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脳外スパークリング

ハグリットの様子がおかしい。


体調の事は把握済みだ。

本人はまだ自覚していないようだが、

貧血で倒れた時に医師から

おそらく間違いないだろうと言われている。


今は確実な結果が出るのを待っている。


母上が言うには

ハグは早くに母親を亡くし、

普通の貴族令嬢と違って常に寄り添ってくれる

侍女もいない。

近頃はメレイヤを側に置いているがあれは

護衛であってレディーズメイドではないから、

わからなくても当然だと。


まぁもうじき本人も気付くだろうから、

周りがガッチリ見守り体制を整えておこうとも

言われた。


すぐ側にメレイヤを置いておくのは変わらずとして、新たに数名の女性暗部を陰に配置し鉄壁の布陣を

敷いた。


そしてその暗部から報告を受ける。


根も歯もない噂話を

わざわざハグリットの耳に入れた者がいたと。


わざと立ち話の体を装って、

第二王子()とヤスミン公爵令嬢の婚約が進んでいるような虚偽をハグリットに聞こえるようにしていたらしい。


俺の部下は優秀だ。

すぐさま噂話を囁いていた文官二人の事を

調べ上げた。


やはりヤスミン公爵家の息のかかった者だった。


調べを進めてわかったのだが、

どうやらこの件はパトリシア嬢の独断の行動らしい。

父親であるヤスミン公爵の関与は無いという事がわかった。


あの小娘……。


元気になったのはめでたいが、

元気に突っ走り過ぎだろう。


思い込みの激しい性格だ、

これが皆の幸せに繋がるとかなんとか

考えたんだろう。


それはお前だけの幸せだろう。


俺は不幸にしかならないっつーーの!!



しかしハグはパトリシア嬢の策に嵌められて

しまった……。


純粋なんです、俺のハグちゃんは。


この件の報告を受けてから

そっとハグを見守っていたが、

どうやら完全に身を引く覚悟をしたようだ。


やっぱり俺と離れたくない!とか言ってくれないか、考え直してくれないか、と期待したが

ハグは一度決めた事を曲げる人間ではなかったと

改めて気付かされる。


ハグもある意味パトリシア嬢と同じく

思い込みの激しい性格だからな……。


くぅ~ん、ピスピスピス……


泣くな、俺の犬よ……。


俺たちは捨て犬にはならないぞ!


絶対阻止だ!!


ハグはいつ出て行くつもりだろう。

やはり俺が視察で城を空ける日、

これを狙ってくるだろうな。


もちろん予定は変更だ。

視察には俺の名代として、高等官吏の一人に

行って貰う。


ハグリットに俺の目を欺く事は無理だと解らせる

ためにと、パトリシア嬢がどう出るかを見極めるために、敢えて一旦視察に出かけたと見せかけて

秘密裏に城に戻る。


案の定、ハグリットはメレイヤが帰った後に

トランク一つを持って城門へと向かった。


もちろんメレイヤは帰宅などしていない。

今もどこかでハグを見守っているはずだ。


多分、母上の手の者もどこかで見張っているだろう。


諦めろ、ハグリット。


俺も母上もお前を逃すつもりはない。



見送りと称して確実に城から出すためであろう、

ご丁寧にわざわざパトリシア嬢が出張(でば)って来たぞ。


馬車になんか乗らせるものか。


俺は静かに、でも確実な足取りで馬車に近づき、

そしてハグリットを捕獲した。


大きな宝石のような目を見開いて俺を見るハグ。


視察に出たはずなのに何故?という驚きに

満ち溢れた顔をしている。


くそ、可愛いな!


でもな、ハグリット、俺は、

俺はたまらなく悲しいんだぞ!!





◇◇◇



な、何故!?


どうして今ヴィンス様がいるの!?


視察に出たんじゃなかったの!?


パトリシア様も信じられないといった

顔をされている。


ど、どうしてヴィンス様がここにいて、


どうしてわたしを抱き抱えているの!?


そしてどうして……


どうしてそんな泣きそうな顔をしているの!?


ヴィンス様はなんとも言い難い複雑な表情()をして、じっとわたしの事を見つめている。


「ハグリット……」


「は、はいっ」


「俺は言ったよな……」


「え?な、何を……?」


「俺を……俺を………」


「ヴィンス様を……?」



「俺を捨てないでくれって!!!」


「「え?」」


思わずわたしとパトリシア様の声が重なった。



「言っただろう!!

俺はハグがいないと生きて行けないとっ!!

俺の妃は10歳の時からお前だけだと決めているとっ!!それなのになんだっ!!嘘の噂に騙されて俺の元を離れようなんて酷いじゃないかっ!!

でもアレだよなっ!?俺の為だと思って身を引こうとしたんだよなっ!?くぅぅっ…カワイイ事してくれるじゃないかっ!でもそれは違うぞハグ!

俺の為をと思うなら、お前は絶対に俺の側から

離れてはダメなんだっ!!お前は俺の分身で!

魂そのものなんだからなっ!!」


えっ……えっと……


一気に色々言ってくれましたけど……


ヴィンス様ったらまたまた昔に戻ったみたいに

なってますわよ?


ほら、パトリシア様が唖然というか

呆然としてるじゃないですか。


「お前のいない俺の人生なんて、

ミートソースのかかっていないミートパスタ、

卵で作っていないオムレツ、苺が載っていない

苺ショートみたいなものなんだぞ!

って、なんだ!?そのキョトンとしたカワイイ顔はっ!!俺をキュン死させる気かっ!!お前は何回俺を殺せば気が済むんだっ!?この上俺の側から

居なくなって、絶望死までさせるつもりかっ!!

お前、国家反逆罪で投獄してやろうかっ!!」


「ヴィ、ヴィンス様っ!落ち着いてくださいっ!

なんかキャラが変わってますよ!第二王子ヴィンセント殿下のキャラじゃないですよ!」


わたしは慌ててヴィンス様のキャラ崩壊を

防ごうとしたけど、もはやヴィンス様は止まらなかった。


「俺はもともとこういう性格だっーー!!

お前は知ってるだろ!?

昔の俺はこんな感じだったろ!?

無理やり第二王子仕様にさせられたが

人間の本質なんて変わらねーっつーーのっ!

14歳まで第三王子として勝手気ままに生きてきたんだぞ!?人格形成なんてとうに出来上がってるっつーーのっ!

はっ、もしかしてハグはこんな俺はイヤか!?」


「イ、イヤだなんてとんでもない。

わたしはその第三王子だった頃からヴィンス様が

大好きだったんですよ?」


「ハグっ……!!俺も出会った瞬間から

お前に夢中だっ!大好きだっ!」


そう言ってヴィンス様はわたしを横抱きにしたまま

グルグルと回り始めた。


「キャーーーっ」


「わはははははっ!!…うおっとぉ!

おまっ…メレイヤ!危ないだろっ!!」


いつの間に近くに来ていたのか

メレ姉さんがヴィンス様に足を掛けて回転を

止めさせた。

ヴィンス様は飛び上がってメレ姉さんの足を避けた。


「ちょっと殿下、弾け過ぎですよ。

見て下さい、こむす…ヤスミン公爵令嬢が

固まっちゃってるじゃないですか」


「知らん」


「知らんって……自分からハグリット様を取り上げようとした事を怒ってるんですね。

ほらヤスミン公爵令嬢、謝った方がいいですよ

ゴメンナサイって言っておきましょう」


メレ姉さんに話を振られて、

呆気に取られてわたし達のやり取りを見ていた

パトリシア様がハッと我に返った。


「な、なぜ私が謝らなければなりませんの!?」


それにメレ姉さんが答える。


「だって王子殿下からハグリット様を取り上げようとしたんですよ?しかもその後釜にちゃっかり自分が

座ろうとしていたなんて……土下座ものではないですか」


「なんですってぇ!?

それの何が悪いと言うのっ!?

どう考えても私の方がヴィンセント様に相応しいでしょう!身分も家柄も何もかもっ!

王族の婚姻なんて、それが一番重要視される事ではないのっ!」


メレ姉さんは無表情で

ヴィンス様の方を向いて言った。


「だ、そうですよ?」


「くだらん」

ヴィンス様がバッサリと切り捨てる。


それを聞き、パトリシア様は顔を真っ赤にして

逆上された。


「く、くだらないとはなんですのっ!?

なんの後ろ盾もないハグリット様を娶られたって、

今の現状は打開出来ませんわよっ!」


「……妃の実家になんとかして貰わねばならないような力のない王家なら、いっそ滅んでしまえばいい」


今まで聞いた事もないような低い声で

ヴィンス様は言った。


「俺が妃に求めるものは力じゃない。

心の支えだ。妃が、子どもがいるからこの国を守らねばと、より良い国を作らねばと思える心の拠り所だ」


ヴィンス様のその言葉を聞き、

パトリシア様はわなわなと震え出した。


「……そ、それがハグリット様だと

言われるのですかっ……」


ヴィンス様がわたしを見て力強く頷く。


「そうだ」


「ヴィンス様……」


わたしはいつの間にか泣いていた。


だって、こんなの嬉しくないわけがない。



「不当にのさばってる派閥の奴らの事は

容赦はしない。俺が何もしないで手を(こまね)いて

見ているだけだと思うか?」



「……じゃあ家の事を抜きにして、

私を貴方の妃に……もう側妃でも構いませんからっ……」


パトリシア様が縋るように言った。


「ヤスミン公爵令嬢ほどの立場になるとそれは

難しいのでは?いくらキミに甘いお父上でも

それは許さないだろう。

そして俺は、どんな圧力を掛けられようとも妃は

ハグリット一人でいい」


「そんなっ……!」


「……そんな事よりパトリシア嬢、

キミは危うく大罪を犯すところだったんだぞ」


「えっ、大罪……!?」


「お腹に第二王子の子を宿した女性を国外に

出そうとしたのだからな」


「えぇっ!?」


パトリシア様がもう何度目かわからない驚愕の声を

上げられる。



「ハグリットは既に俺の子を身籠っている。

ヤスミン公爵家には悪いが、婚約者内定を

すっ飛ばしてハグリットが妃に確定だ」




……ん?


ちょっと待って……?


お腹に第二王子の子を宿した女性って誰の事?


俺の子を身籠ってるって……?


妃に確定って……?



頭の中が「?」でいっぱいになったわたしに

ヴィンス様が満面の笑みを向けてくる。



「そろそろ自覚症状が出てるんじゃないか?

医師に聞いたところによると

無性に眠くなったり、体が怠くなったり、

食欲が無かったり、胸がムカムカしたりとか

するらしいじゃないか」



「えっ……………………えぇぇっ!?

わたしですか!?わたしが妊娠してるという事ですか!?」


「この前貧血で倒れたのも、懐妊のためらしいぞ?」


ヴィンス様はそう言ってわたしのこめかみに

キスを落とす。



……そう言われてみれば……


ずっともう、なんだか……


胸がムカムカしていて……………



じゃあこれって、悪阻?



ダメ、そう自覚しちゃうともう………




「オエッ!!」


わたしはいきなり襲ってきた吐き気を抑える為に

口元を押さえた。


「ハグ!?」


「ハグリット様っ!!」


ヴィンス様とメレ姉さんが慌てふためく。


そしてわたしを連れて慌ただしく第二王子宮へと

戻って行った。



後にはポツンと一人残された

パトリシア様が立ちすくんでおられたそうだ……。






言われていきなり悪阻を感じるハグリット……

素直というべきか単純というか……



一人残されたパトリシアは

その夜、知恵熱を出したそうな……。

「既に一線越えてたなんて……」とか

「婚姻前に不潔ですわ……」とか

「ヴィンセント様が本当はあんな性格なんて聞いておりませんわよ」

とかなんとか熱に魘されながら呟いていたそうな。



次回、最終話です。


あ、名前だけで全く姿を表していない王太子も

ハグパパもちょこっと出ます☆

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