第89話 オカ硏の遺産
「こんな所に一体何が有るってんだ?」
図書館の資料室に侵入した俺とコヨミは村岡が言っていたとある物を探す事にする。
俺のイメージとしては、資料室は名ばかりで館内に出しきれない本とかを置いて有る倉庫みたいな部屋と思っていたのだけど、普段から利用客がいる様子で様々な小難しい本や何かの研究結果を纏めた本等が理路整然と収納されていた。
本棚をくまなく探す2人であったが、探せと言われただけで何を探せば良いか解らない状態での捜索は困難を極めるばかりであった。
「許可なくこの部屋に入られては困りますなぁ…」
そんな2人の背後から困った表情で声を掛けて来た初老の男性の声に驚くレイとコヨミ。
声を掛けられたと言うことは、この男性も2人を見えていると言うことに他ならない。
「そこの男性は歴史書コーナーで妖綺譚を熱心に読み漁っていた方ですな?」(過去に何度かお会いしたことがある様な気がするのだけど、ハテ…?)
「・・・そうですが・・・貴方は?」
「私はこの図書館の館長をしている矢野雅之と申します。」
「矢野・・・」(何だ?この感覚・・・)
「レイ?」
「ン?あぁ…何でもない…これはとんだ失礼を…私はレイと言う自分の記憶が無い幽霊です
此方は私の妻であるコヨミと言います。」
「見たところ、悪意を持った霊ではないと見受けますが・・・貴方方は一体此処で何をされているのですかな?幽霊とは言え、不法侵入は見逃せませんねぇ」
「館長さんが見える人だと知らなかったよ…
勝手に入り込んで泥棒みたいな真似をして申し訳ない…実は村岡隆也と言う幽霊から此処に私達にとって役に立つ代物が有るから調べてみろと言われて…」
「村岡隆也…ハテ…?」
「村岡隆也と言うよりは彼が所属していた浦川学園オカ硏の部員がかも知れないですけど…何か心当たりは有りませんか?」
「オカ硏…あぁ…オカルト研究会ですかな?」
「はい…」
「ちょっと…レイ」
「ン?」
「この男の人が何故私達が見えているのかってのに疑問は持たないの?」
「ンなこたぁドオでも良いよ…見えているのなら調べ物が発見し易くなるって話だけだ…なぁ…そうだろ?館長さん?」
「えぇ…そうですね…但し、この部屋を荒らさないって約束してくれるのが前提ですがね」
「そんなつもりは無いです。目的の物が直ぐに見つかればですが
申し訳ありませんが、何か心当たりはございませんか?」
「・・・・・・ん〜〜〜・・・アッ!アレかな?」
レイの質問に記憶を遡る様に暫し熟考していた館長は、思い出したのか書棚の一番奥に収納してあった数冊のノートとオカ硏秘蔵品と書かれた本と正規のルートで販売された本を持ってきてテーブルの上に並べる
「これは、浦川学園オカルト研究会最後の部員さん達からこの地を離れる前に預かって欲しいと渡された資料と本
それと阿知波貞信氏が翻訳された妖綺譚です。」
す・・・スゲェ・・・
「その本は妖綺譚を翻訳したものだと言われています。
妖怪学者の阿知波貞信氏が妖綺譚を翻訳した際の覚書とも言われていますが、何故、浦川学園のオカルト研究会がその様なものを保管していたのか謎なのですよ…」
コヨミがオカ硏ノートに興味津々で読み耽るなか、本を見た俺であったが、こんなド下手な字を書く奴が妖怪学者やってんだと思いながらも何故か懐かしさを感じながら本を手に取る。
「前から思っていたのですが、貴方はなかなか器用な幽霊ですね…普通、幽霊はそんな事は出来ない筈なのですが…」
この男…俺達がシッカリハッキリと見えるのにそんな知識も無いのか?ポルターガイストとか心スポとかでは普通に物を動かしたり生者を脅かしたり苦しめたりと、色々してんだぞ?
まあ、今はそんな議論をしている場合じゃないな。
俺は「幽霊だってその気になれば何でも出来るぞ」とだけ返事をして妖綺譚のページを捲るのであった。
「三代目部長の字とこの本の字…似ている…」
「てか、同一人物だろ…コレ…」
「シッカし…そんな字しか書けなくて良く高校に行けたよね…」
「それはビッグなお世話だろうよ…」
下手な字相手に悪戦苦闘する事約3時間…コヨミが見ていたノートと本を交換して読み始めて直ぐに本が三代目部長がノートに書いていた文字と一致している事に気が付く。
と、言う事は、三代目部長が妖綺譚を翻訳した事になる。
…のだが…
阿知波貞信氏は元々浦川学園の生徒ではなく、それどころか雨音の地で妖怪の研究を始めたのは村岡事件の5年前である。
村岡はオカルト研究会10代目部長であった事からこの本が書かれた年代とは合わない事になる。
と、言う事は、阿知波氏は三代目部長の手柄を横取りした事になるのだが、そもそもこの三代目部長が何者かが不明の為に阿知波氏が自力で解読して書いたと言い張ればそれまでになる為に真相は闇に包まれたままである。
こうなったら本人に真相を問い質すしかないなと思ったのだが、黒尾が引き起こした通り魔事件に巻き込まれて既に他界しているとの事。
ならば本人を呼び出せば良いと思った俺は呼び掛けてみたのだが、既に転生しているのか界底の住人に魂を捕獲されているのか呼び出す事は出来なかった
これは後で判明した事だが、一時的ではあるが、この本を村岡が前川官兵衛守定近の塚をを調べる為に連絡を取り合っていた時、阿知波氏に交換条件として資料の提供を求められ、この本とオカ硏ノートを預けた事があったそうで、その時にコピーされて解読されたとの事であった。
「阿知波氏の妖綺譚は登場人物こそ合っているが、内容がデタラメだわ」
本物を見たから解るのだが、この何星語か解らないド下手文字で書かれた本は多少の脚色はあれど本物から直訳されたものだと解るが、阿知波氏の妖綺譚は間違いが多いと言うか、このド下手な文字が読めなくて文字の形で文章を予測し創作した別の話か、若しくは態と間違えて翻訳したとか?
兎に角、本物の内容とはかけ離れた内容の別物語になっているんだな…コレが…
まぁ、本物を知ったので阿知波氏の事はドオでも良い話なのだがね…
これで妖綺譚の概要は解った。
後は、内容の裏付けだけなのだが、今の俺には行けない場所が要なんだよな…
どおしたものかと考えつつ、館長にお礼を言って図書館を後にしたのであった。
………
……
「なんと…玲奈が…命め黙っておったな?ワシを除け者にしおってからに…!!」
監視から帰還した月光の報告を受けた三条は顔を真っ赤にさせたばかりか禿げ上がった頭から湯気を立ち昇らせて悔しがる。
その様子はまるで茹でダコまんまだと思った月光は内心、腹を抱えて笑うのだがそれを表に出すまいと必死に堪えて
「既にアレは人の手では祓えない程の力を保有しているかと」
と付け加えると今度は神妙な面持ちになり考え込んでしまう。
う〜む……命の奴め…一体何を考えておる…
考えても解らないが、最愛の娘がそうまでして選んだ幽霊が善なのか悪なのかをこの目で見極める必要がある。
思ったら行動あるのみ!
腹を括った三条は
「帰還早々悪いが、ワシも雨音へと出向くとする
例の話もあるでの」
おもむろに立ち上がり出掛ける準備を始める。




