≪10≫ お渡りって知ってる?
ディシュルはアシュガをとても大切に扱ってくれるようになった。
間違っても豚と罵ったり、お尻を蹴ることもなかった。
ケンカして力負けすることはあるが、必ずアシュガを抱いてくれる。
モンテローザの旅から帰ってきた2人をみて、みんな驚いていた。
そして、1日の大半を2人は一緒に過ごすようになる。
朝だけ別々で、例のごとく朝はディシュルに外出禁止にされているので、アシュガは部屋でゆっくり休むことにした。ディシュルは剣の稽古に必要があれば要人や客人と交流してるらしい。
ディシュルの周りは白薔薇の凱旋後、さらに忙しくなっていた。
アシュガも麗人の毎日の忙しさについていくのがやっとだった。
アシュガと会う半年前に中断された帝王学が再開され、ディシュルは講義を受ける間、アシュガを同室に入れて彼女にも先生を付け勉強させた。
半年前に何があったのかは、聞き出せずにいた。
そして暇を見つけて今度の舞踏会の為、ディシュルがダンスを教えてくれる。
さらにアシュガのイブニングドレスも今回用に作りなおすときかないので、大いにケンカした。
昼食や夕食は必ず一緒に食べる。
ディシュルは常にアシュガに触れていたかったし、側に置いておこうとするのを隠さなかった。
アシュガはそれが嬉しかったが、ひとつ残念なのは、そうすると秘密の部屋探しに行けないことだった。
ある晩、ベッドに入ってアシュガは目を閉じた。
この頃、ディシュルのことばかり考えてしまう自分がいる。
ディシュルの何気ない仕草や視線を浮かべては顔を赤く染めてしまう。
ディシュルに会わなければ、今ごろ自分は何をしていたのかと思うと恐く感じるほどだ。
その時ガタンと扉から人の入る音がした。
アシュガは驚いた。
人が近づく気配がする。
「アシュガ」ベッドの幕が開いた。
「ディシュル!」アシュガは驚いた。
クスッと笑いながらディシュルが入ってきた。
「良かった、眠り姫はまだ寝ていないね」
そう言ってアシュガに優しくキスをした。
「どうしたの?」
アシュガが聞くと同時に押し倒おされる
「やった、アシュガ!(お渡り)の許可が出たんだ!」と何度もキスを繰り返しながら
「頑張ったんだから誉めてよ」とディシュルは甘えてきた。
「すごいね。よく許可されたね」
とアシュガは言うものの、(お渡り)を知らない。
「最終的に王様の一押しが効いたよね。白薔薇の時のお願いをきいてくださった。」
僕たちの勝利だよとアシュガに口づけて麗人は喜ぶ。
ディシュルのサラサラした髪がアシュガの顔を撫でる。良い香りがした。
(お渡り)とはきっと夜の訪問の事なんだろうと、アシュガは理解した。
「アシュガ、アシュガ」ディシュルはウキウキと抱きしめた。
「モンテローザの時のように愛し合おう」と魅惑的に囁くのだった。
朝になり鳥の囀ずりを聞く。
アシュガはディシュルの腕のなかで目を覚ました。ディシュルはアシュガをしっかり抱いて優しく優しく何度も口づけを繰り返していた。
「おはよう、ディシュル」
「おはよう、眠り姫。」
クスクスとディシュルは笑い
「もうそろそろ部屋に戻らないと」
と言った。
アシュガをさらに強く抱きしめて、別れを惜しむかのようにキスをする。
「ここで寝てて。疲れさせただろうから」とディシュルはアシュガの顔を撫で愛しみながら戻っていった。
その日は1日中、上機嫌でディシュルは過ごす。しかし何が落ち着かないのかソワソワとしていた。
鼻歌を歌いながらダンスの練習に付き合うディシュルは何度もアシュガをクルクルと回し、アシュガは目が回って倒れてしまった。
「ごめん、アシュ、大好き」とディシュルはまたアシュガを引っ張り出そうとしたから、アシュガは怒る。
「ごめんって。でも今度の舞踏会はアシュガの御披露目でもあるから頑張ろう」
結局ディシュルは何だかんだ言ってアシュガと踊りたいのだ。
アシュガはディシュルを見る。
初めて会った時から優美な人であったが、最近は金色のサラサラとした髪は潤いを増し、青い瞳は常にキラキラと輝いているようだ、唇は艶々して血色がよく、肌には弾力があり、ハリも良かった。
まだ未成人なのに腰が落ち着き美丈夫という言葉がピッタリである。
要はディシュルはより美しくなった。
後光がさすかのように輝く麗人をアシュガはクルクル回ることなく見ていたかった。
夕食後、ディシュルは用事があるからと早々に部屋へ、羽でも生えたかのように浮かれながら戻っていった。
その晩、アシュガは筋肉痛に悩まされた。ダンスを調子に乗って踊り過ぎたのだ。今晩ディシュルがやってきたら大変だなと思ったが、無駄な心配だった。
次の日のディシュルは打って変わって不機嫌に1日を過ごす。
昼食の席でアシュガに会うと静かに睨み
「昨日は踊り疲れたのかな?」と聞いた。
「筋肉痛になったよ」と笑いながらアシュガが返事をすると、麗人は無言で食事を食べだした。
私に何か皮肉を言ったのだと、その態度でわかった。
それから何を話しても素っ気ない態度で、1日中、綺麗な青い瞳に睨まれ続けた。
ダンスの練習も中止し、逃げ出したくなるくらいの無言の夕食後、
「今日はダンスの練習をしなかったから筋肉痛にはならないよね?」と、また謎めいた皮肉を言われ別れた。
アシュガはなぜディシュルを怒らせたのか皆目検討もつかなかった。
その晩、アシュガはベッドに入って落ち込んでいた。
ディシュルとケンカすることはあっても、あんな態度をとられたことはない。
何をしてしまったのだろう?
明日は謝って聞いてみようと思い、眠りについた。
次の日のディシュルは、全くと言って良いほど話しかけれる雰囲気ではなかった。
フラりと重苦しいオーラを纏い現れた麗人は目の回りに隈がたくさんできていた。
「薄情者の顔なんてみたくない」と、静かにドスの聞いた声で話すと、いつも一緒にいる予定を一方的に全部キャンセルし、フラりフラりと去っていった。
「ディシュル」と呼んでみたが、振り返りはしなかった。
次の日の日も、また次の日の日も、ディシュルは部屋に閉じ籠り、出てこなくなった。アシュガはお見舞いに行きたいとお願いしたが、許可が出なかった。
その晩、アシュガはベッドの中で考えた。
こうしていても仕方がないから、明日は無理にでもディシュルに会いに行こう。
きっと些細なすれ違いな筈だ。
それとも本当に体調が悪くなったのか?
いろいろ考えているうちに、眠気に襲われた。
アシュガは静かに目を閉じた。
はあはあと息が上がり、歩くのもつらそうな人影は月夜の中をフラりフラりと背中を丸めて思い詰めた表情で目的の場所へ行く。
髪はボサボサで顔は窶れ、涙で濡れた目には目脂と隈が目立つ。唇のささくれが痛々しい。
首から立派な短剣をぶら下げていた。
扉を開けて中へ入る。
首から掛けていた短剣を無造作に投げつけると、ふうふうと息を切らし、歯を食い縛り、天蓋の幕を開け中へ入った。
中では|暗紅の髪の麗しきサークラがすやすやと寝息をたてて寝ているのを見て、怒りが増した。
人に死ぬほどの苦しみを与えているのに寝やがって!
もう迷いはない。彼女の首に手をかける。
「・・シュガ」
アシュガの顔に冷たいものが落ちた。
息ぐるしさに目を覚ます。
「ううっ」アシュガの顔は歪んだ。
「裏切り者にはお似合いの末路だ。人を弄んだ罰だ」と声の主は手の力を込めた。
「ディ・・ディ・・」アシュガは名前を最後まで呼べなかった。
その時どういうことだろう。
ディシュルの体からモンテローザの呪いとは違う、魅惑的な「生」を感じた。
体のどこかに埋まっているような感じた。
どこだろう?
今までディシュルの側にいて気がつかなかった。
食べたら黒い影より凄そうだ。吸いとってみたい。
遠退く意識の中でアシュガは本能的にディシュルの「生」を探す。
ビアンカローザの人々は1日で性別を決定できるものではない。
日々の積み重ねの中で早いか遅いか個体差はあるが自然と自分の望む方向が決まる。
だから体もだんだんとその準備に入っていく。「生」と呼ばれるのは男女を作るためのエネルギーのことだ。
成人になる3ヶ月ほど前から体に現れ始め、思いが強いほど早く体に馴染むとされていた。
アシュガは無意識にディシュルの髪を引っ張り顔を近づけさせた。
呪いの影みたく、ディシュルの「生」を食べてみたかった。
「やっ」ふらついたディシュルはそのままアシュガに口づけを許した。
ふいに首を締めていた手が緩む。
涙で濡れた口づけ。
ディシュルは必死に抵抗したが力が入らない。
口が離れた瞬間に、ディシュルは「裏切り者」とか「殺してやる」など言って起き上がろうとしたが、今度はアシュガは首に巻きつき離れない。
「アシュガ、アシュガ、本当に止めて。今日は駄目。僕籠ってて、その、駄目、ケアしてないし、やだ」
ディシュルは懇願した。
ふと、ディシュルのロザが強く光る。
アシュガは無意識にニヤリとした。
ディシュルのロザにキスをする。
2人とも刺激的な痺れを体中に感じて、力尽きた。




