の細い筋みたいにしか見えない。

だが、それが 1度白を横切るだけで、その拍だけが支えを失う。


実用的に言えば、

10階では、本物に見えた最初の持ち拍も薄いことがある。

灰擦りがいる時は、持つ拍をもう 1度だけ見る。

急いでいる時ほど、その最後の 1拍を切る。


かなり嫌だ。

でもかなり、ここまでの 10階の延長として綺麗だった。



結人はすぐに次を見る。


2度目の寄りは来ている。

待ち足も持っている。

戻る拍も切った。

そのあと、本物の白が一度薄くなった。


なら、次だ。


「その次です!」


真壁が頷く。

坂城も動かない。

三枝が後ろへ渡す。


「今見えてる拍の次です!」


かなり短い。

でも、それで十分だった。


灰擦りの筋が白の上を抜ける。

その一拍あと、左奥の白が今度こそ均一に戻る。


「今!」


結人が短く言う。


真壁が入る。

坂城。

三枝。

探索者たち。


かなり危なかった。

だが、通る。


かなり大きい。


ここまで来ると、10階はもう“地形”じゃない。

最後に残る 1拍の信頼性そのものを削ってくる。



結人は配信へ向けて短く言う。


「10階、2度目の寄りが本物で、待ち足も取れて、戻る拍も切ったあとでも、その最初の持ち拍が薄いことがあります。

今のところ、“戻る拍も偽りだ”の先で、“その次を取る”感じです」


コメント欄が一気に流れる。


炭酸:えぐい


通り雨:まだ切るのか


澪:かなり嫌です


迷子の斥候:10階ここまでくると完全に拍だな


凪:本物に見えた最初の手応えを信じるな


かなり、その通りだった。



そこから先、進み方はさらに短くなった。


「右」

「切る」

「まだ」

「次」

「今」


長い説明はもう、拍の中に収まらない。


坂城が低く言う。


「ここまで来ると、言葉も削られるな」


真壁も短く笑う。


「でも、伝わる」


三枝が静かに続ける。


「積み上げたものがあるからです。

ここまでの言葉が残っているから、短くても分かる」


かなり、その通りだった。


10階は、ここまで引っ張ったからこそ、

今は短い言葉だけで全部が繋がる。


それはかなり大きい。



結人は配信へ向けて短く整理する。


「10階、今はもう新しい形を増やすというより、ここまでの全部をどう繋ぐかです。

最初の寄りは偽り。

2度目の寄りは待たされる。

待ち足は腐る。

消えた拍のあとで入る。

戻る拍も偽り。

そこまで全部を繋いで、最後に残る拍を取ります」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり繋がった


通り雨:ここまでの全部がいるな


澪:かなり綺麗です


迷子の斥候:主戦前の圧縮感いい


凪:次で、10階の主が立つ場所が見える


かなり、その通りだった。



今日はそれ以上深追いしなかった。


新しい理屈を増やす日ではない。

ここまでの理屈を 1本にする日だった。


結人は配信へ向けて短く整理する。


「今日はここまでにします。

10階は、形を疑う階から、最後に残る位置と拍を読み続ける階へ変わってきています。

ここまでの全部を繋いで、やっと奥が見え始めました」


コメント欄が流れる。


炭酸:かなり見えた


通り雨:次、主戦っぽいな


澪:かなり大きいです


迷子の斥候:ここから一気に行けそう


凪:最後に残る拍が、誰のためにあるのか見ろ


結人は、その最後の 1行で少しだけ目を細めた。


かなり、その通りかもしれない。



政府ギルドへ戻ると、相良環はすぐにメモを開いた。


「どうでしたか」


結人は答える。


「10階、2度目の寄りが本物で、待ち足も取れて、戻る拍も切ったあとでも、その最初の手応えが薄いことがあります。

最後に入るのは、その次です」


相良の指が止まる。


「……かなり大きいですね」


「はい。

でも、今日は新しいことを増やしたというより、ここまでの全部が繋がった感じです」


相良は小さく頷いた。


「それでいいと思います。

10階はもう、要素の数じゃなく、接続の仕方で通す段階です」


かなり、その通りだった。



部屋へ戻り、ノートを開く。


* 10階

* 入口の 4本はかなり通る

* 灰の帯

* 灰の面

* 1度目の寄り

* 2度目の寄り

* 待つ 1歩

* 待つ拍

* 消える拍

* 戻る拍

* 持つ拍

* 次の言葉

* 最初の寄りは偽りだ

* 2度目の寄りは待たされる

* 待ち足は腐る

* 消えた拍のあとで入れ

* 戻る拍も偽りだ

* まとめ

* ここからは新しい形を増やすより、全部を繋ぐ

* 最後に残る位置と拍を読み続ける

* 短い言葉で通す

* 灰擦り

* 最初の持ち拍を薄くする

* 次の拍を取る


最後に、1行だけ足した。


* 10階は、“最後に残る正解の手応え”すら最初は本物じゃない階


書き終えてから、結人はペンを置いた。


かなり嫌だ。

でも、かなり進んでいる。


そして今は、少しだけ違う。


前は 10階がどんな階かを知るために潜っていた。

今はもう違う。


10階を終わらせるために、必要なものが揃い始めている。


かなり大きい。

かなり、次が近い。


今日は、そういう日だった。

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