番外篇 その亀最速につき
うーん…体の疼きが納まらんわ…こりゃ堪らんわい…
そろそろ人間共でもからかいに行って発散するとしようかの…
ア?ワシは誰だって?
名前なんぞドオでも良いのだが…そうさの…
人間共はワシの事を銭亀様と呼んでいるみたいだぞ?
………
……
ザワザワ…
ザワザワ…
ザワザワ…
GW初日の緑地公園にて
雨音の街は3年に1度、街の総力を上げての祭りが開かれる。
その名も
銭亀神事
3年に1度出現する亀
銭亀様
この亀はそんじょそこらに居る亀ではない。
触れただけでも福が舞い込み、捕まえる事が出来たのなら莫大な富が手に入ると言われている
とてもありがたい亀なのだ。
とは言え、神の使いや妖怪ではなく況してや動物霊でもない何処をどお見ても普通の亀だ。
普段この亀は雨音を流れる川の山側にポッカリと開いた穴に住んでいるのだが、その住処が龍脈が通る場所で然も、力の一部がモロに噴出する一種のパワースポットとなっている場所なのだ。
その力は数年に1度ガス抜きしなければ、亀の体が暴発してしまう可能性がある程に強力である。
その様な理由で3年に1度の周期でガス抜きの意味で緑地公園に姿を表すのだ。
ただ、この亀は龍脈の力をモロに受けているせいなのか身体能力も去ることながら移動速度は通常の約100倍であり、移動時の最高速度は100km/hを超えると言われていて過去に捕まえる事が出来たのは数える程しかいないと言われている。
その中に四谷清十郎の名前があるのは皮肉としか言いようが無い。
「銭亀様が出たぞーーーーー!!!」
川から現れた体長1m程の大きな亀を発見した参加者が大声で叫ぶ。
その声を皮切りに目の色を変えた参加者が我先にと銭亀様目掛けて突進する者もいれば逃げる方向を予測して待ち構える者もいる。
そんな参加者を嘲笑う様に逃げ回る銭亀様。
この銭亀神事は誰でも参加出来るのであるが、1つだけルールが存在している。
その条件は罠や獲物を使用しての捕獲はご法度。
素手で捕まえるべし!
である。
時間は銭亀様が出現し、再び川の中に入るまでの間でその時その時で若干の差はあるが、おおよそ3時間程度である。
「この!図体の割にチョコマカと…大人しく捕まりやがれ・・・イテッ!!」
この日の為に銭亀様対策のトレーニングを積んだ若者が僅かに隙きを見せた銭亀様に飛びつこうとするも、直ぐに高速で移動されて地面に熱烈なキスをするハメになる。
その姿を見て笑う者もいればどおやったら捕まえる事が出来るのかと仲間内で相談を始める者…様々ではあるが、1つ言えるのは皆真剣であると言う事だ。
出現してから2時間経過した頃、それまで緑地公園内を縦横無尽に走り回っていた銭亀様が噴水の在る広場に到達する。
「やっぱり今年もこうなるのな」
「えぇ…こうなったら捕まえるのはほぼ無理でしょうね…」
銭亀様の動きを冷静に観察していた俊哉とミキは銭亀様VS人間の鬼ごっこが最終段階に来たと絶望的な表情に変わる。
出現から約2時間
緑地公園内を縦横無尽に走り回っていたのはほんのウォーミングで、ここからが本領発揮なのだ。
実の所、ウォーミングアップ状態の銭亀様の動きには一定のパターンがあり、動きとタイミングさえガッチリと噛み合えば捕まえる事も可能なのだが、噴水広場に到達してしまえば動きも不規則になり、更にスピードもアップしてしまう為に噴水広場での捕獲はただの一人も存在していないのだ。
然し、欲に目が眩む参加者はお構いなしに銭亀様の逃げ道を塞ぐ様に取囲む。
「この包囲網ならどおだ
観念せよ!」
そう叫んだのは誰であろう森田警部だ。
本来、会場の警備を担う警察はこの銭亀神事には参加する事は無い。
の…だが…
参加予定者が渋る森田警部を、頭脳戦になるから警部さんの力が必要だと熱心に口説いた挙げ句、参加を承諾したのだ。
ジリジリと狭まる包囲網。
これには流石の銭亀様も年貢の納め時かと思われたのだが…
「いや…無理でしょうね」
俊哉の耳元で呟く様に聞こえる女性の声。
誰であろう真智子だ。
来る訳がないと思っていた真智子の登場に驚く俊哉を他所に何でそんな事が言えるのかとミキが問い掛ける。
「論より証拠
見てなさい」
そうこうしている間に最終局面を迎える銭亀神事
「今だ!!」
挑発するかの様に疲れました勘弁してくださいと言わんばかりにヨロヨロとした動きを見せる銭亀様にチャンスと見た森田警部の号令で銭亀様に飛び掛かる参加者達。
今までと違って自分勝手に動くのではなく最初に仕掛けた者達を後ろの参加者がフォローすると言った一見完璧に見えるフォーメーションで銭亀様を追い詰める。
ジェッ●ストリー●アタ●クかよ!
と、俊哉が思わずツッコミを入れたくなる様な動きを見せた参加者。
遂に銭亀様も捕獲されるかと思われたその時…
ハァ?
な…ん…だ…と?
マジかー!?
参加者の動きに併せる様に動き出した銭亀様が何体も出現したのだ。
高速で動いている最中に一瞬だけ止まり残像を作り出す分身の術だ。
「あれってまさか…?」
その動きに思う所があるのか俊哉が真智子を問い質す。
「ン?呼んだか?」
呼ばれて飛び出て…ではないが、真智子と入れ替わる様に出て来たレイが俺でもないよと返事をする。
レイではないとしたら後はコヨミしかいないのだが、俊哉の思考を読んだかの如くアタシでもないわよと言いながら現れるコヨミ。
幾らトンでも亀と言えど、中身は普通の亀の筈。
あんな動が出来る訳がない。
とすると、銭亀様の中にレイか真智子かコヨミが入り込み操っているものと考えていた俊哉であったが、その考えはハズレていた様だ。
では誰が…
その答えだけはレイ達も解らない。
解らないが、亀にあんな動きをさせる事が出来ると言う事はトンでもない者が入っていると言う事は間違いないだろう。
「なぁなぁ、あの辺に移動しないか?」
銭亀様の有り得ない動きに翻弄され総崩れする参加者を横目にレイが指示した場所に移動する俊哉とミキ。
それは一瞬の出来事であった。
参加者の群れの中から抜け出た銭亀様がその動きを止めチラリと参加者を見たその刹那…
フワリとその体が浮き上がる。
「コイツはメッチャラッキーだぜ」
なんと、レイの指示した場所に移動した俊哉の目の前で銭亀様が止まったのだ。
そのチャンスを慌てもせずモノにした俊哉。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!
銭亀様を抱えた俊哉の姿を見て絶望的な悲鳴を上げ項垂れる参加者を横目に銭亀様を川へと運び開放すると途端に突き刺さる様な視線で睨まれる俊哉。
これは恒例の事であり、この後、参加者から手荒い祝福を受けてしまう。
この手荒い祝福は一見リンチの様にも見えるのだが、こうする事で銭亀様から受けた龍脈の力のお裾分けに肖る事が出来るからやっているだけなのだ。
サヨナラホームランを打ったバッターがホームインした瞬間に袋叩きに遭うの同じ事だと考えて良い。
そんな俊哉に貸し1つ追加な
と、言い残して何処かに行ってしまうレイ一行に気付いた森田警部はアイツを抱き込んで置くべきだったと役に立たない後悔を死ぬ程するのであった。
………
……
フゥ~・・・
今回も楽しめたのう…
然し、あの男に指示していた幽霊は一体全体何者なんじゃ?
ワシの動きを読み切っていたとしか思えんのじゃが…
それと、何で成仏していないのじゃ?
うーむ・・・
まぁ、考えても答えは出ないじゃろうからこの話は此処までにするとしようかの…
次が楽しみじゃわい
次回からワンダーランドのお話しから妖綺譚のお話しに突入致します。




