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なかった事にいたしましょう  作者: キムラましゅろう


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17/18

エピローグ ずっと側に

最終話です。

よろしくお願いします。

ヤスミン公爵令嬢パトリシアの所為で城内で

真しやかに囁かれていた噂を払拭するために、

俺は早々にカロル伯爵令嬢ハグリットの

婚約者決定を公表した。


まぁ…

同じ婚姻前に懐妊が発覚するなら、

せめて婚約者に決まってからそうなったとする方が

ハグリットの外聞としては良いだろうとの

配慮もある。(俺の事はどうでもいいのだ)

今ならギリギリなんとでも都合が付けられる

月数だからな。


婚儀はハグが出産を終えてから、

体調を鑑みて執り行う事となった。


母上が今世紀最高と謳われるほどの

ウェディングドレスを作ると息巻いていたな。

亡き親友であるハグの母親の分まで

祝福してやりたいと思われているんだろう。


ハグのウェディングドレス姿か……。


それは……美しいだろうなっ!!


俺、大丈夫かっ!?


その日が命日にならないかっ!?


鼻血が心配だから、白の正装ではなく

真紅の正装にした方がいいか!?


なんにせよ、子どもが生まれてくるだけでも

楽しみ過ぎるのに、その後で一生に一度の

超レアハグリットを見る事が出来るなんて、

俺の精神が保つだろうか……。



本当に心の底から楽しみだ。




しかしその前に俺は俺で片付けておく事がある。


今まで内密に調べあげ、証拠を揃えて時を待っていた。


ハグリットとの婚約を発表出来た事により、

リュシル嬢の生家であるモロー家から

抗議が上がった。

格下の、しかも宮廷貴族の娘を第二王子妃などと

正気の沙汰ではないと。


は?バカか?

正気でないのはお前らだ。

ここ数年、密輸によって莫大な利益を得て

力を付けた事は調査済みだ。

婚約者決定の異議申し立てを一蹴すると共に

丁度良いので奴等の罪を白日の元に晒してやった。



同じ派閥である兄上の第二妃の実家と、それ以外の家が複数、密輸に関わっている証拠も掴んでいる。


アン妃の実家が王女誕生の記念に贈った品々は

パッと見はわからないが

“御禁制の品”と呼ばれる密輸品だ。


母上の協力を仰ぎ、

産後に良い薬を贈ると称して

お使いハグリットに付き添う形でメレイヤを

王太子宮に入らせた。

ハグが王太子妃やアン妃と面会している間に

メレイヤが王女に送られた品物の一つを

証拠として持ち出す。

有り難い事に誕生した王女の名と贈り主の名を

刻んでくれていた。

バカで助かる。


それと同時に進めていた

リュシル嬢の生家への調査と証拠集めは、

“怪盗レッド”が活躍してくれた。


怪盗レッドは証拠の品と共に

モロー家が不当に得た金品も拝借して、

街の救護院数カ所に寄付をした。


そしてその盗んだ品を御禁制と見破ったという形で然るべき部署に垂れ込んだ……

という演出も忘れずに。


それにより怪盗レッドは義賊として

巷で大人気となっている。


ハグリットもレッドの活躍を

王太子宮でドゥラ妃とトロワ妃から聞かされて、

興味を持ったらしく俺に色々とレッドに関する話を

聞かせてくれた。

その様子のなんと可愛らしかった事かっ!


もしまた不正に荒稼ぎする輩が現れたなら、

怪盗レッドが華麗に暗躍してくれるだろう。

しかし怪盗レッドか……。

髪色から安易に名付けた呼び名だったが、

こんなにも有名になるとはな。


普段は温厚で愛嬌たっぷりのアイツが実は、

身体能力が桁外れの、

暗部顔負けの働きをするとは誰も思うまい。


な?チャーリー。



そして満を持して

兄上に証拠書類や品物を報告書を添えて

提出した。


それを受け、兄上は不在である父上の名代として

王太子の名の下に議会を招集。


その上で改めて公の調査が入る事となった。

それにより密輸やそれ以外の不正や犯罪紛いの

行為も大量に発覚。(もちろんハグリットの父であるカロル伯爵の詐欺被害もだ)

モロー辺境伯家とその一派の派閥数家は

爵位剥奪の上、領地没収国外追放となった。


リュシル嬢はその前にモロー家所属の

雇われ騎士とさっさと駆け落ちをしたそうだ……。

逞しいな……。



アン妃に関しては

彼女自身が実家の罪を何も知らなかったのは

把握済みである事と、王女の生母という立場を鑑みて生涯、後宮内にて謹慎。

公の場には姿を現す事を禁ずるという

処遇となった。

派手好きで、向上心が強く野心家の彼女には

なによりも重い処置であるのは間違いないだろうな。



目の上のタンコブ(笑)を排除して気分スッキリだ。


これで一応はまた派閥同士の力は均衡となったはずだ。


それに何より、

王家の目が至る所に張り巡らされているという事を

知らしめる事が出来た。

それが抑止力となってゆけるだろう。


本当に第二王子()直属の暗部たちは優秀だ。


彼らの忠誠に報いられるよう、

俺も精進せねば……。


最愛のハグリットを完全に手に入れ、

もう何も恐れる事はない。


これからも俺は力いっぱい

国政に携わっていくぞ!!


だってもうすぐパパになるんだからなっ!!

(ドヤァっ)




◇◇◇◇◇




「ハグリットぉぉ~、

まさか旅行から帰って来たら娘がママになってる

なんて思いもしなかったよぉぉ」


「……そうでしょうね、ウップ、これには深い訳が…オエッ」


「だ、大丈夫かい?ハグリットぉぉ~!」


悪阻でほぼ寝たきりになってるわたしの元に

帰国したお父さまが会いに来て下さった。


わたしが第二王子妃に決まった事と懐妊の知らせを

受けて、急いで戻って来たみたいだ。


本来ならマグロ漁船に乗っていて

一年は会えないはずだったのだから、

嬉しいサプライズだけど……。


「オエっ……」


わたしはそれどころではなかった。

水を飲んでも吐いてしまう始末。


悪阻は個人差が激しいというが、

わたしはかなり重い方らしい……。


わたしはこのまま第二王子宮暮らしとなるので、

お父さまは新たに王宮の一室に部屋を賜り、

そこに住まわれる事になった。


そして以前から勤めていた部署に官吏として

復職出来る事にもなったのだ。


ホント有難い。


お父さまじゃないけど、

結婚そのものを諦めていたわたしが

こんなに早くママになるなんて…。

人生何が起こるかわからないわね。

悪阻でぐったりしながらも

そんな話をヴィンス様にしたら、


「孕め~孕め~と念を込めた愛の勝利だ」

とかブツブツ言ってたんだけど

聞き間違いだったのかしら……?


その後直ぐにまた吐き気に襲われたので

追及出来なかったけど、

まぁいい……か?


ばっちり2ヶ月間、悪阻で苦しんだけど、

安定期に入る頃には嘘みたいに収まった。



王妃様……もう“お義母さま”と呼びなさいと

言われていたんだったわ、

お義母さまに教わりながら赤ちゃんの靴下などを

編み物したり、自ら肌着を縫ったりとわたしは

穏やかな日々を過ごしていた。



散歩をしてよく歩くように言われていたので

庭園を散歩していたら、突然声をかけられる。


「久しぶりだね、ハグリット」


「……ジェイデン殿下!」


ヴィンス様の兄上、

この国の王太子であられるジェイデン殿下だ。


「もう家族になるんだから殿下は要らないよ」


「はい、ジェイデン様……」


わたしが少し恥ずかしいなと思いながらも

そう呼ぶと、ジェイデン様はいきなり両手で顔を

覆われた。


「くぅぅ…っこれは確かにカワイイっ。

ヴィンスの奴が夢中になるのもわかるよ」


な、何を言ってるのかしらこの方は。


いやしかし、

やっぱりなんか血の繋がりを感じるわ、

さすがはヴィンス様のお兄さま。


ここで会ったのも何かの縁と、

ジェイデン様は弟君のダニエル殿下のその後について教えて下さった。


ダニエル殿下は

自ら王位継承権を返上したという。

市井に下りて、庶民が通う学校に入ったり

職に就いたりと、とりあえず様々な事を

学び直す事にされたそうだ。

人生の勉強ですね。

わたしの中では彼のイメージはまだまだダニエロの

ままだけど、頑張って欲しいとは思う。

後、体に気を付けて健康でいて欲しいとも。



「アイツもさぁ、ヴィンスみたいに最初から

自分の気持ちに素直になれれば大切な人を

失わなくて済んだのになぁ」


ジェイデン様が呟くように言われた。


庭園に優しい風が吹いている。

ジェイデン様のブラウンの髪をサラサラと

撫でるように。



ヴィンス(アイツ)が王太子でなくて本当に良かったよ」


「それは何故ですか?」


「王太子の立場になると、正妃一人では許されないからね。父上はよほど運が良かったんだ。

僕は別に想いを寄せる人もいなかったから正妃も

側妃も言われるがままに娶ったけど、

ヴィンスにはそれが出来ないだろう。だからアイツが第二王子でホント良かったなぁと思ってるんだ」


確かに、そのおかげで

パトリシア様を娶らなくて済んだんだものね。


まぁホントはオデット様が既に王太子妃であるのにその妹のパトリシア様も王子妃に、というのはかなり無理があったらしい。


それでも押し通そうとするパトリシア様ってば

わたしより猪突猛進型よね。

凄いわ……。


パトリシア様は今、

失恋の傷心旅行として他国に行っておられるのだとか。


メレ姉さんは、

わたしを国外へ追い出そうとしていた罪を

問われるのを恐れて逃げ出した…と言っていたけど。

真意はどうであれ、ヴィンス様を諦めてくれたのなら良かった。



「わたしは本当に感謝しなくてはいけませんね」


「はは、そうだね。

キミたちは唯一無二の夫婦だ」


「嬉しいです。夢が叶いました」


「弟を頼むよ。カワイイ義妹さん」


その言葉を聞き、

今度はわたしが両手で顔を覆い隠す羽目になった。


だって……照れるっ!


「……頑張ります……」



その時、大好きな声がわたしの直ぐ後ろから

聞こえた。


「何を頑張るって?」


顔を覆っていた両手をゆっくりと下ろしながら

わたしは彼の名を呼んだ。


「ヴィンス様」


「ちょっ……なんで頬を赤くしてるんだ?兄上と何を話してたんだっ?」


ヴィンス様がわたしの顔を見て途端に慌てる。


「内緒だよ」


ジェイデン様が答える。


「内緒です」


わたしもそう答えた。



「な、内緒!?

なんだよ!気になるだろっ!」


「あははは!ヴィンス、僕は先に執務室に戻るよ。

お前はハグリットの散歩に付き合ってあげるように」


そう告げてジェイデン様は庭園を去って行った。



「ふふ」


「何がおかしい?やっぱり気になるな!

兄上と何を話してたんだ?」


ヴィンス様がわたしに詰め寄った。


大きな手に腰を抱かれる。



「ヴィンス様の妃になれて良かったなぁって

話してました」


「ホントに?」


「ホントにです」



あの夜の事がなかったら


わたし達はどうなっていたんだろう。



わたしが最初に告げたように


あの夜をなかった事にしてしまっていたら、


わたし達はこうやって結ばれる事は

なかったはずだ。



わたしがそうヴィンス様に言うと、


ヴィンス様は首を横に振った。



「あり得ない。

あの夜が有ろうが無かろうが、俺がハグを

手放すわけがない。

たとえハグがどこに行こうとも地の果てまで

追いかけて、必ず捕獲するよ。俺は鼻が利くからな」


「ふふ、犬みたい。

そういえばヴィンス様は犬がお好きですもんね」


わたしがクスクス笑うと、


ヴィンス様が自分の額とわたしの額を合わせた。


「ハグリット」


「はい、ヴィンス様」


「お前もお腹の子も必ず幸せにすると誓う。

何が起きても必ず守り抜く。

だからこれからもずっと俺の側にいてくれ」


「はい、わたしも

もうこれから何が起きようとも

なかった事にはいたしません。どんな事も逃げずに

必ず向き合うと誓います。

だからずっとお側にいさせて下さいね」



「っ~~~ハグっ!!

好きだっ!!大好きだっ!!

世界で一番愛してるぞーーーっ!!」



そう言って、

またいつものように弾け出したヴィンス様の声が

庭園だけでなく、王宮中に響き渡った……とさ。




その後わたしは元気な男の子を産んだ。



ルーイと名付けたその王子の脳内も

父親に似て元気にスパークリングしているのに

気付くのに、そう時間は掛からなかった。



だって……母親ですからネ。







          お終い







これにて完結です。


最初から濡れ場の物語なんてヤバいかしら……

と思いながスタートした物語も、

ヴィンスの脳内のように弾けながら楽しく

書く事が出来ました。


考えてる事が簡潔しているヒーローを書くのは楽しいです。


何考えてるから分からないイライラ系のヒーローを書くのも好きですが、

やっぱり書いてて気持ちいいのは

ヴィンスのようなヒーローですね。


でも最初から最後まで楽しめて書けたのは

ヴィンスではなく、読んで下さる皆さんのおかげです。

これからも皆さまに読んでいただけるような物語を書けるよう頑張りたいです。



最後までお付き合いくださり

ありがとうございました。



心の底から感謝を込めて。


でも次回、一話だけ番外編があります。




      キムラましゅろう


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