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Beardead Gold Bear  作者: 大隈寝子
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BGB 第十八話 「戦法」


 初めて相対する巨魁への武者震いかあるいは心よりの歓喜か。

 その少年はニヤリと笑みを浮かべていた。

「なんだ、お前」

 剣を振り上げ、動きを止められた青年が思わず問いかける。

 予想外の新手。

「答える必要はねぇかな」

 近づく少年の身体の周囲には、幾枚もの符が浮いていた。

 それだけの符があれば軽く大魔法を発動できそうなほどの莫大な量。

 その符の量自体は不可思議じゃない。

 少年の手に炎が宿る。

 不思議なのはそれだけの符をまといながらも、全く力の流れが見えないことだ。

 術者として、白は己の力量に自負がある。

 もっぱら反神が主ではあるものの、魔法がからきしなわけではない。

 それなのに、なぜ見えない?

 少年の左手に宿った炎が、青年の右肩に触れる。

 その炎は熱くはない。

 ただ触れた右肩を環状に覆い、そしてとけていくように身体に吸い込まれていった。

 その術式がいかなる効果を持っているのか。

 わからない。

 何かを仕掛けられたのは事実。

 恐らく敵の体内に仕掛けるのであればなんらかの封印。

 おそらくは魔力の生成の遮断。

 次の炎が、左肩に触れた。

 さきほど同様、身体に溶けていく。

 二度、身体に仕掛けられてようやく白は術式の構成を理解しきった。

 そしてとった行動は一つ。

「はぁぁぁぁぁぁあッ!」

 体内の力をすべて、一気に解放した。

 ふりあげたままの剣も輝きを増す。

 その圧倒的な量に、水面は波立ち、風が吹き荒れた。

 その力に、向きを持たせる。

 自分になんらかの術式を施そうとする少年に向かって。

 それは見えない壁が突然押し迫ったかのような圧力だった。

「ッ」

 声にすらならないまま、大量の符を浮かべた少年はふっとんでいく。

 同時、白は動けるようになっていた。

「……反撃させてもらうぞ、クソガキ」


 湖面に何度かはねて、タイヨウは止まった。

「クソ……なんだあのバカ力」

 ふきとばされたその衝撃で、敵の動きを止めていた術式も解除された。

 封印は半分もできていない。

 あと三度、敵にうちこまなければ意味がない。

 二度うちこんだ程度では精々二割減といったところか。

 現に白と名乗った男はタイヨウのすぐ側で巨大な剣をふるっている。

「死ね」

 術者でなくとも、その光の柱と見まがうほどの剣が危険だということはわかる。

 タイヨウはなおさらだった。

 しかし、タイヨウがやったことは単純。

 左側に迫る剣に対して、ただ左腕を出しただけ。

「バカが!」

 白は今までに何度かそういう行為を見たことがある。

 それは一種の自決のようなときもあれば、自分なら止められるという無茶な幻想を抱いていたということもあった。

 この少年は後者か。

 剣をふりきる。

 術者さえ消してしまえばその当事者がしかけた術式など意味もなくなる。

 さっきの二度の炎、アレのせいで確実に出力は落ちているがせいぜい二割。

 この封印を完成させられる前に、殺してしまえばどうということはない。

 しかして、その剣は動きを止めた。

 ただ突き出された少年の左手によって。

 思わず目を見はる。

 今まで見たことのない現象。

 素手で、なんの力も発してない少年にその剣を止められるなど―――

「さて、こっちの番だ」

 そう言って少年は歩を進めた。

 距離は20mほど。

 剣を止められたそのからくりはわからない。

 わからないが、あの少年に近づくのはまずい。

 足に力を入れたその瞬間に後からの衝撃が来た。

 見なくともわかる。

「神か!」

 無防備に打たれた身体はなすすべなく前に押し出される。

 必然、距離は縮まり

「わざわざどうも」

 少年の三度目の炎が、白にうちこまれた。

 うちこんだその瞬間にタイヨウは横へと跳躍。

 一方の白はそこから更に飛ばされた。

 さらに出力が下がったのか。

 あの炎は封印式。

 あと何度で完成するかはわからない。

 なるべく、というよりは絶対にあの炎を受けてはならない。

「しかし感覚まで鈍らされるとは」

 後ろからの一撃に気づかなかったという事実。

 全力の異常のない自分であったなら気づけていたであろうそれを、感知できなかったのはなかなかにショックだった。

「左腕はつぶされるわ、封印式は徐々にうたれていくわ、剣は止められるわ。背後の神に気づかないわと……」

 己のミスを見つめる。

 ここまで苦戦したのは本当に久々だった。

「散々だなぁオイ!」

 右手の剣を一度霧散させる。

「ぶち殺してやるぞクソガキ。神もろともなぁ!」

 その身体から、傷だらけの体から、力が噴出する。

 封印されているとはいえ、せいぜい三割。

 逆に返せば七割の力をまだ震えるということ。

 出現したのは大量の剣だ。

 およそ百。

 青年が選択した方法は単純。

 敵に近づかずに倒す。

 全ての剣が一斉にタイヨウとエペレに近づいていく。

 逃げ場などどこにもない。

 だからタイヨウがやったことは一つだ。

「レベル2。集え西の兵士」

 わずかに短く、口走るように呪を唱えた。

 その唱えられた言葉に、水が反応する。

 剣が飛来するより早く、タイヨウとエペレの周囲を水の壁が覆った。

「その程度で消せると思うか」

 幾本もの剣は飛沫をあげながら、その壁に突入していく。

 まるで意に介さないがごとく。

 ただその結果は。

「こっちがアンタのためにどれだけ時間かけて対策してると思ってる」

 傷一つつかなかった。

「二日かけてこの世界に最適化したんだ。たかだか剣くらいいくらでも消せる」

 大量の符が太陽の周りを回転する。

「いくぞ」


 これがタイヨウの戦い方だった。

 できる限りの準備をする。

 場を理解し、最適な符を作り、最高の状態に配置する。

 “城”を基盤とした術式群。

 あらかじめ配置し、さらには地震の周囲に大量の符を展開することで、詠唱を簡略化し、いつでもあらゆる術式を発動できるようにする。

 この世界に、見えない形で張り巡らされた符の網は敵の情報をとらえ、術式の構成を見抜く。

 あとのことはコントロールに長けたタイヨウには造作もない。

 ピンポイントで対抗術式を作りつつ、タイヨウの力が底をつきるまで敵を無力化する。

 巨大な剣を腕一本で止めたのも、飛来する無数の剣をうすい水の壁で防ぎ切ったのも、要はたったそれだけのことだった。

 しかし、たったそれだけのことさえ敵はわからない。

 符の網が見えない敵はわからないがゆえに、焦る。

「……エペレ、あと何発うてる?」

「……わかんない、たぶん……そんなには……」

 エペレの顔には疲労が浮かぶ。

「そっか。わかった」

 ここからが大詰めだ。

 タイヨウは走り出す。

 あと二回でいい。

 あと二回、炎を埋め込めれば完全な「封炎」が完成する。

 徐々に敵との距離をつめていく。

 思ったより、エペレにも疲労が来ている。

 それも仕方ない。

 あれだけの大出力をぽんぽん打っていた上に、慣れない力の使い方だ。

 徐々に一発ごとの力も弱まっている。

 あの一発すらすべての力を込めてもまるで及ばないタイヨウからすれば全くわからない次元の話ではあるが。

 頼りにできるのはあと一度と思った方が良いだろう。

 近づいていく先の敵は茫然としていた。

「……クソが」

 呪詛だけが聞こえる。

「わりぃな」

 かまわず、炎を宿した右手で殴りつけた。

 それには多少の感情が混じったかもしれない。

 思いっきり殴られた青年は、その勢いのまま、倒れる。 

 見ればボロボロだ。

 左腕はなく、服も上半身はほとんど残っていない。

 ふっとばしたその敵に近づいていく。

 四つ目の炎は白の動きを封じた。

「これで最後だ」

 右手に再び炎をともす。

「それはいいことを聞いた」

 倒れ伏している敵は、不敵に笑った。

 嫌な予感がする。

 「後学のために言っといてやる。そういうことは言わない方がいいぞ。まぁあとはないだろうが」

 そう言った。

 タイヨウは駆け寄る。

 何かする。

 何かしてくる。

 ここまではうまくいった。

 あと一撃。

 これさえ打ち込めれば完全に無力化できる。

 その炎が触れるより先、敵は動き出していた。

「なぁお前。急に力を変えたら対応できるか」

 その右手に再び剣をかざす。

 思わずタイヨウの動きがとまった。

「やっぱりな」

 たかだか5mほどの距離を、白は一瞬でつめる。

「わかったぞ、お前のやり方」

 その力は先ほどまでとはまるで違った。

 正反対。

 力には方位と陰陽によって定まる十種類の力が存在する。

 そこからさらに量と質によって千差万別に存在するといっていい。

 それが忽然と変わった。

「こうしちまえば、対応できねぇだろ」

 白が己の力を変質させたその瞬間から、身体の動きを止めていた何かは消え去った。 

「お前はこの俺の動きを人間でありながら止めたんだ。最大の一撃で殺してやる」

 いつの間にかタイヨウの周りには無数の剣が浮いていた。

 それはもちろんエペレの周りにも。

「そこの髪もまともに動けねぇ程度にはくたばってるみたいだしな。まとめてやってやる」

 空中、変質した巨大な力が凝集し、一本の巨大な剣を作り出していた。

「その前に、だ」

 嗜虐的に白は身動きのとれないタイヨウに笑む。

「一つわからねぇことがある。お前がオレの力を解析しっつくしたのはわかった。それだけなら大聖堂をあさりゃできるやつはいるだろう。問題はそれをどうやって止めたかだ。お前が触れたのは四度。その前からオレの術式を消していた。それがわからん」

 答えろと言外に言う。

「……下をよく見ろ、クソ野郎」

「下だぁ?」

 言われるがまま目線を下げる。

 なんらかの、自分を止めた正体不明の術式を視る。

「……へぇ」

 それはあまりに細く、細い網だった。

 敵の前でなければ、その感嘆を口にしていたかもしれない。

「よくここまで細い力をコントロールできるな、お前」

「それしか能がないんだよ」

「このバカみてぇに細い力の網を、なんらかの術式で張ってそれでからめとると。簡単に言えばそういうことか」 

 その表情は簡単と吐き捨てた言葉とは裏腹に称賛を示していた。

「よくやるぜ。だがここまでだ」

「お前もな」

 その時、二つの術式が起動した。

 一つは一人の男の動きを止めるもの。

 一つは空に浮いた巨大な塊を落とすもの。

 わずかに、白の起動がはやかった。

「神もろとも死ね!人間!」

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