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ゆっくりとした足取りで帰路につく。下を向き、口を固く結ぶ。
レーネに恋人が出来た。これは紛れもない事実でさっきその瞬間を目撃した。
レーネが告白して相手がそれを受けた。もう俺が告白しても意味がないってことだ。
「………」
『……ラル』
女神様が心配そうに俺の名前を呼んだ。
「……女神様、いいんですよ。わかりきってたことですから」
『………ラル』
「告白なんてしても意味がないんです」
『……ラル』
「こんな俺なんかとは釣り合うはずがなかったんです。馬鹿だなあ、俺」
『ラル!』
女神様に名前を呼ばれ、目から涙が零れ始める。
「っだって、だってだってぇ、こんなのあんまりだよ。せっかく、プレゼント用意して、レーネに、レーネに思いを伝えようとして、そしたら、レーネが他の男に告白する、だなんて」
『ラル……』
「うっくぅ……ぐすっ……」
涙が止まらない。悲しくて悲しくて堪らない。
「……こんなことならもういっそ、」
『!っラル』
女神様に名前を呼ばれるが返事する気力もない。
「ラル」
「!」
後ろに振り向く。
そこにはレーネがいた。
目を見開き、驚いてレーネを見つめる。
「なん、で」
「……あのね、ラルに伝えたいことがあるの」
「伝えたい、こと……?」
「うん」
真剣な顔をしたレーネが俺を見つめる。目が離せない。
「あのね、私……」
「……」
「ラルのことが好きなの」
「え……?」
「つ、付き合ってくれる……?」
どういう、ことなんだ……?
だってさっき、カロンって男と……
「え、あ、カロンは……?」
「カロン?何でカロンのことを?」
「え、だってさっき、」
「………あ!もしかしてカロンのこと男だと思ってる?」
「え……?」
男じゃ、ないの……?
「ふふ、あーうんそっか。よく間違われるもんなあ」
「え、え?」
「あのね、カロンは女の子だよ?」
「女の、子……?」
「うん」
女の子……だった……?
「いやでも、さっき二人で好きだって」
「うん、好きだよ?親友として」
「親、友」
「うん。ってさっきの見てたんだ?恥ずかしー……」
親友……として………
「えー………」
呆然として膝から崩れ落ちる。
「えっ⁉どうしたの?」
「……じゃあ、最近付き合い悪かったのはなんで?」
「それは………実はねラルにあげるプレゼントをカロンと一緒に探していたの」
「プレゼント……?」
「うん、これ……」
レーネはカバンからラッピングされた袋を取り出して、俺に渡してきた。
「ありがとう……」
俺は受け取って、袋をあける。
「……これ」
中にはマフラーが入っていた。
「ほっほら、寒くなってきたでしょ?だからこれがいいかなーって」
「………」
「どっどう……?」
不安そうに俺を見るレーネを見て、笑みが零れる。
「……ありがとう、嬉しいよ」
「……そっそう」
レーネは恥ずかしそうにそっぽを向いた。……ああ、可愛いなあ。
俺は腕で涙を拭いて、立ち上がりカバンからプレゼントを取り出す。
「レーネ、俺からもプレゼントがあるんだ」
「え?」
「これ……」
レーネにプレゼントを渡す。レーネは受け取ってリボンを解き箱を開ける。
「!これ」
「簪、レーネに似合うと思って」
「……ありがとう、嬉しい」
さっそくレーネは簪をつける。
「……どう?」
「よく似合ってる」
「そっそう……ありがとう」
そう言ってレーネは嬉しそうにはにかんだ。
「……レーネ」
「ん?」
「好きだ。俺と付き合ってくれないか?」
レーネは目を見開いて俺を数秒見つめてからはにかんでこう答えた。
「喜んで」
こうして俺とレーネは付き合うことになった。
……ありがとう女神様。背中を押してくれて。おかげで幸せになれた。あの時女神様に言われなきゃレーネの告白を断っていたかもしれない。俺にはレーネを幸せに出来ないって、もっといい人がいるって。
だから、本当にありがとうございます女神様。これから頑張ってレーネを幸せにして俺も幸せになります。もう声は聞こえないけど、この思いが女神様に届いているといいな。ありがとう、ございました。




