206.ルギ神 VS ヒトビト
206.ルギ神 VS ヒトビト
ワイズ神とブリギッテたちをおいて、他の仲間たちは神殿の最奥へと進んだ。
白亜の壁に継ぎ目はなく、とても人の手によって作られたものではない。
神が誕生した瞬間に、同時に成立する神殿は、すなわち神固有の結界のようなものだ。
つまりこの場所は、まさにルギ神の内部にいるのと同じ。
俺たちの行動など、手に取るように把握しているだろう。
同時に、何か罠をしかけることもできるはずだ。しかし、そういったものは一切なく、俺たちは神殿の最奥。
ルギのたたずむ、神座の間へと到着した。
その場所は異質であった。
「な、なんだよここ……」
フィネが声を上げた。気持ちは分かる。
ここまでの道程が美しい白亜の城だったのに対して、よりにもよって、神おわす場所たる神殿の最奥は、むき出しの無機質な岩や地肌が露出している。地面はひび割れ、谷底のような深い亀裂が幾つもある。
亀裂の底には溶岩か炎なのか、判然としないが、火の海が全ての生命を拒むように燃え盛っていた。
「これがお前の望む世界なのか? ルギ?」
神殿の最奥は、神の心の風景を如実に顕す。ならばこの殺風景な、何者かもを否定し、燃やし尽くす力だけの世界が、ルギの求める新たな世界であり秩序なのだ。
「早かったですね、先生。もっとゆっくりでも良かったのに」
俺の言葉に答えのは、やはりルギだ。
むき出しの地肌のうえに、一人たたずむ。
「当然だろう? 時間をかければ、お前を助けられなくなる」
「助ける?」
ルギが微笑む。
俺は頷く。
「ああ、そうだ。ヴァンパイアハーフのお前は様々な力を取り込む特殊な力がある。無論、神になどなれるような器では本来なかった。だが、ワイズ神の後継者として神格を譲られたお前は、今や神の器として力を持っている」
「そうです。今の俺は強いですよ」
「いや、今ならまだ止められる」
俺は杖を構えながら言う。
「まだお前は本当の神ではない。この神殿の間に集まる信仰と、ワイズ神の開いた地獄を飲み干して、初めてお前は完成する」
「邪魔をするんですか?」
「当然だ」
「どうしてですか? 俺は……。僕は……」
ルギは静かに言った。
「力がなくて。余りにも弱すぎて、大切なものが全て手からこぼれてしまうことを知りました。大事な仲間も力がなければ守れないんですよ、先生? それは、あなたが一番よく知っているはずでしょう? なのにどうして邪魔をするんですか?」
静かな声だった。だが、それは恨みがこもったような声質でもあった。
「勘違いするな、ルギ。俺に力などない。俺はただのポーターだ。あるのは仲間との絆だけだ」
「詭弁ですね。そうやってまた俺を馬鹿にして!」
「嘘じゃない。お前に嘘をついたことがあったか?」
「もういいです! あなたとしゃべっていると、決意が鈍る! 殺すことが出来なくなる!」
「まったくしょうがない奴だ。だが、そうだな。俺は神様じゃない。だが神託ぐらいなら言うことができるんだぞ?」
「何を……」
ルギがわけが分からないといった様子で目を見張った。
俺は微笑みながら、
「お前が見えていないだけで、お前は十分に強い。前のお前にだったら、俺は勝てなかったかもしれん。だが、今のお前なら勝てる。弱くなったな、ルギ」
「本当に、本当に、本当に……」
ルギは低い低い声で呟くように言うと、
「あなただけは絶対に俺が殺して上げますよ、先生! いや、違う!」
彼は自らの体から黒い影のようなものを放出しながら叫ぶ。
「俺の一部になってもらいます! フィネやソラ、キュールネーたちとずっと一緒に、俺の中で仲良く過ごすといいでしょう!!」
「しょうがないな。ゲンコツ一発くらいは覚悟しろよ、ルギ」
俺は使用するスキルをイメージしながら、
「行くぞ、お前たち! ルギに一発きついのを喰らわせてやれ!」
俺の言葉に、コレット、フェンリル、そしてフィネ、ソラ、キュールネーたちは、
『おう!!』
と勇ましく答えたのだった。
そして、ただ一人、ピノだけは、そんな俺たちの戦いの光景を少し離れた場所で、傍観するように見つめていたのである。
こうして、ルギ神とただのヒトたちとの戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
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