久美とポール(いぬ)
風呂に入るのは半年振りかな?
もっとかな?
顔を洗ったらアカが落ちるわ、落ちるわ。
ヒゲは長くアゴの下まで生えていた。
顔が別人みたいだ。
鏡を見たら
だいぶ痩せたなあ。
逃げる前は
身長 180で体重は 75㎏あったからなあ。
風呂に浸かりながら
この家に入れなかったら俺は凍死していたな。
アホな女がいるもんだ。
俺を
『ヤッチン』
だとさ。
酒が好きな女だなあ。
ビールの空き缶が玄関に袋に入ってあったな、確かな!
風呂場は汚いな。
カビだらけ、冬なのに夏のカビが有るなんて。
無精な女かな?
部屋は犬のウンコの臭いが充満しているし。
でも……俺は食べさせて貰う身だから
文句は言うまい。
我慢するしかないな。
髪を洗い全てを洗い終わったら
ガラス越しに
「ヤッチン?一緒にお風呂に入ってイイかな?」
俺は女にマジマジと素顔を見られたくない。
女の無精は嫌いだ。
俺は精一杯の話で断った。
「久美。犬が吠えてるからな。ポールは俺に嫉妬してるんだよ。もう、出るから!」
「そうなの、犬は吠えるのが仕事よ。分かったわよ。着替えを置くよ。男性の下着はないから、私のボクサーパンツに、ピンクの下着にピンクのパジャマを着てね。パジャマは洗ったかな?忘れた、着ないより良いでしょ!」
「ああ……生き返ったよ。逃げるのに疲れていたからなあ、ありがとうよ」
「ヤッチン?何よ?逃げるのに疲れたの?何に逃げてるの?」
俺はマズイ事を口走ってしまった。
ついつい、気分が良かったからか。
「ちがうよ、自分に逃げたいって、思う時ないかい?それだよ。じゃ、出るから、少しどいて」
女は酔ってブツブツ言いながら
コタツのある部屋に行った。
俺は着替えをする為に
着てきた服を洗濯機に入れた。
洗濯機にはいつの下着か知らないが山のようにいっぱい入っていた。
だらしない女だなあ。
洗濯もしないのかよ。
俺は女が用意した下着を履いた。
なんだあ?
テーバックか?
こんなの履けるか。
あそこに食い込むなあ。
ボクサーパンツを履いて
ピンクの下着を履いて
ピンクの肌着を着て
ピンクのパジャマを着た。
突然の男の訪問に仕方ないと
俺は女装スタイルに我慢していた。
アイツがいなかったら……死んでいた。
そう考えれば
アイツは救いの神様だ。
俺はコタツのある部屋に行った。
犬は俺を威嚇している。
女は知り合いの
『ヤッチン』だと勘違いをしているが
犬は俺を悪人だと見抜いていた。
「あらあ、ヤッチンは、身長も伸びたね。そんなに高かったけ?痩せたよね、前は身長が172で体重が80㎏くらい有ったよね。でも、最後に会ったのは……えーと五年前かな。ヤッチン、再会に乾杯しょう!」
本物のヤッチンはだいぶ俺とは体形が違うじゃないか。
汚いなグラスだなあ!
俺はホームレスをしているが
汚いのは嫌いだなあ。
部屋も汚いなあ!
なんだあ?
こりゃ?
コタツの中にパンストがあるのかな?
足に何かが引っ掛かってるな。
久美は俺がヤッチンに見えてるのか?
神様に思いたいが
女らしく綺麗にしてくれたらなあ。
女の顔を見たらなんか
好みじゃないな。
ヤッチンはこれを好きな訳はないな。
「ヤッチン、ねえ、チュウしてよお!」
チュウかよ……したくないよなあ。
犬がにらんでる。
犬は頭が良いなあ!
しかし、汚いない部屋だな!