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竜皇と魔女  作者: Lirica
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≪1≫ 祝福の子

竜皇と魔女を改訂しました。

黒い海の様な草原に(ひづめ)の音が激しく響く。満天の星の下、馬車の中で少女がまるくなって泣いている。

可哀想に唯一の肉親だった姉を失い、幸せに暮らしていた村を焼かれた。

「ユオン」

唇を噛み涙で濡れた顔から必死にでた言葉。

アシュガは憎い男の顔を思った。

二度忘れないようにするためだ。

姉に求婚を断られたからといって、竜を率いてアシュガの村を丸焼きにしてしまった。

炎の中でその炎より赤い目をした姉、マガが必死で自分に魔法をかけたのが分かった。

その直後、アシュガは竜巻の中にいるように感じた。

風圧で息ができないなか、姉を呼ぶ。

「お姉ちゃん」

馬車に揺られながら姉を呼んだ。

赤黒い炎に包まれて消えていく姉の姿を思った。

苦しくて辛くて胸が張り裂けそうだ。

「ユオンめ!絶対に許さない、何としても見つけ出してやる」

また唇を噛む。

復讐を心に誓う。

その一心でアシュガは、いま生きていられるのだ。


従者に手を引かれ連れてこられたのは、ビアンカローザ城の王の間だった。

玉座まで赤い絨毯(じゅうたん)が引かれている。

豪華絢爛(ごうかけんらん)なシャンデリアやサークラの像、そこかしこに飾られている色とりどりの美しい花々がアシュガを見下ろしているようだ。

「そなたがアシュガか」

玉座から年老いた王が声をかける。

「確かにロザがあるな」

そう言うと王は従者に枯れた薔薇の花を用意させた。

アシュガは涙で濡れていた顔から王をみる。

玉座の真後ろにはサンタローザの像があり、差し出された両手の上には白濁の薔薇が一本物悲しく浮かんでいる。

祝福の白薔薇かと目を奪われていると、

枯れた薔薇がアシュガの目の前に置かれた。

アシュガは手に取ってみた。

周囲が固唾(かたず)を飲んで見守っているのがわかる。

枯れた浅黒い薔薇ー不思議にその薔薇は、枯れていてもがくに花びらがのり、花枝もしっかりしているーそう思った刹那(せつな)に、アシュガの手のなかで、薔薇は息を吹き替えしたかのように白い薔薇へと姿をかえた。

「おおっ」

周囲から驚きの声が上がる。

「なんということか!新たなサークラの祝福だ」

王も声をあげられた。


ビアンカローザの国はサークラであるサンタローザという女神の祝福を受ける国。

ローザの民は14歳まで性別がない。

15歳の薔薇の月に、祝福を受け性別を決めることになる。

この国ではごく稀にサークラと呼ばれる額に薔薇の花の様な印「ロザ」を持った子どもが生まれる。金色に輝くその「ロザ」は、ビアンカローザの王となる資格を持つ。

この国は血筋で王が決まるのではないのだ。

女神の祝福が何よりも重んじられるのだ。

王は祝福の白薔薇を守り、その白薔薇が咲き続けるかぎり国も安寧(あんねい)であると信じられていた。

しかし竜皇が呪われてしまってから、サークラが極端に少なくなった。

そして枯れることがないはずの祝福の白薔薇が、少しずつ枯れていき数を減らしていった。


翌日、アシュガが白薔薇を蘇らせた話は、瞬く間に城内に知れわたった。

その後、アシュガは重宝室と言われる場所に案内された。

そこには大きなガラスケースが(うやうや)しく置かれている。

その中で昨夜みたような枯れた薔薇がたくさん浮かんでいた。

従者に(うなが)され薔薇を手に取ってみたものの、昨日のように白薔薇に蘇るものはなかった。

そしてそのまま、アシュガは部屋に戻された。

「ふー」

アシュガは天蓋(てんがい)付の豪華なベッドに横たわる。

ビロードの美しい幕は窓からくる心地よい風に微かに揺れた。

不思議な数日間だった。

アシュガは姉の魔法で知らない町に落ちた。すぐにサークラだと伝わり、城から従者が来た。

蒼光院から高官であろう上等な聖職服を来た男が驚いた顔でアシュガのロザをみた。

「本物で間違いありません」

低く(うね)りに似た声が、アシュガに矢継ぎ早(やつぎばや)に質問をする。

家族のこと、村のこと、なぜサークラであるか知らせなかったのか等々。

アシュガはまだ辛い胸から、答えられる事だけを正直に答えた。

村が焼かれたこと、両親が他界していること、サークラが何かを知らなかったこと。

直感で言ってはいけないことは秘密にすることにした。

村には姉を含め魔女がいたこと、両親はともにサークラであることを。

そしてあっという間に馬車に乗せられ、この城に連れてこられた。

不思議な城だ。

人はたくさんいるのに活気がない。

従者は言う通りに動くが意思を感じない。

皆がそれぞれの役割をただ越えないように動いているだけのようだった。

そして連れてこられたアシュガは、これからどうなるのかも知らない。

「私は王様になるのかしら?」

アシュガはこの豪華な部屋を与えらたこと、そして今着ている男装の服を見て思った。

「立派だし動きやすいのはいいけれど」

アシュガはもうすぐ14歳になる。

成人の祝福を受けるときは女性になりたいと思っている。

少し残念に思いながら服を見つめた。


部屋の呼び鈴がなり、はいと返事をすると従者が入ってきて簡素に告げる。

「ディシュル王子が御待ちでございます」

「ディシュル?王子?」

アシュガは驚いた。

「ディシュル様は14歳になられたばかりの、亡くなられた蒼光(そうこう)竜騎士団、薔薇の騎士長デリウス様の御嫡男(ごちゃくなん)、サークラであられ次期王になられるかたです。」

アシュガは更に驚いた。

薔薇の騎士はアシュガの様な村の子どもでも知る貴族のトップだ。

サンタローザ様をお守りした騎士の末裔(まつえい)だ。

神話にも出てくる家柄だ。

そんな人が本当にいるのか。

世にも恵まれた麗しき家系、更に額にも祝福を受け、このビアンカローザの王となる事を約束された者。

どんな人か会いたくなった。

同い年なら仲良くなれるかもしれない。

ふと騎士様なら姉を探してくれるかも知れないと思った。

お願いしてみよう。

数日寝てアシュガは思ったのだ。

姉はきっと生きている。

彼女は強い魔女だから。


従者に連れられてアシュガは城のバルコニーに着いた。

バルコニーとはいえ、その広さにアシュガは驚いた。

今日は驚いてばかりだ。

見晴らしの良い景色、城下町が一望できる。

これでまだ屋上にも登ってないなんて!

バルコニーの先まで走りだそうとしたのを、従者に制された。

振り替えると大きな天蓋(てんがい)付の玉座がある。

幕の下から階段とそこに引かれている赤い絨毯(じゅうたん)が見てとれた。

なんと大がかりな玉座か。

天蓋(てんがい)の幕は軽めのドレープレースなのだろう。

階段の上の玉座で座っている人影が見えた。

「アシュガ」

幕の中から声がした。

「本当に白薔薇を蘇らせたのであれば、この幕を上げて我が方へ参られよ」

アシュガは言われたままに天蓋(てんがい)へ近づく。

幕の下から顔をのぞかせると中が見れた。

段上に座る人。

金色の髪に整った顔立ちが、遠目からでもわかり思わず見とれてしまった。

薔薇の騎士というよりも薔薇の天使のようだ。

「入れぬと申すか」

苛立(いらだ)った声が聞こえたので、慌てて幕に手をかけようとした時、額のロザが刹那(せつな)に光った気がした。

まるでロザから身体中の血に命令するように。ゾクゾクした。

その直後、シュルシュルと音をたて優雅に幕が開いた。

お付きの従者たちが驚いた様子だった。

そのままアシュガは玉座の主の元へいく。

階段を登りきり、そこにいる主の顔を覗く。

金色の髪が肩まで伸びていて、サラサラと揺れた。

澄んだ青い瞳がより顔立ちの美しさを際立たせている。

顔は少し青白く覇気(はき)がない感じがしたが、

それがまた神秘的にも映る。

正にサンタローザの生き写しがいるなら、この方に違いないと想わせる。

アシュガは更に見とれてしまった。

しかしその主は目だけを下にして、アシュガの顔をみている。

アシュガはその時、彼の額のロザに気が付いた。

「あなたがディシュル」

自分にもある小さなロザ。

両親以外では初めてみた。

やはり金色にキラキラと輝いてみえた。

「近い」

短く、そのロザの主は答えた。

「ろくに礼儀作法等教わっていなかったのであろう」

声にトゲがある。

「ま、そなたのおかげで初めてこの天蓋(てんがい)が完全に開いたのをみた。景色がいい」

そう言われて、アシュガは振り替える。

先程の景色よりさらに空は高く、眼下には城下町と丘が見えた。美しくどこまでも続く世界が間近に迫ってきているようだ。

「わぁ」

おもわず声が出た。顔が上気したのがわかる。

気持ちも大きくなったからか、振り返り

「よろしくね、ディシュル。次、そこに座らせてよ。そうやってこの景色を見てみたい!」

と声をかけた。


その後の事は断片的(だんぺんてき)にしか覚えていない。

顔を真っ赤にしたディシュルが不敬ものだとか下賎だとか言って、あと()られた気もした。

こちらも顔を真っ赤にして、わがままだとか心が狭いとか言ってディシュルを玉座から引きずりだそうとしたから()み合いになった。

髪を引っ張り合い、つねり合い、殴り合い、とにかく大事になった。

下にいた従者たちが驚き慌てふためいていたが、天蓋の中にはサークラでない限り入れなかった。

その後バランスが崩れ階段を二人で転がり落ちた。

悲鳴と泣き声と怒鳴り合いを繰り返しているうちに、従者によってすぐに二人は引き裂けられ、部屋で手当てを受けた。

周りの従者たちも生きた心地がしなかった。

頼むから止めてくれ、この国には世継ぎが二人しかいないのだ。

下手をしたら、俺たちの首が飛ぶ。


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